ボニボニ

 

My hotelier 158. - スワッピング - 

 




ソウルホテルの ニューイヤーズ・イヴ。 




カウントダウンを 賑やかに ここで迎えようとする客たちが

美しい装いに身を包んで エントランスロビーに溢れている。


キャンディ色のオーガンジーを重ねて さんざめき合う若い女性。
スパンコールの胸もとが 妖しいほどにくれた女。

通りすがりの女性たちから ハート色の目配せを贈られながら
きれいに脚を組んだ彼は 悪戯な笑みを浮かべていた。




― だ・か・ら・・ ドンヒョクssi!


きりりと髪を上げたうなじが 恥ずかしさと怒りに染まっていた。

ジニョンは 向こうへ眼をやるまいと 手元の書類を見つめていた。



ソ支配人が立つカウンターから 10m程離れたロビーラウンジ。

思い思いの方向に置かれた ハイバックチェアの群の中で
シン・ドンヒョクが座る椅子は 
あたかも照準をロックオンするように 真っすぐ ソ支配人に向いていた。


肘掛に軽く頬杖をついて ゆったりと座るハンターは
まるで これから手に入れる獲物を 吟味している風に見える。 

お客様と応対する支配人が つい そちらを見てしまうと
この憎らしい監視員は 「なに?」と言いたげに 眉を上げた。

隣に立つ後輩が 小さく笑う声を聞いて ジニョンは耳を赤くした。



・・・もぉ・・ドンヒョクssi・・

人の流れが途絶えた時  ジニョンが ひそひそと文句を言った。

「ねぇ ・・そんな所に座らないで」

「うん?」
「勤務中なんですから」
「知っているよソ支配人。 まずまず 真面目な勤務態度だ」


・・気が散るって? 困った奥さんだな。 

「勤務時間が終われば 可愛がってあげるよ。 よそ見しないで働きたまえ」
「もぉ・・」

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ソウルホテルの 午後7時。

6時には終わると言ったソ支配人は 相変わらずの遅刻をしている。


まあ いいさ。 ドンヒョクは悠然と背を埋めた。
今年は風邪を引いたスタッフが多くて 彼女のシフトはめちゃめちゃだ。
ヘリは屋上に待たせてあるから 終わると同時にフライト出来る。

大晦日のホテリアーを 職場からかっさらうのだから 
多少の忍耐は 致し方ないというものだ。

それに ね My hotelier, 「働いている君の姿は どんなショーより見ていて楽しい」



・・・ヒク・・・ヒック・・・・

「?」

微笑んでいたドンヒョクが 不思議そうに辺りを見た。
ベソをかくような小さな声は 隣の椅子から聞こえていた。

がっかりした顔で座っているのは まだ若い娘だった。

楽しげに賑わうホテルの中で いかにも場違いに
彼女は 膝に置いたバッグの持ち手へ すがるように泣いていた。



「良かったら・・」

ドンヒョクの 優雅な手が差し出したハンカチに 娘は赤い眼を向けた。
「す、すみません」
「それは 返さなくていいから」

プレスの効いたハンカチで 娘は しきりに眼を拭いた。
変な成り行きだな。 いささか困惑しながらも ドンヒョクは彼女に問いかけた。

「・・どうか した?」


待ち合わせをした恋人が 「来ないんです」と娘は言った。
クリスマスも 仕事だと言って会えなかったのに。

「き、今日こそは・・・埋めあわ・・する・・って・・・ヒック・・」



やれやれ これでは傍目には 僕が愁嘆場を演じているようだな。

息を吐いたドンヒョクは それでも 娘を優しくなだめた。
僕とジニョンのホテルのロビーで泣く者を 見過ごすわけにもいかない。

「お店の予約も もう間に合わないわ。 ホテリアーなんて大嫌い!」

「?! 君の彼は・・・ホテリアーなの?」




その時 乱れた靴音と共に 長身の青年がやって来た。

慌てて着替えたのが明白な彼に シン・ドンヒョクは見覚えがあった。
はにかんだように微笑むギャルソン。

フォーシーズンズのフロアを 滑るように歩く彼が
これほど乱れた髪をしているのを 初めて見たとドンヒョクは思った。

「ご・・ごめん。 ・・その・・お客様が・・」
「もういや!」
「?!」

お客様、お客様、お客様!! 

