ボニボニ

 

My hotelier on his Birthday 2008 

 




カリフォルニア州パームスプリングスは 砂漠に築かれたリゾート・シティ。

年間354日も 晴天が続くこの土地は 
神の祝福といえる「温泉」がなければ 乾ききった辺境だったろう。

幸いなことにこの場所は ヤシを青々と繁らせるオアシスで
L.A.あたりから出かけてくる観光客の 格好の遊び場になっている。



ゴルフにスパにデザートサファリと レジャーメニューは充実している。

でも ここを訪れるセレブリティ達は 
隠れ場と呼ばれる 最高級のコンドミニアムでのんびりと過ごす。

例えば 今 プールサイドであくびを漏らした 某銀行の頭取のように。



・・は・・・わ・・・・

「いい所だな。 まったく あいつは世界中の穴場を良く知っておる」

「奴の後を付いていくだけで 最高の休暇が取れるな」
しかし 本当にあいつは来るのか?
「・・・リサーチは完璧だよ」

ドンヒョクめ 徹底的に緘口令を敷きおって。 
まったく予定がわからなかったけれど
砂漠の中のオアシス・シティ。 キーワードは“パーム(やし)”・・・


「銀行屋に暗号が解けないと思っているのか ククク・・・。
 奴が エラク回りくどい方法で ここへ予約を入れたのもわかっているのだ」
「そして 今日は誕生日?」
「ククク・・実は 奴のために花火も予約しておいた。嫌がるだろうがな」


クックック・・・

ガーデンベッドにふたつ並んだ丸い腹がゆさゆさと揺れる。

日頃の激務をやりくりして 
年に一度の悪戯の為に集まったソウルの名士2人は

近づく勝利のひと時を思い描きながら 仲良く並んで 昼寝を始めた。

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すらりと降り立った長身の男が にこやかに後を振り返った。

ジニョン ジニョン 怖くないよ。 




「素晴らしい眺めだね。 ・・ほら 僕につかまって」

「じ、じ、じ、冗談じゃないわよ! 何よ このヘリポート!」
「せっかく世界一高いホテルに泊まるのなら 高さを満喫した方がいいだろう?」

地上321メートル。 ギネスが認めた最高層のホテル。

『ブルジュ・アル・アラブ』は ヨットの帆をかたどった建物で
一番上の階からは 巨大な円盤型のヘリポートが 
冗談のように 空中へ向かって突き出しているのだった。


「こ・・こんなの・・・怖くて歩けない・・」
「君は高い所 苦手じゃないだろう? ああ、なるほど」

ハネムーンのように抱いて行って欲しいのかな。 まったく 僕は君に弱い。
 

結婚して いったい何年だい? 仕方ない。 「甘えん坊のジニョンさん」
「きゃああああ!! 止めて!止めて!」
「暴れると落ちるけれど?」

「!!!!」


並んだホテルのスタッフが にこやかな笑みを客へ投げる。

真ん中を ジニョンを抱いたドンヒョクが 悠然と笑みを浮かべて歩き出した。

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アラブ首長国連邦の1つ ドバイ首長国の首都ドバイは
ペルシャ湾の中ほどにある 中東の一大中心地。

オイルダラーを背景に いち早く脱石油化を推し進めて
今では 世界中のセレブリティを集める 
一大観光王国に なろうとしている。



ドンヒョクが 今年この場所を ヴァカンス先に選んだのは
ジニョンに いささか強引に 休暇を取らせたからだった。

本当はのんびり南の島で 君と 蜜月を送りたいけどね。

My hotelier,  どうやら 今の君ときたら 
ソウル・ホテルの忙しさが  何としても気になるらしい。



「だから ね。 ここにしたんだよ」

観光業界で注目を集める 砂漠の中のリゾートホテル。

仕事熱心なHotelierとしては 是非 チェックしておきたい場所だろう?


