ボニボニ

 

My hotelier on his Birthday 2006

 




コトの起こりは ひと月ほど前。


ジニョンで遊ぶことを 至上の快楽とするドンヒョクは、
今年の誕生日を妻と2人きりで ベタベタと 甘く過ごすことに決めた。

一方 ドンヒョクで遊ぶことを 究極の娯楽としている大物政治家は
この夏最後のお楽しみは ドンヒョクの誕生パーティーにしようと思いついた。



政界のドン と トップ・オブ・レイダース。
かくてソウルホテルは 強気と強引がスーツを着ているような2人によって
さんざんに 翻弄される羽目になった。

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“はい ソウルホテル。 イ・スンジョンです。”


「おお、イ支配人。 元気でやっておるかな。」
「オモオモ! ミスター・ジェフィー。 お電話ありがとうございます。」
秘書を通さず いきなり電話をかけてきたVIPに イ・スンジョンはうろたえる。
受話器に向かって 見えるはずも無いのに 髪をなでつけてしなを作った。

「月末に ドンヒョクの誕生パーティがあるだろう? 何時からかな?」
「あ・・。 いえ その。」
理事が 夫婦水いらずで過ごしたいと申しまして 今年はパーティーをいたしません。
「まだまだ 新婚気分なんですの。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・。」



水入らず だと? 
あのチンピラめ。 「私のジニョン」と2人きりで よろしくやるつもりか?
わなわなと 受話器を持つ手が怒りにふるえ 豪腕政治家は 低い声を出した。

「総支配人に替われ。 29日は 私が 奴のバースディ・パーティーを開いてやろう。
 レセプションルーム・・。 いや ダイアモンド・ヴィラは空いているかね?」
ダンスをするから生演奏も入れてもらおう。 ケーキは 特大サイズでな!
「ミ・・ ミスター・ジェフィー。」 



総支配人のオ・ヒョンマンからの報告に ハン・テジュンが頭を抱える。

「子どもが 喧嘩を始めたみたいなもんだな。」
「まったく・・・。 でも 喧嘩相手の方が 問題ですね。」
「あいつが 素直に 言う事を聞くと思うか?」
「全面戦争でしょう。」


“従う”という言葉など多分 あいつの辞書には ないだろう。
どうするんだよ。 ドンの秘書が さっさと前金を振り込んで来たんだろう?
「あのう  理事はあれで 社長の事を兄のように慕っていますから。」
「そうかあ?」
「社長から説得すれば 或いは・・。」

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「問題外ですね。」


片方の眉を高くして 静まりかえったハンターは言い
話は終わったとでも言うように ホテルの帳簿をめくり出す。
頬をひきつらせながらも平静を保とうとするテジュンは  デスクの下で こぶしを握った。


“ふふん。” 

数字から目を離さないまま ドンヒョクの頬が にんまりと緩む。
忙しいから連休はしたくないと言うジニョンを やっとやっと 説得したんだ。
海辺のリゾートホテルにでも行って 最後の夏を 2人でしっとり。

「ダイアモンド・ヴィラに ディナーと 生演奏と 特大ケーキ のオーダーだぞ。」
「構いません。 僕抜きで楽しんでいただけばいい。 さて 今月の経営分析ですが・・。」
「シン・ドンヒョク!」



ディナーの鮑 発注しちゃっていいんですかね?
フローリストが ブーケの注文 受けてもいいかって。
ソムリエがキリキリ言ってますよ。 シャンパーニュ、本当にスタンバイさせますか・・。

助けてくれ。
社長室のデスクに 顔を埋めて ハン・テジュンが悩んでいる。
まったく大きなガキ大将が 2人して うちのホテルで喧嘩するなよ。


ppppp・・

社長のデスクの電話が鳴って 秘書が来客を伝えてきた。
「誰かと アポイントあったっけ?」
いえ。 お会いできれば と申されています。
「ミセス・ジェフィーです。」

柔らかな笑顔で現れた人を テジュンは慌てて出迎えた。
主人の悪戯にお困りと 小耳にはさんだものですから。
「ごめんなさいね。 本当に 子どもみたいで。」
「はぁ・・。」
「ちょっと彼には お灸を据えなくっちゃ。 私に まかせて下さらない? 」

