ボニボニ

 

JUNI 22

 



ジュニに送られて 夜明け前に 家に戻る。


たった30メートルを アタシたちは ゆっくり歩く。
寒いですね。ジュニがアタシを抱き寄せる。うん寒いね。



ジュニが門扉を開けて そっとアタシを押す。
「さあ 行って。」
「ん・・。」
「ごめんなさい ・・疲れましたね? 少しでも眠ってください。」
それから 名残惜しそうにアタシの頬を撫でて 幸せそうに は・・とため息をつく。


「あぁ・・。  僕 茜さんが可愛くて 離したくないです。」

ちゅっ と唇が寄る。 ジュニのキスで濡れた唇が 寒い。
「茜さんは 僕のものですよ。」
「・・・・・。」


ね?と言う顔で ジュニが見つめる。 アタシ 今日は言えるかもしれない。
「うん。」

ジュニが  まばたきを 大きく1つ。  いきなり抱き寄せられる。
胸に埋められてから ジュニが アタシの顔をのぞきこんだ。
「僕のものだと・・ 言ってくれたんですか?」
「うん・・・。」
「茜さん!」

いたいいたいいたい! ジュニ あんた力強いんだから 加減してよ。


「良かった。やっと茜さん 僕のものになってくれましたね。」

ジュニの声が 本当に嬉しそう。 アタシをぎゅうっと抱きしめる。
ねえジュニ? 朝までそうしているつもり? 抱きしめられて 身体が温まってくる。
どこかで気の早いカラスがアーと鳴いて やっと ジュニが離れた。

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朝食時のジュニパパは 「半分寝ているヒト」だ。


トーストがぼろぼろこぼれるし ジャムはパンからすべり落ちる。
鼻の下にたくわえた素敵なおひげには コーンポタージュが乗っかっている。
「偉い学者さんなのにねぇ・・。」
こんなにハンサムなおじさまが ここまで「ボーちゃん」だと いっそ笑える。

「アボジは 生活能力がゼロに近いです。僕7歳から 家事をしていました。」

やれやれ・・とジュニが首を振って ママの可哀想メーターが MAXへ突きあがる。
ジウォンは学生の頃から変わらないな。 パパはにこにこする。


何でも昔パパは 月に半分位 ジュニパパの部屋に居候してたらしい。
「学生時代 俺がいなかったら ジウォンは間違いなく餓死してたな!
 ・・・おい? 今はいったい どうやって身の回りのこと しているんだ?」

それを聞いて マグカップをかき回しながら いたずらそうにジュニが応える。

「高坂パパさん。 ・・アボジはこれで 結構モテます。
 僕と住んでいたときも ちょっと油断すると “世話を焼きたい女”が来ました。」
「な~んだ。じゃあ学生時代なんか パパが入りびたって泣いてる女がいたかもね。」

いや・・私 女性は苦手です。 高坂がいてくれて 本当に助かりました。
ジュニパパが 半分寝ながらボーっと言って 皆が笑った。

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パパがねだるように引き止めて しばらく我が家に滞在することになったけど 
ジュニパパってば ものすごくファンキーだ。

低血圧で 午前中はボーッとしてるし 退屈だと勝手にアタシのTVゲームで遊ぶ。
パパのカードを持って行って TSUTAYAからHなDVD借りて見ていたりもして
基本的に“好きにやってますからおかまいなく”な人だ。


興味本位でママの買い物にくっついて行って ご近所中の注目を集めても
何が問題なのか判らない。 スーパーで 勧められるままに試食するから
食べたくない物でお腹が一杯になったなどと むくれている。

大きなコドモみたいな ジュニパパ。

それでもここまでマイペースだと かえって周りは 気が楽だ。
ママも 好きなときだけ世話を焼けるから ジュニパパを面白がっている。


ただ1人。 ジュニだけが ジュニパパの滞在を嫌がっていた。
理由は ひとえに アタシに手が出せないから。

ジュニがアタシに勉強教えてると聞いて ジュニパパってば
「教えることなら 私がプロだ。」
とか言って 一緒にジュニの部屋に来る。 ・・きっと 暇つぶしのつもりに違いない。


でも アタシの先生としては ジュニパパはいささか高度過ぎる。
問題解いた後で こんな風にも解けるよと 見たこともない式まで教えてくれる。

「アボジ! アボジのやり方じゃ 茜さんの成績は 上がらないです。」
ジュニは パパの首根っこをつかむようにして 強制退場を言いつける。
まったく・・ 教えるなら ちゃんと高校のカリキュラムに準じないと。


「・・・ねえ? ジュニ?」

アタシは 疑問を感じる。なんでジュニは日本の高校のカリキュラム知ってるの?
ジュニの教え方はものすごく的確で 試験なんか見事にヤマが当る。なんで?


