ボニボニ

 

JUNI番外編2 ジウォン-高坂パパのほろ酔い話-:後編

 





就職が決まった時 俺は 冗談でもなんでもなく 
 “ジウォンを 1人で置いては いけない”
と 思ったね。



「頼む! 父ちゃん!母ちゃん!」


俺は両親に頼み込み ジウォンを 親父の経営するアパートへ入れた。

人懐っこいあいつは 両親に気に入られ
俺の母親は ジウォンの ド外れた生活力の無さに仰天して
自ら 賄いを申し出た。

そして あの生活能力のない男は 大学院にすすみ 
いよいよ研究に没頭していった。

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ジウォンが 恋というものを知ったのは 25の時だ。

「高坂。 僕はこの頃 狭心症の気があるみたいです。」


時折 この辺がキリキリ痛みますと ジウォンが胸を押さえる。

「おいおい穏やかじゃないな。 病院へは行ったのか?」
心電図を取ったのですが まったく異常はないと言うのです。

 

サムゲタンを食べると 出るみたいだから やめたほうがいいのかな。
「だって お前 サムゲタン大好きだろ?」
「うーん・・・。」

新大久保には 韓国料理を喰わせる店が多い。
ジウォンは その中の1軒の サムゲタンが好物だった。
症状を確認しようと2人で出かけたその店で 俺は 心底 呆れかえった。

―こいつ・・・ 女を好きになったことがないんだ。


ぱちぱちと うつむいて皿を見ながら ジウォンは せわしなくまばたきをして
それからそっと バイトの女の子に眼をやった。
―お前なあ・・・。 そんなに 切なげな眼で見られたら 相手だって困るぞ。

確かに可愛い子だった。 長い黒髪がきれいで 眼がくるくると大きくて
何より ふんわり優しげで 清楚な感じが魅力的だった。

ジウォンの野郎は 見ちゃいられなかった。
彼女から まったく眼が離せない。 
お盆を持って彼女が動くのを 野郎の眼が ずーうううっと 追っていた。

「あ・・の・・ ご注文は?」
「・・・じゃあ・・・あの・・ ソルロンタンに・・しようかな。」
「・・・・・かしこまりました。」

高坂! やっぱりだめです。 サムゲタンでなくても狭心症が出る。
「何か 薬味がいけないのかな。」
「お前はアホか。」
「は?」

俺は25の男に お前の動悸は恋で あの子にときめいているんだと
教えてやらなければならなかった。
「ええ!」

「・・・どうしましょう! 高坂。」

トホホ・・・。
こいつってば 俺が知っているだけでも20人以上は 「お相手」した女がいる。
逃げても避けても まとわりつかれて。 断るのが面倒になると 奴は
一度だけですよ と相手をしてしまうのだ。 その悪い癖は ついに治らなかった。



「いつも女と話すときみたいに 声をかけろよ。」
「?  ・・・僕からは 声をかけたことがありません。」 

かーっ! ええい! やかましい! 
「男ならさっさと挨拶して 映画にでも誘え!」
「高坂・・。」
はあ・・・ 俺は こんなモテ男に ナンパの師範かよ。

ジウォンはいきなり立ち上がり 椅子が 盛大にひっくり返った。
店の人が 注視する中 奴は まっすぐ恋の相手に歩み寄る。
「・・あの 僕は イ・ジウォンと言います。」

するといきなりお店の人達が 興奮したように お互いをつつきだした。
ちょっと!ソニンちゃん!  ひょっとして 彼もそうなんじゃない?! やったやった!
周囲の騒ぎに ジウォンが 途方にくれる。
厨房からは コックまでが出てきて 学生さん!ありがとう と言い出す。 

そして真っ赤になったバイトの子は 消え入るように 知っていますと言った。 

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サムゲタンの彼女は 韓国料理屋オーナーの親戚だとかで 
日本に留学している学生だった。
ジウォンと彼女は めでたく両思いで つきあい始めたのは良かったけれど。 


・・・恋愛というのも ジウォンの能力範囲では なかったらしい。

おかげで俺は ジウォンの恋愛を 逐一報告されるはめになった。
そして こいつってば・・・ 本格的に とんでもない奴だった。
「高坂。 恋人同志というのはその・・ いつぐらいに手を握ったら いいのでしょうか?」


はあ?!

