ボニボニ

 

Christmas Story 2007

 




美咲が 合コンフリークなのは 
将来 親の決めた人と結婚するせいなんだって。


実家は名前の聞こえた料理屋をやっていて これは という人を婿にするらしい。


「ウチってば女系家族でさ。 オヤジもジジも入り婿なんだ。
 だからまあ 婿取りまでは好きに遊んでていいって 感じなわけよ。」
「ふう・・ん。」

・・・でもさあ  好きな人と 結婚したくない?

「あーだめ! アタシオトコの趣味悪くてさ。どうしてもダメ男拾っちゃうんだよねえ。
 けっこーウチ老舗じゃん? アタシで傾けちゃ ご先祖様にタタられる。」

だからヤリ手の婿もらって 内緒でダメ男のBF持つほうが“家内安全だよね”って

美咲・・ あんた 本当にやりかねないところが怖いよ。



でさぁ クリスマス合コンなんだけどって。 ・・・あのね。

「だからぁ! アタシは もう結婚しているの。」
「合コンなんてただの宴会だよぉ。 見合いじゃないしさあ・・」

もう 最低。 
美咲の奴は アタシのことを「お便利グッズ」みたいに考えている。

彼女に言わせると 自分は鯛の尾頭つきで「茜はハジカミ」なんだって。
「何よう? そのハジカミって?」
「知らないの?無知ねえ。 料理にあしらう生姜のことよぉ。」
・・・要は 引き立て役って言いたいんだ。 ふん。


美咲が アタシを合コンに連れ出したいのは アタシが安全パイだからだ。

コイツの態度ってば 極悪非道。 
無理矢理連れて行かれた合コンで 「当タリ」のイケメンがいた日には
「茜はもう彼氏いるのよ~♪」って 店中に聞こえる声でバリアを張るし。

だけどもっと最悪なのは 「今日はハズレ」だった時。
あの女。 アタシを迎えに来るジュニを誘って 口直しに遊んで帰るんだよ。
・・・ふんっ ジュニはアタシのオットだぞ。

「アタシ行かない。クリスマスはジュニと おうちパーティーするんだモン!」

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「・・・茜さん? いらっしゃい。」

「え?」

高坂の家で夕食の片付けをした後。 テーブルでお茶を飲んでいたら
ジュニがすいと席を立った。 あれ? もう帰るの?
ジュニはまっすぐ前を向いたまま アタシが立つのを待っている。

ママは ちらりとジュニを見て 不思議そうに目配せをした。  
“ケンカ?” “・・ワカンナイ・・??”

だけど この雰囲気は ちょっとまずい感じ。
アタシは何だかわからないけど あたふたと椅子から立ち上がった。
 
「今夜はこれで失礼します。 ママさん おやすみなさい。」

ジュニはアタシの腰に手を添えて それは丁寧なご挨拶をする。
ママは2人を見送りながら アタシに“後デ教エテネ?”と 合図した。



カチャン・・・。

アタシを先に部屋へ入れて ジュニは静かにドアを閉めた。
視線を落としてソファに座る。 これって何だか お説教モードよねえ?
「座ってください。」

神父様みたいに広げた手。 でもアタシは 怒られることなんかしてないよ。

妙にご大層なジュニの静かさに腹が立ったので
ポンポンされた隣に座らず 正面から ジュニの腿にまたがってやった。

「なあにっ?!」

ジュニは一瞬ビックリしたけど アタシへ そっと腕をまわした。
切ない顔で もろく笑って 大事そうに髪を撫でる。
「心から愛しています。 知って いますね?」
「う・・ん・・?」


はぁ・・とジュニが抱きしめる。 一体 何が言いたいの? 

解らないけど とりあえず ジュニの首に抱きついてみる。 そしたら
ぎゅうううっと サバ折り級のハグをされた。
「ぐ・・ぐるじい・・・ジュニ。 ・・ギブ・・ギ・・・・ブ・・」


「クリスマス合コンのお誘いがあるのでしょう? 行ってもいいです。」
「は?」
僕は茜さんのことを信じています。茜さんが遊びたいなら 反対はしません。
「ち、ち、ちょっと・・?」
「でも秘密を作るのは 絶対だめです、ね?」

・・って。 何でジュニが クリスマス合コンのこと知っているの?

