ボニボニ

 

My hotelier 97. - クリスマスプレゼント - 

 




サンタが来るのは子供だけかと思ったら  僕の所にも 来たらしい。



クリスマスの翌朝。 
ドンヒョクは うっとりとシーツの中を覗きこむ。


手紙を書かなかったのに 欲しかったものがもらえるなんて
サンタも なかなか 気が利いているな。

―でも・・このプレゼント リボンがついていない。

思いついたドンヒョクは 上機嫌にベッドを抜け出し リビングへ向かう。
テーブル上のシャンパンに結ばれた 金のリボンを外してくる。

「う・・ん・・・。」

可愛いジニョンが寝返りをうつ。
起こさないように 華奢な足首にリボンを結んで。
「完璧だな。」


“クリスマスのプレゼントには
リボン1つを身につけた ジニョンさんをください。”


欲しかった な。
ウィンドー越しの君を 切ない気持ちで どれほど欲しいと見つめたことだろう。
今は 腕の中に丸まって眠る 僕の宝物。

 
この手が 君に届いたことが 夢のように思える朝。
寒くないかな?  毛布をかけながら 肩先にキスを落とす。
「Thank you, Santa・・」

背中から抱きしめて 髪をすきあげる。
なめらかに伸びる きれいなうなじに唇を這わせていると
白い背中の 背骨が波打った。


「・・・・ドンヒョク・・ssi?」
「うん。」
まだ早いから 眠っていていい。
僕は サンタにクリスマスプレゼントをもらったから 1人で遊んでいよう。

んもう・・と ジニョンが小さくクレームをつける。
「それじゃぁ 眠れないわ。」 
ああ でも・・!  今日は私 早く行かなくちゃ。 お風呂を使わせてね。

「?」
ベッドを抜け出そうとするジニョンの足首を ドンヒョクの手がむずとつかむ。
「・・・離してよ。」
「No・・ サンタにもらったプレゼントだ。」
何を馬鹿な・・あ!
「リボンなんかつけて。」

きゃあ!

僕がもらったプレゼントだ。 逃がさないぞとハンターが引き戻して
リボンを結んだきれいな脚が ばたばたしながら シーツに沈んだ。

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バスローブのジニョンは ふくれっ面。
「ドンヒョクssiのせいで シャワーになっちゃったじゃない。」


・・・朝は 熱いシャワーの方がいいと思うよ。

少し 後ろめたいハンターが ジョギングウェアで逃げかける。
その背中めがけて ソ支配人が 優しい釘をコン・・と刺した。
「アメリカのご両親。 16時にチェック・インのご予定よ。」
「!」


ドンヒョクの背中が 沈黙する。

切ない瞳を 揺らしながら ジニョンが恋人にささやきかける。
「僕の花嫁ですって・・紹介してくれる?」

そうしよう。 振り返らないドンヒョクは 少しうつむいて出て行った。

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きりりと まとめた髪を もう1度 手で確かめる。

ボウタイの乱れを直し ジャケットの裾をぱんと引いて
一部の隙もない姿勢で ソ支配人はフロントに向かった。



Mr& Mrsコールフィールドは 寄りそうようにやってきた。

「ようこそお越し下さいました。 初めまして ソ・ジニョンです。」
なめらかな英語でジニョンが話しかけると 2人は顔を見合わせる。
「それでは・・ 貴女が?」
「はい。お義父さま この度は突然ご連絡いたしまして 申しわけありません。
 遠い所を 私どもの式にご出席いただいて ありがとうございます。」

「ま・・あ・・あなた・・。」
「ああ・・。」
ジニョンの温かい微笑を フランク・シンの養父母は 信じられないように見る。


ある日を境に 全くその心に 手が届かなくなった息子。
最後に会ったのは いつだったろう?
膨大な金を投げるように払い 養子縁組を解消したい と氷の眼で言った。
「フランクが・・ 貴女と 結婚するのですか?」


ええ と幸せそうに笑う 美しい韓国人女性。
息子に ・・・何が起こったというのだろうか?