「それは 分析力と愛の力です。」

種明かしは簡単です。政府刊行物の文部省高等学校学習指導要領を熟読して 分析します。
「単元ごとに何を教えるかを確認して テストは エイヤッでヤマを張ります。」

ジュニ・・ アタシに勉強教えるために そんな事してたの?
「茜さんの成績が上がらないと ママさんに任せてもらえませんからね。」
ちゅっ・・。 ジュニがキスする。


げ・・ ジュニパパ そこにいるじゃん。 
「僕たち恋人同士ですから キスくらい平気です。」

アタシが どきどきとジュニパパを見ると ・・彼は 勝手にDVDを見ていた。
「あ! だめです!アボジ! それは茜さんと見ようと思って借りてきた恋愛映画です!」
「んあ? あぁ・・いいじゃないか。 じゃあ 一緒に見よう。」

「しょうがないなあ。 ・・・さ じゃあ茜さん。」
そしてアタシたちは 3人でDVDを見る。 ジュニパパがソファに寝転んで 
ジュニはソファにもたれて。 そしてアタシは ジュニの広げた脚の間に抱き取られて。


ちょ・・ちょっと ジュニ。
アタシはジュニに抱かれて 髪を撫でられながら映画を見る。
ジュニパパは ちらりとアタシたちを見て 納得したような顔をした。


映画の途中。 ふんわりアタシを抱きしめて ジュニが パパに切り出した。
「アボジ・・? 僕 茜さんとのことを もっと ちゃんとしたいです。」
なあにジュニ? アタシはびっくりして振りかえる。

「婚約か せめて結婚を前提の付き合いをさせて欲しいと 高坂パパに言いたいです。」

「え・・?」
驚くアタシの顔を ジュニが 覗きこむ。
「だめ・・ですか? 僕のものだと 言ってくれたでしょう?」
「う・・ん。」
「茜さんがいいなら 僕はもっと茜さんを しっかりつなぎとめたいです。」
「ジュニ・・・。」


そうさなあ とジュニパパが言う。

「お前の気持ちは変わらないにしても 茜ちゃんはまだ17だぞ。早すぎるだろう?」
きり・・・と ジュニは唇を噛む。
「そうです。 僕も全然立派な男じゃないし 茜さんも 人生目標が見えない・・。
 だけどアボジ! 僕の茜さんへの気持ちだけは 何があっても一生変わらない。」
だから 僕 自分の出来る範囲ででも 茜さんに 責任を持ちたいんです。

ぎゅっ・・と ジュニが アタシを抱き締める。
手に入れた宝物を 絶対離すものかって感じで ・・・ちょっと嬉しい。

「・・・茜ちゃんは・・ どう?」
「どう・・って 言われても ・・まだ わかんない。」


アタシが27なら きっと このままジュニと結婚するんだろうな。でも。
ああ 17って なんてちっぽけな歳なんだろう。
今のアタシは 何にも出来ない。 自分を見切ることさえも。

何にも出来ない小娘のくせに だけど アタシは思ってる。
きっとアタシは 「何か」にだけは 有能な人間に違いないって。
何かが見つからないだけで きっと 役に立つ能力があるはずなんだって。


「婚約者がいても 人生の目標は 見つけられます。
 僕 茜さんがやりたいことは 出来るかぎり バックアップするつもりです。」
ジュニパパは 黙ってDVDの画面を見てたけど 思い切ったように ポツリと言った。

「そうだな・・ こそこそ付き合うと言うのは良くないだろうし。
 交際の許しぐらいは もらっておく方がいいか。」

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その夜のママのケーキは タルト・タタンだった。

シナモンが苦手なアタシの為に ママは いつもシナモン抜きにしてくれる。
ひっくりかえったアップルパイ。 アタシは タルトタタンが好きだ。


・・・でも 今夜は 喉を通るかな。

ジュニパパとジュニは アタシの両親に 「交際の許可」を貰うことに決めた。
大丈夫です ジュニは安心させるように笑うけど アタシは正直怖かった。
  
ど・ん・な・は・な・し・に・なるの~~~~~!


