ボニボニ

 

JUNI それからstory 8

 




撮影から10日たって  アタシは 原宿のオフィスに行った。


オフィスではタカミさんが ジュニのプリントと ポジを何枚か用意してくれていた。
「わあ・・。 ポジまでもらっちゃって いいんですか?」
「えぇ これはBポジ。 使わない奴だからいいの。 プリントしたのが 採用分ね。」



四つ切サイズに焼かれたジュニ。

1枚は 獣じみた身体をシャツの胸元から覗かせて 氷の眼で 正面から睨みつける。
もう1枚は 子どものようにポケットに両手を挿して あはは・・って ぴかぴかの笑顔。

「すごいわよね。 同じ人間よ コレ。」



ジュニ君って・・・ いろいろな意味で 遥かに想像を超えたわ。 

「私。  茜ちゃんには 本っ当に 感謝してるの。」

タカミさんってば 外人さんがするみたいに 眼をつぶって 大きく顔を振る。
いい『宣材』が出来たから 冬物のプロモーションが 楽しみよ。


少女のように頬を紅潮させて タカミさんは ものすごく嬉しそうだ。
きっとこういう人を“クリエイター”って 言うんだろうなあ・・。
自分のしたいことに まっすぐで 一所懸命な人。 
キラキラしたタカミさんの笑顔に アタシもつられて 楽しくなった。


「ところで・・ べた惚れジュニ君。 今日は一緒じゃないの?」

お礼に 彼にも夏物の新作を用意したのに と タカミさんは残念そうだ。
「ジュニ・・は 今は東京にいません。 神岡の方へ行っているから。」


「へえ? 宇宙・・素粒子研究・・・?」

「あのぉ・・。  アタシ あんまり頭良くなくて ジュニの研究について 
 詳しくはわからないから それ以上は 聞かないでください。」
あっはっは。 タカミさんは 豪快に笑う。
「聞かせてもらえたって 私のほうが でーんでん わからないわよ。」

「えへへ・・。」
飾らない人。 アタシ タカミさんが けっこう好きかもしれない。

「じゃあ ジュニ君ってエリートなのねえ。 天は 2物を与えるって訳か。」
タカミさんは上機嫌。 2本指でタバコを立てて ぷーっと 煙を横へ吹いた。

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やったー!

Humpty の夏物だ。
タカミさんが 茜ちゃんにはコレって 選んでくれた。
すっげー可愛い リネンのトップス。
ジュニのもらった シャツとは 同じ雰囲気で ・・・さりげなくペアっぽい。

いいなあコレ。 夏休みになったら 2人でこれを着て 
「お出かけなんか したいなあ。」



「よく似合いますよ。 でも 普通のデザインみたいですけど?」

モニター向こうのジュニの奴ってば。 まったく なんたる罰当たりなことを。
アタシはジュニの部屋のPCで 神岡のジュニと ビデオ・チャットをしている。

「わかってないなあ・・。 さりげないけど この襟と袖の感じとか。 可愛いじゃ~ん。」
「すみません。 僕 ファッションのことは 全然わからないです。」

まあ いいや。 このシャツ きっとジュニに似合う。
「宅配便で送ろうか?」
「神岡は まだそんなに暑くありませんよ。」
でも 茜さんごとなら 送って欲しいですって  ・・・バカだよ。

小さなビデオモニターの中で 小首を傾げて笑うジュニ。
ちょっと照れながら見つめていたら 画面の向こうが いきなり乱れた。
「・・・めて・・ださい!・・ったく・・・!」
「ジュニ? ジュニ?  どうしたの?!」

地震かな!?
思わずウィンドウを覗きこんだら  ・・・ヒゲのおじさんが 画面いっぱい。


ぎゃあ!

「きゃー 可愛い! 茜ちゃんだ! 愛してるよ~! ブチュッ~~~~!!」
「げ・・・。」
「三浦さん!!」
・・・どうやらジュニの部屋は ヒゲの三浦さんに襲われたらしい。
切れ切れの言葉。 動きについていけない音声と映像で 2人がバタバタもみあっている。



“・・じゃねえか・・るもんじゃなし・・めです!もう!・・・てくださ・・・!”

「・・・楽しそうじゃん。」
ポリポリポリ・・。 
アタシは椅子に体育座りをして 歌舞伎揚げをかじりながら モニターを見つめていた。

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ごちそうさまー。

ちょっと 茜! どこ行くの?!
「ジュニの部屋・・。」
「まあ。 また ええとあの・・ビデオチャットとかを しに行くの?」
まったく いいのかしらいつもいつも。 よそ様のお留守に 部屋に上がりこんで。

だってジュニが そうしろって言うんだよ。 
「アタシ 時々 お掃除だってしてあげているもん。」
茜の いい加減なお掃除なんか あてにならないわよ。
「あ! そうだ! ママが今度一度 ちゃんとお掃除してあげようかしら。」

げ・・・!

