ボニボニ

 

愛しのプロフェッサー セクレタリー・ユナのもじもじな日常

 




はぁ・・・・


いい歳をした大人が 思いっきりピュアな純愛を
うっかり成就させてしまうと これは・・けっこう照れくさい。

しかも 相手が超マイペースの 天然プロフェッサーだったりすればなおさら。



おかげで私は あれこれと もじもじな日々を送っています。

------



最初は 大学のプロフェッサー・オフィス。


覚悟の辞職を申し出て うるうるで去ったはずのその場所へ 
1週間もしないうちに 私は・・・戻って来てしまった。


翌日。 2人で大学へ行くと 間の悪いことにオフィスには 
ごっそり学生がたまっている上に マクドネルさんが資料を探していた。


そこへ プロフェッサーは言ったものだ。 それはそれは 素敵な笑顔で。
「皆さん。 ユナが戻ってきました」

って プロフェッサー・・。  あのぅ 呼び捨てです。



一瞬。 皆の頭の上に 飛び回っている小鳥が見えた。

その後は “オカエリなさーい♪” なんて明るい声。 

皆はすっかりカマボコ眼で それでも 私の「出戻り」を歓迎してくれた。
私は 赤くなるんじゃないと 必死で毛細血管に言い聞かせた。


だけど 「周囲の思惑」なんてモノが
な~んにも気にならない プロフェッサーは 
全員の視線が集まっている真ん中へ 優雅にも 長い指を伸ばし

私の頬をつかまえると「んん」と ・・・上機嫌でキスをした。


「!!!!」

「では 僕 講義に行ってきます♪」

あぁ ボビー? そこは僕の椅子だから 座らないように。
顎をあんぐり開けた学生に けろりとした顔で眉を上げると
ジウォン教授は きれいに背筋を伸ばして 大股に廊下を歩いて行った。
「プ・・・」

プロフェッサーーーーー!!!



その晩 私がクレームを言うと プロフェッサーは答えたものだ。

「でも出勤が一緒だから “行って来ますのキス”ができないでしょう?」

------



次に困ったのは あの女。

プリンストンはだだっ広いから 会わずにいることも出来るんじゃないかと
かすかな期待をしてみたんだけど・・・これも 天には見放されたらしい。


“あぁら?”

「どうしてプロフェッサーの恋人が コソコソ 立ち木に隠れるのかしら?」
「・・・・・」
「男に興味ないなんて言ったくせに 大嘘つき」


・・き、教授とは あの そんな・・んじゃ・・・

「ないと言いたいわけ?」

車の助手席に引っ張り込まれて 服を直しながら出てくる秘書を
「先日 駐車場で拝見したけど?」 
「○&%$▲#!!!」

・・だから プロフェッサー・・・・


それでもケイト・オコナーの場合は 最後まできっちりいい女だった。

「まあね。 お蔭で私としては 贖罪が済んだ気分になれたかも」
これで教授はもう あんなに哀しい優しさを 誰かに差し出すこともないでしょうから。



「・・ごめんなさい」

「ふん、謝られたくなんかないわね」
こっちは心置きなく もっとイイ男が捜せるんだから。
「アンタは せいぜい彼に寄ってくる女たちに憎まれて うんと・・長生きしなさいよ」

「・・・ありがとう・・」


感謝しているんなら もう1晩位 教授を貸してくれてもいいわよ。

いい女はそう言って とても魅力的なウィンクをした。

------


そんなこんなで 1年半。

うるさく文句を言った甲斐あって 公衆の面前でキスこそしなくなったけれど
プロフェッサーは相変わらず 私をユナと甘い声で呼び
時間があれば セクレタリールームの「僕の椅子」へ座っている。

私と言えば 立場上ビジネスライクに努めているけれど 
「お見かけ通り」の2人なことは 周囲に 知れ渡っているわけで。

取り澄ますのも ・・・恥ずかしいものがある。



「あぁ・・」

セクレタリーデスクに両肘をついて 私は 何度目かのため息をついた。

おまけに、おまけに、あろうことか。
なんと 今度は「妊娠してしまった」のだ。
うぅ・・。 もう 神様どうしよう。


大学教授が「秘書を愛人にしている」だけでも かなり人聞きが悪いのに。
その上「孕ませた」だなんて・・プロフェッサー・・・

これって 懲戒もののスキャンダルではないでしょうか?



