ボニボニ

 

My hotelier 100. - the Hotelier - 

 




“必要とされるのは 温かい心づかいと
 長時間の仕事をこなす覚悟

 どんなお客様にも 真心をこめて接する姿勢
 作られた笑顔は 必ず お客様に気づかれる
 
 本当の気持ちと 優しさをもつこと
 それこそが  ホテリアーの 才能です”

ソウルホテルが  かくも美しいのは その細胞であるホテリアー1人1人が
才能に恵まれているか 或いは 才能にまさる程の情熱と努力を持って
ホスピタリティーを 目指しているからかもしれない。

-----



December 31
8:00 a.m.

「今日で ニューイヤーズ・イヴとなりました。
 悔いても 笑っても もう二度と還らない今日という一日を 
 どうか皆さん。 最高のホテリアーとして過ごしてください。
 ホテルの主役は ゲストです。  そして ホテリアーのプライドは・・」

“ホスピタリティ”

居並ぶホテリアーが 声を揃える。
「さ! 今日は 我々のソ支配人と甘ったれ王子の祝典だ。ゲストは 超一流ばかり。
 相手にとって 不足はないな?!」

ウィ・ムッシュー!

号令一家。  
支配人達が にこやかに四方に散って 二人の祝宴が始まった。

-----



やっぱり 今日はシャンパーニュだ。
カーヴの中のソムリエは 緑の瓶の恋人に口づける。
メインはジビエになるという ならば強めで ・・デキャンタリングをして。
あの2人のマリアージュだから 私の選ぶワインと料理のマリアージュも
感動的にしなければ な。


料理長はにんまり笑う。  あのハンターが 結婚すると言うのだから 
メインディッユは もちろん“ゲーム”以外にない。
ジニョンは あいつ 庶民派だからな。
見てろよ。 お前の好物が アペタイザーだ。


デコレーターにとって それは 心躍る会場設営だった。
ダイアモンドヴィラの庭に ヒーターを仕込んだトラス(列柱)が立つ。
トラスは花とリボンで覆われて さながら花束の柱のように見える。
柱の間は 反射を抑えたアクリルが張られ それは 空中高く伸びている。
今この温度なら ゲストが入ったら 熱いくらいになるわね。

厳寒のソウルでのガーデンパーティ。
見ていて。 最高の舞台になるわ。


メートル・ド・テールは 会場の動線を考える。
変則的な会場が 腕の見せどころってものじゃないか。
客動線・サービス動線・バス動腺・・・
大変な数のゲストとスタッフを 流れるように動かしてみせる。
 

ソムリエが シェフが メートル・ド・テールが デコレーターが
それぞれの持ち場で ほくそえむ。
愛する2人の最高の日を プロの誇りをかけて飾ってやろうじゃないか。

 
-----



9:00 p.m.


結婚式を終えた2人がウエディングドレスのまま 教会の前に姿を見せる。
ロールス&ロイスのリムジンが 扉を開けて待っている。

「この車はね。 是非使ってくれって プリンスが貸してくれたんだ。」
皇族なんかが使う 装甲装備付きってやつだよ。さあ 乗って。
「デブ達が 嫉妬にかられて道に爆弾仕掛けたって 僕らは 無事ってわけだな。」



やっと・・・ 2人になれたね。

2人で乗る2度目のリムジン。 わさわさと シートに拡がるドレスをかきわけて
有頂天の花婿が 愛する人を抱き寄せる。
「ジニョンの花嫁姿は 信じられないくらい綺麗だね。」
もう披露宴は止めて このままヴィラに行っちゃおうか? 君を 抱きたいな。

軽口が出た花婿に 外を見ながら ジニョンが笑う。
「・・・・・そうも行かないみたいよ。 見て ドンヒョクssi。」


言われるままに 車窓外を見る。 車は ソウルホテルの敷地に入っていた。
暗い 敷地内道路に 一列の光。
「? ・・・・・!」
誘導のまばゆいランタンを捧げて 並ぶドア・パースン達が 迎えてくれる。
車は誘導されるまま ダイアモンド・ヴィラへの道を辿った。


リムジンが停まるポートには ミスターソウルホテルが 待っていた。
「お帰りなさいませ。 理事、ソ支配人。」
ミスターソウルホテルの先導で 2人はヴィラへと歩を進める。