そんなにホテルが大事なら ホテルにプロポーズでも何でもして!
「私は 帰る!」
「ヘジョン!」



踵を返して去りかけた腕を 大きな手が そっと捕まえた。
「?!」

娘は 自分を留めた男をにらみ 相手が素晴らしく魅力的なことに気づく。
シン・ドンヒョクは微笑んで 娘を その場へ釘付けにした。 


「・・・理事・・」

勤務中はギャルソンである青年が ドンヒョクに気づいて絶句する。
若い恋人に ハンターは たしなめる眼で警告した。
「大事な人は 簡単に行かせないことだ」


予約は どこを取った?

「・・え? あの『アマルフィ』です・・・」



イタリアンか。 ハンターはしばらく考えた後 青年の耳にささやいた。
「では スワッピングと行こう」
「えっ?!」


だ、だ、だめです。 そりゃあ ソ支配人は憧れの人ですけど・・
き・・今日は僕 彼女にプロポーズする予定なんです。

「慌て者だな。 誰がジニョンを交換なんかするか! ・・“行き先”だよ」
「え?」
「屋上に ヘリが停まっている」
パイロットに連絡を入れておくから 彼女を連れてお行き。


それから 君だ。 「お嬢さん?」 
「は・・はい・・」

ハンカチは返さなくていい。 その代わり 彼のお詫びを聞いてくれませんか?

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サファイア・ハウスの23時半。

大きな背中をすり抜けて ジニョンの身体が シーツへ滑り出た。



ドンヒョクssi・・・ ドンヒョクssi・・ もぅ・・降参・・・



だめだよ 結婚記念日だろう?

 
「だぁって・・ お腹がいっぱいなんだもの」
「あんなにでかいピザを 食べるからだよ」
「さすがに若い子の行く店は ボリュームがあったわね」

ふん。 しかし そんな「若い子」まで 警戒しなきゃいけないとはな。

「・・え?」
「こちらの話だ。 仕方がない 少し休もうか」
おいで お腹を撫でてあげるよ。 「続きは また新年♪」




「もぉ・・。 ふふ でもヨンス君たちどうしたかな?」

まさか彼女も 済州島まで 連れて行かれるとは思わないでしょうね。

「向こうにはどんなサプライズを用意していたの?」


ん? トリプルスイートに ルームサーヴィスのディナーだな。

「特大ロブスターにクリュッグ 管弦楽のトリオがつく」
「う・・わぁ」


首尾良く 彼がその先まで 彼女のOKを取ることが出来たら

薔薇を充たした豪勢なジャグジーと プール程もあるベッド。

「山と積み上げた絹の枕に ・・今年は 薔薇が303本」
「わぁ 私達 結婚3周年かぁ」
「パイロットは1人で戻ったそうだから 上手くいったみたいだね」


ドンヒョクssiが彼にしてくれた事 私は すごく感謝してるけれど・・
「ドンヒョクssiは ・・これで 良かった?」
「わからない」

・・・・え?・・

それはこの後 どれ位 ジニョンが裸でいてくれるかによる。
「明日1日なら ・・文句はないな」
「オモ!」




ジニョン、 ジニョン、 こっちを向いて
もっと記念日のキスをしよう。

「・・・ん・・・撫でるのはお腹って・・言ったじゃない・・・」
「ここは違ったっけ?」


サファイアハウスの カウントダウン。
ダイアモンドに客達が集い 数字を減らしてゆく頃に

ソウルホテルの王様は 王妃の中にもぐりこんでいた。


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「あ しまったな」

「う・・・ん? なあに?」


君と遊ぼうと思って 済州島のベッドサイドに用意させたんだ。
ミンクファーで作った『手錠』。


「ちょ・・ちょっと!やだ! どうするのよ!」

そんな物を使うプレイをしてるのかって 彼に 誤解されちゃうじゃない!!
「慌てた? ・・嘘」
「え? もぉ! びっくりしたじゃない」

用意したのは 済州島のベッドサイドじゃなくて
「ここ♪」


きゃああああああ・・!

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