ボニボニ

 

My hotelier 113. - ナイトゲーム - 

 




ああ うるさい。

イ・スンジョンったら ・・もう。



彼女が産休明けで戻ってきた途端に 支配人オフィスの騒音レベルが
・・・多分 20デシベルは上がったわ。 
しかしまあ 仕事もしないで ホテルの噂話を集め回っているんじゃない?


「ねえぇ・・・、大変。 理事ったら!
 またジムで女性のお客様にナンパされて スカッシュをしているみたい。」

「はい はい。」



ジニョンは この頃 慣れてきた。
ドンヒョクがヘルスセンターで誘われて 誰かの スカッシュの相手をすることに。

誘う相手は 男性の場合が多いけれど  女性に誘われることも少なくない。
スポーツ好きの人は ヘルスセンターでスカッシュコートを見ると
ちょっと1ゲーム やりたくなるらしい。

週末のジムで1人トレーニングをするドンヒョクは いかにもスポーツ万能に見えて
ゲーム相手が欲しい人にとっては 格好のターゲットになる。



「いつものことじゃない? ドンヒョクssiは運動が好きだから・・。」

「ん~ま! そんなこと言うけれど 今日のお相手はすごぉ~い美人みたいよ?
 うふん♪ バラ300本だって男だもの。 ・・・きっと 美人は嫌いじゃないわ。」


勝手に 言ってれば?

ジニョンは ぷんと顎をあげる。 イ・スンジョンの相手なんかしていられない。
でも。  ・・・ええと・・・ちょっとだけ・・・。


プールの水温でも見に行こうかな。
「・・・別に 気になるわけじゃ ないけど。」

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カコーン! カッツ! カコーン! パン!

「Oooops!」
「Yes!」

“もし お時間に余裕があれば スカッシュを1ゲーム 相手してくれませんか?”
女性に誘われた時は 大抵断るハンターが
今日に限って首を縦に振ったのは 彼女のジムトレーニングのハードさに
興味を引かれていたからだった。 そして・・

思った以上に 彼女は強かった。

さすがにパワーではドンヒョクに負けるものの 
スピードやフットワークでは 男を相手に まったくひけを取らない。

手強いプレイヤーの登場に いささか舌を巻きながら
根っからゲーム好きのハンターは 愉快な気分でプレイをしていた。


―まあ ドンヒョクssi・・・楽しそう。

覗きになんか 来なけりゃ良かった。
彼ときたら あんなに嬉しそうに笑っている。


コーン・・・・

ガラスの箱の中で ボールが最後のバウンドをして
ドンヒョクがにこやかに 相手に 手を差し出す。
2人の握手を目の端に見て ジニョンはそっと その場を離れた。

お茶でもいかが? そんな女性の誘いを 残念ながらとドンヒョクは断った。
シャワーを浴びて カウンターにキーを返すと
フロントスタッフが 思わせぶりな笑顔をみせた。


「理事~? 知りませんよぉ。 さっきソ支配人が ふくれていました。」
「ジニョンが来た? ふうん。 どうして 声をかけて行かなかったのかな?」

それは理事が あの女性のお客様とよろしくやっていたからじゃないですかぁ?
きっとお家に帰ったら ソ支配人に怒られちゃいますよ。
遠慮のない口をきく若いスタッフは 嬉しそうにドンヒョクを脅した。

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マガジンの上縁から シン・ドンヒョクの眼だけがのぞき
ジニョンの様子を うかがっている。


あきらかに 機嫌の悪そうなふくれっ面。
食器洗浄器へ ガチャガチャと乱暴に皿を突っ込んでいる。


・・・まったく。 僕のジニョンほど わかり易い女はいないな。

すうっと 雑誌に沈みながら 
くっくっと  ハンターは小さく笑った。
―君に 焼もちを焼いてもらうようになるとは 僕も 出世したものだ。


さて どうやってご機嫌を直そうか。
後ろめたいこともないのに そうそう 下手には出られない。



「ジニョン。 こっちへこない?」
「・・・」
アヒルのように不満げな唇。 ハンターは 危うく吹きだしそうになる。
「私・・ まだここが 片付かないの。」

「そう?」
どうみても そこは もう片付いているよ奥さん。
笑いを噛みしめて視線をそらす。  窓の外には春の月が おぼろに揺れていた。

いい夜だな。
「ジニョンで遊ぶには うってつけだ。」

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サファイアハウスの 24時。

ドンヒョクは 妻を誘わずベッドに入り 端然と本を読んでいる。


風呂あがりの化粧水を パタパタと頬に叩きながら
鏡の中のジニョンは そっと ハンターを盗み見る。
いつもなら 視線を感じてにこやかに笑う夫が まったく彼女の方を見なかった。

