ボニボニ

 

JUNI 9

 



ねぇ ママ♪ このあと文化祭の打ち上げで 皆と カラオケ行っていい?



先に帰るというママに アタシは できるだけ 可愛く言ってみる。 
できれば カンパも いただけたら・・

文化祭はもう終わり近く お客さんも 帰りはじめている。


「だめ! あんたこの前カラオケに行って いったい 何時に帰ってきた?」
「え~? だって・・ 文化祭の打ち上げだよ。ねえ。」

ほら 真由っぺや 美穂も待ってるし・・ アタシは 友達を指さして言う。


「『ウチアゲ』って何ですか? 日本のカラオケって 韓国と同じかなあ?」
にこにこと ジュニが 興味津津で聞く。 
アタシは ・・・・すごーく 嫌な予感がした。


「あ! いいお目付け役がいたじゃない!」
(やっぱり・・・・) 

「茜 ジュニちゃんと一緒なら いいわよ。」
だっ~て 女ばっかの集まりなんだよ。友達がだめって 言うと思う。


「それは もちろん。」
「日韓文化交流の一環として ジュニさんを 歓迎いたします。」

げ・・・、アンタたちってば。 いつの間に そばに来てんのよ。
美穂のやつめ 子泣きじじいを挽回しようと アンニョンハセヨなんか言ってるし。
「じゃあ決まりねジュニちゃん。 11時までには 家に連れて帰って。」


はいこれはお小遣い。ママはジュニにお金を渡す。 あのうママ・・・アタシには?


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―アタシは こんなに友達 多かったっけ?


5人で行くはずだったカラオケは なぜか総勢15人になった。
それだって 断りに断って だ。 
アタシ・・全身から おくれ毛が出そうに やつれてしまう。


だけど・・ あの 一応このヒト アタシの彼氏なんですけど。
ジュニの前後左右には みっちり女が貼りついていて。
アタシは 部屋の隅っこで ちゅーなんてコーラを飲んでいる。


「茜さん! ・・・僕 茜さんと隣でなければ 嫌です。」


うわ・・・。
嬉しいけどね 本心は。 ・・・だけどアタシは 友の眼がコワイ。


「ジュ・・ジュニってば。 アタシは ほら いつでも会えるし
 日本の女子高生と ひろく触れ合うっつーのも だ・・大事よ。」

そうそうそうそうと うなずく一団を ジュニが不満げに見るものだから
アタシは 大慌てで 曲を選ぶフリをした。
「あ!茜さん 歌ってくれるんですか? 僕 聞きたい歌があります。」


まった こいつは 何を言うー! あたしの顔が ピクピク けいれんする。


「焼肉屋さんの 歌です。」
(『焼肉ヨーデル』かな? ふざけてるけど まあ・・いいか。)

「いいよ。」
「ええと曲名は・・・ 『黒毛和牛上塩タン焼き¥680』というのです。」


―よくそんなの知ってるね。 ええと・・どんな歌だっけ?


アタシが思い出さないうちに 誰かがサッサと入れちゃって
茜はそっちで 歌ってなさい。 ぽい とソファから押し出された。
「げ・・・・。」
最初の歌詞が出る寸前に アタシの顔に ぼっと火がつく。
ジ・・ジュニ。 あんたって やっぱり悪魔だわ。



♪ だぁーい好きよ もっと もっと アタシを愛して
♪ だぁーい好きよ アナタと ひとつになれるーのなら 
  こんな 幸せは ないわ・・


「・・・・。」
ジュニの横にへばりついていた美咲が 思わず アタシと奴の顔を見る。
ジュニってば 嬉しそうに口をあけて 唇を 指で撫でている。



―こ・・こ・・こんな歌が 歌えるかー!!

アタシの中のアタシはガオガオ怒鳴るけど ここで動じては 女がすたる。
それにしたって なんて歌詞だよ。 とほほ・・


♪ アナタに 火照らされて アタシは色が 変わる~くらい~

ジュニの笑顔は それは爽やかで 皆 ぽーっと見とれている。
こんな歌を歌わせられてるアタシは いったい どんな顔していたらいいの?


♪ アナタと ひとつになれるーのなら こんな 幸せはないわ
  ・・・お味は いかが?