「ママ?  多分 それはジュニ。 すご~く嫌がると思う。」
「そぅお~?」
「絶対!!」

絶対 それだけは止めて欲しい。
アタシはママに マジで釘をさして ジュニの部屋へと駆け出した。


『JUNI・kamiokaさんを ビデオチャットに 招待しました。』
『JUNI・kamiokaさんは ビデオチャットを 承諾しました。』
モニターに メッセージがタイプされて ビデオビューアが 画像読み込みを始める。

「・・・・ジュニ?」
「やっほー! 茜ちゃ~ん♪」


うわ また・・。 ひげオヤジ。
「三浦さん。 またジュニの部屋に 遊びに来ているんですか?」
「ごめんねー。 でも大丈夫よ茜ちゃん。 俺には“モーホ”の趣味はないから イヒヒ。」

もちろん俺の好きなのは茜ちゃんだよぉなんたってぴっちぴ・・・ 


なんだよおと 文句を言う三浦さんの身体が ジュニに押されて消えてゆく。
バタン! と派手にドアの閉じる音がして やっとジュニが現れた。
「今夜は 約束より早いですね。」
「・・・まずかった?」

優しいまばたきを ゆっくりひとつ。 ジュニが ふんわり愛しげに笑う。
「茜さんが 僕に会いに来るのに まずいタイミングなんかありません。」

ジュニは モニターを布でコシコシ。 チュッと画面にキスをする。
「三浦さんと 間接キスになるんじゃない?」
「あれから よーくモニターを拭きました。 まったく 冗談じゃないです。」

仲がいいね。いい先輩なんでしょ? ええ あれでも研究姿勢のしっかりした方です。
「・・・僕は今 あの・・彼の論文を お手伝いしています。」
「ふうん。 あ! そうだ!ジュニ! ・・あのね。」


ママってば!  ひょっとしたらジュニの部屋を 勝手に掃除するかもしれないの。

この部屋に ママに見られてまずいもの あるでしょ?
「いいえ? そんなものは ありません。」
「あるじゃん! その ほら・・コンドー・・さんとか。」
「ええ。 それはありますが 別にまずくはないでしょう? 生活用品です。」


ああ・・・ジュニ。 あんたその辺 天然だった。

「とにかく・・それ どこにある?」
ママが 見ないような所に 置いておこう。

ジュニの大きなイタリア製のベッド。 ヘッドボードにキャビネットが付いている。
「なるほど・・。 こんなところにあったのか。」
それでいつも 準備が出来てるんだなって  アタシってば 何を感心してんだか。 
「うわ。」
扉を開けたら ジュニらしく きちんと並べられたパッケージ。 でもこれ・・
「ジュニってば。 こ・・ こんなにいっぱい持ってんの~?!」


机の引き出しにしまおうっと。
ママって奴は あれで結構性格がいいから 人の引き出しを勝手に開けたりしない。
ゴソゴソ箱を取り出して 一番下の引き出しを開ける。

引き出しの中は がらんとして ファイルが4,5冊立ててあるだけだった。
「ここに置いて・・と。」
ファイルの後に パッケージを並べて片付ける。
これなら万が一引き出しを開けても 探さないかぎり 見えないね。

ガタガタやっていたら ファイルの中に ちらりとアタシの顔が見えた。

「ん・・・? 何よコレ?」
思わずファイルを開いてみると アタシを撮った写真のプリントアウト。
みんなA4に大きくして ファイルに収めている。

「げ・・・ これ 神岡のPCに入ってた奴じゃん!」

ジュニ・・・。 頼むから ヒトの裸は勝手に撮らないで欲しい。
あのきれいな顔で うふふって アタシの こんな写真を見るのかなあ・・。
「ああっ こんなのもある! もー! ジュニって ストーカー並みだよ! まったく。」
アタシは何してたかも すっかり忘れて ファイルをぶつぶつめくってゆく。

最後のファイルポケットに 封筒が1つ 入っていた。


ドキン・・・
何故だか 胸が大きく鳴った。 何の 手紙?
まっ白な封筒。 でも 上質な紙を使っている。
「女のひとからの 手紙・・・?」

じーっと ファイルポケットをにらんで  アタシ きっと10分間は 固まってた。
それから 身体全部の力で ぱたんとファイルを閉じて 
引き出しを そっと 元に戻した。


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ジュニは アタシを愛してる。


それを 疑うつもりはない。
あの手紙が 誰かからのラブレターでも ジュニがその人に 応えることは ないんだ。

だけど・・さ。

どうしてジュニは そのまま手紙を 取っておいたのかな。
バレンタインのチョコについてた 山ほどのカードやお手紙は
すみませんと言いながら 端から処分していたのに。



どさりと ジュニのベッドに 寝転ぶ。

ジュニの匂いがしないかと 枕を抱いてみたけれど 
綺麗に洗濯された寝具からは うすく 石けんの香りしかしなかった。
「ジュニ。 ・・なんだか ちょっと反則。」

ジュニの机の 一番下の引き出し。
黒くて スタイリッシュなファイルの中に 手紙が1通 眠ってる。
「気に しないんだ。」

離れて過ごす時間が多いアタシとジュニなんだから
そんなことを気にしたら 距離が ・・・切なくなってくる。


「全然 気にしないんだ。」 

うそつき茜のひとり言。
アタシは ぎゅっと枕を抱いて カバーでこっそり涙を拭いた。

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