ユ支配人がにこやかに 胸を張って立っている。
「お帰りなさいませ。 さあでは 私がご案内いたします。」

さくさくと 芝を踏みしめて暗い庭を進んだ3人は やがて立ち止まる。
オーケストラでも指揮しそうに しゃっちょこばって
ユ支配人が手を上げる。

どこかでテジュンの深い声。
「新郎・新婦の 到着です。」


ぱあぁっ・・

トラスに電気が灯り  ダイアモンド・ヴィラと庭が 
いっせいに まばゆい灯りの中に 浮かび上がる。
満席のテーブルに 拍手を惜しまないゲストが座る。



ぴるるるぅぅぅ・・   空へ光が走り 中空で ぱあっと花火が開く。

また 派手にしてくれたよな。
苦笑いのドンヒョクに オープンキッチンから 料理長が笑う。 

「おめでとう!」
政治家ドンの大声は 選挙で鍛えたプロらしく響き渡り
拍手がいっせいに 大きくなった。



「なあ! なあ! 乾杯の発声は 私だろう?」
「いや! わしだろう?」
VIP達はかまびすしい。 いずれも 常に宴の主賓になるような大物達。
ジニョンの結婚式だろう? 俺が1つ出なくては・・。 だから僕だ!

違います。 コホンとテジュンが咳をひとつ。 だから前にも言ったでしょう?
「プリンス・・ お願いします。」

ざわめいていた宴席が 美しいプリンスが立ち上がるのを見て 口をつぐむ。
貴賓席に現れることはあっても その話を聞く事など ないお方だ。
花がこぼれるテーブルに 花婿と花嫁が 到着するのを待って
プリンスが手を広げて 皆に 立席をうながす。



「ソ・ジニョンという人は ソウルホテル そのもののような女性です。」

プリンスの声は 深く優しい。

「明るく、純粋で、思いやりに溢れている。
 私は ・・・ソ・ジニョンという女性と ソウルホテルが大好きです。」
プリンスがにこやかに微笑んで ジニョンの瞳がみるみる潤む。
「できれば 私が欲しかった。」
ざわ・・・

「それでは 皆 乾杯しよう。
 愛しいジニョンと 彼女を奪っていった憎きハンターに! 乾杯!」

わああああああ・・

VIPがいっせいに唱和する。 そうだそうだ!許せないじゃないか! 乾杯!乾杯!
ドン・・ドン・・ とまた天空に花が咲いて 光の柳が大きく流れ落ちる。
「・・こんなに 憎まれていたか。」
シン・ドンヒョクが 呆れて笑う。 困っちゃうわねドンヒョクssi?

「いいや 困るもんか。」
敵は多いほど ゲームは面白い。
「だけど勝つのは  ・・・僕だ。」

どうせ今夜はお飾り物だ。 せいぜい見せつけてやるからな。
ジニョンおいで。 歴戦の勇者は 花嫁を抱き寄せてキスをした。


「しかし・・ 料理長も。 今夜は渾身の料理だな。」
食いしん坊のミスター・ジェフィーが 舌鼓を打って喜んでいる。
ボウッ! 
フランべの炎が 夜空を焦がす。
見ろよ あそこで作っているんだ。
「これは Chef’s tableだ。 シェフのそばで食べる。 グルメにとっては 最高の贅沢だよ。」

メニューだって しゃれてるなあ。
キジに ウサギに 鹿だろう? みんな“ゲーム”だ。
「ゲームって ・・なあに?」
ミセス・ジェフィーが ほろ酔いで聞く。 猟で獲るような 野禽や獣を“ゲーム”と呼ぶんだ。

「あの くそったれハンターの祝宴に ぴったりなんだよ。」



ぐぅ・・・

私 お腹すいちゃったな。 美味しそうなテーブルに ジニョンが口をへの字にする。
この・・小さなカクテルグラスのジュレくらいなら 目立たないかしら?
そっとスプーンを取り上げて ひと口食べた花嫁が ぽろぽろ涙をこぼしだす。
「ジニョン?!」

どうしたの? ちょっと・・これ 食べてみて。
慌てたドンヒョクが ジュレをひと口。不思議な味だな。 だけど・・どこかで?
「!」

“こうやって薬味を入れると美味しいんです! イタリアのパスタなんか メじゃないわ!”

