ボニボニ

 

My hotelier on his Birthday05

 




朝のランニングからドンヒョクが戻った時 ジニョンの姿はもうなかった。

「早出だったっけ・・?」
出掛けに彼女をつかまえて もう一度キスをしたかったな。
少し残念そうなドンヒョクが 乱暴にペットボトルの封を切った。

「・・つ!」
気分の悪い事は重なるものだ。何の具合か封のプラスティックの切り端で
人差し指が 掻かれて 切れた。

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8月は上半期の最後の月。

ビジネスの世界では慌ただしい時間になる。
ソウル市内のオフィスでは スタッフ達がバタバタと事務仕事を片付けていた。

ドンヒョクの仕事は むしろこの時期 小さな停滞を迎える。
彼の仕事が動き出すのは新しい期に入ってからだ。
多忙を極めるスタッフを横目に ドンヒョクは とまどいのような時間の中にいた。

RRRRR・・

「ボス。 ハン社長からお電話です。」
「ハン・テジュン? ・・珍しいな。」

「どうしました?」
何だか嬉しそうな声が出てしまった。
ちょっと・・ 取り残された気分だったのかもしれない。

「来月のコンサルタント日程なんですが スケジュールがつぶれそうなんです。
 ご迷惑でなければ 本日夕刻に 代替してお時間いただけないでしょうか?」
「今日の夕方・・ですか? どうかな・・レオ?」

PCの画面から眼もあげず レオが片手でOKサインを上げる。
「・・・大丈夫ですね。ではお伺いしましょう。」

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ソウルホテルのロビーを 慣れた風にドンヒョクが歩く。
ハイシーズンのホテルは 観光客で溢れ
ホテリアー達は 皆 忙しそうに行き交っていた。

「お帰りなさい理事。」
「アンニョンハセヨ 理事。」

忙しさの中から 親密な挨拶が降り注ぐ。
大股で歩くドンヒョクの気持ちが 次第次第に温まってきた。

「ああ。お忙しいのに すみません。」
満面に人の良い笑顔を浮かべて ハン・テジュンが椅子を立った。
「ええ・・と言いたい所なんですが 今日はそう多忙でもないんです。」
ハンターが いささか自嘲気味に笑う。

「それは好都合ですね。じゃ ・・・ゆっくりお付き合いいただきましょうか。」

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ソウルホテルの経営は 健全を絵に描いたような状況だ。
「ゆっくり検討も何も・・ これでは コンサルする必要もないですね。」
「・・ふっ。」
「え?」

怪訝な顔で ドンヒョクがハン・テジュンを見る。
テジュンはいたずらそうな笑いを浮かべていた。
「ゆっくりおつきあいいただくのは 帳簿ではありませんよ。」
「?」


さて・・良さそうかな。

腕時計を眺めたテジュンが すいと立つ。
ドアまで歩いて振り返り さあ という様に顎をしゃくった。
「?」

怪訝な顔のドンヒョクの前を
背筋を伸ばして テジュンが歩く。
VIP用通路を抜けてドアを開くと いきなりシャンパンがポン!となった。

「誕生日 おめでとうございます!」
「理事 おめでとうございます!」
「33歳!おめでとうございます!」

いつまでも いつまでも 祝いの声が降り注ぐ。
ドンヒョクが 呆然と立ち尽くした。
「・・・」

「ほらほら主役が入り口に立ちんぼうじゃないか。 中へ入れてくれ。」

ハン・テジュンが先導して ドンヒョクを奥へと誘う。
「こ・・れは?」

呆然と引かれるように歩くドンヒョクに イ・スンジョンが 花束を捧げた。

「ソウルホテルの王子様へ。 ガーデナー渾身の作品です」。
見事に咲いたカサブランカの花束に 風船かずらがふわりと絡む。
「この時期に咲かせるのに・・苦労したんだぜ 理事さん。」
日に焼けた顔をほころばせて一張羅のガーデナーが笑った。 

「まさか 自分の誕生日を忘れてたってわけじゃないだろう?」

― ホテルの繁忙期に生まれやがって どこまでも俺達をかき回す奴だな。
ハン・テジュンが陽気に笑う。

「おい!お待ちかねだよ。 もうこっちに寄こしてくれよ。」
料理長の声に人垣が割れる。
33本のキャンドルを灯した巨大なケーキの横に
ジェニーがニコニコと立っていた。

「お誕生日おめでとう!オッパ! 料飲&厨房からのプレゼント!」
「ジェニー・・・」
「最上段は ジェニーがデコレーションしたんだよ。」


誕生日?

そんな言葉が 僕の人生にあったのか。
本当にそれが生まれた日なのかも 怪しかった ただの日付。
こんなに ・・まぶしい日だったかな。

「おめでとう ボス。」

視線が定まらない様なドンヒョクに パートナーが微笑む。
「レオ・・? お前も?」
「この一晩のパーティの為にスタッフがした努力は お涙頂戴ものなんだぜ。」

積みあげられた 色とりどりのプレゼントBOX。
ソムリエが つんと顎をあげて シャンパンを注いでまわる。

「それでは理事。 支配人室からの贈り物をお受け取りいただきましょうか。」
ひときわ大きなプレゼントボックスの横に オ・ヒョンマンが澄まして立つと
会場に 楽しげな笑いの波が広がった。
「私どもからお贈りするなら これ以上は・・ありませんからね。」

大きなプレゼントボックスが 何だか 少し動いている。
みるみるうちに 笑顔になったドンヒョクが 
花束をスンジョンに預けて いたずらそうに言った。


「困ったな・・。 どうしても 受け取らなくちゃいけない?」
 
どっと 会場全体が笑う。

ごとごと怒るプレゼントボックスに ドンヒョクが歩み寄る。
リボンを取るなり飛び出してきたふくれっ面を 
待ち構えていたキスがふさいだ。

「ありがとう ジニョン・・」
「・・もお。 おめでとうを 先に言わせて。」

やっぱり理事には これだよね。
ホテリアー達が笑いあって やっとにぎやかな乾杯になった。 

陽気なパーティは いつまでも続く。
ほどけた気分の頃合いに レオが コホンと咳払いをした。
「ボス・・・。あの・・・俺も贈り物が・・・」
「え?」
レオの横には 巨大なプレゼントボックス。やっぱり ごとごと動いている。


「レオ・・・まさか・・やめろ。それは 本当に困るんだ。」

「すまないボス。どうしても連れて行けって言われて。
  ・・・俺 ブロンドに弱いから。・・ジニョンさん。ごめん!」

ばぁん!

開けてくれるのを待ちきれず プレゼントの方が破裂して
天から降ってきたようなブロンドが 巨大なバストで飛び出してくる。


「Happy Birthday to Frank!」「Happy Birthday!」

派手に両側からキスマーク。かんかんのジニョンが拭きとって
私のモノよ!とブロンドを威嚇する。

代わりに私がお相手を・・オヒョンマンが鼻の下を伸ばし
イ・シンジョンが耳を引いた。



ソウルホテルのパーティルーム。 
本日は スタッフの 貸切です。
私たちの大好きな王子様の 33回目の誕生日。
おめでとう おめでとう 貴方の一年が幸せでありますように!

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