「最高でした。」


ぎゃー!!
なにをなにを 何を言うー! アタシは ・・・もうすぐ気を失いそうだ。


「最高ですね この歌。」
ああ・・歌ねと 皆がひきつり笑いをする。歌の話よね。そうよね。
ジュニが 天使のように清潔な笑顔を見せて 皆はつい 自分たちの妄想を恥じた。

「焼肉屋さんの歌かと思ったら ラブソングなんですね?
 茜さんに “大好き”なんて歌ってもらうと 照れくさいです。」


―こいつ 悪魔じゃない。 ・・・魔王だ。


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その夜 カラオケはけっこう盛り上がった。


ジュニってば 案外 座持ちのいい奴で 
韓国の歌を歌ってよと言われると  「冬ソナ」の主題歌を 原語で(あたりまえか)歌った。
アタシのママ大ファンなのよ うちもうちもと 皆かまびすしい。
もっと とねだられたジュニが  「My memory」という歌を歌うと 皆が シンとした。

ジュニって すごく 声がいい。


朗々と歌うというわけでもなく さらりと歌っているくせに
なんだか・・・涙が 出そうになった。 これ けっこういい歌だな。


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皆のブーイングを きっぱり切って ジュニは 9時半に席を立った。

「まだ 早いじゃない・・。」
ジュニと一緒なら 11時過ぎても怒らないよ ママ。
駅からの道を歩きながら アタシは ジュニにクレームをつける。


だめです。 僕が もう飽きました。 ジュニが勝手なことを言う。 
「な・・。」
「茜さんと2人だけのほうが 幸せです。」
アタシの幸せは どーなっちゃうのよ?! 


「だいたい何よ あんな歌 歌わせてくれちゃって! 恥ずかしい!」
「あぁ茜さん。可愛いかったです。♪だぁーい好きぃーよ あなたとひとつに・・」
「やめて。」
「お味は いかが?」

バシッ!

「・・・怒りましたか?」
怒ったわよ ジュニ! アタシは 思い切りジュニをにらんで
フンっと 顔をそむけて歩き出した。


「茜さんが 女の子の群れに 僕を 人身御供に投げ込むからです。」

僕 女性は苦手なんです と。 ・・どの面さげて ジュニは言うのだ?


女性嫌いが 会ったその日にキスするものですか。  それは 茜さんだからです。
「あ! 茜さん バッグ持ちましょう。」
「いらないよ! 軽いんだから。」

でも・・・ 大きなバッグですね。
「砂かけばばぁの 衣装だよ!」


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家への途中にある公園で ブランコをこぎましょう とジュニが言う。
「道草していると 遅くなるよ・・・。」
「大丈夫。 僕と一緒なら 11時をまわっても ママは怒りません。」



「・・・んん・・」

やっぱりキスするために 引っ張りこんだね。
がくがくと 立っていられないアタシを ジュニが抱きとめる。
「外ですから・・ね これ以上は やめましょう。」
それは ホントに お願いしたいもんだ。


そんなことを言いながら ジュニの手が そろそろと怪しく動いている。 
ジュニはブランコに座って 膝にアタシを乗せている。

「もうだめ!」


ジュニを振り切るアタシは バッグをつかんで  ふと 悪戯を思いついた。
「何ですか・・? カツラ?」
「ジュニにかぶせたら 似合うかな。」
うふふと・・笑うアタシ。 困ったようなジュニは されるままに座る。


「なあんだ・・。 これはこれでカッコいいや。」

ぼさぼさの白髪頭も ジュニがかぶれば ミュージシャンか何かみたいだ。
つまんないの。  耳元の髪を カツラに押し込んでいると 
突然 ぐらり と アタシの意識が揺れた。


この眼 この顔・・・ アタシ・・・どこかで。
「!」


“アカネ! アカネ! ・・・アカネェッ!! ”


「ジュニ・・?」
「茜さん。」
アタシの腕が いきなりジュニを強く抱く。 ジュニが 夢中ですがりつく。
憶えてる。 必死でアタシに抱きついたこの腕は・・・ジュニ だ。



「アタシ 昔・・・こうして・・ジュニを 抱いた?」
「はい・・・。」

突然 わきあがる 断片の記憶。 これは 何?



「茜さんは ・・・僕を 抱いてくれました。」

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