ボニボニ

 

JUNI それからstory 10

 




灯りを消したのに 部屋の中が ぽう・・と 明るかった。


なんでだろう?   窓の外をながめると 天空に おっきなお月様。
ここは ホントに宇宙の研究をする場所 なんだ。 
星も 月も 信じられないほど近い
ベッドにもぐって 夜空を見ていた時  カチ・・と 小さな音がした。

廊下からもれた 蛍光灯の光に  一瞬 室内が闇へ沈む。
見慣れた影が静かに部屋を移動して ジュニは ひっそりと横へすべりこんできた。



「・・・・。」

なんにも言わない大きな手が  アタシの頬を 確かめるように撫でる。
そっと柔らかく触れる指が 心配そうに 目元をなぞって行った。

「泣いてなんか・・ いないよ。」
「茜・・さん。」  甘く かすれた ジュニの声。

顎を支えて キスをひとつ。 すごく 会いたかったです。
「寂しかったですか?」
茜さんが1人で泣いているかと思うと 僕 気が狂いそうでした。



― 本当に ジュニは 狂いそうだったよ。

不思議なものを見るように ジュニは アタシの頬を撫でる。
彼の腕に交差するように下から手を伸べて ジュニの頬に触れてみる。
そげた頬。 ずいぶん やつれたね。  どうして そんなにも 思いつめるんだろう。
アタシには ジュニの強すぎる愛が ・・・すこし 苦しい。


「今日 ここへ来たのはね 三浦さんに呼ばれたからだよ。」
「?」
「アタシに早く会おうとして ジュニが ・・・倒れそうなくらい無理をしているって。」
は・・と ジュニはため息をつく。 なんだ そうでしたか。
「僕は 平気です。」


・・・平気じゃないよ!  アタシは 心の中で叫ぶ。
ジュニには 自分の危うさが 見えていない。

ベッドの上へ身体を起こして ジュニは 思いつめたようにシャツを脱いだ。
いつもなら アタシを怖がらせないように 最後にそっと服を脱ぐのに。
まだ少し 気が立っているのかな。 アタシを見る眼が 硬くて ぎこちない。
「抱いても いいですか?」



青い 薄明りの中で ジュニの顔がはっきり見える。
凶暴なほどの筋肉が 星明りを浴びて なめらかに光っている。

ジュニの裸って 怖いけれどきれいだなぁ・・。

なんだかぼうっと見とれてしまって 言葉がうまく出てこない。
ジュニはアタシに馬のりになって 怒ったようにパジャマを 脱がせて行く。
途中でちょっと手を止めて おずおずと アタシの機嫌をうかがった。

「茜さん・・?」

シーツに埋まって見上げたら ジュニの向こうに 窓いっぱいの銀河。
いっぱいの。  精一杯の アタシのジュニ。

アタシは 何だか切なくなって ジュニの首へ腕をまわした。

-----


久しぶりに会ったジュニは 気持ちと身体が もつれている。

キスもしたいし 愛撫もしたくて  どっちも 我慢が出来ないんだ。


んくんく吸われて 気が遠くなりそうなアタシへ  夢中で指を差し入れる。 
舌を使いながら もどかしげに出し入れするものだから
アタシは酸素を吸いたいのに  あぁって 息を吐いてしまって。 

もぅ! ジュニ!  ・・・それじゃあ アタシ 死んじゃうよ。
  
「・・や・・!・・。」
雨みたいに降り注ぐ愛撫から逃げると ジュニが 慌てて追いかける。
「茜さん!!」
アシカみたいにツルンとすべって ジュニの身体を逃れたけれど
ジュニの大きな腕が追いかけてきて アタシの両手を シーツへ磔にした。

「嫌なんですか!?」
「息 が 出来ないよぉ。」
「え?」
ジュニの肺活量いっぱいまでキスされたら アタシ 酸素不足になっちゃう。
「あ・・?  それで・・逃げたんですか。」

そうか って。正気にかえったようなジュニ。
申し訳なさそう。  アタシの上へ腹ばいになって。 ほっぺが 少し赤い。


「・・僕を 好きですか?」
「好き。」
あーん と ジュニにキスをねだる。 今度は もっと優しいのにして。
ジュニは ぱあ・・っと 笑顔になる。 大事そうに アタシを抱いてキスをする。
大きな身体が強くしなって アタシの身体を縫っていった。
「・・ぁ・・・・・。」

はぁ・・ と  満足そうなため息。
茜さんは大丈夫かな? ジュニが腕の中を覗くから アタシは うっとりしてみせる。
「こうしたくて・・・。 僕 幻覚を見るほどでした。」

