ボニボニ

 

JUNI それからstory 13

 




「知っていますよ。 僕が 許可しました。」


ビデオ・ビューアの中のジュニは それが?と 涼しい顔だった。
「知ってる?」
「はい。」

僕 アメリカでもモデルとか ・・たまに 断れない話がありましたから。
あちらは肖像権意識がきちんとしていますので 僕も色々と学びました。
「撮影をする前に タカミさんとは 契約書を交わしています。」


し・・知らなかった。

ジュニはポスター撮りの前に 自分の画像の使われ方について
細かく規定した契約書を Humptyと交わしたのだそうだ。
バイヤー向けカタログと ポスター以外での使用をしないこと。
活字メディア・電波媒体・ウェブサイト等、各媒体に載せて 画像を露出させないこと・・。

「ラフォーレの店舗が ディスプレイに僕を使いたいと言って来た時、
 タカミさんから打診が来たので それだけは 特別にOKしたんです。」
「どうして?」
「?」

いけませんでしたか? ジュニは 不思議そうに首を傾げる。
「ラフォーレのイン・ショップだからです。 茜さん 好きでしょう? ラフォーレ。」
「・・それだけで?」

勿論です。 茜さんの為にだけ 受けたことですから。
何を今更・・と ジュニは 興味なさそうに言った。


「それで? ポスターは 気に入りましたか?」
「うん・・。 すっげ カッコよく写ってるよ。 見る?」
「遠慮します。」

茜さんの写真ならともかく。 自分の顔なんか 見たって面白くも何ともありません。
つん とジュニは眼を閉じる。
「あぁ僕も 茜さんの可愛いポスターが欲しいな・・・。 あ! そうだ。」

今度帰ったら 茜さんの撮影会をしましょうって
ジュニってば いきなり機嫌が 良くなっている。

うふふ・・と。  悪魔の企みをしている顔だね それは。
「ヌードなんか 撮らせないからね 絶対。」
「・・・・・・何でわかったんですか?」

わからいでか。  アタシだって 学習するんだ。

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ジュニが ラフォーレの壁面を派手に飾ったということは
友達の間で ちょっとした話題になった。

ばっかでェ 茜! ジュニは あんなにカッコいいんだよ?! 
速攻ゲーノー界から スカウトが来るに決まってんじゃん。
美咲と真由の2段攻撃。  ・・・何だか アタシ 立ち上がれないデス。

「“君なら すぐにでもデビューだっ!”」
「“婚約者? そんなものは 人気の邪魔だ!! すぐに別れなさい!”」
「ジュニの苦しい下積み時代を支えた『下宿家の娘』。」
「独占手記!! “私は ジュニに捨てられた”・・・」


この2人ってば もう すっかり図に乗ってる。 大体「下積み」ってのは 何よ?
順番に中刷り広告をやってくれちゃって。 アタシは ブーとムクれてる。
・・・だけど 真由達の言うことは  確かに 自分の心の中にも あるんだ。



♪♪・・・♪

携帯メールの着信音。 あれ? ジュニの音だ。
パコンと開けて覗きこんだ途端 アタシの心拍数が 150を超えた。


『もう下校でしょう? 早く 出て来なさい。』

早く「出て」来いって・・この文面・・・。 
ガタンッ!!
「ん?」「お? 茜 どうした?」
どこ行くんだあぁぁぁ!  自暴自棄に なるんじゃないぞおぉぉぉぉ!

後に 飛んでゆく真由達の声。 アタシは 鞄を引っつかんで 校門を目指す。
げ・・・。 50m先からでも ばっちり見える。
ジュニってば あんた 校門の真正面だよ。



「茜さん!」

嬉しいけどね。
・・・でも その 大きく広げた腕はナニ?

「できるか。 校門の真ン前だよ。」
「だめですか?」
退学になっちゃうでしょ。 ウチはこれでも お嬢さん学校なんですから。

ジュニは きゅっと 素敵に笑うと 広げた腕をそのまま頭の後ろで組んだ。
あーぁ僕は ご両親の許可もいただいた 正式の婚約者なのになーって
ジュニってば 声が・・・ すごく大きいよ。

「さあ 早く帰りましょう。 僕の部屋へ♪」

お夕飯前に “ただいま”をね?  ジュニは わくわくまとわりつく。
バイトがあると言った途端に 奴の笑顔がフリーズした。
「聞いていません。 バイト?」
「あ・れ? 言ってなかった ・・・っけ?」

ちょっと アタシ トボケきれなかったかもしれない。
黙ってしまったジュニが 怖い。
「高校生に お金は無用です。」
「・・・・だって 飛行機代とか・・かかるもん・・。」
「あ!」


そうでしたか・・。 ジュニの指がすうっと伸びて 優しく髪をかきあげる。
「僕の ために?」

切なげで 愛おしそうな 半分笑い。
ゆっくり髪を撫でた手を 頬にまわして包み込む。  あ・の・・ジュニ。 だめ!
「キ、キスは だめ。 校門から まだ5メートルだから!」
「はい。 ・・あぁ 拷問みたいです。こんなにそばにいるのに。」

