ボニボニ

 

Valentine 2009

 




眠りの国へ逃げちゃおうかなって 寝たふりなんか してみたけれど。



ジュニのヤローはアタシのうなじへ くしくしと鼻をすりつけて
「寝ちゃだめです」って 腿の奥へ 優雅な指を滑りこませた。

・・・や・・・ジュニ・・・


「うふふ 茜さん。 いっぱい感じてください♪」



・・んん・・も・・ぅ・・・・

「寝たいですか?」
・・しょうがないなぁ 茜さんは 眠り姫みたいです。 



背中にぴっとり 貼りついたジュニは アタシのお尻をつかまえて
微妙に角度を調節すると しぶしぶ身体を挿し入れた。

・・ぁ・・・


「あぁ 愛しています。 茜さんも?」
「ん・・」
「本当に 眠そうですね」



ジュニは不満げに鼻を鳴らすと ゆっくりゆっくり動き出す。
明日はヴァレンタインだから 一日 ベッドの中にいたいな。



「ジュニと1日ベッドにいたら アタシはきっと 死んじゃうと思う」
「死んじゃう茜さんも 少し見たいです」
「あのね」



RRRRR !!



「うわ! びっく・・」
「スカイプかな?」



時計を見たら ・・・午前2時だよ。 

こんな時間にかけてくるのは 眠れなくなったハルモニさんか
数学物理の天才のくせに 時差を計算しないジュニパパだ。



だけど コールはアタシの携帯。 

ウィンドウに表示されたのは ・・あれ? 真由っぺの名前じゃん。

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“ね・・ねねねね、寝てたっ?!”


って 真由ってば。 
草木も眠る深夜なのに 何なの アナタのハイテンション?


「ん・・まだ 寝てなかったけど。 ・・どしたの?」




あ・・ もうジュニったら この悪魔。 

こっちは電話中なのに 知らんぷりで「続き」をしてる。
片手で柔く胸をつかんで 反対の手は それより悪戯。


「だめ」って おさえて叱る声が かすれて すごくエロいんですけどアタシ・・。
肘テツを喰わせてやったのに くすくす笑いに抱きしめられた。




「ややや、やっぱ 寝てた?」

「だ・・から・・・ぁ・・ 寝てない・・・」



身体をよじって逃げるけど リーチの長いジュニのヤローは
ちょっと アタシを逃がしてから また捕まえて 遊んでいる。

絶~対 バレる状況なのに 真由は全然気づかない。

不思議なくらいドギマギしていて。 

・・いったい彼女は 何をテンパってるんだろ?





「・・どしたの?」

「あのさ! あのさあのさ! 茜! う~~~~~~~っつ!!」



“明日のヴァレンタインに Wデートしないっ?!”
「え?」

えええっ?!


「だ・・、“Wデート”と言いますと パテが2枚はさまったヤツ?」
「Wバーガーだよ。それは」

「それじゃあ “Wデート”って。 その・・ 誰と誰で?」
「茜とジュニと アタシとぉ  ・・・彼氏」
「?!」



え”え”え”え”え”え”っ?!




シューッて アタシの携帯から 湯気が噴き出してる感じ。

真由さんっ?! 
アナタ そんなことに 実は なっていらしたのねっ!!



・・どうしたんですか?

背中を優しく抱いていたジュニが 肩越しに 鎖骨へキスをする。

アタシは なんだか ドびっくりしちゃって 
奴の唇が吸うにまかせて ぼんやり 首をそらしていた。 

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「だけど真由さんも いつのまに 彼氏が出来たんでしょうね?」

「そうだよねぇ・・。 ぜんっぜん 何も聞いてない」


いつもだったら 出会いから 実況中継なみの密度で
恋の経過報告をする 真由っぺらしくない。

ひょっとしたら 「オジサマ」とか そういう相手じゃない・・よね?

約束の場所へ急ぎながら アタシは胸がドキドキした。





ヴァレンタインの昼下りは もう 春みたいに暖かで
自由が丘の緑道は 沢山の人で溢れていた。



若い人やらベビーカーやらで すれ違うのも大変なくらい。
ジュニは しっかり手を握って 人混みをぐんぐん掻き分ける。



待ちあわせたのは「SHUTTERS」。
 

それは 肉食獣の真由っぺが デートだというのに 
どーしても あそこのスペアリブを喰いたいと言ったからだ。
ジュニも 真由の彼氏と聞いて 興味を引かれたようだった。

