ボニボニ

 

JUNI 13

 


アタシは トングでお鍋をかき回しながら ちろり・・と後ろを 盗み見る。



ジュニは 鼻歌を歌いながら テーブルにプレートを並べている。
「ふふ・・  ワインでも 飲みたいくらいです。」
ジュニってば さっきから顔が笑ったまんま。 にっこり白い歯の口が よく疲れないね。

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「ママさん。 車で どこ行っちゃったんですか?」


ジュニの問いかけに アタシはどぎまぎしまいと 必死でさりげなさを装った。
「ちょっと・・・パパと一緒に 原町田の大叔父さんのとこへ・・。」
「ふうん・・?」


じゃあ茜さん 1人なんですか? 広いお家に 夜 女の子1人じゃ無用心です。
僕が お2人が戻るまで 一緒にいてあげましょう。
「・・・戻ら ないんだ・・。」
「え?」
「明日の朝も このシチュー温めて・・食べるんだって。」


そして・・その瞬間から ジュニは ず~~~~っとあの笑顔。




食事の間中 ジュニは アタシにじゃれていた。
「ふふふ。 僕たち 新婚さんみたいです。 はい ア~ンしてください。」
「じ・・自分で食べるよ。」
「だめです! こんなチャンスはめったにないですから。 はい ア~ン!」
「・・・ア~ン・・。」


食器洗いは 僕がしましょう。
茜さんは どうぞお先に お風呂に入ってください。

「お・・お風呂って・・あ・・の・・。」
「あ? 一緒に入りたいですか? じゃ待ってください。すぐに片付けてしまいます。」


ぎゃああああっ!!

お皿 ゆっくり洗ってしっかり洗って! ・・・あ、あ、あの ガス台もぴかぴかにして!
「ア・・・アタシ お風呂は 1人で入るから『絶対に』・・。」
「そうですか? 残念です。 茜さんも 僕がぴかぴかにしてあげたいのにな。」


・・・・悪魔に 魅入られた夜 だ。

アタシはブクブクお湯に沈んで カエルのように 眼だけを出した。

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風呂上りにTVを見ていたら ジュニが 裸にバスタオルだけで やってきた。
「茜さん。 『茜用・飲むな!』のビタミンウォーター もらっていいですか?」


ぎゃあああああっ!!

「ち・・ちょっと! ふ・・服 着てよ。服。 早く!」
「嫌です。汗の引かないうちに服を着て 風邪を引くと 皆様にご心配かけますから。」


いけしゃあしゃあと 悪魔が言い ゴクゴクとアタシのペットボトルを飲み干す。
ねえ そんな・・コワそうな筋肉を 見せびらかさないでよ。

「前にも見ているでしょう。 あ? もしかして ドキドキしちゃったんですか?」
可愛いなあ 茜さん。 ジュニがするりとそばに座って 手を握る。 
僕は 茜さんのものですからね。 どこでも 自由に触っていいです。


それとも・・ 抱かれるほうがいいのかな。
ジュニってば アタシをぎゅっと抱き 裸の胸に顔が埋められて ・・・鼻がつぶれた。

「ふぁいいいち はんで ゆにがういで おふをにあいるをよ!」
(だいいち 何で ジュニが家で お風呂にはいるのよ!)


「いいお湯でしたね。 ふふ 茜さんの後だからって お湯を飲んだりしてませんよ。」
「あのね・・。」
「あぁ 今夜は楽しいですね! いつも時間を気にしながら・・ですから。
 僕 茜さんを 朝までず~っと愛したいなって 前から思っていたんです。」


本当に嬉しい と ジュニは 爽やか指数100%の笑顔を 見せる。
あのぉ・・・?  ジュニ。 も・・もしかして ウチに泊まる気?
「あたりまえでしょう? 茜さんが1人寝なんて 無用心です。」

鍵をかけるから だ・・大丈夫。1人で寝た事だって 何度もあるから。



「ふうん・・・。」

それでは 面白い話を 教えてあげましょう。
僕がアメリカにいた頃の 研究室の話です。

「インテリジェント・セキュリティールームだったんです。その部屋。」
センサーで人間の居室・退室から 電源の消し忘れ 窓の閉め忘れまでチェックします。
僕 最後まで残っていたんです。 誰もいなくなった部屋で 勉強していました。
「・・?・・それで?」

「もう帰ろうと 戸締りや電気をチェックして 鍵をかけたんです。そしたら・・」
ゴク・・・
「“Someone inside” ・・中に人がいますって ボイスアラームが・・・喋るんです。」
ヒ・・・
「誰もいない研究室なのに “Someone inside”  ・・・誰~か~いま~す。」
キャー!


