ボニボニ

 

フライト 3

 




「ジュニにーたん、あかねおねーたん、はじめまちて~♪」




ジョナは 腕を大きく拡げて それから両手を胸に当てる。

アタシは一応 微笑んで見せたけど ・・ちょっち 笑顔がぎこちなくなった。




だって さぁ。



たしか ジュニパパって大学では 教授と呼ばれる偉いヒトでしょ?
そうじゃなくても とんでもなく美形で超スタイリッシュなオジサマなのに。

ちょんと座って デッレデレの顔で 膝に乗っけたジョナの手を
人形みたいに動かして 赤ちゃん言葉でご挨拶してる・・。



“照れ”という言葉を知らないジュニは わぁぉ!と 派手な笑顔になって
すっかりジョナ人形劇に乗って 胸に手なんか当てちゃってる。 



「こちらこそ はじめまちて~♪」って ・・嬉しそうだね。


良かった、ここにウチのママがいなくて。 アタシは マジにそう思った。 

いたら絶対ジュニと並んで 年甲斐もなく「はじめまちて~♪」だな。




呆れて見ていたハルモニさんが 片方の眉を吊り上げて聞いた。

「ジウォンや。お前のややこの名は チャーリー・マッカーシーだったかい?」


チャーリー・マッカーシー? なんだ ソレ?

アタシが「?」な顔をしていると 横に座っていたミンジュさんが
そっとアタシの耳元へ “昔の有名な腹話術人形です”とささやいた。 


むっ・・、

「ジョナは腹話術の人形じゃありません!オモニ」
「それは良かった。あたしゃてっきり ややこが生まれたのは夢かと思ったよ」


ほっほっほ・・。 どれどれ抱かせてもらおうかって 
ハルモニさんってば ワクワクだ。

小さい女の子みたいに両手を差し出して 早くよこせと振るもんだから

ジュニパパは 笑える位に渋々とジョナを抱いて立ち上がった。




「・・落とさないでくださいよ オモニ」 


「なんだい、無礼な息子だね。誰がお前を育てたと思っているんだい」
「だって 僕を池に落としたことがあるでしょう?」

げ・・・、ハルモニさん?

「あ・・れは お前が鯉を取ろうと 私を振り切って飛び込んだンだ」
「2歳でですか?」
「お前は好奇心が強くてね」

・・・ぜってー、嘘だな。


アタシは2人の会話を聞いて 真実を(多分)見抜いてしまった。
ジュニも 同じ気持ちらしく そっとハルモニさんの隣へ座る。

顔が少しこわばっているのは きっと「有事に備える」気なんだろう。 

アタシはジュニの健気な緊張に なんだかウンウンとうなずいてしまった。




ジョナは 人見知りしない子で 機嫌良くハルモニさんの膝に抱かれて
しばらくきょとんとした後で ぷわぁ と柔らかな声を上げた。



すっげー 可愛い・・。

アタシも思わず笑っちゃったけど ハルモニさんはもぉ有頂天。
ぱぁっと まるで大輪の花が開いたみたいな笑顔になった。


う・・わー!!

その、眼を奪うような笑い方。 これって ジュニんちのDNAだ。
黙っている時の端整さから 一気に光があふれ出す。

この とびきりの笑みに出会うと こっちは・・心臓を持っていかれるンだよなぁ。


だけど ジョナも負けてなかったね。 

握りしめたぷくぷくの手で 見えないマラカス振ってるみたい。
ジュニをそのままちっちゃくした顔で マシマロみたいに笑ってくれて

ジュニパパんちのリビングは まるで重力が減ったみたいに 浮いた。


-------





「“ハーイ!エド?浮かない顔だね”“そうさチャーリー、聞いてくれるかい?”」

「オモニ! ジョナで腹話術しないでください」



・・・この親子ってば 似たモン同志。

ハルモニさんはどうやら ジュニパパみたいに腹話術がしたかったらしい。

ソファにゆったり腰掛けて 上機嫌に ジョナで遊び始めて
ジュニパパの方は 「僕のおもちゃを盗られた」とかなり真剣にムクレてる。

「・・・」

高坂の家は天然ママ1人に アタシとパパで応戦してたけど

ジュニは 結構 大変な少年時代を過ごしたのかもしれない。




2人の興味をそらすためだろう 思い出したようにジュニが言った。

「そうだ。 アボジ、ジョナは おんぶが好きなんですか?」
あんなに素敵なベビーカーがそこにあるのに “しょい子”で散歩していましたね。


「あぁ いや。1人でジョナの散歩に行く時は ベビーカーは禁止なんだ」
「禁止?」
「その・・ベビーカーだと・・・ほら・・置き忘れるだろう?」




何を?!

