ボニボニ

 

My hotelier X'mas story05  Frank vs Frank

 




行っておいで My hotelier。


精一杯の やせ我慢。 
僕のことなら気にしなくていい。 のんびり休日を楽しんでいるよ。

「・・・11時には 会えるかな?」

ソウルホテルの クリスマス・イヴ。 
着飾った人々が 一夜の魔法を求めて やってくる。
ごめんなさいね。 愛しい人は 切なく微笑み
いつにもましてコール続きのインカムを下げて 飛ぶように歩き去る。

さあて 僕はどうするかな。
シン・ドンヒョクは 首をすくめた。

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・・・失敗したな。

そうだ 今日はイヴじゃないか。 ここが静かな訳がない。


礼拝堂で 静かな時間を過ごそうとやってきたのに
人いきれでむせ返るような教会に ドンヒョクはほとほと嫌気がさす。
―ホテルへ戻って ジムトレーニングでもするか・・。

車のシートをリクライニングさせて ぼんやり煙草を吸う車窓の向こうに
ぴょこり・・  子どもの顔がのぞいた。
「?」


わくわくとこちらを見ているが 少年はドンヒョクの姿に気づいていない。
―ああ・・ この車か。
車の好きな子なのだろう。 べたべたと ボディを撫でている。
仕方ないガキだな。 ドンヒョクは ふっと 笑って煙草をふかす。


ガチャ・・ 少年がドアを開けた。
「へぇぇ。」

きょろりと覗く無防備な顔が可笑しくて いたずらに声をかけてみる。

「Merry Christmas・・」
ひっ! と少年が飛び上がった。 くっく・・頭でも ぶつけたんじゃないか。
「悪いな。 これは タクシーじゃないんだ。」

もじもじとした子どもの言い訳を聞き流して 2本目の煙草に火をつける・・
「!!」
いけない! この前ジニョンに 車が煙草くさいと言われたんだ。
ウインドーを下げ パタパタと煙を追う。


ああ・・だめだな。 ちょっと走らせて換気しないと。
「おい 降りろ。 車を出すから。」

助手席に縮こまる少年に言うと 乗せてくれねえか? と 少年が言った。
「ミサに来たんだろう? 親はどうした?」
「いねーよ そんなもん。 俺 孤児だもん。
 今日はほら “善男善女の皆様”がプレゼントを下さるからって 呼ばれたんだよ。」
「・・・ふうん?」

お前を連れ出して 誘拐犯にされちゃかなわないな。
「大丈夫だよう・・ シスターには 遊んでくるって言って出てきているからさ。」


やれやれ。 変な成り行きになったな。
まあ じゃあ・・・ その辺を 一回りしてやろう。
これも 神様の思し召しだ。 

退屈しのぎのハンターは イグニッションキーを回す。
ドゥン・・と目覚める怪物に 少年がわぁと破顔一笑して 
それを横目で見たハンターは わずかに 陽気な気分になった。


「・・クリスマスに 坊主とドライブじゃ 冴えないな。」

飛ばせるルートを考えながら さも情けなそうに 嘆いて見せると
真っ赤になったふくれっ面が 負けず嫌いに言い返してきた。
「クリスマスだってのに デートしてくれる彼女もいねーの?」

こんなハンサムに 恋人がいないわけないだろう?
「僕の彼女は マリア様だからな。 クリスマスは繁忙期なんだよ。」
だからこっちは暇つぶしさ・・。
つい半分本音の愚痴が出て 少年がくっくと笑う。
「暇つぶしに教会行くなんて 不信心だぜ おっさん。」


ドンヒョクの 長い指が すうっと空をすべる。

「いててて!! なんだよ!」
「シン・ドンヒョクだ。 口のきき方に気をつけろ。お前から名乗るのが礼儀だろう?」

いってーな! 子どもに暴力なんて最低だぜ。 あ~痛てぇ 頬っぺたが曲がった。
「俺・・ フランクって言うんだ。」

キキィ!


