ボニボニ

 

JUNI それからstory 26

 




・・・ジュニパパって やっぱり ジュニのパパだな。


モニターの向こう側。 崩れてくる夥しい本に飲みこまれて
ジュニパパの姿が消えた時 アタシは 呆れてものも言えなかった。
「おーい! ジウォーン! 大丈夫かぁ?!」



「アボジが どうしても信じてくれません。 高坂のパパから言ってください。」

ある晩 ジュニが笑いながらやって来て 
リビングにノートPCを広げて ジュニパパと我が家でビデオチャットをした。
パパから結婚式の話を聞くと ジュニパパはぐらりとよろめいた。 

デスクの横へ積みあげた本にもたれたもんだから 当然 雪崩がくずれてきて
あぁぁ・・とアタシたちが眼をつぶる中 ジュニパパは 視界から去っていった。



「あいつ 誰か面倒を見てくれる人はいないのか? ・・ったく。」
ノートPCに向かいながら パパはぶつぶつ文句を言う。

ハウスキーパーの小母さんが来ますから 食事と部屋の掃除はお願いできるのですが
「アボジは 書斎に女性をいれません。」
ジュニは申し訳なさそうに パパに 言い訳をしている。

そうこうするうちに本の中から やっとこ ジュニパパが抜け出してきた。


「・・・コ・・ウサカ。 本当に結・・・婚式をするって 言ったのですか?」
「ああ。 こっちはもうそんな勢いなんだ。 まずいかな?」
「とんでもない!! あの・・・でも 茜ちゃんはいいの?」

クス・・・

本当に この親子って リアクションがそっくりだね。
アタシは何にも言わないで 笑ってジュニと腕を組む。
ジュニはアタシへ笑いかけて ジュニパパへ小さくVサインした。
「ワ・・オ・・・JUNI。」



バタバタと 結婚式の準備が 進む。

内輪で 簡単にって決めたから 招待状なんかも手作りだ。
ジュニがものすごくスタイリッシュなカードを 自分でデザインして仕上げた。

ママはすごく時間をかけて ウエディングケーキを作っている。
真っ白なシュガークラフトで 所々に 本物のパールをあしらって・・・。
なんだか 家中が文化祭みたいな4月。

そんなこんなの慌ただしさの中で アタシは 大学生になった。

-----



「うっそ・・。 本当に 招待状?」

真由がしげしげ封筒を見る。 本当じゃなかったら どうすんのよ。 
「いいよ 無理に来てくれなくても。」
「やだっ!! もらう、もらう! 絶対に行くからっ!」


大学っていったって 校舎は 高校のすぐ隣だ。

スゴロクのコマを進めたみたい。 相変わらずアタシは真由っぺとつるんでいる。
クラスにも知った顔がゴロゴロしているという 新鮮味の薄い学生生活。
だけど苦手な物理が消えて アタシの学生生活は けっこう明るかった。
 

「結婚かあ。 韓国の親戚の人もくるの?」
「ううん それは・・・。 そのうち 向こうで結婚式をするんだ。
 ジュニパパが 韓国でのお披露目は時間がかかるから また改めてって。」

事情はイマイチわからないけど ジュニの親戚って割といるらしい。

ジュニが社会人になってから 向こうできちんとお披露目しようってことになった。



“韓国式でやりませんか? きっと 茜ちゃんは似合いますよ。”
ジュニパパは 嬉しげにそう言ったっけ。
韓服の花嫁衣裳ってのも かっちょいいかもね。

「えーっ? じゃあ 2回も結婚式すんの?! ずっりー!」
「えへへ・・。」


真由は B定食のメンチカツへ 盛大にカラシを塗っている。
揚げ物の好きな女だな。 そのクセ 食後にダイエット宣言をするんだから・・
そう アタシたちは大学生。 「お弁当」から「学食でランチ」の身分になった。

「いいなぁ 結婚式か。 あーあ 茜が人妻だよ。」
「やだぁ。 なんかさ・・・“ヒトヅマ”って言い方はヤらしくない?」


ほっほっほ・・・

ムクれるアタシを横目で見て 真由のヤローがカマボコ眼。 ニッと歯ぐきを見せて笑う。
そりゃあ~アナタ。 ラブラブ新婚さんでございますよ?

