ボニボニ

 

スジニへ 10

 


侍医が来て 一瞬 胸の中で止まったスジニが 慌ててまたもがきだした。


「そんなに暴れると 刀傷が裂ける」

逃げる女の肢体をまさぐりながら 
のんびりとさえ聞こえる声で 王は 言った。



タムドクの指を自分の体内に感じて スジニは 小さな叫びを上げた。

荒くれた指が中を探る。 挿し入れられる感触に スジニの身体がこわばるのを知ると
王はわずかに目元をゆがめて むすめか・・と舌を打った。

「初めてか? それは難儀だな」
「・・だ・・だめです!」
「聞かぬ」  



スジニは 混乱の頂点にいた。

どうしたと言うのだろう? こんなタムドクは見たことがなかった。
痺れの残る身体で抵抗していると 怒った王が髪をつかんだ。

「王に逆らう妃がおるか。 じっとしておれ」
「わ、私! ・・でも・・」
「聞かぬと言った」


お前は 私の妃だ。 形だけのことでなく。
「・・王・・さ・・」
「睦むぞ」
「だ、だめです! ・・・許してください・・」



その声に タムドクの動きが止まった。 

王が 瞳を覗き込むと スジニは涙をいっぱいにたたえていた。
寝乱れた女の髪をすいてやる。
スジニよ。  私と お前はもう あるがままの2人になろう。


「私が 嫌いか?」

「・・だって でも・・王様・・・」
「嫌いならばそう言え、私を 忌み嫌っていると。そう言えば放してやる」
「・・・そ・・んな・・」


忌むなどと 嘘でも スジニには言えなかった。 
命以上に大切な人が 怒りと愛をその眼に浮かべて ひたと自分を見つめていた。

スジニの唇が わなないた。 

胸の奥底に沈めた想いが 今にも 噴き出しそうだった。
どんなに どんなに王様が好きか 王様は わかっていないくせに。



「・・ち・が・・・私・・嫌いだなんて・・でも・・・だめです・・」

ぽろぽろぽろと スジニの眼から 涙が散った。
タムドクの胸に恋しさが満ちる。  「この 強情者め」


「もう良い、お前は拒んでおれ。 非は 私が負ってやる」
お前も武者なら 戦さに猛る男を静めるものが何かは 知っているだろう。

「奪われるがよい」

王はもう 抗う女の手を無視した。
荒々しく膝で腿を押し開けると スジニが 刀傷の痛みにうめいた。


・・・大丈夫か?
 
いつまでも 抗っているからだ。 
案ずるように言いながら タムドクは 粗野な愛撫でスジニを揺らす。
挿し入れた指が わずかに潤むのを知ると 屹立をあてがって妃を見据えた。

「よいな」
「!」
王の背中が大きくうねり スジニが息を吸い込んだまま 止まる。



小さな悲鳴を肩先に聞いて タムドクは 白い歯を見せた。

「なんだ、高句麗の勇将が。 我慢しろ」

-----



みしみしと スジニの身体はきしんでいた。

開かれた脚の真ん中で タムドクが 容赦もなく動いていた。
どうしていいのかわからないスジニは まだ 言い訳のように拒んでいる。 
・・・・・・ゃ・・・・・・

王は 胸を押し返す弱々しい手を剥がし 絹の敷布へ押しつける。
両手で頬をわしづかみにして 「もう逆らうな」と唇をふさいだ。

「辛いか?」
つかまっておれ。 こればかりは 手加減してやるわけにもいかぬ。

初めての女を気遣いながらも タムドクの声は揺るがなかった。



波のように打ち寄せる王が スジニへ 想いを刻みつけた。

猛々しいほどに押し開いては なだめるように 退いて行く。

男の引き締まった尻が ふいごのように絞られて 熱い猛りを突き入れる。
突かれるたびに身体が揺れて スジニは 羞恥に気が遠くなりそうだった。
王は恋しい女の中を 我がもの顔で 行き来する。

スジニは 自分を見下ろすタムドクと 眼を合わせることが出来なかった。



コポコポと 水盤は 湯気を上げていた。

温かく 明るい朝の寝間は 置き去られたように静かだった。
見事に鍛え上げられた背中だけが 絹を鳴らして 動いていた。

タムドクの口が そむけた女の頬を追い 口を捕らえて自分へ向ける。
数え切れない往復で 王は スジニを手に入れていった。

スジニは 自分の身体が少しずつ相手に応えることに気づいて 自らを責めた。



「スジニ」

「・・・・・・・」
「泣くな」
タムドクの親指が涙をぬぐい 唇が 涙の跡をふき取った。


お前も私も 今 こうして 血の通う温かい肌を持って在る。
ただ それだけでもう充分に 抱き合う理由になるのだから。 

限界の時が近くなり 優しかった動きが 攻めになる。

ひと抱えの薪束のように 王は 妃を抱きしめた。
「スジニ」
「・・・・・」
「受けよ」

そして スジニは自分の奥深くに 何かが熱く注ぎ込まれる感覚を知った。





・・・裸になった王様は 鬼神のような身体をしている。

タムドクの下に組み伏せられて スジニは ぼんやりそう思った。

愛する人の身体には 激しい戦いをくぐり抜けた傷が 数え切れなくついていた。
思わず指を這わせてみる。 王は じっと動かなかった。



男の身体で大きく分けられた 自分の内腿が 白かった。

スジニはもじもじと脚を滑らせて 退かせてもらおうと試みた。
「・・・王・・様・・」
思いがけず 甘えるような声が出て 女は 自分にうろたえる。

タムドクが首をめぐらせて半分だけ顔を見せると うぶな頬から 火が噴き出た。

「・・・あ・・の・・」
「まだだ」
「え?」
初めてなのにお前も災難なことだと 王は まるで他人事のように言う。

散々に中を蹂躙した 鋼のように硬いものは
今は 猛りを少し抑えて スジニの内側で休んでいた。



無骨な髭が 泰然と笑った。 

「まだ 放してやれぬ」

疲労した上に気が立つと 容易に男が鎮まらないものだな。
王の言葉を裏付けるように スジニの中でもう一度 熱い硬さが立ちあがる。
女の眼に恐れた色が浮かぶと 仕方なさそうに タムドクが笑った。

