Lusieta

 

この場所から ~ふたたびの陽射し Ⅲ章 最終話~

 

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「アヤノ・・・・」

「ん?・・・・・」

「お願いがある。」

「何?・・・・」

「このまま、あなたの中で、温まりたい・・・」

「・・・・・・」

「ダメ?・・・」




      テヤン・・・・・

      何でもしてあげる。




「なんでも・・・・

 してあげる・・・・・」




      顔を上げて私を見たテヤンのまぶしそうなまなざし

      悲しいのか、うれしいのかわからない・・・・

      まだ、どっか行っちゃったままのような

      虚無な感じ



      疲れた?

      疲れたよね。



      苦しい?

      苦しいよね。



      テヤン・・・・

      なんでも・・・・

      してあげる・・・・




「でも・・・・

 どうやったらいいか・・・・

 おしえて」


「えっ?・・・・・・あ・・・・そっか・・・」

「・・・・・・・・」



       自慢じゃないけど私は

       年の割りに、かなりの経験不足だってこと

       テヤン、知ってるよね・・・・



テヤンが耳元でささやいた。


「!!・・・・・・」




      顔が熱くなる・・・・

      でも・・・・

      テヤンの目が切実で、

      笑わない。
     
      テヤン・・・・            




「灯り、

 消していい?」


「うん・・・・」



部屋の照明を落とすと、

外からもれる月明かりの薄闇が広がった。




長い足を投げ出し、ソファにもたれたテヤンの

ジーンズのベルトをはずす。

おずおずと、ジッパーを下ろす。

私のぎこちない手に合わせて、君が腰を浮かせた。

ただ、私の動きを目で追う君。



      テヤン・・・・

      されるがままだ。

      小さな子どもみたいに・・・・

      でも・・・・ずっと私を見てる。

      君の、こんなにも無防備で

      こころもとないまなざしを見るのははじめて。

      どきどきしてしまう。

      

薄闇の中でスカートをたくし上げ、

自分の一枚を脱ぐ。



そして・・・・

そっと・・・そっと・・・・

君の上に降りていく。

私のぜんぶで君を包んで、

抱きしめるために・・・



「・・・んん・・・・・」

「・・ぁ・・・・・・」

    
  
テヤンの腕が、腰にまわる。



ひとつに繋がって、そのままじっとしてるふたり。

君の顔を両手で包んで、ひとつキスを落とす。



「あったかい?」

「うん、とってもあったかい」



また、胸に頬をうずめるテヤン。



「アヤノ、動かないで、このままでいて。」

「うん・・・」


テヤンの、ふんわりやわらかい髪を指で梳く。



「アヤノ・・・・・」

「ん?・・・・・・」

「ありがと・・・・」

「ん・・・・・・・」




「アヤノ・・・・」

「ん?・・・・・」




「僕は、あなたに会えたんだね。

 こうして、あなたに抱いてもらえたんだね。

 あの日、突然消えてしまったあなたに、

 探しても探しても、みつからなかったあなたに、

 もう一度会えた。


 そして、ぼくの全部を聞いてくれた。

 これが僕の全部・・・・・


 ぼくはあなたにまた会えたときから、

 きっと話したかったんだ。


 そして・・・・

 あなたがこんなふうにふたを開けてくれるって・・・・

 きっと、はじめから決まってた。」


「うん・・・

 きっと・・・決まってた。」





「神戸、行こうね。」


「うん・・・・・

お母さんの教会にも・・・

行こうね。」


「・・・・・うん。」


「テヤン・・・・」


「ん?・・・」


「大丈夫だよ。私がいる。

 私ってば、頼りになるでしょ!」


「・・・・・・・・・」


「・・・・ん?」


「ふふ・・・

 うん、すっごく頼りになるよ。」  


「あっ、笑ったな!」


     テヤン、笑った?


「ふふ・・・・ごめん。」


「ううん・・・うれしい。」


「ん?・・・」


「テヤンが笑ったから・・・

 うれしい。」


「・・・・・・・」



テヤン・・・・

私の顔を包んで、じっと見つめて・・・・

キスした。
  
 

