ボニボニ

 

My hotelier 116. - 不器用なふたり - 

 




ドンヒョクssi。  私には すごく優しいけれど
時々 苛烈な程に 気の強い部分があるわ。

でも それって・・・
「血だったのね。」

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「冗談じゃないっ!  絶対 そんなコトはさせないからね!」


ナイフで切ったような切れ長の一重が キッと強い眼で にらみつける。
受け止める奥二重は 眼の底を白く光らせて 獰猛なまでの冷静さを見せる。

他の者が向けられたら 震え上がるほどの視線を 兄と妹は 合わせていた。

「オッパは お前のことを 心配しているんだ。」
「干渉は止めて! 出て行くわよ!」
「!」

あの・・・ あの・・・
「ジェニー・・・?  ドンヒョクssiも。」


バン!

思いきりドアを叩きつけて むくれたジェニーが去ってゆく。
「ジェニー!」
「放っておけばいい。 後で僕が もう一度 言って聞かせる。」
PC画面を見つめたままで ドンヒョクは むっつり ジニョンを制した。


厨房の連中と 一泊旅行? 民宿で ・・・雑魚寝だと?

「あいつの職場は 男ばっかりじゃないか。 一体 何を考えているんだ?」
僕が ちゃんとしたホテルを 予約してやろう。
「平気よぉ。 民宿の大部屋でワイワイやるんでしょう? 私も 新人のころなんか・・。」


・・・・は!! まずい!

ぴくり。 とハンターの眉が上がる。

「君も?  新人の頃に ・・・何かな?」
「えーと あの・・。 職場の皆と親睦旅行へ・・。」

まっすぐに。 シン・ドンヒョクがやって来て やさしくジニョンの頬をつかむ。
「男と 雑魚寝で?」
「あ・・いえ・・それは 女同士・・だった・・かも。」

そうだろうね。
ジニョンの眼を じっと 見つめたままのキス。


目玉の前 3センチからにらまれて ジニョンは 大慌てのまばたきをした。


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「アタシ もうたくさん。 家を出る! 何よ オッパの石頭。」


あれじゃ まるで韓国の古~い古~い時代のおとうさんじゃない? 今は21世紀よ。
友達と 泊りがけで遊びに行くくらい なんで兄の許可がいるのよ!
「アタシはもう 立派な社会人なのに!」


テニスコートのベンチに座って ジェニーは盛大にむくれている。
ベンチの隣には ジャケットをかぶって 寝転んでいるテジュンがいた。

「聞いてる?!  テジュンssi!」

うるっさいなあ・・・。
「俺はここで休憩してるんだ。 脇で ガーガー言うな。」
「だって。」


顔にかぶったジャケットの中で ハン・テジュンは 考える。


―本当に 良かったよな。

牧師様に委ねられた時は この娘に何をしてやればいいのか 正直 悩んだものだ。

幼くして外国に養子に出され 養父母に 見捨てられた娘。
ボロボロに自分を傷つけながら 荒むことしか出来なかったジェニーの 
今の悩みが 「兄の干渉がうるさい」だぜ。

「なあ ジェニー?」
「ん?」
「ドンヒョクを いじめてやろうか? 一緒にさ。」
「え・・・?」

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サファイア・ハウスの 21時。

ドアを開けたドンヒョクは 聞き慣れた男の声に 立ち止まった。
「ハン・テジュン・・・。」


ああ 来た来た。 今宵のレイダース殿は お早いご帰還だな。
「いらっしゃい。 今日はなにか?」

ぐいっと テジュンの腕を抱いて ジェニーが 兄に胸をそらす。
「あたしの引越しを 手伝ってもらってるの!」
「引・・・越し?」
「そ!」
成人した妹に ギャアギャア うるさいことを言うようなオッパとは やっていけないわ。
しばらく社員寮に入って それから アパートでも探すの。
「何だと?」

理事。 いや・・ドンヒョク。
「わかってやれよ。 ジェニーだってもう 子供じゃないんだ。」
アメリカ育ちなんだしさ。
韓国式に「何でもオッパの言うことを聞くものだ」じゃ ジェニーが可哀そうだ。


「可哀・・・そ・・う?」

「ちょっと! テジュンssi! それは 言い過ぎなんじゃない?!」
ジニョンが 横から聞きとがめて 文句を言う。
「ドンヒョクssiは  本当に ジェニーのことを心配しているのよ!!」
そりゃあ ちょっと・・ 強引なところがあるけれど。 
「うるさいのも ジェニーのことが大事で大事で ・・・仕方が ないからじゃない。」