「きっと 裸にふりふりエプロンだけ着けて お料理なんかするんだよ♪」
「なっ! お~~ま~~え~~わ~~~っ!!」


ぐえええ 首を絞めないで! 真由がじたばたもがいている。

そういえば ジュニもふりふりエプロンは?と聞いていたっけ まったく!
結婚は 周り中に「そーゆーコトします」と宣言するようなモノだよね。
それって ある意味・・・すごく恥ずかしいじゃん。



「あ・か・ね・さん♪」

さあさあここへって ジュニの奴は 自分の腿をぽんぽん叩く。
「部屋のレイアウトを変えようと思っています。こんな感じはどうですか?」

・・いいけどね。 どうしていちいちジュニに抱っこされて話を聞くの?


いいからいいからと 奴は上機嫌。 アタシを抱き取って膝に乗せて。
ジュニは3Dで作った インテリアレイアウトを見せてくれる。
「ここからここへ天板を渡して 机にすると・・ね? 並んで勉強ができます。」
「うわぁ カッコいいね。」
「気に入りましたか? ふふ・・。」


アタシの身体に腕を回して ジュニは すごく嬉しそうだ。
髪をすいて 頬を撫でて しげしげとアタシを見つめている。
「・・・・何?」
「茜さんは もうすぐ僕の奥さんです。」
「ん。」


ねえ やっぱり ふりふりエプロンを買いませんか? 可愛いと思います。
げ・・・
「やだっ!!」
「え?」
「は・・裸にエプロンだけ着けて台所に なんて 絶対!立たないからねっ!」
「!!!」

ぼんっ! と音がしたみたいに ジュニが 爆裂真っ赤になった。
「あ、茜さんってば。 ・・・ものすごいことを考えますね。裸に・・エプロン?」
「え?」
「・・・・・う・・わ・・ぁ・・。」

・・・ああ 墓穴。 
どうやらジュニは純粋に(?)可愛いふりふりエプロン妻を 思い描いていたらしい。
余計なことを言ったばかりに。 ジュ・・ジュニ! お願いだから妄想しないで。



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

呆然と ジュニは虚空を見つめている。 
きっとすごい画を見ているんだよ トホホ・・

「・・・お、お番茶飲もうかジュニ。 お湯をわかすよ。」
慌てて逃げに入ったアタシを ジュニは がっしとつかまえた。
「ぐ・・。」
「茜さん。」

切ない眼をした悪魔のジュニが 眼の前2センチに迫ってくる。
「僕 今夜は 寝られないかもしれません。」
責任を取って この先もいいと言ってくださいって ジュニはアタシを抱きしめる。

組み敷かれながらも お、お茶を~っと騒いでいたら
シャツをはだけたままの姿で ジュニはキッチンへ立って行き
ミネラルウォーターを含んで戻ると 思いっきり 口移しで飲ませてくれた。

「・・・げふ・・。」
「まだ飲みたいですか?」
「いら・・ないでふ。」

それじゃあ いただきまーすって。 ねぇアタシ いいと言ってないのに。

-----



・・・・・あ・・・

アタシがシーツをつかみに行くと いじわるジュニが追ってくる。
リネンへ逃げる指を剥がして 自分の身体へ巻きつける。
「逃げちゃだめです。 ちゃんと 僕に 抱きついてください。」


アタシの肩をしっかり押さえて ジュニは 奥まで身体を挿し込む。 
どこへも行けずに突き上げられて ・・アタシ 涙目になっちゃうじゃん。

いやって言っても 悪魔なあいつは 声の甘さを聞き分ける。
キスで唇を塞いでおいて 強く 身体を打ちつけてくる。

アタシの背中が反り返ると ジュニの笑顔が 優しくなる。 
茜さん行って と 腕の中で揺すられて・・・。
あいつの声に送り出されるように アタシは 長い泣き声をたてた。


もうだめですとジュニが辛そうに言って アタシはジン・・と身体が震える。

優しいジュニが その時だけは獣になってアタシを食べる。

鷲づかみに引き寄せられて 思いのままに蹂躙されて。
あああと泣いてもジュニは止まらなくて あ・・と 満足げな声がして
壊されそうな激しさの中を ジュニのビクビクが 突き抜けて行く。



・・・・・・は・・・・

ゆっくりとくずれるアタシの身体を ジュニは 愛しげにシーツへ放す。
アタシのまなじりに浮いた涙を 親指でそっとふき取っていく。

うふふ・・。
汗で額に張りついた髪を ジュニはうっとり小指でほぐす。
ジュニの大きな胸の下に敷かれて アタシは はぁはぁ 息を戻していく。
「大丈夫ですか?」
「・・・・ん・・・・・。」


