ボニボニ

 

茜ちゃんの疑惑

 




・・・ド・・キン・・・・


な、なんで、アタシが隠れんの?  だって あんまり驚いたから。
新年 間もない 渋谷の駅前。 
東急プラザ前の横断歩道で 女と一緒の ジュニを見かけた。



『オ・ン・ナ・と・一・緒・の・』 ジュニを 見かけた!

すみません この文字。 100ポイントの特大ゴチックでお願いします。
って。 呑気にギャグをかまして いいのかアタシ?


だけど「ジュニが知らない女と一緒の図」なんて あまりに 現実味がないんだモン。

だって 今日はジュニ。 確か
「やることがあって 研究室を出るのが遅くなります」って 言ったんだよ?
だからアタシは 真由っぺと マルキュー覗いて帰ることにしたのに。

ねえ・・ジュニ?  そこは研究室 じゃ ないよね?




ジュニは  アタシがいなくちゃ嫌で 

だから「よそ見」とか「他の人」とか そういう事はないんだって
安心しきっていたのに。 えー? ・・これはナンだろう。


1、2、3、・・
 
夜は ジュニに抱かれて寝るから 気にもしていなかったけれど
よく考えたら 今年になって・・ジュニとHをしていない。

年明け早々“おあずけ週間”があったから そのせいかなって思ってたのに。


いつものジュニなら こんなに間が開くと
アタシの周りにまとわりついて どうですかどうですかって ウルサイよ。
・・・いつものジュニなら


ねえ いつもの ジュニじゃないの? 


------



あ・か・ね・さん♪


「・・・・」
「今度 一緒に お風呂へ入りませんか?」
「・・・・」

「“恋占いが出来るバスボール”というのを 見つけたのです」
お風呂で一緒にやってみましょう。 きっと僕たち 『超ラブラブ』・・



「・・どこで?」
「え?」
今日は 研究室詰めだったでしょ。 「どこで バスボール見つけたの?」


ギク・・

ねぇジュニ?  今 ちょっと 眼を逸らしたよ。
自由が丘の ランキンランキン。 本当に そこで売っていたの?



アタシは何だか ボー然として 話しかけるジュニを見つめてた。

ふわりと額にかかる髪。 白い歯がこぼれる 柔らかな笑顔。


きれいだなあ・・。 最初に ジュニに会ったとき
あんまりきれいで 眼が離せなかった。

そういえば どうしてこんなにきれいな男が 
アタシなんかを好きなんだろうって 悩んだけど

思えば いつかそんなことも 気にしないように ・・・なって・・たな。


・・ふえぇ・・

「茜さんっ?!」


哀しいことが 起こるのかな。 
あんまり突然だったから アタシ 情けないけど 頭がまっ白だ。

・・ジュニィ・・・

「ど、どうしたんですかっ?!」
今日 渋谷でジュニを見たよ。 「知らない女と 一緒だった」
「!」

「・・・あの人 だれ?」



------



さあ これです。


ジュニは クローゼットをゴソゴソやって 何か包みを取り出してきた。
「・・驚かせようと思ったのですけど」
「?」


きれいに正座をしたジュニは ラグの上へ たとう紙を置く。

開くと 中から出てきたのは すっげー豪華な着物だった。

「な・・に これ?」
「a Coming of age celebration.  成人式の 振袖です」
・・・あ・・



渋い臙脂に 御所車と牡丹が描かれた めちゃめちゃキレイな大振袖。
なんか でもこれ クラシックっつーか・・年代物? 

「これは ママから?」
「いいえ」

ママさんは 振袖貯金をしてくれていましたが それは頂きませんでした。
「これは 茜さんに来て欲しいと ハルモニが送ってきた物です」
「へ? ハルモニさんが 和服を?」

・・・送って来たって 韓国から?



ハルモニさんのくれた着物は 知人から贈られたものだそうで。
これをハルモニさんが着たっていうと・・半世紀以上 前だよね?


「帯は 銀糸が錆びていたので 着物に合わせて買い直しました」

呉服屋さんに持って行ったら とても上物だと驚かれたのだそうだ。

「いい着物なの? キレイだもんねぇ」
「はい。着物に合う帯をと言ったら 軽自動車位の値段になりました」
「げ・・・」

でも いいです。 茜さんが大人になる 大切な日の晴れ着ですから。



「これは 僕が 着せてあげます」

「・・ジュニ が?」

茜さんが見た 女の人は  「・・着付け教室の先生です」
「へ?!」

------



茜さんが大人になる門出だから 僕の手で 送り出したかったです。


シュッ・・・ シュッ・・

「帯は・・変わり文庫に・・結び・・・ます」

上羽が扇の形になるやつ。 一文字文庫も キリッとして良かったんですが
「・・茜さん・・背が高いから・・華やかな結びが・・映えるって」


ジュニは とても真剣な顔で アタシの帯を締め上げる。
アタシは奴に言われるままに 袖を持って 着せられていた。
「日本では 舞妓さんの着付けは男衆がするそうですね」

ふう・・ん・・ ぐぇ・・

「こら そんなに絞めていませんよ」



さ 出来ました。 ぽん!と帯の横を叩いて ジュニは 眼を大きく開ける。
「ワオ! すごくきれいです。ふふ 本当のお姫様みたいですね」

自分で着せると 一番最初に きれいな茜さんが見られます。

それに ね。 うふふ・・
「?」

-------



成人式をする区民会館は 結構な人出になっていた。

式は あっさり45分で終り お土産もらって解散になった。


晴れ着を着た男女の一団が あちらこちらで騒いでいるけど
アタシは 中学から私立だから地元の友達が多くない。

それでも 数少ない仲間と合流して 一緒に写真をとったりした。


ジュニのヤローはこの日の為に デジカメを新調したとかで 
もう るんるんの撮りまくり。
そして カードがいっぱいって ・・どんだけ撮ったの? 