「茜さんは?」
・・・もぅ、ジュニ。
「あ・か・ね・さん は?」
アタシは真っ赤になっちゃったけど ジュニは 絶対 聞きたいみたい。 
「アタシも・・。」

は・・と また息をつくジュニ。
ジュニとアタシ。  やっと今 星夜の中で とても幸せな1個になった。

-----


ジュニは しっかり挿しこむと アタシのほつれ毛を指に巻いて 口づける。
「・・僕。 あの夜オンマと一緒に 一度 死んだのかもしれませんね。」


ひとり言のような ジュニのささやき。
アタシの中へ入った途端に ジュニの焦燥が 嘘のように消えた。


「茜さんは 失われてしまった僕を拾い集めて もう一度 生き返らせてくれました。」
僕は・・・ たぶん あの時から 
“茜さん”というパーツがなければ 成立しなくなったのでしょう。


見上げると ちょっとぎこちない ジュニの笑顔。
アタシの胸が  愛しさに きしむ。

ねえ ジュニ。  あの日 壊れたジュニを直すために 
アタシは 自分の何かを ジュニへ 詰め込んだのかもしれない。
だから ジュニから離れると こんなに 寂しくなってしまうんだよ。

ちょっぴり壊れてしまったジュニと  意地っ張りで寂しがりやのアタシ。
だけど アタシたちは こうして抱き合うと
完璧な細胞みたいに 欠けのない まあるい1個になれる。

「・・・動いても いいですか?」
すっかり落ち着いたジュニの声に こくん とうなずく。
ジュニは キスをひとつしてから アタシを抱いて泳ぎ始めた。



「・・・あ・・・ぁ・・あ・・・。」

喘いでしまうアタシの唇に ジュニの一本指。 茜さん? 大きな声はだめですよ。
ずるいんだから。 声をたてるなって言うくせに 
指をかんでこらえたら いそいそと 外していく。
「も・・ぉ・・・。 ジュ・・ニが 声・・出す・・なっ・・て・・。」

「ふふ すみません。 やっぱり 茜さんの甘い声を 聞きたいです。」
隣の宿泊室、さっき見たら空室でした。 少しくらいの音は 平気です。
大きな声が出るなら 僕がふさいであげますから ・・・感じてください。

そのままジュニに揺り上げられて  いくつも いくつも 泣き声をあげる。
アタシの背中が反る分だけ  ジュニが のめりこんで来る。
「・・あ・・あ・・あ・・・!」

「行ってください。」
身体の下で アタシが猫みたいな声を出すたびに ジュニは にっこりと微笑む。
うふふ 茜さん。 気持ちいいですか?  素敵な顔をしています。
笑顔のジュニが なんだかすごく得意そうで  ちょっと 口惜しい気持ちになる。

でも 最後だけはジュニのびくびくが先で  アタシは それが嬉しかった。

-----


アタシの背中には ジュニの胸。 

荒い息をゆっくり戻しながら 肩先に ジュニの唇を受ける。
ジュニは 背中から差し入れた手で うっとりと お腹を撫でている。


恍惚とした 空っぽの時間に   突然 小さな棘がちくんと刺さった。

『封筒』

“どうしてジュニは あの手紙を 取っておくの?”
疑り深い女の言葉。 アタシは 自分の醜さに慌てて 顔をそむける。
愛されて まだ そんな事が気になるなんて。  ・・欲張り。

「茜さん。  僕だけの ものですよ。」
“ジュニは?  ジュニはアタシだけの もの?”
もう こんな事 考えたくない。 


「・・?」
頬を寄せて 怪訝そうなジュニの声。
「何だか 変です。 どうしたのですか?」
「・・・・・・・。」
アタシの身体を 自分へ向けて 覗きこむジュニ。  優しい瞳が 戸惑っている。
「言ってください。 何か ありましたね?」


「・・・・・。 引き出しのファイルに・・手紙があったね。」
「手紙?」
 ああ!   口に出した言葉を破り捨てることができたら どんなにいいかな。
後悔のメガトンプレスに アタシは 潰れる。 
こんなこと。 本当は 言うつもりじゃなかった。

言葉をゆっくりと咀嚼して やがてジュニは 眼を閉じる。
「心配したんですか?」
「・・・・。」
「茜さん?」
「・・・・ちょっぴり。」

困ったような笑いを浮かべて ジュニは 掌でアタシを招く。
「ここへいらっしゃい。」
いらっしゃい 茜さん、抱いてあげます。  有無を言わせない 強い声。 
ためらいながら 胸をすべりあがると ジュニの微笑に抱き取られた。