「・・ふざけているのか? お前どうみてもコリアンだぞ。」

ぐしぐしと 乱暴に頬を撫でながら 少年は唇をとがらせる。
「しょうがねえだろ! シスターはアメリカ人で 韓国の名前知らなかったんだよ。
 ・・・それに どうせ海外養子に行くなら 向こうで通じる名前にしとこうって。」
「・・・・・。」


少年フランクは そこで初めて 不安そうに眼をあげる。
・・・同情 されちゃったかな。
怖じた視線を きれいに無視して ぶっきらぼうにドンヒョクが命令した。
「おい坊主。 そっちの窓開けろ 換気ができない。」

「坊主じゃねえよ。 フランクだって言っただろ?」
「自分と同じ名前は 呼びにくい。」

同じ名? あんたはシン・ドンヒョクだって さっき言ったじゃないか。
「アメリカン・ネームは フランク・シンだ。」
「アメリカ国籍なのか?」
「ああ。」
「ふうん・・。」


英国車特有の 低いエグゾースト。
音楽をかけない車内に シートの皮と紫煙の匂いだけが 薄く流れる。
いきなり無口な少年を ドンヒョクは 放ったらかしにしておいた。

少年には ・・無口な時間が要るものだ。

「なあ・・おっさ・・あんたさ 金持ちなんだろ?」
「そうだな。」
「俺・・僕に クリスマスプレゼントをくれよ。 同じ名前のよしみでさ。」

ちらり。 面白そうに眉をあげて ハンターが 少年フランクを見る。
「甘ったれてるんだな。 ・・・何が欲しい?」
「でっかいチキン! 喰いきれないくらいデカイ奴!」

はっ・・ 

今度はドンヒョクが 破顔一笑。 そりゃ最高だ。
この少年が どでかいチキンと格闘する? そりゃ 拝ませていただきたいな。
「よし。 ・・じゃあコース変更だ。」

ちらりとミラーを確認し アクセルを踏んだドンヒョクが サイドレバーを握る。
こういうのに 似合う車じゃないけどな・・。
キキイィ!
派手なブレーキ音をさせて 怪物ジャグワーがスピンターンをしてのける。

「うっわ! すげえすげえ! どうやったの?!」

クリスマスアトラクションだ。 気に入ったか?
こみ上げてくる笑みを隠して ドンヒョクはソウル市内へ 車を向けた。

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「なあ・・・ チキン喰わせてくれるんじゃあ なかったのかよ?」

デパートの売り場をあちこちめぐり 膨大な買い物をするドンヒョクに
不満そうなフランクが 抗議する。
「喰わせてやるさ。 ほら・・そっち持て。」

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ソウルホテルに程近い空き地に ドンヒョクが 車を乗り入れる。
「さ・・ この辺にするか。」

降りろと言われた少年は びくびく周りを見回した。
「なあ・・ここ 他人の土地だろ? やばいんじゃねえの?」
「今は 使っていないみたいだから 勝手に入ってもかまわないさ。
 ・・ああ おあつらえ向きに もみの木があるな。」

ガーデナーが 念を入れて選んだのだろう。もみの木は なかなか素敵な枝ぶりだ。

トランクから 買った荷物を 次々降ろす。
ロープライト・バッテリー・梯子・・ 星のオーナメント。
梯子を幹に立てかけて ドンヒョクはフランクにロープライトを渡した。
「これを持って上れ。 チキン喰うなら・・クリスマスツリーが要るだろう?」

はあ・・? 馬鹿じゃねえの?
「嫌ならいいぞ。 チキンは無しだ。」
げーっと文句を言いながら それでもライトを受け取って 少年が梯子を上る。
「ちゃんと枝にかけろよ。」

少年フランクの不平を無視して ドンヒョクは携帯を取り出した。
「シン・ドンヒョクです。 ちょっと・・お願いがあって。」

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はあ・・・はあ・・はあ・・は・・

こ・・んなこと出来るかよ。 このライト めちゃめちゃ重いじゃねえか?
「死んじまうよ。 なあ! おっさん!」
「シン・ドンヒョク。」
「解ったよ!ドンヒョクさん! こんなこと出来ねって。俺まだ10才なんだぜ!」

そして 少年フランクの背筋が凍る。

眼鏡の底を光らせたハンターが 見たこともないほど冷たい眼で こちらを睨む。
「じゃあ・・降りて来い。 私がやろう。 お前はただ指をくわえて見ていればいい。
 “善男”の私が ・・・気の毒な子羊に チキンをめぐんでやろう。」
かあぁっ! フランクが朱に染まる。
「・・・やって やらあ・・。」

それからのフランクは 一言も弱音を吐かなかった。
背を折る重さによろめきながら もみの木にライトをつけてゆく。
やがて見事に全ての枝に ロープライトが巻きついた。
「次は これだぞ。」
「げ・・・。 テントまで建てるのかよ。」


