ボニボニ

 

ベイビートラップ 3

 




何で今日 ここへ来ようと思ったのかな。


南青山の裏通りで アタシは ぼんやり考えていた。


小原会館の裏っ側。 一方通行の狭い道を 曲がって2本目・・3本目?
この辺なんだけどな~って思ったとき その文字が 眼に飛び込んできた。


『JUNI.』

それは小さいけれど センスいいデザインのドア。
アタシは ゴキュン・・って喉を鳴らしてから 思い切ってドアを開けた。

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「来てくれて本っ当に嬉しいわ~! ね? 私のダーリン・ジュニは元気?」
「げ・・元気です」

いや~ん♪ 思い浮かべたら 会いたくなっちゃった。


今度は一緒に来てよねって タカミさんは陽気に言った。
前にもまして ぴかぴかの元気印。 
彼女のテンションの高さに 圧倒される。

「タカミさん、お元気そうですね。 仕事は・・順調なんですか?」
「あ それそれ! どうもありがとうね! パパさん」
「?」



・・・知らなかった。

独立開業したタカミさんに パパは 大学の後輩を紹介したそうだ。
デパートでバイヤーやっている人。
その人が 『JUNI.』の展開に力になってくれたんだって。

「うちのブランドなんかはまだ ショップ構える力はないけど 
 いい条件でセレクトショップへ 商品入れさせてもらえたの」

へ~、パパ 結構やるじゃん。
そんな気遣いをしていたなんて アタシに ひと言も言わなかった。


びっくりする程大ぶりのカップで タカミさんはコーヒーを飲んでいる。

ハンプティに居たときより 若く見えて
ボヘミアンっぽい服装のせいか 
よりアーティストって感じの 雰囲気になった。

「結婚生活はどぉ? ま アナタ達なら間違いなく 仲良くやっているだろうけど」

「え? ・・・ええ」



タカミさんは眉を上げて じっと アタシを見つめた。

「何か あったの?」
「・・・・・・・・」
「茜ちゃん?」
「・・・・あの アタシ。 赤ちゃんが 出来たかもしれなくって」

・・・アタシってば。 
思いきりイキナリなことを タカミさんに言っていた。



赤ちゃんがあんまり嬉しくなくて それはアタシがまだちゃんと生きてないからで。
じゃあ何がしたいって言われても 何にも思いつかなくて・・。

「急にタカミさんに会いたいなって ・・ご迷惑なのは わかってるけど」

「・・・・・・・・」



茜ちゃん? と言ってから タカミさんはまたコーヒーを飲んだ。

「私・・・。 茜ちゃんは モードに 興味があるんだと思う」
ハンプティで働いていたとき すごくキラキラな眼をしていたもの。
「何か してみたら?」
「え?」

モードを学んでもいいし アパレルでバイトでもいいじゃない。
ともかく歩き出してみないと 靴が自分に合っているかってこともわからないわ。

「あ!そうだ! ウチで勤労奉仕ってのは ど~お?」
「勤労・・」
「うちの仕事 手伝ってみない? バイト代って程の金額は出ないけど」
「で・・も・・赤ちゃんが出来てたら・・・」

だ~いじょうぶよお! モデルをやれって言っているんじゃないんだから
裏方 裏方 雑用とか広報とか 手伝う子が欲しかったの。
「茜ちゃんなら若いンだから 臨月までだって働けるんじゃな~い?」