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あ・ん・の・女~~~~! 



「何で 美咲とメアド交換なんかしてんのよっ!」
「それは・・あの。 茜さんの可愛い写メを 内緒で撮って送ってくれると言うから。」
「それで? アタシが合コンに行けなくてむくれていたって?!」


百戦練磨の美咲にかかっちゃ ド単純のジュニなんて
赤子の手をひねるようなもんだ。 ・・・うう ぐやじい。

ジュニのバカタレってば まったくも-!
「茜さんが行きたいなら どうぞ出席にしてください」と
美咲のヤローに返事したそうだ。



ご丁寧に 帰りのお迎え時間と場所まで 打ち合わせてくれちゃって。


「どーすんのよ? おうちパーティーの約束でしょ!」
「・・す、すみません。」
さっきのお説教モードはどこへやら ジュニは すんげー低姿勢だ。
だけど アタシが合コンしたいわけじゃないと知って
奴は ちょっと安心したみたいだった。


「アタシってば そんなに合コン大好きの 遊び女に見えるわけ?!」
「・・・ごめんなさい。」
僕と結婚したせいで 若い子らしく遊べなくて 茜さんも辛いのかなって。


「も~っ! 傷ついた! 実家に帰らせていただきます。」
「うわっ だめです!! 茜さん!」
ジュニはアタシを抱きしめる。お家に帰るのは 絶対ダメです!

もぉ!一体なにが悲しくて クリスマスに 合コンしなくちゃいけないの~~~!

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「えーとね♪ こっちが~ 真由ちゃんとぉ~ 茜ちゃ~ん。」


美咲のヤローがお砂糖みたいな 甘ぁ~い甘ぁ~い声を出す。
彼女がこんな声を出すのは タイプのイケメンがいた時だ。

しかし まったくアタシってば 友情に厚いにも程があるよ。


結局 彼女に押し切られて アタシは合コンへ行くことになった。
我がまま育ちの美咲ときたら 
ダダをこねるのが も~お 天才的に上手い。

今更代わりが見つからないの~って ジュニに泣きつくもんだから 
優しいジュニは困っちゃって
茜さん行ってあげませんかって アタシを説得する始末。

・・・旦那に説得されて 合コン行く妻ってどうよ?



「茜ちゃんはどっち?」

ぼんやりしていたのだろう。 急に聞かれてびくっとした。
右横の席にいた彼は 犬歯が八重歯っぽいけど すっげー爽やかな感じだった。
「え・・?」
「ドレッシング。 和風とイタリアン どっちがいい?」
「あ、ありがとう。和風がいいです。」


あら 私がするわ~♪

うんざりするような猫っかぶりが 横からサーバーを奪って行った。
さすがに料亭の娘らしく 美咲は手早くサラダを分けてゆく。
もぉ茜は 気が利かないんだから~って。 まったく・・お目当てはコノ男なわけね。

はいはい。勝手にやってください。
左の人が話しかけてきたので アタシは適当に相槌を打った。

早くジュニに会いたいな。 何で こんなところにいるんだろう?アタシ。

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「え~? 茜ちゃんは 2次会に行かないの?」

爽やかクンは 意外そうに言った。 「残念だな。一緒に行こうよ。」

やっと1次会が終わったモン。 これ以上 付き合う義理はないよ。
彼の後ろでは美咲のヤローが こっちを気にしてチラチラ見てる。
大丈夫 人の恋路は邪魔しないよ。


「うん。人を待たせているんだ。」

そう言うと 爽やかクンは耳元で こっそりアタシだけに言った。
「人って ・・・もしかして彼氏?」
「そう。ゴメンね アタシは人数合わせ参加なんだ。」

・・なあんだ。 俺 今日はラッキーって思ったのにな。 彼氏持ちか。

「違うよ、亭主持ち。」
「うそっ! 大学生なのに結婚してんの?」
「えへへ・・ゴメン。」

じゃあさ 浮気したくなったら連絡してよ。
爽やかクンは最後まで爽やかに トンでもないことを言ってくれて
アタシにのケータイに 赤外線で メアドを押し付けて去っていった。


ねえねえ! 茜!

