ボニボニ

 

JUNI 3

 





高橋圭太は アタシの友達>カレシ>恋人だ。 

都立高の3年生で サッカー推薦で進学を狙っている。


アタシとつきあって 8ヵ月。
うちの学園祭に圭太が来て クラスメイトの真由に紹介された。
最初はずっとメル友だったけれど 圭太は メールの一発ギャグが上手い。

ススキで作ったフクロウ人形の写真を送ってきて 本文が「す・・すき」
あまりの馬鹿馬鹿しさに ついカレシに昇格させてしまった。



「・・・茜さんが 男性を選ぶ基準は ギャグなんですか。」

それでは僕も ギャグの勉強を しないといけませんね。
にこりともせずにジュニが言う。 ・・・あのね ジュニ。
「茜さん 違います。 そこは こっちの式を代入するのです。」

前も間違えた所だ だめですよ。 ちゅっと こめかみにキスされた。

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偏差値のたっかーい大学に 飛び級で通っているジュニが 身近にいる。
そんなチャンスを ちゃっかり者のママが 見逃す訳はなかった。

「ね~え ジュニちゃん。 暇な時にでも 茜の勉強を見てやってくれない?」


アタシは 中学校からエスカレーター式の私立女子高に通っている。
短大がくっついていて ひどい成績でなければ そこまで行ける。
「落第しない程度でいいの。 だめかしら?」


そして 当然の様に ジュニは あの微笑で快諾した。
いいですよ 週1~2回なら。 じゃあ 僕の部屋でやりましょうか。
僕 若い女の子の部屋に入るのは 照れくさいです。

「その代わり 家庭教師の後はこちらで ママさんのケーキです。」


アリ地獄・・・。
ママはもう ジュニに首ったけだ。
ジュニってば なんでママの趣味がケーキ作りって 知ってるんだろう?


アタシ 実は塾へ行きたいって 前から言っていたのだけど
こうなったら 絶対 ママは塾に行かせてくれないだろう。
そんなことをしたら ジュニにケーキを作ってあげる口実がなくなる。

かくて 私は週1~2回 ジュニの部屋に 行く事になって
まさに手取り足取り 勉強を教えてもらうはめになった。

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「はい 合っています。 そうだ!茜さん 期末の結果は出ましたか?」
「・・・持ってきたわよ・・。」
アタシは ふてくされてシートを出す。 見事に成績が上がっている。


「まあまあですね。がんばりました。」

ご褒美です。 ジュニがアタシを抱き寄せて また あのすごいキスをする。


アタシってば もう! 一体なんで ジュニを拒まないんだろう?
ここで 拒んでおかないと 既成事実になっちゃうじゃない・・。 
「ねえ・・。  だから ・・アタシ カレシいるから。」

アタシがそう言うと ジュニは ちょっと悲しそうにする。

「わかっていますよ。付き合うなとは・・言いません。」
だからそうじゃなくて・・。 
「でも僕は 婚約者です。」
「アタシ 結婚したいって 言ってないもん。」
「言いました。 結婚を言い出したのは 茜さんが先です。」


12年前の コドモの口約束を ジュニは 宝物の様に大事にしている。
パパが アタシをくれるって言ったから。 僕は茜さんの婚約者です。
“バッカじゃないの? そんなの無効にきまってる。”
喉元まで出かかっている言葉を アタシは 何故か 言えないでいる。

でもこの時 言えば良かったんだ。 バッカじゃないの?って。

だってぐずぐずしている間に アタシはジュニに食べられちゃったんだから。

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「茜。 今日はジュニちゃんと一緒に行ってあげてね。」


学校までの定期を買うのだそうよ。手続きとか よく教えてあげなさい。
朝食のトーストをイエローカードの様に振りながら ママが言う。

「お忙しいのにすみません 茜さん。 お手数をおかけします。」


まあ 本当にジュニちゃんってば 言葉が綺麗なんだから!!
爪の垢煎じて茜に飲ませたいわあ とママが言う。
ひょっとしてママ もう爪の垢煎じているんじゃないだろうか?
アタシは けっこう真剣に カフェオレの味を疑った。

 

ジュニと一緒に出歩くのって アタシ的には ものすごく・・嫌だ。
だってジュニときたら とんでもなく目立つ。
ただ歩いているだけなのに 周りの人が 視線を送ってくる。

誰もがほ~と言う眼をジュニに向けて “それで?”とばかりに アタシを見る。

“アタシ! 別にこいつの彼女とかじゃないから! 
釣り合わない女とか なんであんなブスがと言われても 困るから!”


