ボニボニ

 

My hotelier side story - ソムリエ -

 





シャンパンのボトルを壁に投げつけた・・・だと?
シャンパーニュは ワインの貴婦人だぞ。 「最低の男」・・・だな。

ソムリエは M&Aハンターだという男を その一瞬で 切り捨てた。


ソウルホテルのカーヴには 常時数百種、1万本を超える ワインが眠る。
チーフ・ソムリエの彼は その鍵を握る 美酒の番人だった。

このホテルを 乗っ取りに アメリカから凄腕のプロがやって来た。
ソムリエは 皆の噂を 伸ばした背筋で 聞いていた。

気に入らないトップになったら 辞めればいい。
彼は 冷然と考えている。 韓国有数のソムリエである彼は ワイン以外にはひざまずかない。

―でも・・・・ 去った後で 私のワイン達が きちんと管理されるだろうか?

ソウルホテルのワインカーブ。
彼の情熱が作り上げた 国内屈指のコレクション。

そっと横たわる緑の瓶の恋人を 料理と 結婚させるまで 
それはそれは 慈しんで ソムリエは 守り続けていた。

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「サファイア・ヴィラの客が 来ている?」

ギャルソンの知らせに ソムリエが眉を上げた。
部屋で食事をすることの多いドンヒョクが レストランに現れたという。

「私が行く。 シャンパーニュを壁に投げつけたのは どんな奴か見てやろう。」

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ギャルソンを脇に置き シン・ドンヒョクは新聞でも読むように のんびりメニューを見ていた。

―あんなに 若い男なのか・・・・。


やがてメニューが決まり、ギャルソンが引き上げてくる。
ドンヒョクのオーダーを確認した後で ソムリエは慎ましやかに近づいた。

「こんばんは ミスター・シン。ワインは いかがなさいますか?」

ちらりと こちらを見つめる。
その眼の強さに ベテランソムリエが 少したじろぐ。

―さて どんなワインを チョイスする?

「メインはうずらのグリルにしたんだ。 それで選んでくれ。
甘いのは好きじゃないし あまり軽くないやつがいい。」
「・・・・・」
「・・・・ソムリエ? 何か。」
「いえ、かしこまりました。」

―まあ、 ソムリエの使い方は 知っているんだな。


その晩 ソムリエが選んだボトルを差し出すと ドンヒョクは 無造作に味見してうなずいた。
― ワインに詳しい訳 でも ないか。
 

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別の日 ドンヒョクから電話が入る。

「今晩 料理長のお薦めを 喰う予定なんだ。ワインを選んでおいてくれないか。
9時に行くから・・・。 すぐに 飲みたいんだ。」

かしこまりましたと 答えたソムリエは 首をひねる。
「おい 今日の料理長のスペシャリテ なんだ?」


そのメニューなら うちで良いのは あのバルバレスコあたりかな・・・
“すぐに 飲みたいんだ。”
「!!」

― ・・・・・ 「デキャンタリングしておけ 」と いうことか。

赤ワインには 飲む前に デキャンタに移して 柔らかくするほうが いいものがある。
あのバルバレスコなら デキャンタリングに1時間かけたほうが いいだろう。

「は・・・・・」

ソムリエはいささか感嘆した。

―プロの使い方を 知った男だな。

「悪くない。」


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やがてドンヒョクは ヴィラの住人となり 
ルームサービスのワインオーダーに 「甘いもの」 と指定が来る事が 時々あった。
「つまみぐい好きの ソ・ジニョンか・・・あの娘、呑むからな。」


ワインカーヴの番人は 満足していた。
― あいつが大株主なら 私の恋人達は 安泰だ。
ひんやり 湿ったカーヴの片隅で ゆるゆる時を醸しながら ソムリエはひっそりと微笑んだ。

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ある晩 支配人オフィスのジニョンに チーフ・ソムリエから電話が入る。

「ソ・ジニョン。 ・・・・君 もう退社だろう?」
「ま・・・ソムリエ、良くご存知ね? ええ・・そう。
  ・・・でもまだ ちょっと 片付けたいことがあるから。」

「だめだ! さっさとヴィラへ行け!」 

いらいらとした ソムリエが怒鳴る。 ワインの事となると 彼は苛烈だった。 

「オモ・・・? 何で 私がヴィラへ行くって・・・?」
「サファイアからオーダーが来たんだ。 “シャンパーニュを きりっと冷やしてくれ” とな!」

「・・・ソムリエ。」
「クリュッグだぞ、お前! もたもたしてて ぬるくしたら 絶対許さないぞ!」


チーフ・ソムリエにお尻を叩かれて ソ支配人が あたふたとヴィラへ向かう。

ヴィラではドンヒョクが にんまりと ネットの人物名鑑を見ていた。


「あのソムリエ、クリュッギスト(クリュッグ・シャンパンの熱烈な愛好者)なんだよな・・・。
上手くジニョンを オフィスから追い立ててくれると いいけどなあ。」

バタバタバタと ジニョンがやってきた。
肩で はあはあと 息をしている。

ドンヒョクは 何にも知らないふりをして 明るい顔で微笑んだ。


「あ? 早かったね ジニョンさん。 美味しいシャンパンが 冷えてるよ♪」

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