ボニボニ

 

My hotelier 91. - にじりよる人たち - 

 




「どういう事だ? 代議士は 株の譲渡を承諾したはずだろう?」


後部座席のドンヒョクが レオにきつい声を飛ばす。
「どうしたもこうしたも・・ こっちが聞きたいくらいなんだ. 昨日になって突然
 “株は お売りできません”だぜ! 何が どうなっているんだか・・。」

レオは 派手なジェスチャーで  ハンドルから両手を放しそうな勢いだ。 
ともかく会って話してみないと・・。 ハンター達は 困惑していた。



イ代議士は ドンヒョクの視線に おどおどと眼を伏せた。

「いや・・・ 突然 約束をほごにしてしまって申し訳ない・・。」
「理由を教えていただけませんか? 私達の提示した条件が ご不満だとでも?」
と・・とんでもない! と 代議士は震え上がる。

「・・・実は さる筋から圧力がかかりまして。」
「圧力?」
「私としても その・・幹事長に にらまれては 政治家生命が危ういんですよ。」
「幹・・事長・・・?」

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どういうことだ あのトドは!

重厚な石造りの議員会館廊下を 背の高い男が 大股で歩く。
飛ぶように歩く男からは 凄まじい殺気が立ち上り すれ違う人が怯えて逃げる。
後ろにつき従うレオは ボスのあまりの勢いに まろげるようについて行く。


「Mr.ジェフィーに お会いしたい。」

釣り目の眼鏡をかけた女性秘書が 氷の声に ビクリ とたじろぐ。
「だ・・代議士は お約束のない方とは・・・。」
「シン・ドンヒョクが来た と告げろ。 ・・・多分向こうが 待っているはずだ。」 



「お! 来た来た♪ どうだい? レイダース。 
 政界の黒幕を敵に回さないほうがいいと よく分かっただろう? ん?」

ドンヒョクの顔を見るなり 幹事長は 盛大に側近を追い払った。

Mr.ジェフィーは ほくほくと 上機嫌で椅子を勧める。
「幹事長が デジョン運輸倉庫の株に興味をお持ちだとは 知りませんでしたね。」
「あ? イ代議士の話か? わははっ 驚いたか? 俺が「売るな」って脅したんだ。」
「・・・どういうことです?」

「ああ? ・・・ごほん。」

いやなに 君たちの結婚式が 本決まりになったと聞いたものだからな。
「・・? ・・・それが 何か?」
「招待状が まだ来ておらん。」

すみません。 ジニョンも多忙ですので 披露宴は内輪だけでやる予定です。
うんうん それがいい。 華美はイカンよ。内輪だけでやろうじゃないか なあ?
ジニョンの ウエディングドレス姿・・・きれいだろうねえ 楽しみだよ。


「で・・うちのダーリンが披露宴にドレスを新調したいと言うんだが 日にちはいつだ?」
「・・・・・。」
「君は キム代議士が持っている釜山観光の株にも アプローチしてるそうだな?」
「!」

招待状が来ないとスケジュールが組めないと 秘書が うるさいんだ。
「これでも 私は政界のドンだからな。 多忙なのだよ。 わっはっは!」
「・・・・・。」

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ソウルホテルのバックヤードを ソ支配人が歩いてゆく。
ひっきりなしに 聞こえてくる 様々なコールに応えながら。

「ジジッ・・・!!  ソ支配人 おられますか?」

「はい。 ソ・ジニョンです。」
「社長室まで 至急 お願いします。」
「だめ! 私は 現場に骨を埋めたと言って。 忙しいの。 打ち合わせはまたにして。」
「・・・ホテル存亡の危機だそうです。」
「は?」

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サファイア・ヴィラの 25時。
ドンヒョクは ジニョンを抱きしめている。

荒い息をゆっくり戻しながら 愛しい人の額の髪を 満ち足りた顔ですいている。
愛され過ぎた恋人は くたくたの頭を ドンヒョクの腕に乗せている。
「ドンヒョクssi・・・?」
「うん。」

「結婚式のことなんだけどね・・。」
「なに・・・・?」
「・・・・・頭取・・呼んじゃいけないかしら?」
「え?」

ひどいのよ 頭取ってば。 ソウルホテルのメインバンクに圧力かけたの。
「招待状よこせ だって・・まったく。 うふふ 子どもみたいでしょ? ・・ドンヒョクssi?」

デブ2までもか! まったくあいつらときたら 思考回路まで瓜二つだ。
「ねえ?」
「ソウルホテルの運転資金なら 僕が何とかしよう。」
「ドンヒョクssi・・・?」
「そんな風に人の言いなりになるのは 僕のポリシーに反する。」
「は・・?」

子どものケンカを 子どもが買ったわ。 

とりあえず今夜は この話はやめましょう。 火に油を注ぐことになる。
呆れ顔の恋人は 目立たないように ため息をついた。

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「タクティクス変更だ! 運輸倉庫株以外から アプローチするぞ。」

「なあ ボス・・。」
「釜山観光の方も 計画の練り直しだ。レオ 資料!」
「・・・・・。」

誰であろうと 僕の行く手を遮る奴に 頭は 下げられない。
トドとデブ2。 結婚式に呼べだって?
「あいつらが来たら 式場が暑苦しくてかなわない。」

―いいじゃないか 夏じゃないし 暑苦しくても・・ウォームビズだろ?
タクティクスを変更するより 招待状送ったほうが簡単だよ。
祝ってくれるというのに 何を 意地張ってるんだか。 困った奴だな。
忠実な部下は モニターの陰で それと知れないほど顔をしかめた。

「こりゃ・・ 頼みは ジニョンさんだけだな。」

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社長室の椅子に憮然と埋まり ハン・テジュンが 部下を叱る。
「説得できないだあ? お前の旦那になろうって奴を?」