柔らかなキス。 こめかみで ジュニの唇が温かく動く。
筋肉こぶこぶのたくましい腕が アタシをしっかりと包みこむ。


ゆっくりと。 まるで想いを擦りこむように ジュニは アタシを撫で続ける。
ただじっと 撫でるだけで  ひと言もジュニはしゃべらない。
だけど 肌と肌を通して ジュニの愛が 温かく沁みてくる。



“僕には 『他』 は ありません。”
 
だからこそ たった17の茜さんを奪いました。 必ず 一生愛し続けます。
「・・証拠が 欲しいですか?」
いたずらそうな声音だったけど  アタシは ざわ と鳥肌が立った。

アタシが 証しを欲しがれば ジュニは平然と腕だって切る。 
死ぬことさえ ・・・たぶん 躊躇しないんだ。
ひりひり尖ったナイフを隠して ジュニは 静かにアタシを見る。
「信じられませんか?」
アタシは ううんと首を振った。 そんな瞳。 信じることしか 出来ないじゃない。


「ただ不思議だったの。 ジュニがどうして 手紙を取っておくのかなって。」
これは 焼モチだね。 ごめんなさい。
「茜さんに 焼モチを焼いてもらうのは 少しだけ嬉しいです。」

手紙を放っておいたのは 不用意でしたね。   読みましたか?

「読んでいない。 ・・・でも あれ 女の人からの手紙でしょ。」
抱きしめて 小さなキスをおでこにひとつ。 ええ 女性からです。
「もう・・ 聞かなくて いい。」
「だめです!」

逃げないようにアタシを抱きなおして ジュニはくり・・と 耳たぶに歯を立てる。
ちゃんと説明しますから聞いてください。 もっと 早く言えば良かったですね。


「香織さんと言います。 食堂のおばさんのお孫さんで・・たまに お手伝いに来ます。」
「・・・。」
“ジュニは 茜ちゃんが好きなんだねえ・・。”
何故か 苦しそうに言った人。 きっとあのおばちゃんの お孫さんだ。

「とても優しい方です。 お断りする時 申し訳なかったです。」
研究所で手紙を捨てては彼女に知られそうで ファイルに入れて持ち帰りました。
「東京で 処分するつもりでしたけど・・ つい忘れていました。 ごめんなさい。」

でも それだけです。 茜さんが気に病むようなことは 何もありません。


お腹の上に乗せたアタシを ジュニは ずっと撫でている。
ジュニとアタシの胸が ぴったり合わさって 互いの鼓動を伝えあう。

茜さん。  これからは そんな心配をしてはいけません。
「不安があったら いつでもまっすぐ 僕に 聞いてください。」 
一人で・・・。  僕のいない所で 心を揺らすのは 絶対にだめです。
僕たちは離れている時間が長いのですから 会話をためらうのは止しましょう。


わかりましたね? 茜さん。  ジュニが 真顔で覗きこむ。
「僕は 茜さんだけのものです。 忘れないでください。」
「・・・ん。」

アタシのわだかまりが恥ずかしそうに崩れて さらさらと 夜に流れていく。
格好のつかないアタシは ジュニの胸に顔を伏せる。
小さくふっと笑ったジュニは くしゃくしゃと アタシの頭を抱いた。

-----


「・・・ねえ 茜さん。 もっと 愛し合いましょうか。」

だめだよ、ジュニは疲れてるんだから。 もう 眠らないといけない。 
「せっかく 東京から来てくれたのに。」

「もう寝ようよ。 アタシ別に こういうことはしなくてもいいの。」
ジュニは 困った呆れ顔。 ・・僕は どうしても こういうことをしたいです。



「充分できないと 今夜も 眠れないかもしれません。」
「そんなこと言って・・・。 脅迫する気だな?」
「懇願 と言ってください。」

こ・の・悪魔。 なんでそんなに 日本語が上手いんだ? 
懇願なんて言葉は知らないよって 毛布へ逃げてみたけど
満面笑顔のジュニに ずるずると引き出される。

「あのね ジュニ。 睡眠不足は 身体に毒だと思うよ。」 
「愛情不足は もっと毒です。」
すっかりジュニはいつものペースで アタシは ぷっと吹き出してしまう。
笑っちゃったら OKと同じ。 ジュニは いそいそかぶさってくる。



そうか 星って 動くんだったね。

ジュニの後でまたたく星座が さっきと違う顔をしている。
今夜は きらめく銀河の中で ジュニに抱かれているみたい。

「愛しています。 ・・茜さんも?」
「ん。」
うん ジュニ。 銀河で一番 ジュニが好き。
「・・すごいスケールですね。」

“天文学”級だよと言ったら サバ折りかってほど 抱きしめられる。
アタシは 宇宙へ落っこちないように しっかり ジュニにしがみついた。

 ←読んだらクリックしてください。
このページのトップへ