ボニボニ

 

JUNI 5

 

読んでくれて ありがとうです。




「茜。 ジュニちゃんに ご飯って言って 呼んできて。」



「食べたく・・ないのかも しれないじゃない?」
無駄な抵抗と思いつつ アタシはそっと 言ってみる。


そんな訳ないでしょう! 今朝も早く出かけるからって来なかったし。

昨日も顔を見せなかったのよ! ああ いったい 何があったのかしら?
食の乱れは 生活の乱れよ。 預った息子さんに何かあったらどうしよう!



“あんたの娘の 心の乱れは どーすんのよ・・まったく。”

ぶつぶつと 文句を言いながらジュニのアパートの階段を上がる。
チャイムを鳴らすと しばらくして すごく静かにドアが開いた。


「ママが ご飯を食べに来てって・・・。」

恐る恐る眼をあげて アタシは 腰が抜けるほど 驚いた。
真っ青で 表情の無いジュニの顔。 あのきらきらの笑顔が かけらもない。

「ど・・どうしたの! 具合でも悪いの?!」



思わず問い詰めるアタシに ジュニは眼を伏せる。
「・・何でもありません。
 ご飯は すみませんが 遠慮させてください。」
丁寧に 音もさせずに頭を下げて ジュニがドアを閉めかける。
「待ってよ!」


アタシ どうしちゃったんだろう。思わず 涙が湧いてくる。
もう心臓がバクバクしちゃって 慌ててジュニの部屋に入る。

「茜さん・・?」
「アタシのせい? アタシが あの あんなこと言ったから?」


違います。茜さんは何も悪くない。悪いのは考えなしの僕ですから。
「茜さんも 僕に好意を持ってくれていると 勘違いしていたんです。」
「あ・・の・・。」


ジュニはアタシを安心させようと 無理やり笑顔を作ってみせる。
「貴女に ・・とりかえしのつかない 酷い事をしました。」
ぽろり・・。 きれいな頬に 涙が流れて アタシの胸を痛くする。
「誰よりも 大切に愛していた茜さんを 僕が・・。」
「だめっ!」


アタシ 本気で怖かった。 
目の前で ジュニが死んじゃうんじゃないかって思った。

その時 アタシの前に立っていたのは 
ジュニという人じゃなく アタシに焦がれ死にしそうな「愛」だった。



なんでなんで こんなにきれいなジュニが アタシなんかを思っているのか
今でもさっぱりわからないけど・・。 
「アタシ・・・ 嫌いなんかじゃない。」
「・・・。」
「アタシ! ジュニが嫌いじゃないから!」
「茜さん・・?」


信じられないかな? 信じられないなら ええと・・・
えい! とジュニに飛びついて。キスをしようと したんだけれど
ジュニが背をかがめてくれないと届かない。

もういいや。一所懸命背伸びして とりあえず 首のあたりに唇をつける。
なんかアタシって すっごいブザマ。 柳に飛びつくカエルだよ。


「茜・・・さん・・?」
ふわりと ジュニが腕をまわす。おずおずとアタシを覗き込む。
これなら届くかな。 よいしょと肩にぶらさがって キスをする。
そしたら ジュニが倒れてきて アタシは見事 下敷きになった。


「ぎゃー!」

でも アタシってけっこう強い ニンゲン ヤル時はやるもんだ。
ジュニを下から ジャッキアップして ずずず・・とベッドに連れてゆく。

「うわあああああ!」
ジュニの顔が真っ青だ。 ええと これは・・貧血かな?
とにかくママだ! 医者とクスリだ! 
待ってて ジュニ アタシが助ける!


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往診しないなんていったら おじさんチの悪口いっぱい書いて街中に貼ってやる。


遠い親戚の叔父さんは ぶつぶついいながらやってきて
こりゃー アポロンみたいなハンサムだなあ と アタシに言った。
ジュニは疲労と強いストレスと ご丁寧に 風邪も引いたらしい。



「安静・睡眠・栄養補給」

ママは ここぞとはりきって 韓国風のお粥に挑戦する。
アタシは パパとママの冷やかしにもめげず アタシが面倒見る!って言った。



「あ・・か・・・ね・・さん?」
ぬるくなった冷えピタをとりかえていると ジュニがうつろな声を出した。
アタシはベッドサイドにひざまずいて ジュニの顔を覗きこんだ。
「気がついた? 39度も出たんだよ 熱・・。」
「・・・・・。」


これは夢かな? そんな顔して ジュニが見ている。
倒れる直前にアタシが言ったことを 疑っているのに 違いない。
「・・・ん・・」
病人だから大サービス。 茜さんの親愛のキスだ 受けてみろ。


ぱち・・ ぱち・・ と ゆっくりまばたき。

「どうして・・・ ですか?」
そう聞かれると思って 看病しながら考えていたんだ。 アタシの気持ち。



「ジュニは・・・強引すぎたんだもの。」
「・・・。」
「たぶん・・最初に見たときから ジュニを好きだけど。・・まだアタシ 恋じゃない。
 圭太の事だって 周りに婚約者だと言うのだって ・・まだいいって言ってない。」


「まだ」なんだよ。ジュニ。 でも 自分の中で「そのうち」って 感じてる。
だからそんなに ・・・強引に 時計を 進めないで。 
「ジュニの思ってる通りに たぶん・・ なるから。」



その時の ジュニの微笑を アタシきっと忘れない。
真っ白な花が はなびらを返しながら ぱあっと咲くような笑い顔。
「茜さん ・・・嫌じゃ なかったんですか?」

ジュニが 何の事を言っているのかわかって アタシは ちょっと赤くなる。
「アレは・・ 圭太と約束しちゃったけど 本当は困っていたんだ・・・。」
「ごめんなさい。タカハシ君に奪われると思ったら 
 あの時は 僕 自分が抑えられなくて。」
「もう・・いいよ。」
「良くありません。」


もういいよ。アタシ ・・あの 初めてがジュニで 良かったと思ってるから。

「え?」
「すごく・・大切にしてくれたし。 愛を感じちゃったっていうか・・。
 アタシのこと  ・・何でか わかんないけど すごく好きなんだと わかったし。」 
「茜さん・・。」
「たっくさん経験を 積んだだけあって ・・上手にしてくれたし・・。」


話すうちに赤くなってゆくアタシを ジュニが愛しそうに見る。

「茜さん・・・ 僕が他の女性と寝た事。本当は 少し怒っているでしょう?」



「・・・アタシ 貧乳だからね。 美人もグラマーも いたんでしょ?」
ああ茜さん と 布団から手が伸びて アタシの身体が抱きしめられる。
「茜さんより美人も 茜さんより素敵な身体の人も いませんでした。」
「大うそつき。」


もう寝てよ。 アタシ ずっとここにいるから。
本当に 茜さんが一番 素敵ですよ。
「わかったから・・。」
ジュニの布団を掛けなおして しいっと 唇に指を立てる。


布団にうつぶせて眺めると ジュニは 仕方なく眼をつぶる。
眼鏡のない顔も 素敵だな ・・・あれ?
「・・・ああいう時も 眼鏡しているものなの?」


ジュニが 片方だけ眼を開ける。 困ったような笑い顔。

「・・・すみません。茜さんの初めてだから ちゃんと見ようと思って。」
「げ・・」
眼鏡して しっかり眼に焼き付けたのか・・。 とほほ ダイエットしなくちゃ。
「茜さんは 素敵ですよ。」
「慰めはいいよ・・。」

本当ですよ。茜さんしか愛せない・・。 



ジュニの囁く優しい声を 子守唄のように聞きながら 
アタシは 先に眠りについた。 

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