不満げにうつむいてしまったジニョンの姿に 
ジェニーの瞳が ゆらりと揺れる。


「・・・まあとにかく しかし そういうことだ。」

大きく膨らんだジェニーのバッグを 肩に背負い ハン・テジュンが ドアへ向かう。
ジェニーは 僕が責任をもって預かるよ。 まかせてくれないか。
「さあ行くか。 ジェニー。」
「あ? うん・・。」
テジュンは さばさばとした声で ジェニーの肩を抱き寄せる。
ふん・・と それでも勝気な鼻を上に向け 妹は 兄をにらみつけた。


「・・・ハン・テジュン・・。」

足元に目を落としていたドンヒョクが 静かに テジュンへ向きなおる。
「おお。 何だ?」
「・・・・あの。」

背筋を伸ばし 胸に手を当てた男が 音も立てずに 頭を下げる。
「妹を・・・ どうか よろしくお願いします。」
「!」
深々と・・。  誰にも頭を下げない男が 妹のために 頭を下げる。
ジェニーは ぽかんと口を開けて 兄の姿を見つめていた。

「・・どうか 頼みます。 ジェニーに困ったことがないように してやって欲しい。」
「あ・・ ああ わかった。 まかせてくれ。」


伏せた眼鏡のフレームが 鈍く光り 兄の表情は 隠れている。

動揺のままに 視線をうろうろ揺らしながら ジェニーは 小さく爪を噛んだ。
「さ! いこうぜ。」
屈託なく明るいテジュンの声に 2.3歩進んだジェニーが ・・・立ち止まる。


振り向けば  寂しそうな 不器用な 兄の笑い顔。

「身体に・・・ 気をつけろ。」
ジェニーの眼に いきなり 涙が盛り上がった。
「・・・テジュンssi。 あたし・・・。」
「ん?」
「やっぱりここに いたい。」

妹は 大きく腕を広げて オッパ と言ってドンヒョクを呼ぶ。
吸い込まれるように 兄は歩み寄り たくましい腕が ジェニーを抱きしめた。

「ここに いたい。」
「うん。」
「オッパと いる。」
「うん ジェニー・・。」

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まったく俺は 兄妹ゲンカまで 面倒を見なくちゃいけないのかよ。

キュッと笑ってカップを置くジニョンへ テジュンが 陽気な愚痴を言う。
「ありがとう。 さすが テジュンssiね。」
ジェニーが出て行くように わざと炊きつけてくれたでしょ。

「言っとくけど 俺が 牧師さんに世話を頼まれたのは 妹の方だけなんだからな。
 こんな茶番には 以後 絶対つきあわないぞ。」
まったく 兄妹揃ってあの強気じゃ世話が焼けるよと テジュンは 大きく歯を見せて笑い 
リビングのソファでは 兄妹が 照れくさそうに肩を寄せている。


「ジェニー・・?」
「ん?」
「旅行・・ 楽しんでくればいい。」
「・・オッパに心配かけないように・・気をつけるから・・。」
「ああ。」


20年の針を戻して 動き始めた家族時計。

兄であることにも 妹であることにも 不慣れな2人は
盗むように互いを見ながら しっかり 手と手をつないでいた。

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「あんな 狭い所に 12人も泊まるのか?!」


「だ・か・ら  宿が一杯だから 民宿で雑魚寝なんだって 言ってたじゃない。」
もう いいでしょ? 
そんな 望遠鏡なんかしまって。 お刺身でも食べに行きましょうよ。


こんな近くにホテルを取って泊まっているなんて。 ジェニーにばれたら大変よ。
「ジェニーに 危険は・・・ないだろうか。」
イ主任たち。 それはもうジェニーを可愛がってるもの。 平気 平気。


「ジニョン。 ・・・・君は 僕の妹に 少し冷淡では?」

あーっ もう!!  このハーバード・ボーイ。
妹のこととなると 判断力が 限りなく狂うわね。

「そういうドンヒョクssiだって せっかく妻との一泊旅行なのに なによ!」 
奥さん放ったらかして いつまでもそうして覗いていたいなら 勝手にして。
私はバーラウンジで “一人で寂しそうに” お酒でも飲んでこよう。

「ジニョン。 ち・・ちょっと待て!  ソ・ジニョン!」


冷静沈着が代名詞のようなハンターは 大慌てで 妻を追いかける。
ジニョンは どんどん 先を歩く。
「うふふ・・。」

独りきりで なんだかとても寂しそうで 見ていられなかった人。

―ドンヒョクssi。 あなた 随分 幸せな悩みを持つようになったわ。


「ジニョン! おい!」
「知らない ついてこないで!」
愛しい人の足音が 近づいてくる。
ドンヒョクssi たまには私と カクテルでも飲みましょうよ。
その腕に捕まえられる瞬間まで  もう少しだけ あなたから逃げられそうね。



捕まえにくる温かな腕を わくわく期待で待ちながら ジニョンはぺろりと舌を出した。

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