Lusieta

 

この場所から ~ふたたびの陽射し Ⅲ章 2~

 

konobasyo1_title.jpg




「君・・・・誰?・・・」


「えっ?・・・」


「そんなこと言う人、テヤンじゃない。」


「えっ?・・・」


私は起きあがり、シーツを胸にあてて
テヤンを見つめた。

テヤンも驚いた顔で私を見つめてた。


「話したくないんだったらそう言って。
 今は話したくないって。触れたくないことなんだって。

 そう言ってくれればもう聞かないよ。
 私はテヤンの気持ちを大事にしたい。

 ただ、テヤンの悲しみを共有したかっただけだから。
 力になりたかっただけだから。

 テヤンが私にしてくれたように、君を癒したかった。

 テヤンを、終わりまで泣かせてあげたいと思ってはダメ?
 私では、君をあまえさせてあげられない?

 なんでウソまでつくの?

 はじめからないなんて・・・ 

 私が真剣だから、おかしい?

 私はいつだって真剣だよ!

 笑ってごまかすなんて。
 全然・・・全然テヤンらしくないよ!

 そんなに私はテヤンを追いつめたの?
 聞かれるのがいやだった?」



また涙が出てきた。

今度はたぶん悔し涙。



「アヤノ・・・・ごめん・・・」


「・・・・・」


テヤン、ふーっと息を吐き、
手を伸ばして私の涙をぬぐった。

笑ってるのか困ってるのか、
目を細めて私を見てる。


      テヤン、なにか言って・・・・



「そうです。唐突で、動揺しました。
 ついごまかしちゃった。

 ほんとにごめんなさい。

 今日はまだ話せないっていうのが正直なところだけど、

 ほんとにウソでごまかしちゃうなんて、
 どうかしてた。

 アヤノをだまそうと思ったわけじゃないんだ。

 とっさに、口に出すのが怖くなった。

 って言うか、自分がこんなに泣いちゃったことに驚いて、
 ちょっと混乱した。

 明日・・・・

 明日の夜、話すから。

 明日、僕の話を聞いてください。

 だから・・・

 どんなに遅くなっても会おうね。
 そして一緒に眠ろう。

 アヤノの1月が、一人じゃないように、ねっ。


 ・・・・・許して、アヤノ。

 まだ誰にも話したことがなかったんだ。

 言葉にするのが怖かった。 

 うん・・・・・・

 ちゃんと話す・・・・

 うん、ちゃんと話すよ。

 明日まで、待って・・・」




私の目をじっと見て、
自分に言い聞かせるように話す。

少し苦しそうな笑顔に、胸が痛んだ。

テヤンだった。
いつものテヤンに戻ってた。
   

     
「テヤン、わかった。
 責めたりしてごめん・・・・

 ごめん・・・・テヤン・・・」


テヤンを抱きしめようとして、胸を押さえていたシーツがはらりと落ちた。
そしてそのままテヤンを抱えてベッドに倒れ込んだ。


      テヤン、どうしてほしい?

      私から・・・・


「襲ってもいい?」

「アヤノが?」

「うん」

「僕を?」

「うん」

「アハハ!襲う時にいちいちいいかどうか聞く人なんていない!」

そう言ってテヤンがいきなり体を起こして私を押さえ込んだ。

「ほらね、いちいちお伺いを立ててるうちに、自分が襲われるから気をつけて・・・」

「あっ・・・」




なにもなかったように・・・・
テヤンは嬉しそうにキスをしてくる。

唇はとっくに過ぎて・・・首筋に・・・肩に・・・
胸に下りてきた頃からもう私も溶けはじめている。



     ・・・・・テヤン
        
         君に、言葉にするのを躊躇させる過去があるんだね。
         誰にも言ってないって・・・・
         初めて私に話そうとしてる、テヤンの秘密。
      
         苦しい?
         寂しい?

         私は君を癒せる?
         
         君は私を笑顔にしたいって、いつもいつも言ってくれるね。
    
         でも、それは私も一緒なの。
       
         君のその笑顔を守りたい。
         君がいつも笑顔でいられるように、あたしは何をすればいい?

         「僕のそばで笑っていて」

         君はきっとそう言うよね。





真夜中に・・・・
みんな眠っているのに・・・・

テヤンの唇と指が動いてる・・・
テヤンの背中が波打ってる・・・

「テヤン・・・・」


「ん?」


「テヤン・・・・」


「ん?」


「今、何時か知ってる?」


「・・・知らない・・・」


「3時だよ・・・」


「そう・・」


「ねえ・・・」


「何?・・・」


「私、明日きっと・・・起きられない・・・起こして・・ね・・・」


「わかった・・・」


「テヤン・・・」


「アヤノ、もういい・・・・」


「テヤン・・・・」


「こら・・・・」


「私、溶けちゃいそう・・・」


「ん?・・・」


「溶けてなくなる・・・かも・・・・」


「うん・・・」


「わかってた・・・くせに・・・」


「ふふ・・・。何が?・・」


「だから・・・私がもう・・・」


「うん、わかってた。」


「じゃあ・・・・」


「ん? じゃあ・・なに?・・・」


「あなたを・・・・・」


「僕を?」


「・・・・下さい・・・」


「はい・・・・よろこんで 」


「ふふっ・・・・」




真夜中に、静かにテヤンが私の中に忍び込んで、
静かに静かに・・・じっとしてる。



「ねえ、アヤノ」


「うん・・・・」


テヤンが囁く。
いつもの声で、静かに、そっと囁いている。

           
           テヤン・・・・

           この、低くてくぐもった声が好き

           「アヤノ・・・」と呼ぶ、少し厚い唇が好き

           囁きながら、何度も降りてくる小さなキスが好き



「僕は、アヤノが僕を受け入れてくれる、それだけでよかった。

 僕のことをまるごとぜんぶ知らなくても、
 今のアヤノが僕のそばにいてくれたら、それで僕は満足だったんだ。

 でも、僕はアヤノの全部が知りたい。
 全部わかってまるごとだきしめていたい。

 ってことは、アヤノも僕をまるごと知りたいんだよね。
 そんなことに気づかないなんて、バカだよね。

 ごめんね・・・」


「・・・・」


「アヤノ?・・・」


かすれた声で、やっと言う

「無理なの・・・もう・・・・・
 普通に・・・話せないよ・・・あぁ・・
 なんで・・・テヤンは平気?・・・私は・・・もう・・あ・・・・」


「僕だって、平気じゃない・・・・ふふ・・
 全然平気じゃないんだ・・・でも・・・返事して・・・」


「テヤン・・・愛してる・・・
 だから・・・全部・・・知りたくなる・・
 ぜんぶ・・・テヤンの全部がほしいから・・・
   あぁぁ・・・テヤン・・・」

「アヤノ・・・愛してる・・・すごく・・・」


静かな真夜中に・・・
小さな声で囁きあう二人・・・

やがて、からみあう吐息は熱を増し

そっとテヤンが動き出す・・・

しがみつく手にひらに、筋肉の動きが伝わってくる。
深く繋がって、離れないでいたい。

もっと深く・・・深く・・・




     ・・・・テヤン

        朝までこうして抱いていてね。
         
        私がもうあの夢の中に
        足をとられないように・・・・
         
        こうして捕まえていてね。

        そして、明日は、私があなたを抱いていてあげる。 
     
        どんな話にもひるまないで、あなたを抱きしめてあげる。
         
        そして、たくさんのキスをして、
         
        あなたの今を、幸せで満たしてあげる。
         
        絶対に・・・

 ←読んだらクリックしてください。
このページのトップへ