ボニボニ

 

My hotelier 93. - ダブルトラップ - 

 




「だから 結構なお金がいるの。」


空瓶の詰まったビールケースに ヒールを乗せて
ソ支配人が 立ち仕事で疲れたきれいな脚を さすっている。


行儀の悪さをたしなめ半分 すらりとした美脚を賞賛半分に見て
料理長が 振り向いた。 
「そんなものは 金持ちの彼氏に 出してもらえばいいじゃないか?」

「そう! ・・・そこなのよ 料理長。 実は お願いがあるの。」

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ソ支配人はキッチンだと聞いたのに ドンヒョクが覗くと
がらんとした厨房では 料理長が書き物をしているだけだった。


ハンターに気づいた細い眼が ぎらり と獲物を捕獲する。

「アイゴー。 どうやら哀れなシン理事は 偉大なる総料理長の餌食になりたいらしい。」
言うが早いか カチャカチャと ノ料理長は花札を取り出す。
「え・・いや 僕。 今日は・・。」
「ジニョンは 客に呼ばれて行った。 また 戻ってくるそうだ。
 でかい図体の男が ぶらぶら女を待っているというのも まあみっともないものだな。」

挑発的な料理長に ドンヒョクがわずかに苦笑する。

「お付き合いしますよ・・・。でも 負けても泣きの1回は聞きませんからね。」

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そして料理長は 負けに負けた。 
今夜のドンヒョクは 珍しいほど引きがよくほんのわずかな時間の中で 
料理長の負けは 500万ウォンを超えた。

「理事 もう一回だ。」
「料理長 今日はやめましょう。あなたのツキが 無さ過ぎる。」


―・・これは 『泣きの一回』で 料理長にイカサマしてもらって
 チャラにするしかないな。500万ウォンは 遊びにはいささか高額だ。


やれやれと ハンターがため息をついた時
ぴょこり とジニョンが顔を出した。
「まあ! またやっているの?」
「おお・・ジニョン! お前の男は酷い奴だ。年上に対する礼儀を知らん。」


この冷血鬼は 私から500万ウォンも奪っていく。  料理長は 大げさにジニョンに甘え 
恋人に睨まれたドンヒョクが 大慌てで 弁明しようとする。


「ジニョン・・・いや これは。」

「・・・・ドンヒョクssi。この勝負 私が引き受けちゃだめ? 
 1回こっきりで。 私が勝ったら 負け分チャラで 倍返しよ。」

―それじゃ僕が負けたら1000万ウォン取られるのか。無茶苦茶だな。
 ・・まあいいか。 料理長が熱くなりすぎたから 彼女はそんな風に言い出したんだろう。


「それでは 僕が勝った場合は・・・ どうするのかな?」
「ドンヒョクssiの 言う事を 何でも聞くわ。」
「何でも? ・・・ジニョンが?」
「ええ 何でも。」

それはすごいな。1000万ウォンでも惜しくない。
俄然やる気のハンターが ニコニコと札を切り出して
この時 彼は トラップに落ちた。

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「・・・・・。」
「私の勝ちね。 ドンヒョクssi。」


忘れていた。
ジニョンの「引き」の強さは 神憑り級なんだった。
今日は やたらとツキがあるので ドンヒョクは油断していたのかも知れない。


―いや その前に ジニョンが賭かった時点で 僕は冷静さをなくしたな・・。
苦笑いするハンターは 自分の負けを分析する。ことジニョンに関する限り
僕は 易々と「負けるゲーム」をしてしまう傾向がある。

「ドンヒョクssi。1000万ウォンよ♪」
「さすがにそんな現金は 持っていないよ。」
「大丈夫 私ならチェックでいいわ。 小切手にサインして!」
「?!」

おいおい 本気で巻き上げるつもりか?
いささか驚くドンヒョクに ジニョンは容赦なく手を出してくる。
胸元から 小切手帳を取り出しながら ハンターは 面白そうに恋人を見た。