「僕は その・・ソニンssiが大好きで あの・・もう少し 親密につきあいたいです。」
「半年もつきあって 手も 握っていねえのか?」
「もうそろそろ 失礼に ならないでしょうか?」

俺は そんなことは知らねえよ! 好きにやれ!
「好きに? それは 僕の好きなように ということですか?」
お前達は 恋人なんだろ?  誘ってみて相手が嫌と言わなかったら いいんだよ!



・・・この アドバイスはまずかった。


「高坂! どうしよう! ソニンssiに すごく泣かれてしまいました!」

手を握ってもいいですかと聞いたら コクンとうなずくから
手を握ったら もたれてくるんです。  もう僕 彼女がすごく可愛くて・・・。
「その先もいいというので 抱いたんですけど・・。 泣かれてしまって。」

「ちょ・・ちょっと 待て。」
抱いたって お前 ・・抱きしめたのか?
「え? ええ そうです。 抱きしめてそのままsexを・・。」
「ばっ!」

手を握ってもいいですかと聞く奴が いきなりヤッちまったのか?
俺は クラクラめまいがした。 こいつ・・・最低だ。
その先もいいと 言ってくれましたって お前な。  普通 キスくらいと思うだろ?

「好きでもない女を抱くなと言ったのは 高坂です。 
 僕 初めてその意味がわかりました。」
好きな人を抱くのでなければ ああいう事は 感動がありません! 
僕 今まで本当に馬鹿でした。もう 彼女以外とは 絶対にそういう事はしません!


・・でもソニンssiは 泣いちゃって どうしよう。

「お前さ・・。 お前の国って 結構 純潔主義なんじゃねえの?
 ソニンさん嫁入り前なんだし まずいよ・・やっぱ。 責任とれるの?」
「責任?」
「結婚・・するのかって。」


ジウォンがいきなり赤くなる。 ソニンssiと? それは すぐにでも結婚したいです。
でも泣いて帰っちゃったから 断られるかもしれません。 ・・どうしよう。


・・・・・思い出そう。
コイツは天才的な頭脳の持ち主で ものすごい正義漢でもある。
でも 「大馬鹿者だな。」

「とっとと行って 結婚しようと言って来い!」
「え? あ はい!」
バタバタバタと ジウォンは 恋人の元に駆けていく。

その後のことは ソニンさんと同じアパートの友人から聞いた。
引きこもってしまった恋人の部屋のドアを  彼は 盛大に 蹴破ったらしい。
どうか僕と結婚してくださいと言うと ソニンさんは また泣き出して

あんた 彼女は嬉し泣きしているんだよ
そう 隣のおばさんに言われるまで
ジウォンは 恋人を抱きしめて 途方にくれていたそうだ。

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「へ~ぇ・・ かわいい話じゃん。」


ほろ酔いかげんのパパにねだって 
アタシはジュニパパの 若い日の話を聞いた。

結構きわどい話も出てきたけれど 酔っ払っているパパは
ママにでも話している気分みたいだった。


しっかし そうか・・・


相手の思惑を考えずにヤッちゃうのは イ家の「お家芸」だったんだ。
こんなこと言ったら
パパ 引っくり返っちゃうかな?

それにしても 驚いたね。
“コンドーさん絶対主義”は パパが ジュニパパに叩き込んだのか。


「俺はな ジウォンが大好きなんだよ。」
うん・・パパ。

「だから茜がジュニと一緒になると聞いて ひくっ 俺は すごく嬉しいんだよ。
 お前を嫁に出すんじゃない。 ジウォンと本物の家族になれるんだって。」
ふぅん・・そうなんだ。

「あいつ ソニンさんが死んでからずっと1人だけれど ・・幸せなのかな?」
そうだね。 パパ。
ジュニパパに 幸せがいっぱいくるといいね。


「茜は ・・・幸せか?」

「え?」 

まっすぐ見つめるパパの眼。 パパを まっすぐ見るなんて 久しぶりかも。 
「・・・お前は 幸せなのか?」
ああ パパ。 
今パパは いろいろな事を 聞いているね? アタシの胸が きゅんと震える。