あーあ 金持ちにたかれると思ったのに 変なのにひっかかっちゃったな。

出来上がったテントにストーブを焚くと 中はそれなりに快適で
少年フランクは 秘密基地のような空間が 内心 すごく気に入った。
「すっかり遅くなっちまった もう帰らないと。 あーあ チキンは喰えねえや。」

「シスターだろ? 電話しておいたよ。」
「え?」
僕は あの教会の高額寄付者だからな。 君を借りると言ったら 二つ返事だった。
「さあ・・点灯式だ。 スイッチを押せ。」
「俺が?」
お前が飾ったツリーだろう? 
「自分で 灯せ。」


ぱあぁぁ・・・

暗い空き地の真ん中に 突然 光の樹が立ち上がる。
そのまばゆさに照らされて 周囲の木々が 青い闇に沈む。
「!!!!!」
「きれいだな。 ・・お前の樹だ。」
「えへへへ。」

なあ ドンヒョクさん。チキンはどうするんだよ? 鶏も焼くのか?
もう腹ペコのフランクが ありありと情けない声を出す。
「そうだなあ・・さすがに料理は出来ないから マリア様におねだりしたんだ。」
「へぇ?」
「ああ・・あの灯りかな?」

チリン・・チリン・・
闇の中から わずかな灯りと鈴の音が近づく。
「ドンヒョクssi? ・・・そこなの?」
「ジニョン!」

なんだ おっさん? いきなり甘い声のハンターに 少年フランクが呆然とする。

「ここだよ。 忙しいのにすまなかったね。」
本当よ 料理長が呆れてたわ。
はい お客様。 ご注文の“今夜 一番大きいチキン”
ヒョンチョルのセッティングを手伝いながら ジニョンがきゅっと可愛くにらむ。


「こちらは? あなたと遊んでくれたお友達?」

ああ・・『フランク・クラブ』のメンバーだ。  なあにそれ?
「フランクって名前の 海外養子の集まり。」
「楽しそうね。・・じゃあ もう行くわ “ We wish you a Merry Christmas!”」
「ジニョン・・ねえ。 ちゃんと・・時間には 来てくれるだろう?」

うふ・・と きれいなウインクを1つ。
ヒョンチョルを従えて ジニョンが去ってゆく。
美しい人を見送りながら 少年フランクはあんぐり口を開けて フランクを見た。

「海外養子・・? あんた 金持ちだろ?」
「金持ちになったんだ。 自分の力で 人生に梯子をかけてな。」
「・・・・・何か 俺に 教えようとしてる?」
「ああ。 “チキンは 熱いうちに喰ったほうがいい。”」



ぱりぱり もぐもぐ むしゃむしゃがぶがぶ・・

「盗らないから ゆっくり喰え。」
気持ちいいくらいの食欲だな。 身体中が べとべとだぜ。
ウイッシュボーンが出てくると 2人のフランクが引き合って 少年フランクが勝った。
「・・あんたは 喰わないの?」
「ふっふっふ。 僕は 後でマリア様とディナーだ 羨ましいだろう?」


きれいなお姉さんだな。 あぁ もうすぐ結婚式をあげるんだ。
「羨ましいだろう?」

―この人。 唯一の弱点は あのお姉さんだな。

ウィッシュボーンで 勝ったから 俺の望みが叶うよな。
望みなんて 今まで持たないようにしてたけど 
自分で叶えりゃ良かったんだ。 なんだ 簡単なことじゃないか。


「なあ・・おっさん。」
「シン・ドンヒョク。」
「ドンヒョクさん。 ・・今夜 あのお姉さんと ちゅーすんだろう?」

―へッへへ 赤く なるんじゃねえの? 
少年フランクの悪戯は ものの見事にかわされる。


「これだからガキは可愛いな。 ちゅーだけで 済むわけないだろう?」

もっと いろいろあるんだよ。 オ・ト・ナには。
チキンの脚に結ばれた鈴をチリチリ振りながら 大人フランクが 艶然と笑い
少年フランクが 赤くなる。


ジニョンが聞いたら きっと 湯気立てて怒るよな・・。
悪ガキ小僧が 聖夜に2人。
隠れ家テントのランタンの下で ごそごそ 内緒話をしていた。

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