そうよそうよと タカミさんは
ジュニのモデルを頼んできた時みたいに すげー強引な物言いをする。

アタシはあ然と聞いていたけど 「それはいいな」って・・・ちょっと思った。




「本当に どうもありがとうございました」

おいとまを告げて立ち上がると タカミさんは ドアまで見送ってくれた。
ドアの枠に肘をついて 戸口でちょっと立ち止まる。

「ねえ? 本気で考えてみてよ。 手が欲しいの」
「・・はい。 ありがとうございます」

頬が多分 紅くなってる。 ・・何だかアタシ 元気が出たかも。

まだ 何にも出来ないけれど 自分の行きたい道があれば
それだけで なんだか赤ちゃんに 「アタシがママだよ」って 言える気がする。


来た時とは全然違う気持ちで 地下鉄への階段を下ってゆく。
今日帰ったら ジュニに言おう。 もしも赤ちゃんが・・ 「!!」

あ・・れ? お腹が 重たく痛い。
「ええと。 これって・・・ひょっと・・して・・・?」


そしてその夜 来るものが来て  ジュニとアタシの赤ちゃんは夢に終わった。

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あ・か・ね・さん♪

枕にもたれて雑誌を読んでいるアタシを 攻撃目標にロックして
コットンブランケットの草むらを 悪戯顔のジュニがほふく前進してくる。

アタシのいる場所まで届くと そのまま上陸して キスをする。

・・・んん・・・・

唇をかんで歯を開けさせて 舌を捕まえて 持っていく。
んくんくんくんくんく・・・
「ぷわ・・」
「ちゃんと息を吸いましたか? では もう一度です♪」

あぁ だめだ・・。 
アタシは力が抜けちゃって ずるずる 枕から滑り落ちる。
ジュニはワニみたくアタシをシーツへ引きずり込むと 満足そうに寝ましょうって言った。


「もう 終わりましたよね?」
「ん・・・」
ああ なんて辛い日々だったことか。 ソウル以来ですから とんでもないです。

だから 今日は い~っぱいです。 
ホクホクのジュニは奇跡みたいな手際で アタシを つるんと剥いてしまう。
この先もいいですかって・・あのねジュニ 聞く前に中に入ってるし。


・・・・ぁ・・ジュニ・・・

ジュニに抱えられたアタシの足先が ゆらゆら 宙で揺れている。
怖いほどに筋肉ムキムキの背中が アタシに向かって 泳ぎ寄る。
「・・すごく・・いいです。茜さんは?」
「・・・・・ぁ・・」


ベビーのこと・・僕 ちょっと残念でした。

ハァ ハァ って息の向こうで ジュニがそっと白状する。
だけど 空振りで良かったです。
「茜さんには 幸せな顔で ・・おなかを膨らませて欲しいです」

・・ジュニ・・・


アタシの背中を抱き寄せて ジュニはおっぱいに頬ずりをする。
それに僕もベビーを作るなら 愛し合ったことは 憶えていたいし。

「茜さんに迫られたのは嬉しかったけど 寝ぼけていて記憶が半分です」
「せ・・迫ってなんか ないよう」
「いいえ 切ない声でした。 “ジュニ抱いて”って・・」

あの声だけで終わっちゃったんだ。
ああ なんてもったいない。
ジュニのヤローはため息をつくと 気を取り直して動き出す。


茜さん、茜さん、愛しています。


アタシの中で もう1個のジュニが 気持ち良さそうにゆっくり動く。
じれじれ腰が揺れてしまうと 奴の笑顔が得意げになる。
いっぱいするから急がないで下さいって ・・ちょっと イジワルを楽しんでるね?

口惜しくなって爪を立てたら こら痛いですと甘く言われた。

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効きませんでしたねぇ・・大奥様。 1本 10万ウォンもしたのに。


「ふん、第一 効き目ばっちり“誘淫の香”なんて。 惹句がマユツバ臭いもんだ」
「ま、大奥様ったら。これはいいって喜んでおられたのに」



その頃 ソウルの 大魔女と弟子が
とんでもねー会話をしているなんて アタシは 全然知らなかった。

あの夜。 部屋にさりげな~く お香は炊かれていたけれど・・・


「で? 茜は 何て言ってた?」
「怪獣がギャオーという夢を ご覧だったそうです」

まったく・・いつまでも子どもみたいに。それじゃややこが見られないじゃないか。
「これじゃ ホントに100まで生きなきゃねえ・・」

ハルモニさんは不満げに プーッと煙を吹いて言う。


「・・やっぱり食い物がいいんじゃないかね。 厨房にちょっと研究させよう」
「そうですね。 食はイ家のお家芸ですし・・」
「よし! 次はどの手にするかね」

茜は意外と油断できないから スレないうちにヤッちまおう。




ほ~ほっほっほ・・・と 
悪魔な奴らが 次の罠をたくらんでいる頃

アタシはジュニの腕の中で きゅうん・・って猫みたいに鳴いていた。

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