ボニボニ

 

JUNI 12

 



「茜っていう子は あなた なの?」


ジュニといい この美人といい
なんだって 皆 初対面のアタシの名前を 知っているんだろう?
アタシは世田谷在住の 超スーパー無名&一般ピーポーな高校生なんだけど・・。


「アニー。 ・・・もし茜さんを 傷つけるような事を言ったら
 僕は ・・・絶対 君を 許しません。」


へ? アニー? なんかこの方 見た目 日本の方ですけど・・。
・・・っていうか ジュニ。  ものすごく 怖い顔をしているんですけど。

「だって! ジュニ! あなたが あのままアメリカにいて
 スカラシップを受けていれば・・・!!」
「それは僕が決める事でしょう? 君には関係ない。まして その責任は
 茜さんには まったくないはずです。」

ジュニはアタシを 半分 背中に隠すようにして 
アニーさんとやらにまっすぐ向い 低い声で 話している。 



アタシ ジュニにかばわれちゃって ・・なんか みすぼらしい。

そりゃ何にも力のない ごくごく普通の高校生だけど アタシは誰かの背中に
隠れて護られるのを 潔しとしないくらいの 気概はあるつもりだ。
アタシは ジュニをそっと押しのけた。
「茜さん・・。」
ジュニは黙って。 アタシ このヒトの言い分を聞きたい。  どういうこと?


教えてあげるわ。 美人のアニーさんが あごを上げて 
ジュニってば キッと すごい顔で彼女を見る。

ジュニはね 専門を何にするにせよ 次の時代のトップ・サイエンティストよ。
「MITだってハーバードだって スカラシップを用意してるの。」
あなただって 少しは 知っているんでしょ?
「日本とアメリカじゃ 研究者の環境って全然違うのよ。それなのに・・。」


「ジュニは アタシのために そういうものを捨てて 日本に来たわけね?」
「それが 彼のキャリアにとって どれほどのロスになると思う?!」
「アニー!」

なるほどね。 この美人さんは ジュニの才能を惜しんで
邪魔者のアタシに 足手まといだから引っ込んでろと 言いたいわけだ。
そしてきっと・・・ このヒト ジュニが好きだ。



「話はわかった。 どうも ありがとう。」
「茜さん!」
「後は ジュニとアタシの話。 そうでしょう?
 それから ジュニの人生を決めるのは ジュニだ。そうだよね?」

美人さんは ムッと黙る。 もう この場はいいよね。
「・・・。」


「ジュニがアメリカにいないと ジュニと人類の損失だって言うんならさ。
・・・アタシ ジュニと話してみるよ。」

行こうかジュニ もう帰ろう。 アタシはジュニに手を伸べた。

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冬の 午後の陽は早い。

もうはやばやと夕方の気配がしてきている。
アタシとジュニは 帰りの電車の中で なんだか無口に 並んで座った。


「・・・説得なんか受け付けませんよ。 僕は 茜さんと 居たいんです。」

そのために 日本にきたのです。 研究より 僕には 大事な事です。
「じゃあアタシをたった17で嫁にして アメリカに連れてく?」
「え・・・?」
「アタシを離さない。アメリカには行かなきゃならない だったらそうなるでしょ?」

ジュニの顔が 嬉しそうにほころぶ。そういう選択肢もありますね。
「茜さんは そうしてもいいですか?」
「アタシはやだ。」
「・・・・・・。」
「そんな ジュニのおまけみたいな人生は 悪いけど送れない。」


ところで アニーさんって 何者? 

「ハーバードのクラスメイトです。ええと・・ちょっと特別なクラスで。」
「英才教育用に集めました~ みたいなとこ?」
「まあ・・そういう感じです。」
アニーは日系3世です。 なんでも 交換留学に来たみたいです。

―ジュニを追いかけてって ことでしょ?



