ボニボニ

 

My hotelier side story - バーテンダー -

 




My hotelierを作った『カサブランカ』の女性バーテンダーのお話です。

    *   *   *   *

二人の男がバーカウンターに並んでいた。
ハン・テジュンは、バーボンソーダを入れたロンググラスの縁をなぞって、
シン・ドンヒョクは、カウンターの上に組んだ両手をじっと見つめて、

「理事はまた ずいぶん派手にやられたようですね。」

こんな話題はまっぴらだと自分では思いながら、
当たり障りなく会話するためだけに、
テジュンは一番聞きたくないジニョンの事へ、話をふった。

「・・・『ベラッジオ』はどうでした?」

ドンヒョクはさりげなく話題をラスベガスのホテルへ移す。
「ラグジュアリータイプばかりが多いけど、どうなんでしょうね・・・。」
「まあでもあそこは、金の夢を売る街ですから。」

ハン・テジュンは、ホッとした。
少なくともこいつと出来る話題が、1つあったな。 「HOTEL」。
バーテンダーが、ドンヒョクの前にマティーニを置いた。

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「オフィスの件は承りました。それについては早速・・・理事?」

横に座るドンヒョクに視線を移したテジュンは、不思議そうに眼を留めた。
カクテルグラスに唇をつけ、瞼を閉じたままで、
シン・ドンヒョクが動きを止めている。

やがて、ドンヒョクが眼をあげる。
冷たい瞳が、まっすぐにカウンターの中の女性バーテンダーを射すくめ、
ぴんと背筋を伸ばした彼女が 覚悟したようにたじろいだ。


「・・・・・どういうことだ?」
カクテルグラスを、乾杯でもするようにバーテンダーのほうに
差し出したドンヒョクが、そのままグラスを横に動かし、
カウンターに置かれたアイスペールへ中身を捨てた。

「!」
ハン・テジュンには、何が起きたのかわからない。
 
シン・ドンヒョクは長い腕を伸ばして、カウンター内側の会計伝票を取ると
スーツの胸からジニョンのペンを出して、サラサラとチェックを入れた。

「マティーニを、 ・・もう一杯。」

カッと頬に血をのぼらせた彼女が唇を噛み、
酒を計量するジガーを取り上げた。
ゆっくりまばたきをして ドンヒョクが冷ややかにバーテンダーを見据える。

2つ目の カクテルグラスがカウンターに置かれた。

そっと唇を寄せたドンヒョクは チッとかすかな舌打ち。 
もう一度中身をアイスペールに捨てた。伝票にサイン。 

「もう一杯。」

「おい、何をしているんだ?」
「いいんです! ・・社長」
ドンヒョクの冷たい眼に磔にされたまま、バーテンダーが叫んだ。

チャキ チャキ チャキ・・・
氷がかすかな音をたてる。
そして 3人の視線を集めたグラスが カウンターに置かれた。

ドンヒョクの長い指が グラスの華奢な脚を支える。
これ以上優しくできない位のキスを、グラスの縁に落とす。
・・やがて ほどける様な微笑みが伏せた睫毛を揺らした。

「うん これが君のマティーニだ。・・今日はどうしたの?生理?」

ケロリとした顔でドンヒョクが笑う。テジュンはあ然とした。

「すみません。ちょっと・・・私事でトラブルが。」
「そう? もしも僕が役立てる部分があるなら、言ってもらっていい。
君のマティーニのためなら、喜んで相談に乗るよ。」

冷静沈着がバーテンダーベストを着たような女性が、つっと涙を流す。
真っ白なリネンのハンカチを差し出して ドンヒョクがにっこりした。
「僕はこっちに戻ってから、君にしかマティーニをオーダーしていないんだ。」

「は!!」
馬鹿馬鹿しくなって、テジュンが天井を仰ぐ。
「その手でジニョンも落としたわけか。・・まいったな。」

この野郎またジニョンを呼捨てたと ドンヒョクが振り向く。
-しかしこいつにはサファイア・ヴィラをオフィスにしてもらわなきゃ。

「ジニョンが泣いたら、指でぬぐうさ。
 ・・ヴィラの件、頼みましたよ社長。」

-この野郎・・。俺の大事なホテリアー達を片っぱしから奪うつもりか。
ハン・テジュンは いまいましそうにバーボンをあおった。

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