「困った奴だ そんな顔をするな。 そのうち お前からねだるようになる」

-----




やっと助かった怪我人に 幾度も相手をさせては 侍医が怒ろうな。


王は 満足げな息を吐いて 妃の横へ身体を落とした。
「しばし休め」
片手でスジニの頭をかかえて 有無を言わせず 胸へ添わせる。
「痛むか? 許せ」


また 王様は謝っている。 スジニは少し 可笑しかった。

それでも 今日の王の謝罪は 痺れるほどに甘美だった。



タムドクは 子どもをあやす時のように 抱き寄せた肩を叩いていた。
隆々とした胸に押しつけられて スジニは 
ときめく自分の心音が 聞こえるのではないかと心配した。

「スジニ」
「・・・・・」
「答えよ」
「・・・はぃ・・」

私を 好きか? 
「!」

ふぅむ・・と大きな息を吐いて 王が こちらへ身体を向けた。
決して逸らす事を許さない タムドクの眼が のぞきこんだ。
「・・王・・様・・・」
「私を 好きか?」
腕の中に囚われて スジニは 恋しさに青ざめる。


「・・・」「・・・・」

永遠かとも 思えるほど 2人は見つめ合っていた。

千里の道を駆け戻り 鬼神の如く敵を斬り 夜通し見守り 自分を抱いた王が  
ほんの少し不安げに スジニの瞳を見つめていた。
「言ってくれ。 私を慕っていると」

それは チュシンの王でも 高句麗の英雄でもない
ぎこちない 1人の男の求愛だった。

タムドクが王を脱ぎ捨てて ただ スジニを求めていた。




スジニは 自分の最深部から 解き放たれてくる奔流を感じた。

理性は眠り タムドクへの 吹き上げるような愛だけが 
とめどなく溢れて 世界を満たした。

たおやかな手が恋しい人へ伸びて 引き締まった頬に そっと 触れる。
大きな身体が答えを聞きに寄るのを スジニは 甘い息で受け止めた。


「王様は ・・・私の命です」

やっとの思いで息を吐いて スジニが 泣き笑いの顔になる。
「そうか」
望みの言葉を手に入れて 男の髭面が 愛しげに揺れた。


「・・好きです・・」
一度 口に上らせてしまった言葉は もう繋ぎとめられなかった。
出会いの日から 今までの想いが 抑えようもなく流れ出た。


安堵した王はいっぱいに 手に入れた愛を抱きしめる。

背中の折れるほどに かき抱かれて スジニは幸せに身震いした。

-----



お前は 昔から 私に惚れていたであろう?


今や自分のものにした妃を 余裕を持って撫でながら 王は悪戯な声になった。
「・・・ち、違います」
「嘘をつけ」

払っても 払っても 犬ころのように追って来おって。
「お前が追って来なくなった時 どれほど 私が心配したと思う?」
「・・・・」

女のくせに 私が危ないと見れば 後先も考えずに飛び込んで来おる。

「撃毬の時なぞ ホゲの馬の蹄に蹴られたら ひとたまりもなかったぞ」
「・・・だって! ・・あれは・・」
「向こう見ずな奴よ」


セドゥル達が死んだ あの矢の中でも。 
待ち伏せされた雨の夜も お前は 私の傍を離れようとしなかった。

「・・それなのに 自分が黒朱雀だと知ると たった一人で死地へ行きおって」
「・・・・」
馬鹿め。 どれほどお前は辛かったことか。


「辛くなん・・か・・・ありません・・」

新しい涙が湧いて来て 女の頬を 温かく濡らす。
涙に気づいたタムドクに抱き寄せられて スジニは 王に腕をまわした。
「それでいい。 しかと抱きつけ」



なあ スジニ・・

「この戦乱の世の中では  お前も 私も 明日を知れぬ身だ」
いずれ すべては天へ還る。 
「だから せめて今だけは こうしてお前と睦み合おう」

今生限りのこの身体で 風に散る程の はかない命で 
それでもお前と私とは 想い合う仲になれたのだから。
「・・で・・も・・ ・・オンニは・・」


「私はキハを想っていた」 それは 変らぬ。 

「許せぬか?」
「許す・・なんて・・・」
「それでは 抱えよ。 過去も私だ」


確かに お前も知っていたことだ。 私はキハが好きだった。
この宮で ただ1つ信じた初恋だ。 想ってやまない女だった。

「・・そんな私の心の中へ お前は いつの間に棲みついたのだろう」
お前がいなくなった時のことだ。 空白の あまりの痛みに私は呆れた。
「・・・・」

私はもう お前の無い日々を生きたくないのだ。




おずおずと スジニが 胸から顔をあげた。

じっと天井を見つめていた王が 柔らかな眼で振り向いた。
 

恋しさに息が詰まり スジニは 嗚咽がもれそうだった。
「・・王・・様・・・」
「お前は私のものだ。 どこにも行かず 私を追え。 ・・よいな?」


王の瞳は潤んでいた。スジニの顔が くしゃくしゃと崩れた。


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