大きな瞳をいっぱいに開いて くるくる部屋を見てまわる妻を
ゆったりソファから眺めながら ドンヒョクは薄く笑っていた。

「視察付き」のヴァカンスみたいだけど・・・ まあ いいか。
何といっても 今日も 明日も 君を独り占めなんだから。


「ねえ。 すごぉい・・このアメニティセット。原価どれくらいかしら?」
「『ブルジュ・アル・アラブ』は ドバイ政府観光局ランクで 7つ星だからね」
ラグジュアリーが売り物だから ソウルホテルとは別物だよ。

「そうよねえ・・でも このシーツ・・すごく上質ね」


202室の客室が すべてメゾネットのスィートだと言う。
アラブの石油王が 遊びに来ても納得させる豪華さに 
ジニョンは 眼を奪われている。

砂漠にそびえる 宝石の塔。
「でもジニョン? ソウル・ホテルの方が 素敵だ」
「え・・?」
「あそこはホテリアーがいいからね。 脚のきれいな支配人さんもいるし」


もぉ・・

上手いんだから ドンヒョクssiってば。
それでもジニョンは嬉しげに 手招きをするハンターに寄りそう。
ねえ奥さん? そろそろ僕に 誕生日のプレゼントなどを貰えないかな?

「あ そうね。 ちょっと待って」
「待たない」
「え? でもあの スーツケースに入っているのよ・・」


それは “プレゼントのオマケ”だろう? 僕の言うのは “こっち”の方
「シーツもさっき支配人さんが チェックしておいてくれたみたいだし」
「オモ・・・」

愛しているよ 僕のジニョン。 
上機嫌で笑うハンターは さっさと獲物を組み敷いて 早くも腿を撫でている。

「ねぇ・・ドンヒョクssi? この部屋 外から見えない?」
「外から 鳥が見るかな? 大丈夫だと思うよ」 
そろそろ陽が沈む頃だから。 奴らは鳥目で 暗いと 見えない。



・・・・・ぁ・・・・ドン・・ヒョクssi・・・・

綺麗だな。 パーム・ジュメイラに日が沈む。
紫色の残照に 僕のジニョンの肌が光る。

君とゆっくり愛し合ったら 夜の砂漠へ ヘリを飛ばそう。
君に 見せてあげたかったんだ。
砂漠から見るオアシスの 温かく揺れる 街灯り。


・・それは あの日ソウルホテルで 僕が見つけた灯りに似ている。

無彩色の 乾燥しきった景色の中で
僕が見つけた永遠なもの。 愛しいジニョンの微笑みに 似ている。

「・・ジニョン? 愛しているよ」



やっとだな。 2人っきりの誕生日。 

ソウルホテルに帰ってきてから 3年目にして手に入れた。

ホテリアー達にも トドにもカバにも 手の届かないこの場所で
ジニョンと過ごすアラビナン・ナイト。
これは なかなかいい作戦だった。 



確かに ここは“パーム・アイランド”。(ドバイの人口島群の1つ)
砂漠にできた オアシスリゾートだ。
「決して 嘘は言っていない」
そして パームスプリングスに部屋を取ったのは・・・

くっくっく・・

「なぁに ドンヒョクssi? 急に笑って」
失礼、あんまり幸せな誕生日になったから。  つい・・ね。


「来年『ブルジュ・ドバイ』が出来たら アルマーニホテルに泊まろうか?」
「ヘリでチェックインは 二度と嫌よ」
「お望みのままに」

そして 虎は 愛する人のうなじをそっと甘噛みした。

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「あれ?! ・・・Mr.ジェフィーですか? おや 頭取も? 奇遇ですね」


「・・・レ・・レオ君」
「ど、どうしてここに?」
いやあ 気持ちの悪いことですが ボスが旅行をプレゼントしてくれまして。
「!!」「!!!」

自分は ジニョンさんと2人きりで 誕生日旅行に行くものだから
「忠実な部下にも 少しくらい休みをやろうという訳ですかね?」
「・・・・」「・・・・」


大物2人が みるみるしぼむ。 
ドンヒョクめあいつ 出し抜きやがった。
2人の事情には無頓着に 休暇中のレオは陽気だった。


「ジェーンとバーバラも一緒です。あいつら 着替えが長くって」
「え・・・?」
「そ、それは・・」

人の良さそうな弁護士の向こうに 天から降ってきたような
とてつもないビキニが歩いてくる。
眼のくらむようなブロンド達に トドとデブ2が顎を落とした。

こんなところで会うなんて すごい偶然です。 ご一緒に夕食でもどうですか?
「あ、それは もちろん」
「それは良かった ・・おや? 花火?」
「そ、そうみたいだね。 ハッピー・・バースディ・・」




その時 ずんぐりむっくりの弁護士の上で



シン・ドンヒョクの為の花火が 今夜一つ目の花を咲かせた。


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追補: すみません。『ブルジュ・アル・アラブ』のヘリポート
     現在はテニスコートになっちゃいました・・
     そこの所は オハナシってことで見逃してください。

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