ボニボニ

 

My hotelier 88. - 兄 - 

 




「No, thank you!
 そりゃ ジニョン義姉さんと離れるのは 寂しいけど・・ 
 新婚さんと1つ屋根の下になんて 住みたくないわ。」


ぷい。 と あごを上げる妹に ドンヒョクの眼の底が 白く光った。
ジェニーと同居することは ジニョンが家を建てる際の条件だ。

可愛いジェニー・・。 
悪いが これは 譲れない。
かくてシン家の兄妹の ネゴシエーションが始まった。


「ジェニー 見てごらん? この間取り。1つ屋根の下と言っても 
 君のエリアは 完全に独立しているし ほら。入り口も別にある。
 ・・・ジェニーのプライバシーは 邪魔しないと約束する。」

そんなこと言ったって 同居は同居よ。
「オッパはきっと あたしの私生活に あれこれ指図するに決まってる。」
大体が 数十年分の空白を埋めようと やたらと自分に過保護な兄のことだ。
眼と鼻の先に住んだら いったい どれほどウルサイことか。

「煩い・・・?」
「まあ・・・煩いというのは 言いすぎだけど。」

大体オッパは ずるいわよ。
自分はジニョン義姉さんに あーんなにまとわりついているくせに
あたしがちょっと男性と仲良くしていると 相手を追い払うんだから。

「ジェニー? 誰か好きな人がいるのか? いるなら僕に・・。」
「ほら! だから それが干渉なの!」

あたし ジニョン義姉さんとは住みたいけど オッパと一緒はいや。
もう休憩が終わるから あたし帰る。
兄そっくりのきつい視線で  ドンヒョクをキッとひとにらみ。

コックコートの妹は 兄を残して厨房に去った。

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カサブランカの 23時。

バーテンダーが 戸惑い顔で カウンターの男に 視線を送る。
「マティーニを もう一杯・・・。」
理事。 今夜は少し お過ごしではありませんか?

ソ支配人との結婚が動き出して 幸せそうだったドンヒョクが
今夜はまつげを伏せたままで むっつりとグラスを 重ねている。


「・・カクテルグラスのオリーブを 夕飯にするつもりか?」

「・・・・・。」
―よりによって 今夜一番会いたくない奴が きた。

振り向かないドンヒョクが 背中で テジュンの声を聞く。
「バーテンダー。僕に バーボン・ソーダ。」
「かしこまりました。」

「どうしました? 理事は いよいよジニョンとの式が本決まりで
 楽しい時期だと 思いましたが?」
―ジニョンとケンカでもしたのか? 仲裁なんか ごめんだぜ。

「・・・・。」
―テジュン。わざと 僕のジニョンを呼び捨てにしているな・・・。


「建築看板が建ちましたね。ハハァ “お隣さん”には まだ挨拶がないですが?」
「すみません・・。近々 お願い事に上がろうかと思っていました。」
―やっぱりな。 バラ園に 通用門作らせようって魂胆だろう?
 さて 代償に何をやらせてやるかな。
「・・・?・・。」


いったいこの男。 今夜は何を凹んでいる? 
いつもは 自信がスーツ着て ネクタイ締めているような奴なのに。

「・・・ハン社長は ジェニーと どれ位一緒に住んでいたのですか?」
「ジェニー? あぁ・・ええと? 1年半・・くらいですかね?」
「アメリカにいた頃の あの子は 荒れていたようですが・・・。」
「ああ・・まあ 昔の事ですが。  あの頃は 少々 手こずりましたね。」
「本当に お世話に・・・なりました。」
「あ・・いや。」

―オッパは嫌でも ハン・テジュンとなら 暮せるってわけだ。

「・・・失礼します。」
「?」

伏目のままのドンヒョクが 伝票にチェックして 席を立つ。
バーテンダーと 顔を見合わせ ハン・テジュンが首を傾げた。

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「同居 断ったんだって? 私にご飯作らされると思ったんでしょう?」
「そんなんじゃないわ。
 ジニョン姉さんにご飯作るだけなら 大歓迎なんだけどなあ・・。」
女2人の朝食で ジニョンとジェニーが 話している。

「うふふ・・ オッパが 煩い?」
「だって・・・。」


ジェニーが貧血を起こしただけで 会社を休んで 看病する兄。
同僚とドライブに行くだけで 旅程を教えろと やいやい聞く兄。


「あなたが心配で 心配で たまらないのよ。」

たった2歳で 別れた妹。
何の力にもなってやれず  自分のせいで 苦労をさせた。
「ジェニーの苦労は僕のせいだと思うと めまいがするって言ってたわ。」
「・・・そんな・・。オッパのせいなんか じゃないのに。」


「・・ドンヒョクssiはね。 本当は あなたと住みたいの。」
だから私が それを 家を建てるときの条件にしたのよ。
「あの人には 妹と一緒に暮した楽しい思い出が ないから・・。」
「・・・・・。」

ジェニーも いつか結婚するわ。 多分そんなに 遠い先じゃない。

「それまで 1年でも 2年でもいいの。 
 あなたと1つ屋根の下で。 オッパに・・ どうか 兄の時間をあげてくれない?」
「・・・・・。」
「家族ってね 煩いものよ。 どうしてかわかる? 愛しているから・・。」

「・・・・・。」
「煩くって ・・あったかいの。」

ジェニーの勝気な眼から 涙が一粒 こぼれ落ちる。
「朝ごはんは 食べたか?」
それがオッパの 最初の言葉だった。 会いたかったでも何でもなく。

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バラ園の先の 整地された土地。 
背の高い男が ぽつりと1人。 片手をポケットに入れて立つ。

サクサクサク・・

ジェニーが 後ろ手を組んで 歩きよる。
足音に 振り向こうとする背中に 妹が おでこをつけた。

「・・あたしのBFに 変な文句は 言わないでよね。」
「そんな奴が いるのか?」
「これから 出来ても・・。」
「・・・・自信がない。」

呆れて鼻をならす妹に ゆっくり兄はふりかえり 愛しそうな眼を向ける。
大事な 僕の妹なんだ。 変な奴には・・まかせられない。

「あたしの部屋は どこ?」
「!」
「キッチンは 本格的なのがいいな。」

大丈夫だよ。キッチンは業務用だし コンロはハイカロリーだ。
ここがリビング ここが寝室。ここは・・。 ちょ、ちょっと、1人には大きいわ。
「ルームメイトを置いてもいいぞ。男はだめ。」


照れくさそうにうつむいた兄が そっと 妹の腕に触れる。
「同居・・。 いいのか?」
「オッパが煩くて 我慢できなかったら すぐ出て行くかも・・。」

こんなに便利な所 慣れたら出ていけないさ・・。

足元の 石をひと蹴り。 ハンターの口元に 照れ笑いが浮かぶ。
妹と 同じ屋根の下。
そんな当たり前の日常を 僕は 初めて手に入れる。

「ジェニー?」
「うん?」
「何があっても 1年半は 一緒に暮そう。」
「1年半? ・・どうして?」
「どうしても。」
僕が ジェニーのオッパなんだ。 ハン・テジュンには負けられない。



子どものようなドンヒョクは 変な所を 張り合っていた。

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