「ジ・・ ジュニ・・。」
アタ・・アタ・・アタシ・・ そういうの弱いのに  聞いちゃったじゃないよ。
不覚にもアタシはうろたえてしまい ジュニはにっこりと 素敵に笑った。


「大丈夫です。 今夜は僕が 茜さんをしっかり護って 寝てあげます。」

・・・それが 一番怖いよ。 ジュニ・・。


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「ふんふん・・『ハーパース・バザール』ね。 ワォ、『風の谷のナウシカ』がある。」


ジュニのきれいな指が アタシの 本棚の背表紙を 撫でて行く。
アタシは抱き枕の『特大フモフモさん』を抱えて ベッドからジュニをにらんでる。
ジュニはうきうきと 珍しそうに アタシの部屋を歩きまわっていた。


「茜さん・・。 これは 本棚じゃなくて マガジンラックですね。
 一体どうやって 勉強しているんですか?」
「うるさいなあ・・。216人中91番の女子高生の本棚なんて こんなもんなの!」

嫌味でもなんでもなく シンプルに 質問しているつもりのジュニは 
アタシがぷりぷりしているのが 不思議そうだ。


「茜さんが抱いている その・・僕のライバルは なんていう名前ですか?」
「これ? 『フモフモさん』だよ。肌触りが すご~く いいんだ。」

ジュニは『フモフモさん』を取り上げて 試しにきゅっと 抱いてみる。
「・・・強敵だ。」
これ ものすごくフワフワですね。 ぷよぷよフェチのジュニが 狼狽した。



ベッドの上でおばあさん座りしたアタシに すりすりと膝で にじり寄り
ジュニは おかしいほど真剣な顔で 宣誓するように言った。
「僕の方が 『フモフモさん』よりも茜さんを ぐっすり眠らせてあげます。」
大きな手でアタシの頬を包む。 こうしてね・・。 とキスをする。


熱い熱い。 とってもディープな ジュニのキス。
こくんこくんと アタシを吸い上げる。 気を失いそうに 吸われた後で
ちょっと離して息をさせてくれる。 さあ 茜さん ・・もう一度です。


さんざん唇を味わってから 首筋へジュニが降りてゆく。
ねえジュニ アタシまだ 抱いてもいいって言ってないよ。
「嫌って 言ったら・・・どうするの?」

ぴくり。 
ジュニの 唇が止まる。 嫌というなら・・・我慢します。
「・・・だめ・・なんですか?」

ずぶぬれ犬コロが アタシに聞く。 
だめですか? 僕は・・愛されないのですか?


ずるいよジュニは そんな眼で・・・。 アタシは ちょっと 視線をそらす。
ジュニは アタシを窺い見ながら そーっと うなじに唇を戻した。
「・・・は・・ぁ・・。」


げげ・・まずい。 気持ちイイ声出しちゃった。 だって ・・ちょっと感じてる。
アタシに吸い付いているジュニは ぴくっと反応して もっと熱心に唇を這わせた。

ジュニ 答えを 聞かないままだよ? アタシをベッドに 横たわらせて
どうして・・  腿を 開けているの?
ちゅくちゅく恥ずかしい音をさせながら どうしてアタシを そんな眼で見るの?


「茜さんが 嫌 と言ったら ・・・・我慢します。」

ジュニの瞳が あんまり切なげで アタシの 喉はカラカラ渇く。
アタシの表情を確かめながら 開いた腿の真ん中で ジュニがうつむく。 
ねえ そこで 何を・・しているの? 
片手で支えたそれを アタシに当てる。 もう1度 “お願い”の眼を向ける。

「愛しています。 だめ・・ですか?」


アタシはただ じいっとジュニを見つめて  ・・もうそれが 合図。
ジュニはアタシに押し込みながら 唇へキスしにやってくる。
「・・・・あ・・。」
ジュニの唇がアタシの口に届いた時 アタシの突き当りまで ジュニが届いた。



ん・・ ん・・ ん・・ん・・・

こんなの反則。 アタシの声は ジュニのキスに吸われて消える。
これじゃあ もしも嫌と言っても ジュニの耳には届かないじゃない。
「茜さんの 控訴タイムは ・・もう 終わりです。」


これからの時間は 合意の上です。いいですね?
同じ間違いは2度しない。ジュニは ゴーカンと言わせないように念を押す。
アタシはそれでも知らんぷりだけど ジュニは 耳元で宣言する。
「今夜は ・・たくさんします。」


キシ・・キシ・・キシ・・とアタシのベッドが ジュニの重みに 音をあげる。
アタシは 真っ赤に火照った耳を ジュニに かぷりとかじられた。


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RRRRRR・・・・   RRR・・・

どこかで 電話が鳴っているけど アタシの耳にはくぐもった音しかしない。
グラリ・・。 アタシにかぶさっていたジュニの身体がどいて
いきなり はっきりベルが鳴った。 R・・

ジュニの長い指が受話器をはさんで そっと アタシの耳に押し当てる。
「もしもし・・茜? ママだけど。」
「・・・う・・ん・・。」



その夜。  原町田のじいちゃんが 死んだ。 

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