ボニボニ

 

JUNI 23

 



ジュニに 金棒。


ただでさえ強引ペースのジュニなのに お墨つきをもらっちゃったんだもん。
誰はばかりなく“恋人でーす”に なったジュニは
あっけらかんと アタシにベタついてくる。

茜さんおはようと ほっぺにキス。 
TV前に皆で座れば クッションを抱える気安さで アタシを引き寄せて抱いて見る。
最初こそギョッとしていた両親も ジュニが てんで悪びれないので
いつのまにか 「その辺は・・アリ・・なのかな」って 感じになった。

ジュニ・・ あんた 恐るべし。 


だいたい ジュニのスキンシップときたら 対象は アタシ1人だけじゃない。

パパにだってハグするし ママにだって ほっぺにちゅーだ。
慣れた仕草でさりっとやるから 
そういう習慣の国の人だっけ?と 錯覚してしまう。


とりわけママには メイクラブまで快く許してもらった(許してない)と
思い込んでいるから それはそれは感謝と親愛の気持ちを 持っちゃってるらしい。

「ママさん お買い物ですか? 僕 運転しましょう♪」

アメリカの高校時代に免許を取った彼は ママの苦手な縦列駐車も すごく上手い。
いそいそスーパーについて行き 新婚の旦那みたいにヘルプする。
気がつくと ママと手をつないでいたりして ・・・ママの方が 慌てている。


でもママ。  慌てているけど・・ ちょっとおいしいと思ってるでしょ?
アタシは 知っている。
ママってば最近 顔にしかつけないクリームで ハンドマッサージしてるモン。

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それにしてもジュニパパって 結構 有名な学者さんなのかもしれない。

日本に滞在している事が知れると じゃかじゃか お誘いの声がかかってきて。
面倒臭そうな ジュニパパは それでもあちこちに呼ばれて行く。
そしてある朝ジュニパパは にっこり茜ちゃんも行こう と言った。

「アタシが ・・パーティに?」

「うん。 女性同伴なんだ。まさか 高坂の奥さんは横取り出来ないし ね?」
「でも パーティなんか行った事ないし 着ていく服もないよ。」

「ママのベアトップのチューブドレスなら たぶん着られるわよ。」
華やかなことに眼のないママが ウキウキした声で言う。
「茜も デビュタントの年齢よ。 いい機会じゃない 連れて行っていただけば?」


黒いベアトップのチューブドレスは 伸縮素材なので身体に合った。
だけどアタシはママより脚が長いから ずいぶん丈がミニに見える。

そのままじゃ大人っぽくなりすぎなので ベルベットのチョーカーを合わせて
仕上げに ちっちゃい黒のミンクファーをカフスにしたら
上品なバニーガールみたいに見えて えっへん! 我ながらカワイイじゃないの♪


でもジュニパパったら も・の・す・ご・く カッコイイ。

ダークグレーのディレクタージャケットに 薄いピンクのシャツ。
襟元にはシルバーグレーのアスコットタイ。
「うっわ・・・ ジュニパパ モデルみたい。」
「Wao! 茜ちゃんは プリティーなバニーちゃんみたい!」
2人で うきゃうきゃ笑っていたら ジュニがカンカンになって やってきた。


「アボジ! 茜さんとパーティ行くんですか? 僕も 行きます。」
「だめだよ ジュニ。 今日は 『女性同伴のオトナのパーティ』なんだ。 
 『息子』を同伴していい ファミリーパーティじゃない。」
「な・・!」

さあ行こう マイ・フェア・レディ。 ジュニパパは アタシの肩を抱いた。

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―・・・な・んか・・。 ちからいっぱい場違いだな アタシ。

ウェスティンホテルの会場は ホントの 大人のパーティだった。


皆 思いっきりおしゃれしていて 女性週刊誌で見るセレブのパーティみたい。
海外版の『ELLE』で見るような カッコイイ外人のおじさんとかもいて
ジュニパパに ハーイ!って 親しげに話しかけてくる。

アタシ 英会話は そこそこいい点だったけどね。
情けないことに 挨拶と自己紹介だけしかできない。
ジュニパパって やっぱエライらしい。 お会いできて光栄ですなんて言われてる。


そちらの可愛らしいかたは お嬢様ですか? 
「はっはっ 私はヤモメだからね。 息子の彼女を ちょいとかっぱらってきたんだ。」

渋いオジサマのジュニパパが そんな言い方するのは すっげー カッコイイ。
色っぽいお姉さんが本気っぽく 可愛いお邪魔虫がいて残念だわ~なんて言った。


アタシ ジュニパパの 女除けに使われてるな。

でもいいや。 初めての 大人パーティは ワクワクするほど 素敵だ。
不良のジュニパパが これ位ならいいだろうって
ちょっぴりキールを飲ませてくれて アタシは少しの酔いに ぽーっとした。


パーティが終わると いろいろ お誘いされていたけれど
ジュニパパは アタシを理由に断っていた。

「2次会 行かなくていいんですか? アタシ 1人で帰れるけど・・。」
帰りのタクシーの中で聞いてみる。 ジュニパパは ふふっと いたずらそうに笑う。
「こうやって断るために 茜ちゃんにご協力いただいたんだよ。」
「うん。 ・・・そうかなって ちょっと思った。」

茜ちゃんは 楽しかったかい? つきあわせて悪かったね。
「ううん! ハイ・ファッションをいっぱい見られたし すごく楽しかった。」
「ファッションに興味があるの?」