「アタシ 幸せだよ。 生まれて来て良かった。」
“ありがとう”とは 照れくさすぎて言えなかったけど。 雰囲気ヨンでよね パパ。
「そうか・・。」

じゃあいいや  俺 もう眠くなっちまったな。
「もう! こんな所で寝ないでよ! だっらしないなあ・・。」
ほら 寝室へいこ! 
へへへ・・茜チャ~ン 引っ張ってってくれよ。

酔っ払いパパに肩を貸しながら よろよろ寝室まで歩く。

アタシが 今 若い時間の中にいるように
パパにも ジュニパパにも
若い時があった。


なんだか そんな当たり前の事が 胸に沁みて アタシは少しうるっとしていた。

fin

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(そして おまけ)



「茜さん? どうして 泣いているのですか?」


うっわ! びっくりした。

「ジュニ・・どうしたの?」
こんな遅い時間に 乙女の部屋に入って来ないでよ。 ママは? お風呂?
「そうみたいです。 声をかけても誰も返事しないから 勝手に 上がってきちゃいました。」

「・・・・・ジュニ? ねえ その靴なに?」


これですか? うふふ。
「これを持ってきたら 僕が来たこと ママさんに解らないんじゃないかと思って。」
こんの悪魔。  油断もスキも・・・。
「パパさんに ニッパー貸してもらおうと思って来たんですけど。
 今夜は 思いもよらない チャンスでした。」

ジ・・ジュニってば。いったい 何を考えてるのよ!


アタシが 慌てふためくうちにも ジュニは部屋の隅に靴を置いて
いそいそベッドに上がって来る。
茜さん? ママさんが寝てからにしましょうねって もう! 何 言ってんの!

「そんなこと ダメに決まっているでしょ! 帰って。」
「でも・・ 今 靴を持って降りて行ったら ママさんと ばったり会うかもしれません。」
「う・・・。」

「後で そっと帰ります。」
僕 猫みたいに静かに帰れますから 大丈夫です。 だから・・ね?

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このシングルベッド。  僕には少し 小さいですね。

アタシの顔を じいっと見ながら ぐっ・・と 身体を挿したジュニは 
ヘッドボードに頭をぶつけて 小さく笑う。
「・・・あ・・。」
「茜さん?  今夜は あんまり感じちゃだめです。 静かに 静かに。」
「だから・・ こう・・い・・うこと・・・しないでよ。」
 
いいえ。 せっかく神様が機会を下さったのですから 愛し合わなくては・・って
ジュニ それは モノスゴーイ 自分勝手な言い分だと思う。


「・・ところで 茜さん 何でさっき ウルウルしていたのですか?」

アボジと高坂パパの若い時の話?
へえ・・ 僕も聞きたかったです。

しっかりと アタシの中に身体を埋めて ジュニは アタシを抱きしめている。


「アボジは 高坂パパのことをものすごく大好きです。 まるで 恋しい人みたいです。」
「うん・・パパもだよ。 じゃあ あの2人は 両想いなんだ。」
「僕たちみたいですね?」
「・・・・。」
「僕・た・ち みたいですね? 茜さん!」
「・・・そうだね。」


ねえ? ジュニ?

なんですか?

あの・・いつも・・持っているの?  ええとその・・“小さいお帽子”。

帽子? ああ・・ラテックス製の? はい。 僕 茜さんと会うかもしれない時は 忘れません。
「必ず チェンジポケットに入れています。」
だから いつ どこで 僕が欲しくなっても 大丈夫です。
遠慮せずに したいと言って下さいねって   ジュニ あのね・・。 

「あ・・・」
ふふ。こういう風に そっとするのも素敵ですね。 茜さんは いいですか?
「・・・ん・・。」

胸を吸うジュニの ふわふわ柔らかな髪が アタシの顎をくすぐって
アタシは むずむず身体をよじる。

残念です。 こんなチャンスがあるのなら もっとたくさん持ってくればよかった。
「あぁ・・そうです! 今度 茜さんのお部屋に 一箱ストックを。」
「絶対 い・や!」
「・・・・諦めます。」
 

ねえパパ。 
「何があっても コンドーさん」
はるか昔のパパの教え(?)を ジュニは 真面目に守っているよ。

ジュニの 大きな胸の下で  アタシは ゆらゆら揺れながら 
今夜はもう寝ちゃったパパへ  なんだかしみじみ 語りかけていた。

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