「だから! 言って聞く人じゃないの。知っているでしょう?」

ふくれっ面のソ支配人は どうにかして欲しいのはこちらだ とわめく。
「ソ・ジニョン! 冗談じゃないぞ。こっちは1200人からの生活がかかってるんだ。
 バカな冗談やってる頭取も頭取だけど それぐらい 折れてやれ。」
「でも!」
「業務命令。あの虎の首に鈴をつけろ!頼んだぞ! ・・忙しいんだろ? もう行けよ。」

途方にくれたジニョンは よろよろと 支配人オフィスに戻る。

「もう・・なんだって 私たちの結婚式のことで こんなトラブルになるのよ。」
はあ・・とため息をついて 椅子に座る。
「内輪でこっそりなんてのは ・・・ちょっと 甘かったわね。」

視線をデスクにやると PCモニターがメール受信を告げていた。
「・・・レオナルド・パク? ・・・レオさん?」

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私は 彼の妻になる。

もしも本気で頼んでも 夫を説得できないとしたら そんな結婚は 出来ないわ。
サファイア・ヴィラのドアの前。 仁王立ちのソ・ジニョンは
しばらくドアをにらんだ後で よし と小さくつぶやいてドアを開けた。


「ジニョン?! 今日は夜勤だろう? どうしたの?私服で。」
―テジュンssiとレオさんに泣きつかれて あなたに鈴をつけに来たのよ。

「うん・・。ちょっと疲れて。 ローテーションを変わってもらったの。」


ねえ ここで 休ませてもらっていいかしら? ジニョンが 甘い声を出す。
それは大変だ。 ここへお座り 温かいものでもすぐに・・・。
愛しい人の弱り目に ハンターがうろたえる。 大丈夫かいMy hotelier?

「飲み物はいいわ。ドンヒョクssi・・・ ああ 疲れた。」
コトンと ジニョンがもたれてきて ドンヒョクはいそいそと腕をまわす。
「疲れたのなら ベッドへ行く?」
「そうしようかな・・。 連れて行って。」

連れて行って? なんて可愛い僕のジニョン。 今日は甘えん坊なんだな。
有頂天のハンターは ジニョンをふわりと抱上げた。

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ベッドにもぐったジニョンの傍に ドンヒョクは 片肘をついている。
疲れているという恋人の顔を うっとりと見下ろしている。
頬を撫でる大きな手を ジニョンがそっと捕まえて 唇をつけた。

―疲れているって言うけど・・ これはひょっとして 愛し合える雰囲気かな?
だめかなどうかな わくわくと ハンターは様子を伺っている。


「ミセス・ジェフィーから・・電話が来たの。」
「!」
「Mrジェフィー。 私たちの結婚式を楽しみにしているんだって。 ・・知ってた?」
笑顔の引くハンターを 眼のはしで盗み見ながら ジニョンは知らん振りをする。


「Mrジェフィーって・・ VIP担当になって 私が最初に担当したお客様なの。」

「・・・・。」
「緊張してガチガチだった私に “デートしてくれ!”って。」
「・・とんでもない奴だな。」
「冗談なのよ いつだって。 彼 愛妻家だもの。 あれで私は すごく楽になった。
 思えばそれからずーっと 娘みたいに 可愛がってくれたのよね。」
「・・・・。」
「結婚式に・・・呼んじゃいけない? 頭取も 来たがってるのよ。」


ジニョンが僕の手で遊んでいる 指の長さを測っている 指をちょっと折っている。 

「あ・・の ジニョン。」
「ねえ? ・・だめ? 式に呼んじゃ。」
あ、いや その話はもう。 ハンターは じりじり 我慢を続けている。
「いいでしょう? ドンヒョクssi? お願いよ。」
―お・願・い? ジニョンが?

「もちろん 君のしたいようにすればいい。 あの ジ・・・。」
「ありがとう! ドンヒョクssi。」
ちゅっ と頬で甘い音がして ジニョンの腕がドンヒョクに巻きつく。

これで目的達成ね! にっこり笑った恋人に こらえ切れないハンターの手が伸びた。
「あの 疲れているところ申し訳ないんだけれど・・・」
「え?  オモ!」 
ジニョンの“ダメ”が 僕の耳まで届く前に ともかく抱いてしまおう。
これ以上ない素早さで ハンターが獲物をむいてゆく。

―My Hunter。 あなた 私が自分で脱ぐより 手早く 服を脱がすわね。

呆れ顔の恋人は それでも笑って 恋人のするままに身体をまかす。
「ジニョン・・。 僕たち 幸せになろう。」
「ええ。 たくさんの人と一緒に 幸せに暮しましょうね。」

皆と一緒はいいけれど よけいなデブもついてくる。
しかたない それでもジニョンがいるのなら。 ・・にぎやかなのも悪くない。

僕のポリシーに反するけれど かまわない。 シン・ドンヒョクは易々と変節する。

「愛しいジニョンの “お願い”だからな。」

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次の日ジニョンは 機嫌よく ソウルホテルのバックヤードを行く。
襟元の赤い印を ボウタイに隠して テジュンの部屋のドアを開ける。
「モーニン!社長!  ・・・オモ!」


「ごきげんよう ソ支配人。」

ジニョンの顔が ぴくぴくこわばる。 ああ・・ これって もしかしたら?
「じ・・侍従長・・・。 プリンスは お・・お元気ですか?」
「健勝でございます。 私本日は ドンヒョク様と支配人にお願いがございまして まかりこしました。」

助けて ドンヒョクssi~! 

目まいの中でソ・ジニョンは 許婚の名を呼んでいた。 

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