う~ん・・まあ。

「じゃあ ファッションについて学んでみたら?」
「だって アタシそんな才能はないし。 ・・ただ 好きなだけ。」
「ふうん・・。」


あのね 私の友達に天才的な科学者がいるんだ。
私は 彼より沢山の研究を発表していて 博士としてずっと有名だ。
「・・だけど 才能という点では その友人の方が ずーっと 上なんだよ。」

茜ちゃん。どんな道でも 才能のある人が結果を得るわけじゃないんだ。
「じゃあ どんな人が?」
「“やろう” と思った人。 
“やりたい”と思い続けた人が どんな形であれ 結果に届くんだよ。」

茜ちゃんはまだ若い。 やりたい事が見つからなかったら 何でもいいから 
好きなものの方へまっすぐ歩いていけばいい。 きっと 何か見つかるからね。
「茜ちゃん。 ジュニに 人生を引きずられては だめだよ。」
「・・・・パパ。」


私は 怖いんだ。 君が ジュニの激情に 飲み込まれてしまうのがね。
引きずられて一緒になっても そんな仲は いつか壊れる。
「その時が 私は 怖い。 ジュニは 君を失なう事に 耐えられる奴じゃないから。」
「・・・。」


親バカだね・・。
ジュニパパは ちょっと寂しそうに笑った。

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帰宅すると 案の定 我が家のリビングでは 
ジュニが 門限にうるさいオヤジみたいに 仁王立ちで待っていた。

ジュニパパともつれるように ただいま~と部屋に入ると
ジュニの眼が ファーのハーフコートから出たアタシの脚を 刺すように見る。
「アボジ! 茜さんを いったい何時まで連れ歩くつもりです?!」

さすがに 相手が自分の父親だから 抑えているけど
ジュニの肩に ちろちろ 氷の焔が見える。
「さあ もう 返してください!」
ジュニが アタシをぐいっと引く。
ジュニの剣幕にも知らんぷり。 そらっとぼけて ジュニパパが言った。


「ジュニ・・・ 茜ちゃんを 閉じ込めるなよ。」


自分だけを見るように 周囲を見ないように そんなことは絶対するな。
そんな風に引き止めれば いつか茜ちゃんに 魅力的な世界を見せる男が現れる。
「そうすれば 茜ちゃんは 飛んでいってしまうぞ。」
「・・・・。」

「・・・茜ちゃん? 楽しかったかい?」
突然 ジュニパパが聞く。 うん とても楽しかった。
「茜ちゃんはまだ17だ。 羽ばたく翼を折るような 愛し方はするな。」
「・・・・。」
「それが出来ないなら 婚約なんか辞めちまえ。」

じゃあな・・。
ジュニパパは 着替えると言って 客間に消えた。


ジュニ? なんか・・ちょっと 凹んでる。
「ジュニ・・」

「茜さん?」
「うん。」
「・・・・楽しかったですか?」
「う・・ん。」

ジュニの切なげな眼が じいっ とアタシを見る。
「茜さんが 楽しかったなら ・・・良かったです。」
その服 とても素敵です。
「僕も そんな茜さんを連れて 出かけたかったな。」
「ジュニ。」


きょろ・・

アタシは ママをチェックする。
ジュニパパもアタシも帰って来たので ママは もう寝室に引き上げたみたい。
ぴょんっとソファに飛び乗る。 ジュニ こっちに来て来て。
「どう・・し・・?」
「ん・・。」

ジュニがいつも アタシにするみたいに 頬を包んでキスしてあげる。

「楽しかったけど アタシね まだ少し 場違いだったよ。
 いつかアタシが大人になって ママの借り物じゃないドレスを着るときは 
 ジュニがエスコートして 連れて行ってね。」

ジュニは ぱっちり眼を見開いて それから微笑んでぎゅっと抱きしめる。
今だけアタシの背が高いから 抱き合うと ジュニの顔がアタシの胸の高さになる。


「こんな・・ えっちな胸元で 出かけちゃだめです。・・茜さん。」
ジュニが ぷーとふくれ面になる。
「もっと すっごい胸元の開いてる カッコイイおばさんとかいたよ。」

「肩も腕も まるっきり 裸じゃないですか。」
「カフスはあるじゃん ミンクファーだよ。」
アタシのウエストを抱き寄せて 胸に顔を埋めて ジュニはぶつぶつ拗ねている。
「こんな可愛い恰好で 男がうようよいる所に・・・行くなんて。」

アボジは貴女を  閉じ込めるなと 翼を折るなと言うけれど。
「僕は心配で 心が・・・ちぎれそうです。」
「ジュニ。」


大丈夫だよ・・。 言葉のかわりにキスしてあげる。

「こんなにえっちな茜さん 僕の部屋に 連れ帰りたいな。 ・・いけませんか?」
今日は疲れたから もう 寝たいよ。

明日終業式だから 午後は行ってあげる。 そう言うと ジュニが嬉しそうに笑った。
「じゃあ僕 今夜は“必死で” ・・・我慢します。」
また明日ね とアグアグ ジュニが胸を噛む。
「いつもと ・・感触が違います。 この胸 ちょっと偽装ですね?」



うるさいな ヌーブラだよ! アタシはぷりぷり。

やっぱり明日は行かない と言うと ジュニが ものすご~く慌てて 謝った。

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