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バイト先がHumptyだと言うと ジュニは ついて行くと言い出した。

「嫌だよ。」
「どうして?」

そりゃあ タカミさんに会えたのも Humpyが雇ってくれたのも 
確かにジュニのお陰なんだけど。
「でもこれは  アタシの バイトだもん。」
「・・・・・。」

ジュニは じいっと アタシを見る。 身体全部をスキャンするみたいな眼。
最後にふっと柔く笑って 気をつけてと頭を撫でた。



“えー? ジュニ君が帰ってきてるの? 会いたかったな。”

今日の仕事は バイヤー向けの展示室へ 商品の陳列。
タカミさんに言われるままに ショップ風に作ったブースへ服を並べてゆく。

何で連れてこなかったのぉって タカミさんってば心底残念そうだ。 トホ。
アイツが来るとお邪魔だと思ったんだけど。 余計な気づかいをしちゃったみたい。
「じゃあ・・ 今度 連れてきます。」

そう だよね。 
アタシはもともとジュニのオマケで そこに 存在価値があったんだ。
わかってはいた現実だけど アタシは  ちょっぴり傷ついた。

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久しぶりにジュニがいる 夕食のテーブル。

あいつはすごく手が大きいから ご飯茶碗がちっちゃく見える。


ジュニのお茶碗の持ち方は ちょっと独特。
親指とお兄さん指と薬指、 三本指で お茶碗を持ち上げて・・
時々 肘もつくんだよ。 

ママってば 食事中のお行儀に関しては もんのすっげーやかましいくせに。 
ジュニには甘々。 いーっぱい食べてねって デレデレと念を押している。


「神岡で星の写真を撮りましたよ。とても綺麗です。 後で 部屋へ見に来てください。」
ジュニがアタシに笑いかける。 星の ・・写真?

夢みたいにきらめいて見えた 窓いっぱいの星を思い出す。
ねえ ジュニ?  ジュニもあの時 銀河の中で 抱き合ってるような感覚だった?
「うん。 じゃあ ご飯の後で行こうかな。 ママ いい?」

「あー だめなの。 悪いけどママ出かけるから 茜達は家にいて。」
「出かけるの?」

町内自治会の会合なのよお。パパが帰ってくる時間までに戻れるかしら って
ママはバタバタ身支度をする。 もしも ママが間に合わなかったら 
「茜 パパのご飯をお願いね。」

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はああぁぁ・・。

もどかしそうなジュニのため息。 脚の間にアタシを抱いてじれている。
せっかく 茜さんの元へ戻れたのに。 ねえ? 2階へ 行きましょう。
「だぁめ。 お留守番だもん。」


アタシは チャンネルをピッピッと変える。 どの番組も 眼に留まらない。

・・・だって ジュニってば おっきなワンコみたいだ。 
クンクン寂しそうに喉を鳴らして抱きついてくる。 ねぇ 吐息がうなじに熱いよ。

「2階に行きませんか? 少しだけ。」
「だ・・め・・・だよ。 パパが帰ってくるかもだから 待っていなくちゃ。」
「パパさんは!  ・・・いつも こんな時間には帰らないです。」
アタシ 耳まで真っ赤だな。  奴の悲しげな眼が 見られない。


結局 ジュニに負けちゃって ちょっとだけ って2階へ行った。

アタシの部屋に入ったら ジュニはワォ・・と 小さく叫んだ。
ベッド横の壁に2枚。 でっかいHumpty Connectinのポスターが貼られている。
ジュニは うぅむと腕組みをして ポスターの前へ仁王立ちした。

「いいなぁ。 毎晩 茜さんの寝顔が見られて。」
くるりと身体を返したジュニは アタシの手を取って 抱き寄せる。
「ポスターが手に入って 嬉しいですか?」
「う・・ん。」

嬉しい。 だけど 少し悲しい。 ジュニが 遠くへ行ったみたいで・・・。

ジュニは ふん と不満げだ。
「だけど “本物の僕”の方がずっといいです。 そうでしょう?。」
え・・?
筋肉こぶこぶに閉じ込められて 胸の中からジュニを見上げる。 
ちょっとムクれて 顎を上げて。 ポスターの自分にまで 妬いているの?