「どうぞ  お部屋にご案内いたします。
 お疲れでしょうから まずはどうか ごゆっくりなさってください。」
ジニョンは ベルスタッフにてきぱきと指示をして 2人を部屋に落ち着かせる。

「あの・・ フランクは?」
すみません。ちょっと急に 新居の打ち合わせが入りまして。
「お夕飯をご一緒にと申しておりました。 7時に お迎えに上がりますね。」
そして 柔らかな笑顔を置いて ソ支配人は去っていった。

「・・・素敵な お嬢さんだわ。 ね? あなた。」
「ああ。 フランクがあんな女性と結婚するなんて 有難いことじゃないか。」
「ええ・・。」

敬虔なクリスチャンである初老の夫婦は 息子の為に十字を切った。

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片手をポケットに フォーシーズンズへ向かいながら ドンヒョクは 眼を伏せる。

慈悲深く愛し 育ててくれた養父母を
そして 少年フランクに絶望をくれた養父母のことを 考える。
それでも彼らは やはり 善意に溢れていた。

―・・・彼らが 悪かったわけじゃない。

「アンニョンハセヨ。理事!」
すれ違うベルスタッフが 挨拶をする。
「ああ・・ こんばんは。」

アンニョンハセヨ。 理事 お夕食ですか? 
通りがかりのギャルソンヌが 気軽な声をかけてくる。
「うん。」

アンニョンハセヨ! ソ支配人が さっきダイニングに行きましたよ。
ねえねえ理事! アメリカのご両親が いらっしゃったんでしょう?
仕事帰りのハウスキーパーが 興味津々で覗きこむ。

レストランへと歩くうち 次第次第に ドンヒョクの眼に光がともる。
―僕には ・・・ソウルホテルとジニョンがいる。




トーマスとマリアの眼に それは 奇跡の様な光景だった。

背の高い男が 快活そうな足どりで 歩いてくる。
すれ違う ホテリアーたちの親しみを込めた挨拶に 
慣れた様子でうなずきながら。 ・・・・あれが 本当に フランクか?

「・・・フランク。」
「トム。 マリア義母さんも よく来て下さいました。」
ふっ・・ と ドンヒョクの口元がほどけ 静かな微笑が浮かぶ。
すいと片手を出しかけて 思い直して  義父を 抱いた。

義父の肩越しに ジニョンの笑顔が見える。
ゆっくりまばたきを1つ。
―大丈夫だよ ジニョン。

腕をほどいたドンヒョクは 隣に立つ義母を抱きしめる。
記憶の中にあったより 随分小さくなった身体。 マリアは 声すら出せずに泣いていた。
そして最後にドンヒョクは 手を伸べて 腕の中に愛しい人を抱きとる。


「トム。 マリア義母さん。 ・・これが僕の花嫁です。」

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食事のあいだ 昔の話は 出なかった。


式のこと。ソウルホテルのこと。これから作る新居のこと。
今のこと 明日からのことが語られて
“昔”は そっとさりげなく テーブルのわきに置かれていた。
やがて デザートが置かれる頃に ためらいがちのマリアがジニョンに言う。
「・・・韓国風の衣装を着るの?」

いいえ ウエディングドレスです。
髪は上げるの? そうですね。

「もし使えたらでいいのだけれど これを貰ってくれないかしら?」


それは 古ぼけたヘアピンだった。
ちっぽけな 真珠が3つ並んでいた。
「フランクが ・・・昔 私にくれた物なの。」
誕生日にって。 嬉しかったわ。 小さいけれど 本物の淡水パールよ。

まじまじと ドンヒョクが 義母を見つめる。
記憶の中から捨てていた日が ジニョンの掌に乗っている。
ありがとうございます。 これで something oldが手に入ったわ。
「私 幸せになれそうね。 ドンヒョクssi?」


My hotelier。 
多分 君より僕のほうが 幸せに なれるのかもしれないな。

ワイングラスに うつむいて ドンヒョクは心を揺らしていた。

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