「・・・カルグクス? これ?」
「ええ。 ええ ドンヒョクssi・・。」
ジニョンが 涙でいっぱいの眼を オープンキッチンの ノ料理長に向ける。
彼女がグラスを持ったときから じっと見ていた料理長が にっと細い眼を糸にした。

ギャルソン達が背筋を伸ばし プレートを捧げてなめらかに 滑るように 歩いてゆく。
ソムリエが吟味したワイン達が 次々グラスに注がれてゆく。
ソウルホテルの トップサービスが ゲストを心からくつろがせていった。



やがて 宴が砕けはじめる。
言いだしっぺは幹事長。
なあ もういいじゃないか。 君達ホテリアーも 無礼講で楽しみなさい。
テジュンが 目顔でうなずいて 演壇の2人にホテリアー達が 声をかける。

ブーケトスしてよ! 教会で投げちゃったの?

わあわあ騒ぐ ギャルソンヌ達に ジニョンがきゅっ!と笑ってみせる。
「持ってきたわよ! この機会を逃すと 結婚出来そうもない人が多いでしょ!」

ジニョンがトレーンを引いて前に出る。
きゃあきゃあ 騒ぐギャルソンヌ達の頭上に カサブランカの花束が飛ぶ。
だけど ジニョンは力があった。花束は女達の頭上を越えて
ぽとり・・ と 近くの婦人の膝に 落ちた。
「あらあら・・・。」

私みたいなお婆さんが ブーケをもらってどうしましょう?
レディ・キムが 艶然と笑う。 これで結婚しないと「嫁き遅れる」んでしょう?
ちらり・・ と意味深な流し目に ミスター・ソウルホテルが湯気を出す。
その あんまりな赤くなりように 思わず皆が 吹き出した。



さあ! ダンスだ ダンスだ! 花嫁とダンスだ!
トドとデブ2が 同時に ダッシュする。
ディフェンスにまわったハンターが 後から ムズと捕まえられた。

「Happy Wedding, Frank!」 「 Congratulation, Frank!」
天から降ってきたようなブロンド美人は ナイトパーティとあって遠慮なく
派手に肌の見えるドレスをまとっており ドンヒョクは その巨大な胸に埋められる。
「ま!」

ぷん! とジニョンは ふくれっ面で ダンスの相手に行ってしまう。
次々に 踊るパートナーは増えてゆき 花嫁は いったいどこまでいったやら 
そして ついにドンヒョクの 辛抱が切れた。

「ジェントルメン! 僕の妻です。」

あははは・・ やっぱり怒った。人間が出来てないねえ。 まったく 自分のカミさんにデレデレして。
何と言われようが もう限界だ。
怒りに 染まった花婿が やっと花嫁を取り戻す。


おい! ガーター・トスは しないのか?!

レオのやつめ余計な事を。 ボスは ギリリと氷の眼を走らせるけれど
ゲストは すでに やんやのコールで
ため息1つ。 ハンターが ジニョンの裾から手を入れる。
「・・・・・。」
「・・・・!」

じいっと・・  見詰め合う 花嫁と花婿。
花婿の口の端がわずかに上がり 花嫁の頬がわずかに赤くなった。  
「こら! シン・ドンヒョク!」

ソ・ジョンミンの 怒りの一喝。
婿は 慌ててガーターを抜く。
―こいつは 誰にも ・・・渡すものか。

振りかぶったハンターが 力の限りに 投げ上げる。
誰の手も届かない空中へ!  しかし瞬間 黒い影が宙に舞った。

バウッ!

犬のテジュンが嬉しげに ボスの投げたガーターをくわえる。 ご褒美かな? ご褒美かな?
「おいおいおい・・」
ドンヒョクの 情けない声。 居合わせた皆が どっと笑った。


そしてその時 3度目の 知らせの花火が 彗星のように尾を引いて 空へ駆け登る。
「皆様。 いよいよ カウントダウンの時間です。」


ドンヒョクがジニョンを抱き寄せる。
「僕たちの ・・・新しい年が 始まる。」

10.9.・・と始めるテジュンの声が 6には全体に拡がって
やがて ゼロのカウントと同時に 
怒涛の声が ダイアモンド・ヴィラを揺らした。



天空に 次々と花火が 重なり開く。 バンドが新しい演奏を始める。

「それでは 奥様。 踊っていただけますか?」
また あいつらに盗られる前に・・  ケチな花婿は 花嫁の独占を心に決める。


踊ろう ジニョン。 あの夜のように。
ええ ドンヒョクssi あの夜みたいに。


あの日と違う 幸せの中。
ドンヒョクとジニョンは いつまでも いつまでもステップを踏んでいた。

 ←読んだらクリックしてください。
このページのトップへ