ボニボニ

 

My hotelier side story - 永遠のレディ・キム ~ドアマン② -

 




韓国政財界のトップが集まるパーティに シン・ドンヒョクが 現れた。
彼と話したい男たちを まるで無視して
今夜のドンヒョクは 熱心に 一人の女性を口説いていた。


「ねえレディ・キム、デートしてくださいよ。貴女が来ると聞いて 今日は来たんです。」

レディ・キムと呼ばれた美しい老婦人が、無礼なハンターに 嫣然と笑う。

「まあ・・・、おいたな子ね。おばあさんを からかっては、だめ。」
「僕には おばあさんを口説く趣味はないし、
お歳はいっていても、貴女はおばあさんなんかじゃ ありません。・・・ねえ、お願いです。」 


今のお若い方は女性の喜ばせ方がお上手ね 悠然とレディが言う。
慣れた口ぶりには、男達をかわしてきた歴史が滲んでいた。


「私ね、どなたとでも お付き合いできる身ではないの。美男子さん。」
「貴女がお姫様だってことは よく 知ってますよ。
僕など結婚を迫れる 身分じゃない。・・・でもレディ。 デート位なら いいでしょう?」


ねばり腰のドンヒョクは いつか レディ・キムの手まで握っている。
「ほ、ほ、ほ・・・、貴方のような美男子に 熱心に迫られるのも いいものね。」

「レディ・キム、それじゃ・・。」


「私の家の お茶にいらっしゃい。 キューカンバーサンドイッチは お好き?」
「胡瓜は水っぽくない奴で マスタードをたっぷりにしてください。」
「ま! 我儘なのね。」
「甘える男は ・・・お嫌いですか?」

溶けるような微笑のドンヒョクに 負けないほど艶やかなレディが 笑う。
「それからね・・。 ジニョンを連れていらっしゃい。」
「!」

「私を見くびってはだめよ、シン・ドンヒョク。貴方の事は知っています。
何が目的で 私に近づきたいのか 知らないけれど
あたくしね・・・・ 殿方と2人だけじゃ 会わないわ。」

「あーあ、ジニョン付きか、それじゃ 貴女に 迫れないなあ・・・。」
「うふふ、あの娘はいい子ね、飾らなくて温かい。あなた 女性の趣味が良くてよ。」

ジニョンの名前に 首をすくめたドンヒョクが 何気なさそうに言い添える。
「・・・ねえ、サンドイッチは4人分にしてくださいね。
僕 レディのお宅を知らないから うちのドアマンを 連れて行きます。」
「!」

まじまじと。  まじまじと レディが ハンターを見詰める。

「貴方・・・ 思ったより 性格が複雑そうね。」
「これは お褒めに預かりまして。」

すっと 視線を逸らしたレディの瞳に あるかないかの さざなみが拡がり
気持ちの揺れた 横顔に 突然ドンヒョクは それを見る。

息を呑むほど美しい人が 大輪のバラのように そこにいた。

「ああ・・・。 貴女は 本当に美しいお姫様だ。」


「・・・・・シン・ドンヒョク。 どうしてそんな事を思いついたの?」
ほんの少し 頬を染めたレディ・キムが問う。
「そうですね・・・。 貴女も ・・・・待っているような気がしたんだ。」


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イギリス風にしつらえた それは 見事な庭園だった。
すべてが美しく すべてが優美で すべてが時間の分だけ 古びていた。

レディ・キムのお茶会は 見事だった。
スコーンにデボンジャー・クロテッドクリーム。 バラのジャム・・


そして  透けるほど薄いティーカップを ぶるぶる持つ  

可哀想なほど純情な ミスター・ソウルホテル。


「ああ、このサンドイッチ美味しいや。完璧がパンにはさまっているみたいだ。」
「もう!ドンヒョクssi・・・そんな 言葉使い・・・。」
ジニョンは レディ・キムへの笑顔と ドンヒョクへの威嚇で忙しい。

「いいのよ、ジニョン。ドンヒョクはね 私のボーイフレンドにしてあげることにしたの。」
「?!」
ドアマンが顔を朱に染めて 信じられない様に レディを見る。
レディ・キムは ドアマンに 眼もくれない。


「ねえ、レディ。 このサンドイッチ持って行ってもいいですか?」
「あら 何処へ?」

ドンヒョクが いたずらそうにジニョンを見る。何を言うのとジニョンが眼で問う。
「う~ん、あっちの 茂みかな。恋人を連れ込むには 絶好ですね。」
「きゃ!ドンヒョクssi!!」

おほほほ・・と 楽しげにレディが笑う。それごと持ってお行きなさい。
3段になったトレーを下げて ジニョンの手を引き ハンターが歩き出す。

レディ・キムが 呼び止めた。

「ドンヒョク。私は・・・・お礼をしなくてはいけないようね。お望みはなに?」
「男が美人から欲しいものは 決まってますよ。」

す・・・とレディが手をのべる。  多くの男が死ぬほど求めた 今は皺のある 美しい手。

トレーを置いて ドンヒョクが歩み寄る。

ちらりと ミスター・ソウルホテルを盗み見た彼は
レディの手を取って くるり とかえした。


掌への キス。

「あ・・・・」
小さな驚きが レディの口からこぼれる。

「お前!よくも!!」
怒りに震える ドアマンが 真っ赤になって立ち上がる。 レディ・キムの声が飛んだ。
「ミスター・ソウルホテル!」

「・・・は・・・い・・・、レディ・キム。」

少し潤んだ瞳で 美しいお姫様が 微笑んだ。
「貴方には  ・・・・・もっといいところに キスをさせてあげます。」

ガタン!
椅子が倒れる。

見事な体躯の 美しい青年が 呆然と 憧れの女性を見詰めていた。


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「しかし、大した庭だな これは。」
サンドイッチを くわえながら
ドンヒョクが ジニョンを連れて歩く。

「ねえ いったい今日は ・・・・・何だったの?」
「ん~? お伽噺、かな。 昔々 美しい青年が きれいなお姫様に恋をしました。」

あそこでキスをしようよと ドンヒョクがのんびり言い
人のお庭で何するのと言いながら それでも素直にジニョンが座る。
「愛しているよ・・・」
「・・・ちょっと! ・・・・ん・・・・」


遠い茂みの2人のキスを  ドアマンは呆然と見ている。

「・・・・・わざわざ 見せつけてくれるのね。大変ないたずら坊やだこと。」
「レディ・キム・・・・・ あの・・・」
「恋をするのは いいことね。 私に キスをくれる恋人は ・・・いないのかしら?」


永遠の  なんて美しい レディ・キム。

そして・・ 半世紀の時を越えて 青年は愛する人の手を取った。




“一生醒めない恋に出会えたら 愛しい人は 捕まえなくちゃ”

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