「アヤノ・・・・愛してる。」


「うん・・・・

 私も・・・テヤンをすごく愛してる。

 愛してる・・・・」



キスしながら・・・
唇を触れ合わせたまま・・・
囁きあってる・・・



「寒い?」


「寒くない。テヤンは?」


「あったかい。」


「うん・・・・」


「あっ・・・・動いちゃダメ・・・」


「あっ・・・ごめん・・・・」


「ふふ・・・・謝らないで。」


「ふふ・・・」



    また、キス・・・



「アヤノ・・・」


「ん?・・・」


「ダメかも。」


「ん?・・・」


「我慢できなくなってきたかも・・・」


「ん・・・・・」


さっきまで、こころもとなくて、小さな子どもみたいだったまなざしに
光と熱がもどってきた。

私の腰を支える手に力がこもる。




       おかえり、テヤン。




慣れない体勢で、私は動き始めた。

切ない表情をしたテヤンが私の唇をまたつかまえに来る。

抑えていたものが一度にあふれ出すように、
舌と吐息が絡みあう。

情熱は走り出して・・・・
互いの首筋に、顔に、押し付けるような激しいキス

その間も、私は動き続けている。

とめられない・・・・

初めて知る衝動。



     私が・・・・

     こんなふうになってる・・・



「あぁ・・・アヤノ・・・・待って・・・」


テヤンがぐっと私の腰を抑えて止めた。

「・・・・・待って・・・」


「ん?・・・・・」


「そんなふうにしたら、僕だけ先に行っちゃうよ。

 いっしょに行こう。」


「いいの。」


「ん?・・・・」


「もう私も、とっても感じてる。

 このままこうしてテヤンを・・・・・

 このまま・・・・

 テヤンの幸せな顔を見たい。

 とめられても・・・・ダメなの・・・

 あぁ・・・・テヤン・・・・もうとめられないの・・・」



     テヤン、驚いた?

     私だってびっくりしてる。

     これが私?



私を止めようとしてたテヤンの腕がゆるんだ。

抗いようがなく、また動き出してしまう私


「あぁ・・・テヤン・・・・」


君が昇りつめていくのがわかる。


「アヤノ・・・んん・・・」


かすれた声でそう言って、

私の腰を強く抱いて、

テヤンが、その時を迎えた。




     ・・・・・・・・


 

ひとつにつながったまま・・・
静かにラグの上に倒れこんだ。




「なんだか・・・・照れるよ」


「私も・・・・」


ひとつにつながったまま・・・
くすくす笑いあった。


満たされた時間。

このままでいたい。

私に体重をかけまいと、腕で上体を支えてたテヤン


やがてそっと、その体を引いた。

ひとつだった私たちが、

ふたりになった。



私の前髪をいじりながら・・・・

「アヤノ、シャワーする?」


「ふふ・・・」


「何?・・・・」


「ふふ・・・・」


「なんだよ・・・」


「なんかね、いつものテヤンだなって思って・・・・」


「・・・・・・」


    黙ったまま、じっと私を見てる。


「ん?・・・・・」


「・・・・・・・」


「ん?・・・・どしたの?」


「アヤノ・・・」


「うん・・・・」


「ぼくは幸せだ。」


「・・・・・・うん・・」


「いっしょにシャワーしよう。」



   ・・・・・・・・・・・・・・・・



"なんでもしてあげる"

覚悟して、気合を入れてバスルームに臨んだのに、

テヤンはすっかりいつものテヤンに戻っていて・・・・

なんだか今日は、体育会系シャワー?

てきぱきしてるよ。なんで?
私のほうがシャンプーしてもらったりして、

裸の二人なのに、ロマンチックじゃないね・・・ふぅ・・・

せっかく小さな子どもみたいだったテヤン、

こんなに早く元気になっちゃうと

それはそれで、なんとなく残念なような・・・・

意気込みは空回り?

ひとり、苦笑い・・・



ベッドに入ったら、また今日も3時を過ぎていた。

「あーーまた3時だ。

 テヤン、起こしてね。」


「明日?」


「うん」


「起きるの?」


「当たり前でしょ。」


「明日は休みじゃなかった?」


「えっ?・・・ほんと?・・・・あっそうか・・・そうだった。

 あぁーーーーうれしい! 

 ねぇ、テヤン、何する?」




       テヤン?




「ずっとアヤノとこうしてる。

 ちょっと疲れたから。」




そう言って、私を抱きしめたまま、

君は、あっという間に眠りに落ちた。

少年のような寝顔。



長いまつげに・・・・

うっすら開いた無防備な唇に・・・

そっと、キスをする。




       テヤン・・・・

       やっぱり、疲れたよね。

       ほんとにほんとに・・・・

       疲れたよね。



       テヤン・・・・・・

       たくさん眠ろう・・・・




彼の背中に腕を回し、胸に顔をつけていると

私もすぐに意識が遠のいた。





不思議だった。

その夜をさかいに
あの悪夢に襲われることがなくなった。



    これも、テヤンの魔法?



テヤンの腕の中はあたたかく、

いつでも深く安らかな眠りをもたらしてくれた。




そして・・・

1月という冠をかぶった日々が、

私の中でゆっくりと彩りを取り戻していく。




神戸に行くこと、

もう怖くはなかった。

テヤンがいるから。



テヤンといっしょに、

それぞれの場所を、確かめに行こう。



二人なら・・・

きっと大丈夫。

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