ボニボニ

 

小岩さんのお気に入り

 




だって ちょっと作ってみたんだもの ・・いいわよね?


思いがけなく大仰になってしまった手提げ袋を眼の高さに上げて
小岩さんは考えた。 これは “高坂さんへの友チョコ”だもん。

皆で食べてって フォンダンショコラ。

・・つ、作り方を教わったから 「課題提出」ってことだもん。



これがJUNIへのバレンタインチョコだなんて 誰も言っていないのに
小岩さんは360度全方向へ言い訳をしながら 高坂家のチャイムを押した。


「あ? 小岩さん♪ こんにちは」

「!!!!!!!」

思ってもいなかったけど(ウソ) いきなり ジュニちゃんがドアを開けた。
おまけに素っ晴らしいドレススーツで お、お、おお、王子様じゃない!

「あらヒュニちゃん」 と 冷静ぶっても声が裏返って ちゃんと言えてないし。



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「え~ 小岩さんが作ったの~? わぁ 上手に焼けてる~」

高坂ママは のんびりと嬉しそうな声を出した。

小岩さんは定位置の ダイニングテーブルに陣取って
行儀良くソファに座っているジュニを 横目で見て眼をハートにした。
 

「高坂さんにケーキを差し上げるなんて おこがましいんだけどぉ~。
 レシピを教えてもらったお礼に “よければ皆さんで”」

「え~嬉しい。ご馳走様~♪ じゃあ お茶にしましょ。 ジュニちゃんもいかが?」

(そうそうそうよ! 高坂さん ナイスアシスト!)




「ワォ ケーキですか? ・・でも出掛ける前です」

「茜ならまだ戻らないわよ。 ただ待っているのも退屈でしょ?」
「ふふ・・ そうですね」
「ジュ、ジュニちゃん 今日はどうしたの? おめかししちゃってすごく素敵」

「え? ありがとうございます。 ・・ふふ」



学会の・・レセプション? ああ また何か発表を手伝っていたわよねえ。
ふぅん結構改まった席なのね。

「夫婦同伴なんです」って あらあら すごく嬉しそう。

おめかしするので美容院に行った 茜ちゃんを持ってるの。
可愛い奥さんを見せびらかすことが出来て 嬉しくて 仕方ないわけね。

相変わらずの仲良しね 結婚生活は 幸せ?




あぁ・・ 



“小岩さん! 僕たちとてもとても幸せです”

・・聞くまでもなかったわよね。


ああ でもジュニちゃん。 貴方には なんて幸せが似合うのかしら。




初めて彼と会ったとき  天使じゃないかと思ったの。
背が高くって ハンサムで 柔らかな前髪が額にかかる。

とろけるような低音で それは丁寧にご挨拶をしたわ。

“初めまして小岩さん お会いできて 嬉しいです”


恥ずかしがりの少年みたいに はにかんで甘く笑うくせに

見事に男っぽいんだから まったく・・反則だと思わない?




「はいはい・・甘くなっちゃったから お抹茶にしましょ」

高坂ママは やれやれと呆れた顔でお茶の用意をする。
チョコに お抹茶っていいのよね。

「お抹茶なら小岩さんよねえ。 ケーキ切ってくるから お願いできる?」


(きゃああああああ! 高坂さん!ベストアシスト!)


免許皆伝の小岩さんは もうちょっとで 涙が飛び散るところだった。

ジュニちゃんは 「ちゃんとお作法を憶えています」っていう顔でニコニコ。

私 生きてて 本当に 良かった。




茜ちゃんが戻るまで ほんのちょっとだけのデート(勝手に)
ジュニちゃんはきれいに長い指をそろえて お行儀がまあ なんていいんでしょ.




どおどお? 私の“愛のお点前”

・・なんて 言ってみたいわぁ・・


バレンタインの昼下り 小岩さんは幸せだった。


fin

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