―何・・よ。ドンヒョクssiってば。
 普段なら あの手この手の甘い言葉で 誘ってくるくせに。


ベッドに滑り込んでも 静まりかえったハンターは本から眼を離さない。
もぞもぞとアッパーシーツに隠れて覗くと 彼の横顔が 冷たかった。

ふん・・ だ。


不自然なほどに 隙間を空けて横たわる。
背中を向けてブランケットをかき寄せると  肩先が 少し 寒かった。

―どうせ私は 運動音痴で 仕事しか能がないですよ・・だ。



「プロのテニスプレーヤーだそうだよ。 ・・彼女。」

ゆっくりと 言い聞かせるように深い ドンヒョクの声。
ジニョンが そっと 振りかえる。
本を読んでいたはずのハンターは いつのまにか じっと こちらを見ていた。
「どうして 何も言わずに帰った?」

「な・・・何のこと?」
「勝手に焼もちを焼いて。 君は そうして不機嫌な顔を続けるつもりか?」
「私・・ あの・・・・・焼もち・・なんか。」
「それなら何故? 僕が何か不始末をしたのか? それとも職場で何か面白くないことでも?」
「あ・・え・・と・・・。」


何よ・・・。
怒っているのは私なのに! これじゃ叱られているみたいじゃない。
ぷうっ とジニョンのふくれ顔。


「だって・・ドンヒョクssi。 女の人と にこにこスカッシュしていたじゃない。」
「また“だって”。 ホテルのお客様に愛想良くしろと 君は いつも言うだろう?」

「あんなに! あんなに・・・嬉しそうな顔をしなくたって いいじゃない。」 
「ゲームが面白かっただけだ。 相手が女性だと言うことは 関係ない。」


・・・むっつり。
シーツに不機嫌な顎を埋めて 言い負けたジニョンがむくれている。
なんて可愛い 僕のジニョン。 そろそろご機嫌を取ろうかな。 
「ジニョン? おいで。」



ぽんぽん と 腕枕。

「クレームは ここで聞くよ。」
唇を噛んで それでも ジニョンはやってくる。
大きな腕に抱き取られて ほう・・・と息をついたら 突然イイコトを思い出した。


「ドンヒョクssiの 嘘つき。」
「え?」
「あなた最初の夜に 約束したもの。 もう ブロンド美人は寄せつけないって。」
「・・・・・。」
「嘘つき。」
「・・・・・・・・ブロンドだった? 彼女。」
「ブロンドだった。」


本当は よく憶えてないわ。
でも どうやらドンヒョクssiも 憶えていないみたいだから・・。
これで私の 逆転3ランホームランね。


「ジニョン?」
「・・・・。」
「奥さん?」
「・・・・。」
「ヨボセヨ?」

負けるゲームはしないと言う シン・ドンヒョクのナイトゲームは
愛しい人を後ろから おずおず抱きしめてのご機嫌伺いになった。 


「ねえ ジニョン?」
「知らない。 気安く呼ばないで。」
ああ・・肩が 温かい。 彼の息がうなじを暖めて いい気持ち。
背中を彼に預けたままで ジニョンは うっとり眼をつぶる。
「・・あ・・。」


―どこに金髪のコリアンがいるんだよ。 

華奢な背中に頬をつけて ごく密やかにドンヒョクが笑う。


―まあ いいさ。 ご機嫌を損ねちゃ元も子もないからな。

「あ・・だ・・め・・。」
「そう言わないで。 全身全霊でお詫びを・・ね。」
「ん・・もぉ。」

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ゆっくりと過ぎる  春の半ばの 柔らかな夜。
墨色の雲が夜空を流れて その隙間から 時折 ぽう・・と月が照る。


こんな夜には 犬も喰わないナイトゲームが 素敵だな。

―ゲームに負けてもかまわないな。 景品は ちゃんともらえるし。


ジニョンときたら根気がなくて  ふくれ続けることが出来ないんだ。
「あ・・あ・・。 もう・・ドンヒョク・・ssi。」


愛しい人の声が 甘い。
満足そうなドンヒョクは 夜に合わせて ゆっくり ゆっくり 
ジニョンを 揺らし続けていた。

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