おかげで「一日ベッド」の件も 何とか 忘れてもらえた・・・かな。




「茜さん? 待ち合わせって こ・・・」




ぱちくり。  突然 アタシは固まった。

アタシの視線をたどって行って 真由の姿を見つけたジュニも
彼女の隣に立っていた 「その人」を見て 固まった。

「・・・・」

「・・・・」


アタシはぱくぱく 白風船を飛ばして まったくセリフが出ないんだけど
ジュニは半分戸惑いがちに それでも おずおずとご挨拶をした。

あの ご無沙汰しています。 
「真由さんの彼氏さん ですか?  ・・あなたが?」


そして圭太は 冬なのに まっ黒の顔でニッと笑った。
「だっ!」

あんたもまあ 相変わらず 高坂にべったりくっついてるな。

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今更だけど 結婚おめでとう。 「幸せそうで良かったよ」

アタシの方へ向いた圭太は 片手で真由の肩を抱く。
真由っぺは 今までアタシが見た どんな時よりロウバイしていた。


・・い・・い・・・言おうと・・何度も・・ぉ・・思・・

・・・も・・もう・黙っているのも・・こ・・・この機会に・・・





きゃ~~っ!!



多分。 たっぷり1分は あんぐり口を開けていたと思う。
それからいきなり嬉しくなって アタシは 真由に抱きついた。

そうだったんだ。 
真由ってばいつから 言えなくて 一人 悶々としていたのだろう?



そういえば 圭太が脚を折った時 凹んでいるから見舞いに行けと
熱心に勧めたのだって 真由だった。




ううん! それより 最初の最初。 

いい奴だよって 圭太をアタシに 紹介したのも彼女じゃん。

ひょっとしたら・・・

真由は ずうっと昔から 圭太が気になっていたのかもしれないね。  





大好きな 本当に 大好きなアタシの親友。

元気で陽気でハムカツが好きで 人の事をいつも 気にしている。



そんな真由っぺを選んだなんて 圭太って やっぱ 見る眼があるね!



「あのよぉ ・・高坂」
「うん?!」
「熱烈ハグもいいけどさ。 俺の彼女だからね」



照れくさそうに でもエラソーに 圭太は真由を気づかって。
アタシの前で彼女と言われて 真由はピョーッと蒸気を吹いた。

ちきしょー。 やっぱ圭太は いい男じゃない!



傷つけちゃった優しい圭太が アタシを ゆうゆう乗り越えて
真由っぺみたいに素敵な彼女を 
ゲットしたことが 本当に嬉しい。
 

昨夜の彼女のドギマギは こういう理由だったんだ。  
多分アタシが 居心地の悪い思いをしないか 不安だったんだろう。

真由っぺ ってば。




カミングアウトをしてしまったら すっかり気持ちが楽になったみたい。

圭太と真由は 何だかな~ってほど 2人の世界になっちゃって。



「あの~ アタシ達 お邪魔ですか?」 
と冗談半分にからかったら 圭太の奴め。 


「うん 邪魔かな」って 白い歯を歯ぐきまで見せて言いやがった。



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「Wデートに誘っておいて 邪魔者扱いするんだもんなー」

2人とバイバイした後で 一応 ムクれて見せたけど
アタシは すごく気分が良かった。

せっかく自由が丘に来たから ケーキでも買って帰ろうか?


「スィーツフォレスト」の中に出来た 青果の仲買さんの店に行こ。
あそこの「市場まるごとロール」は 
ジュニの好きなフルーツが ゴロゴロ すごいヴォリュームだよ。




あ・か・ね・さん。

「ん?」



あの 圭太さんに恋人が出来て 少し・・妬けたりしませんか?

「男の僕の眼から見ても 彼は とてもイイ男です」
「・・ジュニ」

ジュニの奴。 ホントに 真顔で聞いている。

まったく 神様 こいつってば。
自分がどれほどイイ男か いつになったら 自覚するの?

「妬けないよ。 恋人なら アタシにもいるもん」
「え・・」
「ほら」


顔の前で 手を開いて 薬指を見せびらかす。
眼を丸くしたジュニの顔が 見る間に溶けて 甘くなった。
「茜さん!!」

「チョコバナナロールも 買う?」

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早く 早く 帰りましょう。


ジュニのヤローは ニコニコで アタシの腕を抱いて歩く。

まさか ・・・思い出していないよね。 昨夜の「ベッドで一日中」


アタシは ケータイの時計表示を見る。
え~~? まだ 3時半じゃない。


「帰ったら まずは ケーキを食べようね?」
「♪」

ねえ ねえ・・

「♪♪♪」



ジュニは 陽気に顎を上げて 満面の笑顔で歩いてゆく。


ねえってば・・。 

アタシは奴に 腕を取られて ちょっとよろけて付いて行った。

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