2次会に行く皆の中から 美咲が1人で抜けて来た。

「もうこれ以上は 付き合わないよ。」
「わかってるって。 サンキュ! 今日は助かった。 ・・で?ジュニは?」
「大学のチャペルへ 講話を聞きに行ってる。」

げーあんなもの強制されないで聞く人いるんだって 
美咲は どこまでも罰当たりな奴だ。
背中を向けて歩き出したら もう一度 美咲が呼び止めた。



「何よぅ?」

・・・アタシさ。ホントは ちょっと寂しかったんだ。
「?」
「結婚なんかしちゃうから。 茜が 違う世界に行っちゃったみたいで。」
「・・・・・」

また 遊んでよね。 女の友情も大事だよ。
Merry Christmas!

ニッと歯ぐきいっぱいに笑って 美咲は群れに戻って行った。

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冷たい風の吹く中で ジュニは じっと立っていた。

スタバで待っているって言ったじゃん。 中で 待っていたらいいのに。
「楽しかったですか?」
「楽しくなかった。」

早く帰ろ。 ジュニの腕に腕をからめたら びっくりするほど冷えていた。
「・・・ずっと 立っていたの?」
「落ち着かなくて。 僕には 寒い方が良かったです。」


バーカ野郎・・。  アタシは 何だか泣けてきた。


ねえジュニ? アタシのことばっかり考えないでよ。
こんなに冷たい風の中で そんなに アタシのことばっかり想わないでよ。

「アタシは どこにも行かないよ。」
「知っています。」
知っているのですけれど・・・ 「だめですね 僕は。」

ジュニが困ったように笑う。 
不器用な アタシのラピュタロボット。
神様 いったいいつになったら ジュニを安らかにしてくれるの?
「茜・・さん?」

いきなり抱きついたアタシに ジュニはビックリしたみたいだった。

・・・何かあったんですか?! 誰かに 何か?
「何にもない!  ・・ただ ジュニに会いたかったの。」
「僕も・・です。」



ジュニはアタシを胸に入れて 安心したみたいに息を吐いた。
ふんわり腕でアタシの身体を包むと 頬を乗せて蓋をする。

アタシはジュニの腕の中へ 完全密封パッケージインされたみたいで
くんくんって匂いをかいだら 大好きなジュニが甘く香った。
「僕は嘘つきですね。 本当は 合コンなんか行かせたくなかったです。」
「バカだよね。アタシたちは2人とも。」
「本当です。」


舗道の真ん中でハグするアタシたちは はっきり言ってお邪魔そのものだけど
クリスマスの街角だもん。
人波を分けて抱き合う恋人の1組くらい いたっていいよね。



時間はそろそろ夕方で 道を行く人は先を急ぐ。
街には クリスマスイルミネーションが きらきら光って揺れている。


ドラマだったら このまま カメラが上空へ引いて行くところだ。

だけど ジュニの向こうに見えた空は 今夜は雪にならないみたいだった。

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「あ・か・ね・さん♪」

よ・い・・しょ・・って
すんげー色気のない掛け声で アタシの中へ挿しいれると
ジュニは脚の間から這い出してきて アタシをぎゅっと抱きしめる。


家に帰ったらクリスマスしようって 言ったのに。

いざ帰ったらジュニのヤローが 
もう僕は我慢できませんって 言い出して。
チキンもケーキも後回しで ベッドへ運び込まれてしまった。


「外は 随分冷えてきたみたいですね。」

アタシをゆさゆさ揺らしながら ジュニは 窓を見上げている。
「こんな日に ぬくぬく抱き合うのは素敵です。 ・・ね?」


ね?・・って ジュニ。

ジュニがそうして揺らすから アタシは・・返事が出来ないよ。
はあはあ言っちゃっているアタシのことを ジュニは嬉しそうに見る。
「茜さん? ねえ 茜さんっ!」
・・・ん・・・・

Merry Christmas!



ジュニはアタシのお尻をつかむと 今度は 最後へ動き始めた。 

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