ボニボニ

 

JUNI それからstory 番外編3  Christmas story 2006

 




“クリスマス・イヴに 茜さんを誘っても いいですか?”


12月のある朝。
両手でつかんだマグカップの向こうから ジュニが パパとママに聞いた。

「あら 出かけるの?」
それじゃあ チキンは25日にしようっと。ママの関心は もちろん夕食のメニューで
料理の段取りさえ崩れなければ 問題はないという姿勢だ。


「2人でどこかのパーティにでも行くの?」
「いえ。 ミサへ行こうと思います。」

は?! 
親子3人が驚いて 眼を丸くしてジュニを見る。 ミ・サ? ミサってあの 教会のミサ?
「ええ もちろんです? 僕はクリスチャンですから。」
「あ。」

ジュニはシスター・テレサから イヴに教会へ誘われたらしい。
・・・忙しいのに こいつってば 一体いつシスターに会ったんだろう?


我々家族の驚きように ジュニは 不思議そうな顔をする。

考えてみたら そうだよね。 クリスマスは降誕祭で キリスト教最大の行事だ。

パパは急にご機嫌になっちゃって そりゃあいいなってニコニコだ。
「茜もミッション系の学校に行っているんだから クリスマスには ミサだよな!」
って。 そうだそうだと1人で納得していた。

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「茜さん♪」

教会の前で振り向いたジュニは さあ・・と アタシへ手を伸べる。
たった5段のきざはしなんか 手を引かれなくても上れるのに。 
リーチの長いジュニが手を伸ばす姿は まるで 舞台上のスターみたいだ。

何だか気恥ずかしくて 手を取るのを躊躇していたら 
ジュニのヤローってば低い声で 「抱き寄せますよ」とアタシを脅した。

 

礼拝堂の入口では シスター・テレサがお祈りのカードを配っていた。

ジュニは オフホワイトのチルデンセーターに ブルーのタッターソール・シャツ。
レジメンタルタイをきちんと結んで 今日は バリバリの優等生風で決めている。
シスターは ジュニのお行儀いい服装が気に入ったらしくて 
まあジュニさん よくいらしたわねと愛想がいい。

うちの迷える子羊を 連れてきてくれたのねって。 
シスター・・・?  あのぉ 羊って アタシ?




祭壇では 一番高齢のヨゼフ神父様が 朗々とした声でお話をしていた。

今日の神父様のお話は 「命について」。

クリスマス・イヴの題目にしては 少し暗い感じもするけれど
近頃 若い子や子どもが亡くなる事件の多さに 心を痛めていらっしゃる神父様は
人の多く集まる今日に こんなお話を選んだみたいだった。


なんとか席を見つけたアタシ達は すり合わせるように身体を寄せて座る。

ジュニはきれいな仕草で十字を切ると 肘をついて祈りだす。
組んだ手に伏せた横顔が 信じられないくらい端整で
アタシってば 祭壇から90度横を向いて ジュニの祈りに見とれてしまった。



“・・・人の 命の尊さは その 永さによるものでなく
 神の御心に従って歩く その真摯さの中にこそあるのです・・。”

神父様の声が粛々と流れる。 ジュニは 静かに じっと祈っている。 
今日のお説教は 若い人達へ 懸命に生きて欲しいと祈る内容なのだけど 
その言葉に 若く逝ったジュニのママを思い出して。 ・・ジュニは 大丈夫かな?


「・・・・・。」
手を伸ばして ジュニの祈る手に触れてみた。
驚いたように眼を開けたジュニは 覗きこむアタシを見て ふんわり笑う。

耳元に 奴の温かい息が触れて。 アタシは  ・・眼が 白目になった。
「教会の中です。 我慢してください。」


な! な! な!  何を 言っているんだ~~~~~~っ!!

「アタッ! アタシ そんなんじゃないもっ!」
「しっ・・。」
茜さんは甘えん坊です。 しょうがないな うふふっって
奴は機嫌よくアタシの手を取ると 自分の掌の中で ぎゅっと握った。



ミサが終わると子ども達には クリスマスプディングが配られた。
子どもだけの特典なのに ジュニってば シスターにねだってお菓子をせしめる。

シスター・・・。 ジュニには 信じられない程 弱いな。


「うーん これは甘いです。 半分あげましょうか?」
「いらないよ。 無理矢理せしめたくせに 全部食べなよ。」
「甘いとわかっているのに欲しくなるんです。 ・・何故でしょうね?」


きっと 幸せそうな感じがするから 食べたくなるのかもしれません。

ぽつん とジュニが ひとり言を言って 
こいつってばこいつってばと 思いながら その言葉に 胸がキュンとなった。




ミサの後はレストランに行くだろうと思って アタシはおしゃれをして来たのに
ジュニは 早く帰りましょうと 肩を抱いて歩き出す。

「え~? クリスマス・イヴだよぉぉ。 レストランは~ぁ?」
「僕の部屋です♪」
そんなの嫌だ~! ツリーと ロウソクと ディナーがいいよーぉ。
ブウブウ不平を言ったのに ジュニってばまったく聞いちゃいない。
「帰ります。」



