ボニボニ

 

My hotelier side story - インベーダー  -

 




新居を建てる予定地に立って シン・ドンヒョクが地面を見つめる。


「・・・・・。」


地面の上には 何やら 目印らしい杭が打ち込まれている。
建設用の 目印でないことは確かだ。 ここには 建物がこないはず。


―いったい これは 何だろう?
ドンヒョクは1人 首を傾げる。

しかしそれは “侵略者”の ほんの最初の 一撃だった。

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「土が 運びこまれている? ・・・いや 私は 指示していない。」


建築工事を 依頼した業者からの 奇妙な報告。
誰かが ドンヒョクの新居用の土地に かなりの土砂を持ち込んだという。

―これは ・・・何だ? 誰かが僕の土地に 勝手に家でも建てるつもりか?


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「ねえ・・ジニョン? 君 新居に・・・本当は不満があるのかな?」
「え・・?」

ジニョンの 背骨のくぼみに沿って ドンヒョクの唇がすべってゆく。
気持ち良さげにシーツに埋まる恋人は 聞かれた事がわからなかった。


「不満? ううん。・・どうして?」

―そうだよな。 ジニョンは自分の事となると てんでこだわりがないんだから。


仕事の時間に きっと彼女は すべてのこだわりを使い果たすのだろう。
新居に関して 彼女ときたら 「面倒だからまかせる」と言う。
しかし ジニョンじゃないとすると?


「・・・・木材が?」

今度は 木材がやってきた。 

いったいぜんたい 僕の新居を 誰が 侵略して来ているのだ?
経験のない 奇妙な“敵”を ハンターはかわしかねていた。
「ともかく 現場を見てみるか・・・。」


建築予定地に立ったとき シン・ドンヒョクは唖然とした。
「こんなに・・?」


20センチ角はありそうな どっしりとした木材。
まるで枕木のように硬質の木が きれいに積み上げられている。
一瞬覚えた目まいを振り切り ドンヒョクは 木の表面をなでた。
「・・・ずいぶん 硬いな?」


建築工事の監理をする 現場主任が うなずいて言う。

「これは アイアンウッドなどと 言われる奴ですね。
 水にも沈む重量があります。その辺に放っておいても100年は腐らない。」
「それはまた 堅牢だな。」
「ええ・・ よく外構に使いますね。エクステリアに・・。」


でもね。 不思議なんですよ。これだけの材木が運ばれているのに
誰も 外から来た搬入車を 見ていないんです。 どこから 運び込んだんだろう?

「!」

突然 何かが ドンヒョクの脳裏を打つ。 もしかして?
運び込まれた土砂を見る。 黒々とした 柔らかな土。


「・・・・あの人 か?」

そして 翌日。 

地面から 枝のようなものが 何本も突き出ているのを 見るに及んで
ドンヒョクの 顔に 呆れ笑いが浮かんだ。

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ソウルホテルの 朝の庭を 背の高い男が走ってくる。


時折サングラスの眼を 周囲に向けて 目当ての人を探している。
そして 庭を歩くガーデナーを見ると ふっと 笑って近づいた。


「おはようございます。」
「ああ・・・ 理事さんか ご精が出るな。」
「ガーデナーこそ ご精が出ますね。」


僕の庭に 植えたのは・・・何ですか?


ちろり・・ と横目をこちらに向けて ガーデナーは 立ち止まる。
よっこらしょうと縁石に座り くしゃくしゃの煙草を取り出した。


「吸うかい?」
「結構です。 ・・・何を 植えたんですか?」
「ありゃあ バラだ。 やっぱ つながりってモノがあるからなあ。」

すぱっと 煙草を吸い込んで 噛みしめた歯の間から煙をもらし
ガーデナーは ポケットから 何やら ガサガサ紙を出す。


「最初はな バラのアーチでつなげてやろうと思ったんだ。だけどなあ・・。」

個人宅だろ? 一応。 客がふらふら入って来ちゃっちゃ まずいわな。
んでな・・と 奥歯に煙草を噛んで ガーデナーは紙を広げる。
「こういう風に塀を回して バラを這わせて 門つけて・・。」

「設計図まで ・・描いたんですか?」


そりゃあ 理事さん。 造園だって 設計図がいるわな。
植栽の選定だってな 適木適所があるんだぜ・・・。
「ああ それからなあ。 あっこは ずっと自動車屋の資材置き場だったから
 土がまったく めちゃくちゃだ。 庭の所だけでも ちっと 入れ替えてやんねえと・・。」

「あの・・・。」

「子どもも作るんだろ? 芝生もいるわな 遊び場に。
 “ややこ”は何でも口にすっから 危ないモンは 植えちゃまずいぜ。」
「・・・・・。」

あとナア。 ・・・家はどう建つんだ? 
南面を開けてセットバックするだろうと思って 見当だけ つけておいたがなあ。
こんだ図面を 見してくんな。


「・・・・・。」

それじゃあな。 おいら午後には ちょっと 木を見に行ってくら。
「理事さん シンボルツリーは 何にする?」
「シンボル・・・ツリー・・?」

まあいいや いくつか候補を 挙げてくらあ。
ぱんぱんぱん・・と お尻を叩き 庭師がすいと立ち上がる。
さてさて 忙しいこったよなあ。 だけどなあ・・まかせておきな。


「・・・最高傑作 作ってやっからよ。」


ししし・・ と老いた庭師が 笑う。
唖然と 口を開けていたハンターは やがて ゆっくり笑顔になった。



それはそうだ。 ソウルホテルの地続きに 僕の家を 建てるなら

いったい 他の誰が 庭を作るって言うのだろう。


「は・・・・。」
何度も何度も 描き直された。 しわしわの設計図。
ここにこんなに 僕たちを 愛してくれる人がいる。


「ガーデナー。 ・・・どうか 予算は気にせず 好きに作ってください。」

「お? 嬉しいねえ。 だがなあ 贅沢がいいってモンじゃねえぞ。」
庭ってのはさ。 住んでる人に 似せるのがいいんだ。
見たかい? あっこに積んだ木を。

「アイアン・ウッド・・・・ですか?」
ああそうさ あれをこう 組み上げてな。


「季節になったら 風船かずらを這わそうな。理事さんとジニョン みたいだろ?」


まったくもって 忙しいこった。
老いた庭師は うきうきと 頭を掻きながら去ってゆく。
ガーデナーの姿を 見えなくなるまで見送って
 

こらえきれないシン・ドンヒョクは 空を見上げて あはは・・・と 笑った。 

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