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おいで と腕を伸ばす前に ジニョンがそばへ滑りこんできて
冷静になったハンターは 彼女が自分に トラップを仕掛けたことを確信した。

「ジニョン・・。なんで1000万ウォンが 必要だったの?」
「な・・何のこと?」


だめだよ。 君も料理長も 悪だくみの出来る性格じゃない。
「いくらなんでも料理長が あれ程負けるのは不自然だし。金に執着のない君が
 花札の賭け代金を 本気で払えというのも 何だか変だ・・。」


2人でシナリオを書いて 僕から金を巻きあげたんだろう?
こうして君がすり寄って来るのも 僕に 悪かったと思っているからだ。
「お金がいるなら 言えばいいのに。」
君の用意した据え膳だから もちろん喜んで いただくけどね・・。

にこやかに 愛しい人のバスローブを解きながら ハンターが笑う。
柔らかな胸に唇を這わせると 愛しい人が 甘い声を聞かせてくれた。


誰かが病気だとか 困っているとか きっと そんな話なのだろう?
かまわないよ。君が必要だと思う金なら 僕は それでいい。


「・・・・ちょっと・・必要だったの。」

ため息の間から とぎれがちに 可愛い言い訳が聞こえる。
博打打ちのMy hotelier。  僕は君に この先もずっと 負け続けるんだろうな。
「かまわないよ。」
「・・ありがとう。」
「でも僕は 君のおねだりも ちょっと 聞きたかったな。」


宝石もドレスもねだらない人。 いったい 何に使うことやら・・。

ほかほかと シャワーの湯気が香る肌を 手に入れた彼は
恋人の可愛い罠を見破って 上機嫌で獲物を組み敷いてゆく。
だけど 幸せなハンターは この時 2つ目のトラップの中にいた。

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「・・・・誰からの 電話だって?」


「Mr.トーマス・コールフィールド だ。 ・・・つないでいいか?」
そのファーストネームで レオは 電話をかけてきた相手が誰かを 知ったのだろう。
わずかに視線を泳がせて ボスの表情を窺う。
「つないでくれ。」
フランク・シンは 小さく咳をして受話器を取った。


「Hello,トム。 お久しぶりです。」
「フランク。 ・・・・・お前 元気でいるのか?」
「はい。 どうもご無沙汰して申しわけありません。」

お2人もお変わりありませんか。 突然連絡してきた養父に戸惑いながらも
ドンヒョクは彼の息子として 礼儀正しく応対をした。


そして ドンヒョクは ジニョンが仕掛けた2つ目の罠を知る。

「この電話番号が よく お分かりになりましたね。」
「ああ。 Misジニョンが 教えてくれた。」
「!」
「婚約したそうだね。フランク 本当に良かった・・・お祝いを言わせて貰うよ。
 小切手を送ってくれてありがとう。結婚式には 喜んで行かせてもらおう。」
「・・・はい。」


ああ ジニョン。

そういう事か。 何かが少し変だと 思ってはいた。
君は 欲しかったんだ。 「フランク・シン」の署名のある小切手が。
僕からと言って アメリカの両親へ送るために。

幾人もの養子を受け入れた 信心深い 養父母。
貴方たちがいなければ やっぱり 今の僕は 無かった。


「・・マリアも・・・ とても喜んでいたよ。」
「ありがとうございます。 お会いできる日を 待っています。」
「・・ああ。」

受話器を置いたハンターが 眼を閉じたままで 薄く笑う。
My hotelier、 君という人は。 
僕の中に閉じ込められていた もう1人の僕を見つけただけじゃない。


1つ 1つ 君が 僕の窓を開けてゆき
世界が 音を立てて 組み直されてゆく。
そして気がつけば いつのまにか 
僕は こんなにまぶしい明るさの中に 立っている。


それにしても ソ・ジニョン。

夫になろうというこの僕に ダブルトラップをかけるなんて 許せないな
あまり舐められるのも いけないし。 どうしてくれよう。


ハンターは いたずらそうに眉を上げて ジニョンへの仕返しを考えていた。

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