タタン・・タタン・・

電車は リズミカルに 振動を刻む。
アタシは なんだかしょぼくれちゃって ジュニの肩に 頭を寄せる。
「茜さん?・・・」

すすす・・・と 寄ってきたアタシの頭を 肩口で支えて
ジュニは アタシの背中に腕をまわす。


ジュニの体温が 温かい。

ふと見ると正面のおばさんが ぶしつけな視線を隠すのも忘れて 
ぼんやりした顔で ジュニを見ている。
そうだよね。アタシだって 最初にジュニを見たときは そんなだった。


とびっきりきれいで 頭が良くて サイエンティストの卵の ジュニ。
1個も特筆事項のない 216名中91番目の 普通~な アタシ・・・。

「いったい 何が いいのかなあ・・?」
「何ですか?」
「・・・今日の おやつ・・・。」

茜さんってば 静かだと思ったら そんな 重大問題で悩んでいたんですね。
クスクス とジュニが幸せそうに笑う。
216名中91番目のアタシとしては 分相応の 悩みです。



「茜さんの 存在そのものが 僕にとっての 価値です。」

げ・・・。


ジュニは 愛しげな顔でアタシを見る。
「茜さん。宝石は好きですか? 僕 輝安鉱のほうがずっと好きです。」
「・・・・・。」 


「僕。 何にもロスはありません。 茜さんというゲインだけです。」
「・・・・・。」
「本当です。 信じられませんか?」
「・・・・信じる・・よ。」

信じない なんて言ったら 何されるかわかったモンじゃない。
「いい子です。もしそれ以上 わからずやなことを言ったら・・。」
「!!」

“この場で ゴーカンです。”

アタシの顔が茹でダコになる。 そっと耳に囁いて ジュニは澄ましている。 
正面のおばさんは ジュニの涼やかな視線と 眼が合って
大慌てで 斜め右前45度に 眼をそらした。

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ただいま~と 台所をのぞくと ママはシチューを作っていた。
アタシの好きな チキンキャセロール。 ホクホク・・しかしこの量 何人分?



「ジュニちゃんの大学はどうだった? 何見たの?」
「鉱石の展示」
「鉱石?」

石コロ? まったくあんたたちは男同士みたいね。


―いやママ。 アタシたち男同士だったら・・・大変だよ。

「・・・ねえ茜? あなた今夜 1人でも大丈夫よね?」
「え・・?」
「原町田の大叔父さん危ないんだって。 パパとママこれから2人で行くから。」

シチューは いっぱい作っておいたから 悪いけど 朝もこれでしのいで。
「ジュニちゃんにも ごめんねって。」


ジュニ・・・ げ・・

「戸締りしっかりするのよ。」
「あの・・ママ。」
「何かあったら ジュニちゃんに来てもらいなさい。」

エプロンを外すと ママはもうよそ行きの服を着ていた。
車で出かけて 駅でパパ拾う事になってるの。

「ああ大変!こんな時間。 ジュニちゃんによくお願いしたいけど だめだわ。」
「マ・マー・・」
「大丈夫! 大叔父さん 何度も持ち直しているもの。」
もう12回くらい持ち直して 今は たしか102歳だよね。
だけど そうじゃなくて・・。

アタシってば 俊寛僧都よろしく ママにすがるんだけど
大慌てのママは リップ塗るのに この瞬間の命をかけている。
じゃあ行くわね! バタバタと ママは車に乗り込み ブーと消えた。


行かないでぇぇぇぇ・・・・

鬼界ヶ島の俊寛こと茜は 身擦り足摺り玄関口で 去るママに 必死の手を伸ばす。
「ああ・・ 行っちゃった・・・。」



「あれ・・ 僕を お迎えしてくれてるんですか?」


「うわああああああああ!  ・・・ジュニ。」
な・・何しに来たの? 何って もうお夕飯の時間です。お腹すきました。



あれ?ママは? 
ジュニが キョロキョロ キッチンを見回す。


今夜はアタシ 狼と2人。 アタシってば ・・・ピーンチじゃない!

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