ボニボニ

 

JUNIな生活 ― Who is...? ― 4

 




・・アタシって奴は  

自慢じゃないけど ものすごく現実的な人間だ。



なんてったって 人生で大事なことは「今日のごはん」と言うママと

霊峰だろーが魔の山だろーが ザックを担いでガシガシと登り
おぉ神さんにも挨拶するかって 高尾山の薬王院で「かしわ手」を打つパパ。
(パパ・・あそこは「お寺」だから・・・)


そーゆー いわば身もフタもない両親の血をがっつり受け継いで

神秘も霊もスピリチュアルなことにも 無縁で今まで生きてきた。




アタシの人生に もし1つでも不思議なことがあるとしたら

それはきっと 間違いなく ジュニに出会ったってことだよね。


--------




こ、高坂茜と申しますっ! 


「あの! ジュニ・・さんの妻をしてます」


ぐぐうぅ。

妻をしてますって言い方はないじゃんね。 だけど 問題はソコじゃない。
眼の前にいるのはジュニのじーちゃんで 17年だか前に亡くなったヒトだ。

なのに 今アタシの前にいるこのヒトは すごくすごくそのっ!!

・・・綺麗・・だ・・・




「・・・」


本当に 信じられないほど綺麗だった。

ぽぅっと輪郭がにじむような 柔らかな光を放っているけれど
こんなに綺麗なヒトなんだから 光くらいは出るよね そりゃ・・



・・あぁでも このヒト 本当にジュニのご先祖様だ。 

アタシはストンと納得した。 だってアタシはこの光を知ってる。
ジュニの 笑顔の中に このきらめきを見たことがあるから。 


ジュニの内側から射してくる 胸が痛いほどキラキラの光。

あれは ジュニもジュニパパも このヒトも突きぬけて放たれていたんだ。




・・あの・・・


「どうしてハラボジさんが アタシに見えるンですか?」

アタシは霊感強くないし 霊とか一度も見えたことがないのに。

「もしかして これは あの!」  

アタシなんかがジュニの嫁では許さん!とか そういうんで
出ていらした怨霊という訳じゃない・・ですよね? 




アタシは ちょっと泣きそーになった。

眼の前のヒトは何にも言わず アタシをひたと見つめていた。

「ひたと」なんて 大げさな形容詞がぴったりハマルほど 
その人の眼差しはまっすぐで アタシは身体が透きとおってしまいそうだ。




「アタシは! 庶民で美人でもないけど・・ジュニを本当に愛しています」


あぁもう 何を言ってんだか。

だけどこのヒトはジュニのご先祖様で クソったれの親戚じゃない。
ジュニの 大切な家族なんだとしたら アタシはどうしても認めて欲しい。

「思い上がりと言われるかもだけど! ・・ジュニも アタシを愛しています」




“・・・”


夜とホコリと空気を揺らして その人は 淡く微笑んだ。 ・・たぶん。
ほんのすこしだけ口の端を上げる ハルモニさんみたいに判りにくい笑いかた。

「?! あ・・、ありがとうございますっ!」


チチチ・・チョルとかするべきだろうか 認めて(たぶん)貰ったから。
うろたえたアタシは大急ぎで 両手をオデコにかざして書庫の床へお辞儀をした。

チョルをして ヒヤリと冷たい床へ額をつけたとき 

アタシはハラボジさんが出て来る理由 『推測その②』を考えて 鳥肌が立った。




「ハラボジ・・さん・・・?」

立ち上がったアタシは 恐怖のあまり ハラボジさんをにらみつけた。

考えれば 生きていないヒトに会っていることからして恐怖なんだけど
このときのアタシには そんなことを感じる余裕なんてなかった。


じ、じゃあ・・

「まさかハラボジさんは ハルモニさんを迎えに来たんじゃないですよね?!」




“・・・”

ハラボジさんは 珍しいものでも見るように 静かに1つまばたきをした。
その表情が読めなくて アタシはパニックになりそうだった。

「だっ、だめですっ!!」

“?!”



そ・・れは あの! 

ハルモニさんは その 確かにハラボジさんと超ラブラブのご夫婦で!
今度一緒になったらもう永遠に一緒だから 待ってると思うけどだめです!

「だってアタシ! まだハルモニさんと この世界で一緒にいたいんです!」




ハルモニさん。 あんなにひ孫を待ってて・・なのにアタシは我儘で。

早くひ孫を見せてあげたいけど。 じ、自分の生き方も見つけたくて!

「だ、だけど絶対! ハルモニさんに“ジュニのその先”を見て欲しいんです!!」



・・ボ、ボロボロとは無理かもだけど きっとアタシ 産むからひ孫・・・

「お願いだから もう少しだけ ハルモニさんを連れて行かないでください!」
ジュニとアタシからハルモニさんを 奪って 行かないで下さい。


お願いします!
お願いします!!
お願いしますっ!!!