ジュニとアタシとミンジュさんは 六つの目玉を最大にした。
お茶を持ってきたユナさんは 困った笑顔で柔らかく笑う。


「アボジ・・置き忘れるって・・・ベビーカーを?」

「・・・」
「ま・・さか ジョナごとじゃないですよね?」
「1回だけ」

「・・・」「・・・」


きっとその時プロフェッサー・ジュニパパは 世紀の定理でも発見してたんだろう。

アタシは その時のユナさんを想像して 天才の妻って大変だなって思った。





ぉぎゃあ、 ぉぎゃあ、 ぉぎゃあ・・


大人しくハルモニさんに抱かれてたジョナが ユナさんを見て泣き出した。

やっぱり 泣いちゃうとママだよね。
アタシがお茶を引き受けて ユナさんがジョナをあやし始める。

機嫌が良いのも可愛いけれど 泣いている赤んぼも悪くない。

ジョナは泣くのが仕事だもん。 皆 なんだかニコニコと彼の「仕事」ぶりを見守った。



「お腹が空いたのね。よしよし・・」

すっかりママって感じのユナさんが ジョナを揺すり上げながら言う。
それを聞くなりジュニパパは 得意げにすらりと立ちあがった。

「・・じゃあミルク」
「えぇ お願いします」

「えっ?!」「アボジが?!」



同時に声を上げたのは ハルモニさんとジュニだった。
ジュニは心配のあまりだろうか 顔がちょっぴり青ざめてる。

ジュニパパは フンと2人を見て ハミングしてながらキッチンへ消えた。


「あの・・ぉ アボジにミルクなんか作れるんですか?」

「そうだよ。ジウォンが作るなんて ややこが腹を下さないかい?」
「いいえ? いつもミルクはプロ・・ ジウォンさんが作ります」

そして それが嘘でない証拠に ジュニパパがミルク瓶を手に戻ってきた。

「ユナ? 今 “プロフェッサー”と言いましたね?」

「言っていません」
「“プロ”まで言いました」
「聞き間違いです」



信じられない・・・

「ユナや。 お前さん どうやってジウォンにこんなことを仕込めたんだい?」
「え?」
「この子の生活能力の無さは 親の私だってあきれる程なのに」
「まあ・・」



クスクス笑い出したユナさんの話を聞いて アタシはすっかり感心しちゃった。

以前 優秀な証券アナリストだったというユナさんは
物事を数値に置きかえて考えることのプロフェッショナルで

彼女は ジュニパパという 数学物理の天才&生活無能力者にとっては 

まさに天恵というべきパートナーだっだ。



「数値でお教えしたんです。ジウォンさん 数字は決して忘れませんから」
「数・・字?」

「ええ 溶質=粉乳、溶媒=お湯、で溶液=ミルクを作るための数字です」
「・・・」

設定温度37度、溶質20g、溶媒200ccを体重6㎏に相応する基準値にして
体重が増加した場合も 同割合で栄養が取れるように計算してもらったんです。

「そうしたら ジウォンさんたら お湯の冷める時間なんかも入れた
 難しい数式にアレンジしちゃって もう私には解らないんですけど・・フフ」

「・・・」


あんぐり 口が開いちゃったアタシ。 数学か物理の世界じゃん。

粉ミルクってのは「すり切り何杯 線までのお湯で溶いて人肌に冷ます」
とか ソーユーもんじゃなかったっけ?


ともあれ ユナさん式マニュアルは ジュニパパに最高に解りやすかったらしく

生活力皆無のジュニパパは 今やミルク作りの名人になっていた。


-------



ジュニパパの家でお茶をしてから アタシ達は一旦ホテルへ戻った。
夜はハルモニさんのスウィートで 家族ディナーをする予定。

赤ちゃんとママが疲れるから 休み休み会うって計画なの。 

ハルモニさんもくたびれたのか 昼寝をしにお部屋へ引き上げて行った。




「・・あぁ とても可愛かったですね ジョナ」

アタシ達の泊まった部屋は ロックウェルスィートっていうゴーカな部屋で

天蓋の付いたクラシカルなベッドに バーゲンセールみたいに枕がてんこ盛り。


ジュニはベッドへ飛びこむと 枕を一つ取り上げて
さっきジョナを抱いてたみたいに うっとりと胸に抱きしめた。

優しく伏せた長いまつげが ねぇジュニ? ・・すごーく幸せそう。

そんなジュニを見ていると ちょっぴり 赤ちゃんが欲しくなるね。



「あ・か・ねさん? いらっしゃい」

ジュニはベッドに転がって 気持ち良さそうにアタシを誘う。
この感じって怪しいんだけど それでもアタシは 素直に近づいて行く。


「あぁ! 何だかとても久しぶりです」
「ずーっと一緒にいるじゃん」
「触れ合うことが、です。 さ キスをしましょう」


んくんくんくんくんくんく・・・・

ぷぁ!



「まだ時間があるから この先もいいですね?」
「だって まだ明・・」
「大丈夫です」


何が大丈夫だか知らないけれど ジュニは止まる気0%だ。

我慢できないから入れてくださーいって きしきし アタシをきしませて。
アタシのお尻をがっちりつかんで ゆっくり腰を揺らしながら

あぁ 僕も茜さんとのベビーが欲しいなーって 切なそうに背中を反らした。

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