・・・アタシ。 誰にともなく言い訳しながら歩いているし。 とほほ だよ。
ジュニときたら 周りの視線なんかぜんぜん気にならないみたいで
嬉しげに いろいろと話しかけてくる。 ねえ 仲良さそうにしないでよ。

2人でバスで駅まで行って 窓口と定期の買い方を教えると
ふんふんと聞いていたジュニは 何の造作もなく用事を終えた。
「ねえ・・。 別にアタシに聞かなくても 大丈夫なんじゃない?」
奴の手際のいい手続きに アタシはつい ひがみっぽいことを言う。


「そんなことありませんよ。 見知らぬ街で 言葉も怪しいのですから
 僕には 茜さんだけが頼りです。」
にこっと ジュニが天使の様に笑う。 ぼっ・・ と 頬に火がつく。 
げっ・・アタシ赤面してる。 じたばた慌てていたら ジュニが笑ってキスをした。

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このまま茜さんの学校まで 一緒に行きましょう。
ジュニは とんでもないことを言う。

「な・・なんで アタシの学校に来るのよ! だ・・大学はどうするの?」
「今日の講義は午後からです。 時間に余裕がありますから。」
だからって 女子高よ!
あんたなんかについて来られたら どんな騒ぎになるか知れない。
電車が来ます。アタシの意見を聞き流して ジュニはいそいそと背中を押した。


ヴィーン・・ タタンタタン・・・

アタシの眼の2センチ前に チャコールグレーのセーターがある。
電車が揺れるたびに 鼻がセーターに埋まって。・・カシミヤだわ これ。
「いつも こんなに混むんですか?」
気の毒そうに ジュニがアタシを見下ろしている。

頭1つ 周りから高いジュニだけは ラッシュの中でさえ 涼やかに見える。
ジュニの手がアタシの背中に回されて しっかり周りからガードされる。
ねえ・・ これじゃまるで ラブラブカップルのご出勤だよ。


何だか アタシうつむいちゃって 耳がちょっと赤くなる。

「茜さん? 気分でも悪いですか?」
小首を傾げたジュニが 耳元でささやいて ・・情けないことに 身体がしびれた。
「いや、あの、 なんだか空気が その 薄いっつーか・・。」

囁き声に感じちゃいましたと言えないアタシが とっさに言い訳すると
ジュニはちらと周囲に眼を走らせて アタシの唇に ふうっと息を吹き込んだ。
「!」
「これでどうですか? もうすぐ着きます。」


電車の中で キスするなぁぁ!
どびっくりのアタシが睨みつけると ジュニは 不思議そうに眉を上げた。


駅を降りると アタシの女子高の制服姿が多くなった。
「ねえ・・。 もう帰って。」

知った顔に合わないうちにと アタシはもう 必死でジュニに交渉をする。
「どうしてですか? 僕も 茜さんの母校を知っておかなくては。」
「校門に 風紀の先生がいるの! 男と登校なんか 出来るわけないでしょ?」
「なかなかきちんとした学校みたいですね。安心しました。」
いや だから そうじゃなくて・・・。


ジュニがずんずん歩くので あっという間に学校へ着く。
風紀担当のシスター・テレサが あんぐり口を開けている。
ジュニはアタシのそばをはなれ  最高の笑顔を輝かせてシスターの前に立った。

「おはようございます。 僕は イ・ジュニと申します。」


茜さんの婚約者です。今朝は 彼女の学びやを 一目見たくて同行しました。
ジュニが 礼儀正しくシスターに挨拶する。まあ そうでしたか。
「ですが ジュニさん? ここは年頃の女子ばかりの学校です。
 あなたの様にハンサムな若い男性は ちょっと生徒に動揺を与えますね。」

お願いシスター! そうじゃないの! アタシは口をぱくぱくさせる。
はっと息を飲み 沈痛な面持ちで胸に手をあてて ジュニが言う。
「もしもの時のために 彼女の学校を知っておきたかったのです。
 ああ・・すみません。 僕は考えが足りませんでした。とんだご迷惑を。」


悲劇の王子がうなだれる。 ジュニの後悔を 見せつけられて 
慈愛に満ちたシスターは たまらない顔で ジュニの手を取った。

「・・真摯な方ね。 そんなにご自分を責めては だめよ。」
「シスター 僕 あの・・ 告悔を。」
「まあ・・。 じゃあ 教会にいらっしゃる?」
なんと シスター・テレサは 風紀当番に後を任せると
ジュニの手を取って うきうきと チャペルへの道を歩き出す。

 
そしてアタシは 立ったまま 気を失った。
・・・その後のことは 思い出したくない。


シスター・テレサは ジュニがクリスチャンと知って それはそれは喜んでいた。

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