Lusieta

 

朝露のリオ 3-1

 

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これは夢だろうか。

そっと髪をなでられ、頬に温かい掌の感触。




“ごめん・・・”



夢の中で、誰かが私に謝っている。





髪をなでられるのって気持ちいいね。




“ごめん・・・”



ほら、また。








    。。。。。。








目を開けたつもりなのに、まだ周りは真っ白だった。


あぁ、まださっきの続きだ・・・・と思っていると、

それは天井だった。



右側に窓があった。



左側は・・・・



     あっ!




彼が心配そうに見つめていた。

私、目が覚めた?


彼のこんなに心もとない不安げな顔ははじめてだ。


驚いた。




「相馬さん・・・私、倒れたの?」



「はい、トレーニング中に気を失いました。

リオさん、すみません。

僕の責任です。」



「・・やっぱり倒れたんだ・・・」



「僕の不注意でした。

ほんとに、すみません。」




そんなにすまなそうな顔されると

意地悪をしたくなってしまう。




「そうですね。あなたの責任ね。」



「はい。」



「あなたが冷たすぎるからね。」



「はい?」



「もっと優しくしてください。」



「あ・・・はい、優しくかどうかはわかりませんが、

もっとあなたの状態を正確にチェックします。」



「正確なチェックなんかより、優しくしてほしい。」



「・・・・・・」




天井を見つめながら、

私は今日までの小さな不満の積み重ねを

吐き出そうとしていた。




「いいえ、あなたは他の人には優しいわ。

でも、私には・・・

どうして私にはこんなに冷たいの?」



「・・・・そんな・・・ことはありません。

僕は、みなさんに対して同じ対応をしているつもりです。

しかし、今回はあなたの体調への配慮が足りませんでした。

申し訳なかったです。」





いつも冷静で静かなあなたの口調が揺れている。



     少しは動揺した?


     さっきの“ごめん”はあなた?

     それとも夢?




「そうね、でもあなたには私のチェックはできないわ。

ちっとも私を見ないもの。」



「・・・?・・・」



「あなたは私を見ないわ。」



「・・・そんなこと、ありません・・・」



「見ないわ。」



「リオさん。

僕は・・・・」



「・・・・・でも、いいわ。

どうせもうすぐ終わりだもの。」



「リオさん・・・・」



「私のお守りももうすぐおわり。

ホッとする?」



     あぁ、もうやめよう。




どこまでも恨み言がこぼれていく。

いっしょに目からも何かがこぼれている気配。



     おとなげないな、私・・・・。



窓側に体の向きを変えて、彼に背を向けた。




「ふふ・・・・

ごめんなさい、相馬さん。

ちょっと誰かに甘えたくなっちゃいました。」

おとなげないでしょ。

ひどいこと言っちゃいました。

冗談です。」



「リオさん・・・・」



「明日からまた頑張りますから、

よろしくお願いします。

でも、もう少しだけここで休んでいっていいですか?」



「はい。ほんとに申し訳ありませんでした。」



「・・・・・・」



「僕も、もう少しここにいてもいいですか?」



「なぜ?」



「あなたを見ています。」



「・・・・・・・」



「今日までちゃんと見なかった分、

あなたを見ています。」




振り向くと、目があった。


その途端、いつも冷静で静かな彼の目が揺れて・・・


でも、目をそらさなかった。




「こうして、見てるだけですから。」



「こんなところでじっと見られてると、

恥ずかしくて眠れません。」



「あ・・・すみません。」



「でも・・・

ここにいてください。

やっぱり・・・・

見ててください。」



目をそらさずに、彼が言った。


「・・・・・

いいんですか?」



「見ててください。」



「はい。」



「・・・・・・」



「・・・・・・」









私は起きていたかった。

こうして見つめ合いながら。



せっかくの二人きりの時間、

あなたと、ただそうしていたかったのに・・・

いつのまにかまた眠りに落ちてしまった。

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