いつもは遅いパパも ジュニパパがいるから 仕事を切り上げて帰宅していて
我が家のリビングは 満杯だった。
皆で ケーキを和やかに食べている時に ジュニが にこやかに口を開いた。

「高坂のパパさんママさん  僕・・ 今日は 折り入ってお話があります。」 
「ん?」「なあに?」


“茜さんと 結婚を前提に お付き合いさせてください。”

ぽろり・・・ パパの口からリンゴがこぼれた。
ママは 溢れさせた紅茶を 慌てて拭いた。
「ジュニちゃん・・・?」

ママさん。 僕 茜さんが好きです。将来お嫁さんにしようと思っています。
だめですか? 僕 一所懸命勉強をして 立派な人になれるように努力します。
僕たちの 交際を許してくれませんか?

「ちょ・・ちょ・・ちょっと 待ってくれ。 あの・・。」


パパは身を乗り出して 珍しい動物みたいにアタシを見る。  茜 お前は・・・どうなんだ?
どーなんだって・・ 言われても。
「あ・・の・・まだ 先の事はわかんないけど  えと・・・ジュニとつきあいたい。」
「・・・・ホントかよ・・。」


ガタン と パパが 腰を落とした。
ジュニが 本気で茜を相手にするとはな・・・・。

「高坂・・どうだろう? よその国に嫁にやるなんて とんでもないか?」
「ジウォン!」
パパが ジュニパパをにらみつける。
そりゃあ 近くて遠い外国だよ韓国は。 でもな・・
「そんなことが問題なら そもそもお前とチングにはなってないだろうが・・。」
「コマウォ 高坂。」
「じゃあその ・・・ジュニは マジなんだな。」

コイツは俺よりずっと真面目だよ。 こんなことを 冗談で言う奴じゃない。
ジュニパパが シリアス路線の顔をする。 すっげー カッコイイ感じ。



「・・ジュニちゃん?」

ママが突然 ぽつん・・と 言う。 ママ 交際には反対しないわ。でもね・・
2人ともまだ結婚を考えるのは 早いと思う。 ううん!それはいいとしても・・その・・
「赤ちゃんが出来た・・なんてことは 許しませんよ」。
茜は まだ 自分以外の人間に責任が持てるとは 思えないから。


―うっわ・・ 言うねえ ママ。

アタシ ちょっと ママに感動した。 ママってば いつも極楽トンボなくせに
いざとなったら きっちりコアなコトを言って来る。

だけど この瞬間。 ジュニはとっても自分勝手な勘違いをした。

「ママさん! あぁ・・もちろんです。 僕 絶対そんな事はしません!」
「ジュニちゃん・・。」
「僕 茜さんを すごくすごく大事にしています。」

本当です。 ジュニは ものすごく真摯な顔で言う。
そう? それならいいわ・・ママが言い ジュニは にっこり笑ってみせた。
―ああ・・・。
ジュニとママ。 今 お互い ものすごーくすれ違ってる。


“赤ちゃんが出来た・・なんてことは 許しませんよ。”


ママは  “赤ちゃんが出来るようなコトはだめ”  と言い
ジュニは “赤ちゃんが出来ないようにコトをする” と答えた。

2人の誤解の仕上げは ぴっかぴかの ジュニの笑顔。
一点の翳りすらない清潔さ。 純愛路線 この上ないイメージ。 
このアタシでさえ 一瞬 ジュニは女の子と Hなんかしないんだと信じた。



パパとジュニパパは 2人のやり取りを聞いて フクザツな顔していたけれど
ふん・・と 言ってあきらめる。
多分 アタシが付き合うといった時点で 反対は無駄だと思ったのだろう。
アタシはあんまり親を困らせない子だけど 言い出したら 聞かないから。



かくて アタシとジュニは 晴れて 親の認める仲になった。

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