式の後は 友達と「ちょっぴり同窓会」に参加する。

だけど 2時間もしないうちに ジュニが帰ろうって言い出した。





「・・茜さん。 もっと遊んでいたかったですか?」

家に帰ると 申し訳なそうに ジュニがアタシに聞いてきた。
「ううん? そんなに親しくない友達だから ちょうどいい位」

ああ 良かった。
 
「僕はもう 眼がくらんでしまって 死にそうでした」
「え?! 具合が悪かったの?」
「はい。 とても 具合が悪かったです」


どこが悪いの? 
ジュニは 心配するアタシの 手を取って椅子に座らせる。
にこにこアタシを見つめながら ぐるりと周りを一周した。

きれいですよ 茜さん。僕のお姫様です。
「ねえ 風邪でも引いたの?」
「しぃ・・」
「?」


はぁ・・・

満足そうな息を吐いて ジュニが前にひざまずいた。
「ご成人 おめでとうございます」
「ぅ・・ん・・・?」

僕 とても嬉しいです。 茜さんが大人になって。
まだ大人じゃない茜さんを 無理に奥さんにしてしまっていたから。

・・無理に じゃないよ。 「ジュニが 好きだからだもん」
「茜さんっ!」



ああ 僕 もぅ倒れそうです。 この先もいいですね?!

「・・この先って?」
もちろん“姫初め”です!!


ハルモニの着物を見たときから 僕 心に決めていました。
「今年は 『本物の姫初め』をしようって!」
「・・・え? ちょっ ちょっと!」

言うなりジュニはアタシを抱き上げて いそいそベッドへ運んでいく。

うふふ。 帯揚げをね 外せば ほら帯が解けるんです。
着物ってどうやって脱がすのか 判らなかったんですって。 ジュニ?

そ・ん・な・ことの為に 着付けを習ったの~?!



夢一夜 床に広がる絹の海。 ・・・だけど まだ夜じゃないじゃん。

アタシの上へ 腹ばいになって ジュニはすごく嬉しそうだ。
上げた髪がほつれているのが 「ものすごく そそられます」


あー だけど12日です。 僕 よく我慢できたなあ・・
「ここ何日かなんて 夜寝ているときに 茜さんを襲いそうでした」
「あのねぇ」


くす・・

良かった。 やっぱりジュニは ジュニだった。

幸せそうにすりつけて来る ジュニの頬がくすぐったい。
アタシは ちょっと嬉しくなって ジュニの首に腕を回した。

------



RRRRRRRR・・・・


「きゃ~っ! ジュニ!ジュニ! スカイプ鳴ってる!」

「待ってください! あと 帯締めだけですっ」


・・まったく もぉ。 

ハルモニさんに着物を見せるって ジュニが約束したんだって。
それを忘れて脱がしたから アタシは2回も 着物を着ることになった。

ジュニはPC前に座って アタシを 腿へ座らせる。
着付けを習って良かったですって ・・本当だよ。




“おや お前達 元気そうだね?”

ビデオチャットのスクリーンの中 ハルモニさんは上機嫌だった。

ジュニのヤローは 身八つ口から袖の中へ手を滑らせると
アタシの肘をつかまえて 文楽の人形みたいに手を振らせた。


“どうですハルモニ?” 
僕の茜さん お姫様みたいでしょう♪

“日本の諺にあったねえ。 馬の・・何だっけ?”
“『馬子にも衣装』と 言うつもりじゃないでしょうねっ?!”


新年早々 竜虎の戦い。

ハルモニさんとジュニのヤローは モニター越しに睨みあう。
だけど ハルモニさんは睨みあいを止めて アタシの方へ眼を向けた。

“よく似合うよ。 晴れの日に 古着を着てもらって済まなかったね”
“いいえ 素敵なお振袖です。 頂いてもいいんですか?”
“ああ”



その振袖はね 幸せな人に 着てもらいたかったのさ。

“茜に着てもらって 着物が喜んでいるさ。 ありがとう”
“そんな・・こちらこそ ありがとうございます”


“・・で その髪は 流行なのかね? まるで寝乱れたみたいだねぇ・・”

「!」「!!」




ジュニってずるい。 顔色ひとつ 変えないの。
だけど 未熟者のアタシは 耳たぶまで 赤くなってしまった。

ハルモニさんは満足げに ジュニへ 眉を吊り上げて

「そろそろ ややこが見られるかねぇ」って してやったりと微笑んだ。

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