えへへ・・。
何だか 急に嬉しくなる。 そうだよね。 「アタシのジュニ」はここにいるじゃん。
ポスターの中の彼じゃなくて  この温もりだけを 信じればいい。



ねえ・・ 茜さん。

スカートの裾から ジュニの熱い手が腿を撫であがって もじもじ下着に触れている。
今日はどうしても どうしても どうしても。  「僕 欲しいです。」

パパが帰って来たら 困るから。
「今日はだめ」って 言おうとしたのに  あいつめ キスで言わせない。
片手でアタシを抱きしめて 片手で・・・ばたつく脚を おさえて
すごく器用に小さな布を スカートの中から 抜き取っていく。

「茜・・さん。」

この先もいいと言ってくださいって。  ジュニ? それは順番が逆でしょ。
大体こいつ 全然 返事を聞く気がないな。
アタシをベッドへ追い込んで 切ない眼をして 迫ってくる。

背中で匍匐後進のアタシと お腹で匍匐前進のジュニ。

「茜さん? それ以上は 退がれませんよ。 ヘッドボードにぶつかります。」
降参してください。ジュニはにこにこ 膝小僧を撫でる。
腿の間に滑り込んで すごく幸せそうに キスをする。

いいと言ってください って。  ジュニ もう中まで来てるじゃない。
「いいですよね?」
「・・・嫌って言ったら?」
「ゴーカンです。」

そして ぎゅうっと抱きしめたジュニは 茜さんただいまー!って 陽気に言った。


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「もう1回 したいです。」

まだ僕茜さんを いっぱい感じさせていないし。
諦めの悪いブーイングを無視して階段を降りてゆくと ガチャリ と玄関のドアが開いた。
「!」
「おお・・。 ジュニ 帰って来たのか?」

うっわパパ! このタイミングは結構微妙。 ・・滑り込みセーフって 言えるかな?
チラとパパが階段を見る。 二階にいたのかって顔をした。

「ママは?」
「えと 町内自治会の・・会合だって。」
「ふうん。」
やれやれ疲れたといいながら パパはさりげに流し目で。 げ・・・!
ジ・・ジュニってば。  アタシの腰にしっかり 腕をまわしてるじゃん。


食事の用意と言ったって。 ただ温めて よそうだけだ。
アタシはお鍋をかき混ぜながら ダイニングの方を そっと窺う。

パパは ジュニに相手をさせて 晩酌のビールを飲んでいる。
料理を出してテーブルに座る。 すっげー 居心地が悪いんですけど。

2人の話題は システムの事みたいで アタシは勿論チンプンカンプン。
だんだん3人で座ってるのが 照れくさくなっちゃって 
「つまみを作るよ」って キッチンへ逃げた。


アハハハハ・・。
パパが陽気に笑っている。 ジュニがお酒を付き合うようになって
パパは 本当に嬉しいみたい。
おぉい茜チャン♪ お湯割り2つーって。 アタシは 居酒屋のお姉ちゃんか?


「・・・・なあ ジュニ?」
「はい。」
「お前さあ・・。 茜ともう その・・。」

ドッキン!
パ、パパ。 あ・・の・・そのご質問って ひょっとして? 
アタシってば今 家政婦:市原悦子だ。 キッチンから 耳ダンボでダイニングを覗く。

パパは ほんのり酔いの色。 勢いまかせにチェックを入れるつもりだな?
ジュニ~~ッ お願い! 切り抜けて。

ジュニは 不思議そうに首を傾げる。 物陰から見ても ・・・ハンサムだ。


端整な彼に気圧されたように パパはぽりぽり こめかみを掻いた。
「はい? なんですか パパさん。 茜さんと・・って?」
いいのに! 話を続けなくても! アタシはキッチンで 菜ばしを握り締める。
「ああ・・うん。」

そのぉなんだ まさかさ。  茜に 赤ん坊 出来たりしないよな・・。

「とんでもない!」
そうそう その調子・・。
「僕 それに関しては すごく気をつけています! ママさんにだって約束したし。 
 大事な茜さんの身体を守ることですから 必ず避妊しています。」


きゃああああああああああああああああああっつ!!

「・・避妊・・。」
「あ 大丈夫です。 ピルは使いません。茜さんは まだ若いから。」
ホルモンバランスなどを考えると 薬は ちょっと心配ですよね? 僕もです。
にこやかに ジュニは同意を求める。
パパさん。 僕はどんな時でも ちゃんとコンドームを用意しています。 

「安心してください。」

これ以上爽やかに出来ないくらい。 晴れやかな顔でジュニが微笑む。
ああ・・ アタシってば キッチンにへたり込んで
どうやって ここから出て行こう。
「ジ、ジュニ・・・。」


呆然と ジュニを見つめていたパパは  は・・とひとつ息を吐く。
「そりゃ なあ・・・。 お前は ジウォンの息子だもんなあ・・。」
そんな事じゃないのかなあって 俺 あん時から思っていたんだよ。
「?」

なんでもねえよ! ・・なあおい ジュニ。
「避妊の話は ママには 言うなよ。」
「どうしてですか?」
「どうしてもだ!」

ああ そういう所。 お前ってば ジウォンそっくりだな。
パパは 何だか泣き笑いだ。 ジュニは それを聞いてむっとしている。
「パパさん! 目上の方に 言葉をお返しするようですが・・。」
僕は アボジみたいに 女性の誘惑に弱くありません。
「茜さんだけを 本当に 大事にしています。」


ね! 茜さん?  あれ? 茜さん?
ジュニがテーブルを立ってやってくる。  ・・・アタシ 口から心臓が出そう。 

お願いだから こっちへ来ないで~~!
ずるずる床を這いながら アタシは涙目で 祈っていた。

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