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「ドンヒョクssi。 こっちに 来ない?」


珍しいこともあるもんだ。 恥ずかしがり屋のジニョンが 誘うなんて。
ほくほく顔のドンヒョクは 弾むようにベッドへ上がる。
「愛しているよ。」
「私も。」



あのね。  ミスター・ジェフィーが開く ドンヒョクssiの誕生パーティーのこと・・。

「ストップ! ハン・テジュンに言われたのか?」
いくら君の言う事でも 聞けないものは 聞けないな。
生演奏だって? あのデブめ ジニョンを抱いて踊りたいものだから。
「その話は終わりだ。 もう 愛し合おう。」

愛しい人を引き寄せて ハンターはいそいそボタンを外す。
ちょっと待ってよ 待てないな。 シーツの中に妻を沈めて シン・ドンヒョクは上機嫌だ。
「もう! 待って!」


ドンヒョクssiったらなによ私の話をちゃんと聞いてくれないなんてあんまりじゃない!

機関銃のように吹き出したジニョンの言葉に シン・ドンヒョクが飛び上がる。
ジニョンは怒らせたら大変なんだ。 愛妻家は いきなり下手に廻った。



「だってジニョン・・ 僕の誕生日だ。 君と2人きりで過ごしたい。」
ミセス・ジェフィーが 旦那様にお灸を据えたいから 手伝ってほしいって言うの。
「リゾートには その後 行けばいいじゃない。」
「ふうん?」

そういう事なら面白そうだな。 後で 詳しく聞かせてもらおう。
「まずは 空腹を満たしてから・・。」
「んもぅ。」


“ガキ大将はね。 従えと言っても動かないけど  悪戯しようと言えば 一発よ。”

さすが 年季が違うわね。
ミセス・ジェフィーのアドバイスは 魔法の様に効き目があったわ。
うなじに ドンヒョクの唇が熱い。
うっとりと目を伏せながら ジニョンは いい先輩を見つけちゃったと 心の中で微笑んだ。

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「やあやあ。 チンピ・・いや ドンヒョク君! 誕生日おめでとう!」


タキシードコートを見事に着こなして 優雅に歩いてくる理事を
ミスター・ジェフィーは 満足げに迎える。


「本日は 僕のために こんなに素敵な会を催していただいて ありがとうございます。」
―ふん。 僕の誕生日を口実に ジニョンとダンスをするつもりだな。

「いやいや。 君は可愛い弟分だからね。 これ位は なに 当然のことだ。」
―お? チンピラ。 今夜は素直じゃないか。 さすがに 私の厚意に感激したか。


「これはジニョン♪  いや きれいだなあ。 今日はチョゴリ風のドレスかい?」
今日はこんな会を催してていただいて ありがとうございます。
ふんわり拡がる美しい絹を揺らして ジニョンがにこりと笑ってみせる。 
その微笑を 横目で見て ハンターが面白くなさそうに眉を上げた。

―ふっふっふ ドンヒョクの奴。 相変わらずの独占欲だ。 まったく これが愉快でたまらん。

 

さて それでは乾杯といこう。

「シン・ドンヒョク君の 誕生日を祝って。 Happy Birthday!」

Happy Birthday!
Happy Birthday!
誕生日おめでとう!
あなたの1年が 幸せで包まれますように。


ホテリアー達も 口々に センイルチュッカハムニダと 理事に祝いの言葉をかける。
これにはドンヒョクの口元もほぐれて 爽やかな笑顔が 花開いた。


1.2.・・
短いカウントが聞こえた後で カルテットが 演奏を始める。
甘いワルツが フロアに流れて ゲストの気持ちが浮き立ってゆく。


「さあさあ・・。 今日は ご趣向があるんだ。」

ミスター・ジェフィーが 得意げに指を鳴らした。
マスカレード(仮面舞踏会)用のアイマスクを ボーイが皆に配ってゆく。
「面白いだろう? 音楽が止んだ時に 組んでいたカップルが 今夜のラストダンスの相手だ。」

もちろん 私はジニョンと だ。
バンドには 私が チョゴリ風ドレスの女と組んだ時に演奏を切れと言ってあるからな。
「ふっふっふ・・。」 


はぁ・・・
美しいマスクをつけながら ハンターは 小さなため息をつく。
まったく あのデブ。 大時代的なことを 考え付くもんだ。
マスカレードだあ? マスクで顔を隠したって あいつは あの腹でばれるじゃないか。