「秘書を愛人にして孕ませた? ・・それは ものすごい見解の相違ですね」

ページをめくりかけた手を止めて プロフェッサーは眼を丸くした。

僕は 職場の同僚と恋をした。 彼女とは最初から結婚するつもりでしたから
バースコントロールは考えなくて 結果 めでたく愛の結晶が出来た。
「そういう話でしょう? ああ それに」


Will you marry me?

プロフェッサーは小腰をかがめ 胸に手をあてて微笑んだ。
ユナには 何度も断られたけれど 今度こそ受けてくれるでしょう?

「そ・・そんなこと こんな所で言わないでください」

「こんな所って。 だって昨日ベッドで言ったら 君は寝たふり・・・」
プ、プロフェッサーってば そのお話はまた。

折しも廊下に学生達の にぎやかな声が近づいてくる。
私は教授に目配せで 話を打ち切るようにプレッシャーをかけた。


おはようございまーす! 

「あ、プロフェッサー。 お打ち合わせ中ですか?」
「ううん? 今 プロポーズしていたところ。 ユナに子どもが出来たんだ」
「プ・・・」

プロフェッサーーーーー!!!

------



・・・何か 怒っていますか?

「怒っていません」


プロフェッサーは困ったように 私の横へ滑りこんで
温かな腕を私にまわす。
子どもが出来て 結婚すること。 「隠さなくてもいいでしょう?」

「分かっています。 だから 怒っていません」
「・・・ふぅん」


ねえ ユナ?
「僕の愛情表現は 君にとって迷惑ですか?」
「!」

僕は 自分が人情の機微というものに 疎い男だと知っています。

ユナが望んでいるらしい「周囲への処し方」というものが 
正直 よく分からない。
せめて君には 率直でいたいと思っていますが。 

「ユナは それで困っているんですか?」

・・プロフェッサー・・・


ユナを 愛しています。
「君だけと 言ってあげられないのが・・申し訳ないけれど」
「プロフェッサー・・・」


プロフェッサーは 困っていた。 
柔らかな戸惑いに包まれて きれいな笑顔が寂しげだった。
ツン・・と 胸が痛んだ。 プロフェッサーにこんな顔を 絶対 させちゃいけないのに。

もう 馬鹿ね。 
すっかり私 忘れていたじゃない。

プロフェッサーはいつだって 真っすぐ 世界へ手を伸ばす。
思惑も一点の曇りもない 純度100%の真摯な人。
私の愛しいイ・ジウォンとは そんな 美しい奇跡なのに。

私は 小さく寝返りを打って 彼の胸に身体を埋めた。
「迷惑じゃ・・ありません。 ちょっと照れくさかっただけです」
本当に? ああ それなら良かった。

「あ。 家で プロフェッサーは禁止です」

-----



もう一度 家でプロフェッサーと呼んだら お尻を叩くと言いました。

「君のお尻は 叩けないな。 うふふ では“違うこと” をしてもいいですか?」
「え? ・・でも お腹に」
「大丈夫です!」


ちゃんと先週 ユナの先生に相談しました。
「・・私の 先生に聞いたんですか?」

「はい。医学的注意事項ですから?」


・・ああ・・・プロフェッサー・・・ 

確かに あなたは真っすぐで 曇りない愛情の持ち主です。
そのフルオープンなご性格は きっと 変わらないのでしょうね。


「ええと。 何か いけませんでしたか?」
・・・・・・いいえ・・・
「では♪ 愛し合いましょう」

プロフェッサーは 嬉しげに私の身体を抱き寄せる。
優しい唇がふんわりと 温かな愛を伝えてくる。


「後期には 背面側位や後背位がお勧めみたいです」
産前は結構間際まで出来るそうですが 産後1ヶ月程度は“お預け”です。

・・・それも 先生に聞いたんですか?

我慢できますと言ったら 先生が笑い出しました。
「ひょっとして 僕が 犬に見えたのかもしれないな」
「・・・・・」


私のもじもじ 照れくさい日々は この先も多分続くのだろう。

ねえ 神様?  きっとそれは 幸せだということですよね。

 ←読んだらクリックしてください。
このページのトップへ