ボニボニ

 

My hotelier side story - ランドリー -

 




おいおい。そんなに力まかせにプレスしちゃ 生地がぺったんこになっちまう。

「あのな アイロンってのは プレス機じゃねえんだ。」

人が着ると 生地が歪むだろう?
よれたり押し付けられたりして ねじれるだろう?
そんな生地を 蒸気で機嫌よくふかふかに戻してやって あとは糸をきちんと整列させてやる。

その整列の手伝いなんだ アイロンってのは。

「お前みたいに 
繊維がよれよれのまんまプレスしちゃ
洗濯物が ひねくれっちまうよ。」

ソウルホテルのランドリー担当主任は、 昔かたぎの職人だった。

「親方」は 口うるさく新米に小言をいう。
耳にピアスの新人は 何だか不満げに聞いている。
―俺も 年喰っちまったかな。
主任は 苦い気持ちを噛みしめていた。

洗濯屋のアイロンのかけかたなんざ このご時世 どうでもいいんだろうな・・・。

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その日 サファイア・ヴィラから来たシャツは “注意”付きだった。

なじみのハウスキーパーのババアがやってきて告げる。

「シャツに 糊使うなって。」
「へえ・・・」
「前立てはきっちりアイロンして後は柔らかく。カフスに折り線つけるな。
そんで 吊るしで持ってこいって。3ヶ月いるからずっとそうしろってさ。」
「へ・・・うるせえ客だな。」

― ・・・嫌いじゃないんだ。 うるせえ奴は、よ。

アイロンに注文つける客なら 俺の仕上げをきちんと見るだろうよ。
主任は 嬉しそうにあごを掻いた。

「ねえ、あの客さあ・・・このホテルを買収にきたみたいよ。」

ハウスキーパーが シャツと一緒に客の噂を運んできた。
「うるせえババアだな。そんな所で油売ってないで さっさと仕事しろよ。
・・・しかし このシャツいい仕立てだな。ん~なんか脇に変なしわが出るな?」



次の朝。スタッフヤードで騒ぎが起きた。

「大変!ジニョンが大変よ!誰かきて!!」

うるさい声は イ・スンジョンだな。何事だよ。
皆と一緒に覗きに行くと 背の高い男が 風除室にソ・ジニョンを閉じ込めていた。
あの娘はいい子だ 何をしやがる。あの野郎・・・! お?・・・おいおい。
「何だあ?接吻しちまって・・おい。抱き合ってるぞ。」
「シッ!あの人よ!サファイアの・・・」

あれがサファイアの男か・・・。主任の視線が そのスーツに釘付けになった。
あいつ着やせするけど いいガタイしてるな。 ああそうか アームホールがほんの少し・・。

「アイロンってのはさ こういうことが出来るんだぜ。」

主任は 一枚のシャツに向かう。湯気で伸ばしたアームホールを くくっとひっぱって
アイロンでのしてゆく。 さあ 仕上げをごろうじろってんだ。

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サファイア・ヴィラの朝。

ドンヒョクが すっとシャツに腕を通した。ボタンを留めて 2,3歩あるく。
「・・・?」
僅かな着心地の違い。 ハンターは 黙って腕を組んだ。

「ねえ、伝票返ってきたわ。書き直して。」
ハウスキーパーが にこにことやってきた。主任は怪訝な顔をする。
「なんでえ? 間違ったか?」
「自分で見れば?」

けっ横着なババアだと伝票を奪った主任が 眼を走らせて ・・・・赤くなる。
サービス料と書かれた金額が 客の手で消され 
3倍の額が記入されていた。

「・・・ずっと その金額を書けって。 ・・良かったわね偏屈ジジイ。」
「へっ!やかましいわい。 ・・・なあ、今夜あたり ちょっくら屋台でも行かねえか?」
「ご馳走様。」

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時が過ぎ やがて そのうるさい客は サファイアの「住人」になった。
今でも彼のシャツは 主任が担当する。

ジニョンが結婚を面倒くさがるわけだよ。 相手がこんなにうるさい奴ではな・・・。
「でもなあ・・ ジニョンがかければ あの男。
ぺったんこアイロンでも デレデレ言って着そうだよ・・・・。」

ああ あの野郎。またシャツにシミをつけてやがる。

しょうがねえなあ・・ またジニョンのファンデーションだよ。
シャツ脱いでから 抱きしめろってんだ。

あっれえ? しかし・・この 口紅・・・なんだ?

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支配人オフィスに ランドリー主任が顔を出す。

「おい! ソ・ジニョン。」
「はい?」
「お前の口紅 今 どんなの使ってんだ?見せてみろ。」

「え?口紅見せるんですか?・・・これですけど。」
ぶつぶつと主任が 原料表示を見る。
オイル・フリー・・・? ひょっとして 油脂を使ってないのか?
「ええ。なんか新製品ですって。・・・・何か?」

なるほどな。OK わかった。 じゃあ 溶剤が違わぁ。

「いったい・・・何ですか?」
怪訝な顔で ジニョンが聞く。
「シン・ドンヒョクのシャツの染み抜きだよ!」


きゃあ! とイ・スンジョンが盛り上がり ソ支配人が真っ赤になった。

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