フロアに マスクの男女が散って 演奏の音が高くなる。

次々 パートナーを変えながら ミスター・ジェフィーは背の高い男を見つめていた。
男はチョゴリ風ドレスの女性を 大事そうに抱えている。
時折 他に奪われると ワン・フレーズも躍らせずに取り戻す。

「くっ くくくく・・・。」

まったく 心の狭い奴だな。
愉快な気持ちの政治家は 2人の方へ近づいていった。


「失礼? パートナーチェンジを。」

ヒクリ・・ と 敵の口元が揺れた。
マスクをしても隠せない端整な唇が 薄く歪むのを見て
ミスター・ジェフィーは ほくそえんだ。


ふわりと ドレスを揺らしたジニョンが 胸の中へ滑り込む。
おや ソ支配人。 抱きしめると 思ったより小柄だなあ・・。
柔らかな手を握り締めて ミスター・ジェフィーは 鼻の下を伸ばした。

「なあ。 ラスト・ダンスが終わったら 頬にキスでもしてくれないか?」

そんなシーンを見せつけたら あのチンピラは 泡を吹いて失神するな。
すう っと。 音が鳴り止んだ。
フロアに揺れていた カップル達が 次々マスクを外してゆく。

「オモ・・。」
「貴女でしたか。」
そこここで 笑いや戸惑いが 入り乱れる。
ドンヒョクの奴。 どんな顔をしているだろう?
腹黒政治家は わくわくと見回したが 振られ男は 見つけられなかった。



「まあ いい。 それではジ・・・・。」

あんぐり と デブの口が丸く開いた。
「ラストダンスが終わったら 頬に 何ですって?」

マスクの後から現れたのは 柳眉を険しく振り上げた顔。

「き・・・君。 ハニー・・。どうして・・・。」
「今日は 政策研究会なのじゃ ありませんでした?」

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バラバラバラバラ・・・


ソウルホテルの ヘリポートに チャーターヘリが翼を回す。

「どこの リゾートだって?」

マスクを片手に受け取りながら ハン・テジュンが聞く。
「言えないね。 連絡は一切出来ないところだ。」
「まったく・・・。 もう 着陸許可を出さないぞ。」
「それはいいな。 着陸させてもらえないなら ずっと2人で旅行中だ。」

ね?ジニョン。 もう準備はいいのかな?
それでは と タキシードのままのドンヒョクが ヘリに乗り込もうとした。



「待て! こら!」

選挙で鍛えた政治家の 野太い声が飛んできた。
振り返った ドンヒョクとテジュンは 
ぶ・・・ と 吹き出すのを ぎりぎりの所で止めた。


たっぷりと肉の付いた頬に 見事な5本の ミミズ腫れ。
後に 腕組みの愛妻を連れて ミスター・ジェフィーが立っていた。
「これはこれは・・。 高飛び寸前で 逮捕されそうですね。」

にっと 悪びれない笑顔。 政治家が ギリリと睨みつける。


「あ・な・た。」
奥様の 抑えた 冷たい声に 愛妻家が震え上がる。
「待て・・・。 その・・ ジニョン・・さんに 贈り物があるんだ。」
「ジニョンに?  今日は 僕の誕生日ですよ?」
「お前に贈り物をしても つまらんからな。」


さあ ジニョン・・さん。 持って行ってくれ。
「楽しい旅行を 足止めさせて 悪かったね。」
トドの 大きな背中から ばさり と現れたもの。

真っ赤な花びらが ヘリの風に ひらひら揺れる。
「オモ・・・。 これ・・・。」
かつて一度。 見たことのある 大きな花束。

花束をもらう時 女性は 必ずふわりと笑う。 ドンヒョクが その笑顔に嫉妬した。


「300本ですか? すごくきれい。」
「いや・・・。 301本なんだ。 うほん・・・。」


こ・・の・・デブめ。
目の底を 白く光らせて ハンターが トドを睨みつける。
その口惜しげな眼差しに やっと 政治家は胸を張った。



「楽しい・旅行を・な。 そして 誕生日おめでとう。」

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