アタシを食べてしまった後 ジュニは とても得意そうだ。

ぼんやりたゆたうアタシを撫でて 時々 自分のマークをつける。
常務さんのことがあってからは 絶対見えない場所を選んで。


 
・・・・・は・・・・
「ねえ? 茜さん。」
・・・・・うん・・・・・

「僕 今日タカミさんに会いました。」
「え?」

ジュニは 安井さんの怪我の具合を聞く為に タカミさんに電話したのだと言う。
「式の事を言ったら タカミさんは 茜さんのドレスを作りたいと言っていました。」
「そんな・・。 出来るわけないじゃん。」

タカミさんは超忙しいし 第一ジュニが殴った常務さんの奥さんだよ?
「茜さん。 タカミさんは今忙しくないし ・・・・奥さんでも ないそうです。」
「え?」

「・・・タカミさん。 Humptyを辞めました。」

-----


“プー太郎だから いつでもいいの!”

アタシが電話を入れた時 タカミさんは そう言って笑った。


会ったのは また恵比寿のカフェ。
この店に来るのは3回目だけど 毎回信じられないほど 状況が違う。
今度はアタシとタカミさんと それからジュニが一緒だった。



「式が決まったんだって? おめでとう!」

最初に会ったあの日みたいに 陽気に笑って タカミさんが言う。
「ありがとうございます。 ・・あのぉ タカミ・・さん・・・。」
「うん? 私のこと?」

安井と別れたの。

天気の話でもするように タカミさんは サバサバと言う。
「Humptyも何もかも ぜーんぶ 安井の所へ置いてきたわ。」
最初からこうすれば良かったの。結局 自分のブランドだって執着があったのよね。



「だって! ・・・じゃあ タカミさんはどうするんですか? これから。」

アタシのせい? アタシとジュニのせいなのかな?
アタシは 身体がガタガタ震える。
ジュニはそんなアタシの手を テーブルの下でそっと握った。

タカミさんは アタシの困り顔を悪戯そうに笑って見た。
「茜ちゃん? 私ね ヤル気バリバリなの。」
「え・・?」


塀の上のHumptyなんか さっさと落として 割ってしまえば良かったのよ。
卵がガチャンと割れてしまって 私 何かがすーっと楽になった。

「今 猛烈に服が作りたい。」

頭の中に新しいデザインアイデアがいっぱいで 脳が 悲鳴をあげそうよ。
「はあ・・。」
「私まだ37だもの。このタイミングでやり直せて 本当に良かった。」


タカミさんは まっすぐに ジュニを見つめた。
小首を傾げるジュニへ微笑んで ありがとうって 柔く笑う。
あなたの透明さに出会えなかったら 私 自分の澱みに気づかなかった。
「ジュニに会えて。 創るものとして一番大事な気持ちを もう一度揺すぶられたの。」



“あなたは 私のミューズだわ。”

タカミさんはすっと腰を浮かせて テーブル越しに ジュニの頬へキスをした。
ジュニはぎょっと頬を押さえると 慌てて アタシの表情を伺う。
その徹底的なうろたえぶりに タカミさんとアタシは 同時に噴き出した。


「あっはっはっは! ごめんね! あんまりジュニがきれいで つい・・。」

あははは・・・。
「あははって 茜さんまで。」
むっと口をとがらせたジュニは それでも アタシが笑っているから
茜さんがいいならまあいいやって 肩をきゅっとすくめてみせた。


会うまで心配だったけど アタシは やっと安心した。

少なくとも今のタカミさんは 強がった風でもなく イキイキしている。
離婚しちゃったけど。 その選択は きっとタカミさんに良かったんだ。
そう思えたことが嬉しかった。



「ねえ!茜ちゃん。 あなたのマリエ作らせてよ。 絶対 可愛くしてあげるから。」

テーブルの上に腕を組んで タカミさんはわくわくと とても素敵な笑顔を見せる。
「・・・いいんですか?」
「It’s my pleasure!!  そうさせて!ね?」




アタシは ぺこりと頭を下げる。

タカミさんは やったぁって 陽気にきゅっとサムアップした。

 ←読んだらクリックしてください。
このページのトップへ