ボニボニ

 

My hotelier side story - バリスタ -

 





“こんなちっちゃなカフェコーナーに、2人もバリスタはいらねえんだよ。”

あんな気難しいバリスタ親父を 説き伏せたのは偉かったな、アタシ。


「お前なんざバリエスタじゃねえ。殻くっつけたヒヨコのくせに!」
「そりゃあ アタシはヒヨコだけどさ。 親父さんは つぶしかけのヨボヨボ雄鶏じゃない!」
「・・・・!!」

ソウルホテルのカフェラウンジ。 カウンターには2人のバリスタがいる。
1人は  「つぶしかけベテラン雄鶏バリスタ」 で
もう1人は 殻をくっつけたヒヨコ・バリエスタ。


孫ほども年の離れたこの弟子を それでも 老バリスタは可愛がっていた。
―若い奴には珍しく 骨を惜しまず働くし だいいち コーヒーに対して熱心だな。

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シン・ドンヒョクがやってきた。


プロのコーヒーが飲みたくなると 彼は ここへやってくる。


―理事さんだ・・・・。
ヒヨコ・バリエスタが 横目にドンヒョクを見る。 彼は決して 私の前に座らない。

「ふん。ヒヨコのコーヒーは 飲めないんだ。」
あるかなしかのプライドを無視されて、若きバリエスタは むくれている。


「いらっしゃいませ ミスター・シン。本日は何を差し上げましょう?」
老バリスタが 背筋を伸ばして それは優雅に問いかける。 


確かに バリスタ親父と理事は よく似合う。
―何ていうのかな・・・・、
客とバリスタの「間合い」みたいなものを この2人ってば よく知っているんだ。


「あの、すみません・・・」
遠慮がちな声がした。 ビジネスマン風の男が 小さな女の子を連れている。

「ちょっと ここに この子を・・お願いしたいんですが。」
「は?」 

「私 あっちのテーブル席の方で 10分ばかり 商談がありまして・・・。
子どもだけ このカウンターに座らせて欲しいんです。ミルクかジュースは あるでしょう?」


何かあれば声をかけてください。いい子にしてろよ と子どもに言って
ビジネスマンは テーブルに向かう。
― ・・・あ~あ、 あたしの客は 子どもだよ。
ヒヨコ・バリエスタは 情けない。

6つか7つになるのだろうか、 女の子は少しおどおどしている。


「こんにちは。・・・ミルク飲む?」
「・・・・・・・」

女の子がふるふると 顔を振る。
「そう 良かった!」
「?」
「お姉ちゃんはね バリエスタなんだ。 コーヒーを美味しくいれるお仕事をする人。
ミルクを出すんなら あたしより  牛のほうが得意だもんね?」

「・・・・・ふふふ。」
女の子が やっと 笑顔を見せた。
「ココアはどう? クリームいっぱいのせて・・・。」

それなら欲しいと 小さなお客様が言い かしこまりましたと ヒヨコ・バリエスタが応じる。
やがて ふわりと甘い香りがして カップ一杯のココアができた。

「あ、そうだ!」
ヒヨコ・バリエスタが 楊枝をつまみ
ココアに載せた クリームに 何やら細工を施してゆく。

「わあ! ミッキーだあ・・・・」
クリームに 描かれた イラストを見て 女の子がはしゃいだ声を出す。
「お姉ちゃん、すごい。そっくりよ。」
「ふふっ すごいでしょ? これはお姉ちゃんにしか できないワザだよ。」


バリスタ親父には クリームの泡に絵を描くなんて カワイイ芸当は できないもん。
ヒヨコ・バリエスタは ふん!といばった。


「それは・・・・熊も できるのかな?」


「はい?」
いきなり ドンヒョクに声をかけられて ヒヨコ・バリエスタが 飛び上がる。

「熊も 描ける? ほら・・・ ウィニー・ザ・プー。」

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ヒヨコ・バリエスタは 意気揚々だ。

「出前」だってのが ちょっと気に喰わないけど 理事さんから 初のオーダーだよ。
― 今にみていろ バリスタ親父。 私の時代は すぐそこだ!


片手で 支配人オフィスのドアを開ける。

「ソ支配人に カフェ・ラテの出前で~す!」
「え? 頼んでいないけど・・・?」

ごそごそと ポケットから紙を出して ヒヨコ・バリエスタがメモを読む。

「ご注文主は シン理事です。 メッセージ付き、ええ・・とぉ
“愛する 僕のジニョンさん・・・・”」

きゃあぁ!やめて とジニョンが叫び イ支配人が メモを奪う。
支配人オフィスが きゃあきゃあと 陽気な 笑い声で揺れる。

明るい笑顔に包まれて ヒヨコ・バリエスタのプーさんは ふんわり泡に浮かんでいた。

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