力いっぱい 頭を下げたら 涙が床にテテッと散った。

こんなことをしても運命は 変わらないのかも知れないけれど。
運命なんて 人間の都合で変えられるものじゃないのだろうけど。


・・だけど 頼まずにはいられなかった。


-------




“・・・”

頭を下げたままでいたら 小さな音が聞こえた気がした。

くって まるで笑ったみたいな



おずおずと顔を上げてみると ハラボジさんが笑っていた。
(たぶん)ていう微妙な笑みじゃなくて 雲間から光が射すような笑み。

ジュニが 笑うときの顔だぁ。 アタシは思わず見惚れてしまう。


「ぁの・・聞いてもらえるんですか?」




ハラボジさんは眉を上げて  面白がるようにまばたいた。
「うん」とも「いいや」とも言わないで。 ねぇ・・どっちなんですか? 

きれいな頬が すうっと動いて 書架の綴り本を眼で差し示した。

・・・その本が どーかしたんですか?



アタシは 頭に50㎝角くらいの「?」マークを乗せて立ち尽くしてた。

ハラボジさんはそんなアタシへ ふんわり優しく微笑んで
光の糸になってほどけるみたいに 書庫の闇の中に消えていった。


「ぁ・・」






「茜さん?」 


書庫を出てぼーっと立ってたら 向こうからジュニがやってきた。


こんな所でどうしたんですか? 

「あ! 僕が戻らないので心配したのですね?」
「・・・」

「茜さん? もしもし?」
「・・・」
「ハルモニはね」


あっ!!  そうだハ・・ハルモニさん! どーした?!



「大丈夫です」

心配するような話じゃありません。 まったく人騒がせなんだから。
ジュニは 何だかムクれたみたいに肩をすくめて アタシを抱き寄せた。

「ああ こんなに冷えてしまいました。 ともかく部屋へ戻りましょう」


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大変大変。  僕の茜さんが こんなひえひえになってしまいました。


部屋へ戻ると ジュニのヤローはアタシを抱いて布団へもぐりこみ
自分の熱をこすりつけながら いそいそとアタシを脱がせ始めた。

「ち・・ちょっと! ジュニ!」


服が冷えていますから じかに肌に触れるほうが熱の伝導効率がいいです。

「うわぁ 冷たい。 これではアカネさんのほうがジェラートになりそうです」
「アタシの“ほうが”って? ハルモニさんは?」
「呆れて言いたくないです」
「ち・・ょっと ジュニ!」


ああもう 何たる手の早さだ。 

アタシってばジュニの腕の中で すっかり裸にむかれちゃってる。

ジュニは 自分のシャツをすばやく脱ぐと 急いでアタシを抱き直して
乾布摩擦でもするみたいに せっせとアタシを撫でまわした。


「ジェラート 2つ食べたんだそうです」

「え?」
「僕たちが逃げ出して 余ったから」
「あ?」
まったく。 魔女みたいに丈夫ですけど あれでハルモニは“お姫様腹”だから。

・・・ん?





やっと温まってきましたね。 嬉しそうなジュニの声がうなじを舐める。
アタシは背中を反らせながら ジュニの話をぼんやり理解しようとしていた。


ジュニとアタシが逃げ出して 明洞へ買物へ行った後

貴子さんのお持たせのジェラートが出されたんだって 4人分。


ハルモニは普段 あんまり冷たいものを食べないそうなのだけど
そのジェラートが気に入って ジュニの分まで食べちゃったんだそうだ。

・・・・ぁ・・・・・・・

「お腹が痛くなったけど 格好が悪いからと隠していたのですよ」




・・・・ぁ・・・・ぅ・・・・

いったい幾つだと思っているんでしょうね? あの前世紀の女学生コンビ。
貴子小母様もジェラートを 2個食べたのだそうです。 

「菓子鉢いっぱいのお菓子の後で。 あの人は 筋金入りの“乞食腹”です」

本当にもうって ジュニの奴め 代わりにアタシを責めないでよ。
アタシがきゅうって鳴き声をあげると ジュニが うふふいいですか?って聞いた。




そうか。 ハルモニさんは 重病とかじゃなかったんだ。

それじゃアタシの涙のお願いに ハラボジさんがリアクションしないで笑ったのは
“心配するな”ってことだったのかな。 なんかキモチ 面白がっていたよね?


くす・・・

「茜さん ここ どうしたのですか?」
「?」

肘をついて身体を起こしたジュニが 笑いながらアタシのおでこを撫でた。

「おでこに埃の●がついています」

げ・・・


納戸でも覗いたんですかって ジュニがくすくす笑いをする。
あのクンジョルで着いたんだ。 ってことは・・

ハラボジさん アタシのデコ見て笑ったってことー?!%$#!

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