だけどアパートのドアを開けたら 暗い部屋の中には でっかいツリーが輝いていた。

「ぅ・・・わぁ・・。」
「はい ツリーです。 ええと それからロウソクですね?」
 
気づけば 床のあちこちに ガラスボウルに入れたキャンドルが置かれて
ジュニは ジッポをカチンと言わせて 次々と火を点してゆく。
テーブルには 渋い赤と緑のクロスが重ねられて 
・・・下手なレストランより ずっとイケてるじゃん。

仕上げに冷蔵庫からパテが出て来て アタシは ぐうの音も出なくなった。


「・・・これ全部 用意したの?」
「うふふ。 チキンも焼きますよ。」

ジュニは 黒いエプロンに銀のミトンをはめて アタシを椅子に座らせる。
スタッフィングは レバーとカキです。 茜さん カキは好きでしょう? 
「う・・ん・・。」
「焼けるまで オードブルです♪」

ジュニは ミトンでアタシの頬をはさむと 思いっきりディープなキスをした。

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クッションを3つも重ねて 寄りかかったジュニは
アタシを脚の間に閉じ込める。
「雪でも降ると ロマンチックですけど・・。」
「もう十分だよ。」


ジュニのお部屋のクリスマス。

真っ白のツリーには 銀のレリーフがプリントされたガラス玉が飾られていて
チャット・ベイカーなんかが 甘く歌っちゃうもんだから
はまりすぎで ・・・何だか照れる。

チキンは美味しかったし ケーキはパリセヴェイユのベリーの奴だったし
後はって わくわく怪しいジュニに アタシは天邪鬼な気分になっている。


「・・・茜さん。」

んん と近づく唇をかわして アタシはジュニに聞いてみた。
「ねえ! ジュニはいくつまで サンタクロースを信じてた?」
「は?」


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あっはっはっは・・・!


「笑いすぎです。」

ジュニは ぶうっと膨れている。

サンタをいつまで信じていたかという事には 結構 個人差があるけれど
次世代のトップ・サイエンティストになる(予定の)ジュニ少年の場合
「普通に」サンタさんと お知り合いだったらしい。

ジュニパパの研究仲間のナントカという教授が サンタ・クロースにそっくりな容貌で
12月のパーティでその教授が「来週は サンタをしなければいけない。」と言ったので
ナルホド と納得していたそうだ。


「僕は 何の疑問もなく その教授にプレゼントのお願いを送っていました。」
くっくっくっく・・。
「笑っていますけど。 茜さんだって10歳くらいであの教授を見たら 錯覚しますよ。
 視覚情報というのは パワフルなものです。」

そうかもね。

だけど きっとすごく聡明だったはずのジュニが 
シンプルに プロフェッサー・サンタを信じていたと言うコトが可笑しい。



「会いたかったなあ・・。 その頃のジュニ。」
「僕も 会いたかったですよ。」
「え・・・?」
「茜さんに。」

毎年 毎年 ほんとうに真剣に お願いしていました。
クリスマスには 茜さんに会わせて下さいって。

ドキン。  胸が1個鳴った。 ジュニってば いきなり撃ったわね。
「・・・・・。」
「さすがに偽物サンタだけあって 1度も 願いは叶わなかったけど。」

・・・あぁ もう だめだ。
愛しさがいっぱいに満ちてきて アタシは耳まで赤くなる。
ジュニはアタシが“落ちた”のも知らず ぎゅうっと アタシを抱いている。



「茜さんは今日 礼拝堂で何を祈りましたか?」
「うーん・・・ 家族の健康。」
「初詣でみたいですね。」
僕は 神様にお礼を言いました。 今日僕の隣に茜さんがいてくれ・・ 「・・んぷ。」


もう 黙って!
アタシがいきなり振り向いてキスをしたので ジュニは びっくりしたみたいだった。
なんで なんでジュニってば こういう一途野郎なんだろう?


10歳のクリスマスの朝 アタシがいなくて きっとがっかりしたジュニ。

アタシは 切なくなっちゃって ジュニの首に抱きついた。

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ロウソクの灯りが揺れるから ジュニの笑顔も揺れて見える。

陰影が濃くて 筋肉がいつも以上に迫力満点で  ・・・ジュニ 恐いです。



「どうしてそんなに深く シーツに埋まっているんですか?」
「取って喰われそうだから。」

ジュニはアタシの視線をたどって 自分の胸を見下ろす。
しょうがないなあという顔で毛布にもぐると アタシの胸の間から顔を出した。


「いつだって 優しくしているでしょう?」
まったく茜さんは失礼だなって ジュニは アタシの頬を撫でる。
コイツだって・・と挿し入れて 優しいでしょう?と突き当たりで言った。


「動いてもいいですか?」
「・・ねえ ジュニ?」
「はい?」


ジュニに ちゃんと出会えて 良かった。

遠い時間の向こうから アタシを 待っていてくれたジュニに。 


「・・・何でもない。 優しく だよ?」






“だから 僕は優しいですよ。 ホントに茜さんは失礼だな。”

ちょっとむくれた声を出して ゆらゆらと ジュニが揺れ始めた。

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