ボニボニ

 

My hotelier on his birthday 2010

 




このひと夏。 

某大物政治家と 某銀行の頭取は 情報交換が密だった。


2人の狙いは  「彼ら」が 季節を外した夏休みをどう過ごすかで。

「彼ら」の つまりドンヒョクとジニョンの お邪魔を是非ともしたいという
2人の願いは もうすでにストーカーの域を超えていた。




「ドンヒョクが トラベルビューローでグァムへの便を調べたらしい」

「グァムだと? 奴が そんなに手軽なリゾートを選ぶのは変だな」


「あれかな。 グァムと見せかけて アイランドホッパーでマジェロ環礁・・」
「まずいな。 “セレンディバー”みたいな1島1宿へこもったら」
「それは 無いだろう。 ジニョンは ホテリアーのかがみだぞ」


休暇といえども 行き先では ハイサービスのホテルを視察したいはずだ。

「ブルガリ・バリあたりは 見たいんじゃないか?」

「カンクンのカールトンもいいと聞く」
「・・と 見せかけてヨーロッパもあるぞ?」



金融クラブのロビーやバーで 小山の如き身体を寄せて

Mr.ジェフィーと頭取は 旅行先を予想する。


なんと言っても あのハンターが子作り宣言をしたそうじゃないか。
子どもと言うなら 我々が 是非アドヴァイスをしてやらねば。


・・それにしてもドンヒョクは 一体どこへ行くつもりだ?
  


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日曜日のソウルは 雨だった。


貸付担当のチェ・ソクジンは ホテルのロビーラウンジに座り
ぼんやり 窓を見上げていた。

ガラスに降り注いだ雨粒が 重みに負けて 流れ落ちる。

それは 週末最後の客の 頬を伝った涙を思い出させた。




“融資できないとはどういうことだ!”

“申し訳ありませんが しかし 御社にこれ以上の融資は・・”

ここで資金が途絶えたら ウチは倒産することになる。
それを分っていて よくも言えたな 「貸付分を先に返せ」だと?!


“景気のいい時は 要らないと言うのに強引に貸しておいて!
 不況となったら貸し剥がしか? 自分達ばかりは助かろうって腹か?!”
“・・最大限の努力はしましたが 審査が通らない限りは・・”
“卑怯者! この 悪党!”


「・・・」

思わず 貸付係は眼をつぶる。 出来れば耳も塞ぎたかった。

それは無駄だと分っていた。 客の罵声は 彼の耳の奥でずっと鳴り響いていた。





「失礼。 構わないかな?」


「え?」
「そこの・・」

ドンヒョクは 眉を上げて 男の先のラックを指さした。
ラックの上には 今日の新聞が数紙 閲覧用に置かれていた。

「あ・・お取りしましょう どれがいいですか?」
「ありがとう。 では『ソウル経済新聞』を」
「・・・」


経済新聞をめくりながら ドンヒョクが 少しうつむいて笑う。
妻がコーヒーをこぼしてね今朝。 とっさに 新聞しかなかったんだ。

怜悧な笑いを見るうちに 貸付係は思い出した。

シン・ドンヒョク。  M&Aのトッププロだ 冷酷な企業の狩人・・



気がつくと声をかけていた。 

悠然としたドンヒョクの 強さが羨ましかった。
この人だったら どんなことでも ビジネスゲームとして切り抜けるのだろう。

・・あなたも はげ鷹なんですよね?



「あの・・・。 ご商売は どうですか?」

「?」
「この不況に 弱っている企業も多い。 買収しやすい面もあるのでは・・」
「・・・」

・・・ぁ・・


俺は 一体何を言ってる?! この大物に 失礼なことを。

貸付係は青ざめた。 今やソウル経済界の 有名人であるこの人の
不興なんか買った日には 何が起こるかわかったもんじゃない。


「不況は・・ただの天気だよ。 M&Aは 森林の整備」

「・・え?」

「斬るべき樹なら間引いたり 移植をしたりして森全体を生かす。
 僕はこの頃 そういう風に自分の仕事を捉えているけどね」
「で、でも。 斬られたい樹なんかないでしょう?!」
「・・そうだろうね」



“私の会社だ。ゼロから私が作り上げたんだ。 お前は それを奪うのか?”

「そんな事をいう人もいる。この国では 自分の起こした事業に執着が強いし」
「ええ・・ですから」

「だからこそ だ」


大事な会社だったら 雨でも嵐でも 耐えられるように努力しなくちゃ。
厳しい時代を生き延びるように 変化しなければならない。

「企業を守るということは そういうことじゃないかな」

「・・・」


守り方を 間違えちゃいけない。 守るなら業績を作らなくては。
守る事は攻めるより 遥かに難しい仕事なんだよ。

テジュンが そしてホテリアー達が 必死でそうやっているように。



ドンヒョクは新聞を折りたたんだ。 

だけど 不況も悪くないぜ。

怠慢経営でつぶれた店を 居抜きで使って業績を伸ばす企業も出てくる。
大木が倒れれば 日陰の若木が 勢いを得て育つ場所が生まれる。



「金融人なら そういう若木をサポートするのが 醍醐味じゃないか?」

「?! 僕のことを・・」
「バンク・オブ・ソウルの 貸付だろう? 君」
「はい。 ・・あの」

「あ 連れが来た♪  悪いな。 もう行かなきゃ」


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シン・ドンヒョクは立ち上がり いそいそとロビーを歩き出す。

彼の 向かって行く先に スリムな女性が笑っていた。



「片付いた? 行き先は 秘密にしただろうね?」

「ええもちろん。 ねえ? ・・誰と話し込んでいたの?」

「ん? 迷える水やり当番に ちゃんと水をやって樹を育てろってね」
「?」
「そして僕らは 家に帰って バースディーベビーを・・」



ちょ! ドンヒョクssi! 声が大きい!

ジニョンが 慌てて拳を上げる。


誕生日くらい叩かないで欲しいね。 ハンターが 陽気にウィンクをした。

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