ボニボニ

 

My hotelier 106. - ウィークエンド・バトル - 

 




「ジニョン。」

「ん・・・。」


愛しているよ。 僕のジニョン。

大きな掌が 頬を 撫でる。
うっとりと眼をつぶったままで  恋しい人の温もりを探すと 
たくましい腕に抱き寄せられて ぬくぬくと胸に埋められる。


「ゆっくり お休み。」
そう言うくせに 長い指が  脚の間の狭いところへやってくる。
「・・だめ・・。」
「どうして だめ?  ジニョンは僕のものだろう?」

だいたい君の方から 魅力的な姿ですり寄ってきて だめというのはあんまりだ。
「・・ぁ・。だって 昨夜・・・。」
・・・・昨夜  今は ・・・朝?!


がばっ!


「わお・・。 これは モーニングサービス?」

目の前へ ぷるんとこぼれたふくらみに ドンヒョクが ちゅっとキスをする。
慌てて毛布をかき寄せながら ジニョンが彼をにらみつける。

「ジ・・ジョギングは?」
「もう 行ってきたよ。」
そうだと思ったわ My hunter。 あなた シャワーの香りがする。

「今何時?」
「7時かな。 まだいいだろう?」
「どうして  私の目覚ましは 鳴らなかったの?」
「僕が起こしてあげたよ? 電子ベルより ずっと寝覚めがいい。」

寝覚めの良さというのは 大切だな。
僕は君に 素敵な朝をあげたい。
にっこり笑うドンヒョクは くっと 愛妻を引き寄せる。

「・・・今日はウィークエンドだから ね?」
「もう・・ やめてやめて!」



土曜日。   サービス業の妻と非サービス業の夫のギャップが  最も大きくなる日。

ウィークエンドのドンヒョクは クライアントが休みとなり
ウィークエンドのジニョンは お客様のお越しが増える。
「ジニョンで遊ぶ」が生き甲斐のハンターは 近頃 新しい遊びをおぼえた。

“妻の出勤を 引き止めること”


1分でも早く「ソ支配人」になろうとする人を 1分でも長く「僕のジニョン」にしておく。
かくて サファイア・ハウスでは
週末ごとに ささやかなバトルが繰りひろげられる。


「愛しているよ 奥さん。 君は?」

「あ・・愛しているわ。でも もう起きて朝ごはんを作らないと・・。」
まだ大丈夫。 
朝食なんて 君がシャワーを浴びているうちに
僕が オムレツでも作ってあげよう。
「だから・・・ ね?」


― 最高 だな。

ベッドの中で追い詰めると ジニョンが 本気で うろたえる。
毛布の波をじりじり後退させて逃げる獲物を
吹き出しそうな笑いを隠し 切なげなふりをして ハンターが追ってゆく。

大丈夫だよ My hotelier。

忙しい週末だから  君に 本気で 無理を言うつもりはない。
だけど・・・ キスくらいは いいだろう?
「さあ 奥さん。」
「ドンヒョクssi・・。」
「あなたと 呼んでごらん。」


ジニョン おいで。
ウエストに手を回して 抱き寄せる。
頬を包んで 朝には不似合いなキスをすると 愛しい人が やわやわと溶ける。
少しだけ もう少しだけと抱きしめるるうちに 時計の針が進んで。

は・・
幸せなため息をついて ドンヒョクは 遊びをお終いにする。
そっと ジニョンの身体を返して背中を抱く。 うなじに軽く さよならのキス。

「じゃあ・・ 行っておいで。」


君の大好きなソウルホテルへ  僕のジニョンを 放してあげる。
行っておいで。  
きらめく人の波の中を 誰よりも生き生きと泳いでおいで。


「?」
腕の中から ジニョンが 抜け出て行こうとしない。
「ジニョン?」

背中をこちらに向けたまま ジニョンの耳が赤くなる。
「ジニョン?」
「・・・・・。」


不思議そうなハンターの顔が ゆっくりと ほどけるような笑みに変わる。
迫ってみるもんだ。 ・・ジニョン OK なのかな? 
「・・・・・。」


では お言葉に甘えまして。

いそいそ ドンヒョクが腕を伸ばす。 
可愛い人がそっと振り返り 照れくさそうに 胸に埋まった。

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ソウルホテルの庭園を 宿泊客が1人 散歩している。


庭いじりを趣味とする彼女にとって この庭は 実に 見ごたえがあった。
野面積みの石垣のわきに そっと 雪割草が咲く。

―ホテルの庭なんて 手入れの楽な植栽で きれいに作るものが多いけれど
 ここは 園芸の好きな人が 熱心に作っているわ・・。


感心しながら バラ園へ入る。 

まだ冬枯れた園庭に 冬薔薇が ひっそりつぼみをつける。
いよいよ熱心に見まわる客は やがて
そこに目立たない だが気づけば 立派な構えの門を見つけた。

「?・・」

何か 奥に建物があるのかしら?
見事な鍛鉄の門扉を透かして 向こうの方をのぞき見ていると
背後から のんびり声がした。
「お客様ぁ 申しわけないことです・・。 そっちはホテルの施設じゃ ありませんで。」


「あ・・あら。 ごめんなさい。」

肩をすくめた宿泊客は 一目で 声の主が この庭のガーデナーだと知る。
園丁用のバッグをぶらさげて 寒中にも日焼けした老人が笑っている。
「あんまり 見事な御門だから・・。 でも中も・・随分見事な お庭よね?」

へやっ、へやっ、へやっ・・

ガーデナーが 嬉しげに笑う。
「そうでしょう? その庭は わっしの自慢の作りなんでさ。」
家主に 好きに作っていいと言われていましてね。
「まあ そう。 ・・・どなたのお邸?」
「そうですねえ・・。」


にこり・・。 
ガーデナーが 人の良さげな笑顔を見せる。

「ソウルホテルを守る虎が 娘っこかどわかして 住んどりますな。」


へやっ、へやっ、へやっ・・。
「・・なんだか 面白そうなこと。」
訳もわからぬ婦人客は それでも ガーデナーに話を合わせる。


ガン!! ガチャン! ゴン!


その時 派手な音とともに  門扉を開けてジニョンが出てきた。

汗でも飛ばしそうな慌てぶりで 髪のほつれを おたおたと撫でる。
転がるように歩き出した彼女の足が 人影を見てびくり と止まった。


「オモ! お客様。  ・・・し 失礼しました。」 
客とガーデナーの姿に あたふたと笑顔になって 
取って付けたお辞儀を ひとつ。 

ぱたぱたぱたと走りながら 途中でもう1度振り返り お辞儀するジニョンの姿に
年配の女性客が ふふ・・と笑った。

「あの方が “かどわかされた娘”さんかしら?」
「そのようで。」
「別嬪さんね。 ずいぶん お幸せそうじゃない」


まったく ですな。  
老ガーデナーが 眼を細める。
あいつ この時間じゃ ぎりぎりだ。
「こんな庭先に住んでるくせに 虎の穴につかまって出てきやしない ・・へっ。」

ほんに 理事さんもしょうがねえ。
「可愛がっちゃ いるみたいだけどなあ・・。」



ソウルホテルの 朝の道。

大慌てのジニョンが 3秒ごとに時計を見ながら走ってゆく。
私ってば もう 何やっているの?
結局最後は 自分から誘ってしまったじゃない。

「だって ・・あんなキスは。 ・・ずるいわ。」


甘やかなドンヒョクの腕を まだ少し思い出しながら 
カツカツとヒールを鳴らし ジニョンは 支配人へと変わっていった。 

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