Lusieta

 

この場所から ~ふたたびの陽射し Ⅳ章 メグ 3~

 

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いつまでも私を妹扱いする彼

特定の女性ができても、いつもなんとなく自然消滅する彼


女性に対しての、彼のあまりの動揺のなさ、静けさに、
もしかして、実は女性に興味がないのかな、男性がいいのかな・・・なんて思ったりした。



そう思うと確かめずにいられなくなる。

『ねぇ、どんなタイプの人が好き? 

 あのさぁ、オッパはもしかして、男の人が好きなの?』



こんな質問して、いまさらながら、彼には何でも言えたのだと思う。
あの一言以外は・・・・・



彼は目を丸くして私を見つめ、そして大笑いした。

『メグ、もしかして僕、そんなふうに見えたの? 
 えぇーーーなんでーーー?! アハハーーー!』


『だってそうじゃん。オッパはあまりにも女性に対して動揺しないんだもん。

 きれいな人に出会ったときに、ちょっとどぎまぎするとか、
 テレビでグラマーなおねえさんを見たとき、エッチっぽい目をするとか、
 そういうのがないじゃん。』


『えぇ?そうなの? 僕はちゃんと普通にどきどきしてるけどなぁ。

 エッチなDVDだって見るし、女の人とも付き合うし・・・』



後悔した。こんな質問しなきゃよかった。
そんなこと、彼の口から聞きたくなかった。



『申し遅れましたが、僕は女性が好きです。ククッ・・・』




             "でも・・・・でも・・・オッパは、私に触れないね。"

             どんなにじゃれあって楽しい時間をすごしても・・・
             どんなにやさしく『メグが一番だよ』と言っても・・・

             彼は私に触れなかった。


             それがとても残酷なことだと気づくのに、
             私は人よりすこし時間がかかったみたいだ。

             あまりにも幼くて・・・

             自分自身の気持ちがなんなのかわからなかったから。


             でも、いくらなんでも・・・・気づくんだ。



             私はもう17才のメグじゃない・・・

             彼に触れられることを思いながら、
             シャワーを浴び、コロンをつけて待ち合わせ場所へ急ぐ、
             
             そんなメグになったのに・・・・


             彼は、気づかなかった。

             ほんとに気づかなかったの?
 
             気づいてたけど、知らないふりしてた?


        

  
そして私も、無邪気を装った。  
        

『じゃあ、どんな人が好きなんだよぉ~』

『うーーーん・・・そうだなーー。どんな人なんだろう。』


そしてそのまま黙ってしまった。
あんまり時間がたったから、
もう質問のことなんか忘れちゃったのかと思ってたら・・・



『透明で、深い目・・・・
 胸に激しい情熱を秘めている。

 一度決めてしまうと、振り返らずに、潔く・・・
 ふふ・・・そんな感じかな』


『なに言ってんだか、よくわかんない。

 もしかして、誰かのこと思い浮かべたんでしょ。
 それって、なぞのオンナ系?

 オッパ、さてはそういうなぞのオンナ系にふられちゃった?』


『うん、実は。 あっさりと。』


『失恋か? 情けないねぇ~~。』


『ふふ、そうだね。情けない結末だ。』


『結局その人のこと引きずってるから、
 誰と付き合っても長続きしないんじゃないの? 煮え切らない男だねぇ~』


『ふふ・・・・メグの言うとおりです!』


苦笑いの横顔に、一瞬深い翳りが浮かぶのを見てしまった。


とても驚いて、どうしていいかわからなくなるほど、
いつもの彼と違う横顔だった。


きっと訊いてはいけないことだったんだ。


彼の心に消えない誰かがいることに、ほんとはショックを受けたくせに、
ヘラヘラしたせりふで冷やかして・・・・
結局彼のそんな翳りを見てしまう。

そしてまた打ちのめされるんだ。

ほんとの想いを伝えられないまま、私は自分で勝手に、幾重にも傷ついていた。


そして・・・・・彼の中にある、もっと深くて暗い何かに怯えた。





あの日もそうだった。

あの日、台風がやってくる直前、
夕焼けを待ちながら・・・・
彼がふと見せた、なんと表現したらいいのかわからないあの横顔。

どこを見ているのか、焦点があっているのかわからない。
しんとして、じっと遠くを見つめたまま、彼の時間が深い物思いの中に埋もれていく。


何を思っているんだろう・・・・
その目があまりにも悲しそうで、遠くて・・・・
胸のドキドキがとめられなかった。


彼自身は、そんな自分に気づいていなかったのかもしれない。

その横顔をみつめていると、
彼がどこかへ行ってしまいそうで、どんどん怖くなる。



ただ無力なだけの私は、いてもたってもいられず抱きついていた。


『どうしたの? なんか悲しいの? やなことあったの?
 オッパ、どっか行っちゃわないでよ。ねえ!』って叫んで彼の腕をゆすった。


『えっ・・・なに? メグ、どうしたの?
 僕どんな顔してたの? 
 ふふ・・・ どこにも行かないよ。』って、


さっきまでのことがうそみたいに晴れやかに微笑んで、
私の髪をくしゃくしゃにかき回した。



    
    ・・・・・・・  

    


この写真の彼女は・・・・

あの悲しみの横顔も、包んで癒せる人なのだろうか。

11年ぶりにあった一目ぼれの人。
その人は、あの日彼が語った『透明で、胸に情熱を秘めている・・・・』その人なのだろうか。



きっとそうなんだ。
だって、あの写真・・・・

そうじゃなきゃあんな写真撮れるわけがない。

そして・・・・『今、心から愛してる人』・・・・



    
      ・・・・・・・・・・・・・・・




たわむれに『ねぇソンさん、韓国語で"おにいさん"ってなんていうの?』
と尋ねたことがあった。

『オッパって言うんだ。僕のこと今日からオッパって呼んで。』
それが二人の関係を決めてしまったのだろうか。
そんなこと、尋ねなければよかったのだろうか。

いや、違う。
どう努力したって、どんな策をめぐらしたって、
私は彼の妹以外にはなれなかった。
きっと・・・

これは最初から決まっていたことなんだ。



わかってた。
わかってて、それでもあの日、
思いのすべてを言わずにいられなかったのだから・・・・



あの、夕焼けを撮った直後、
急に降り出したひどい風雨で二人ともずぶぬれになった。


彼のマンションにたどり着いたが、台風が直撃していて、
彼の車で、このあとの台風のコースになっている家まで
私を送っていくことは危険だった。




もう数え切れないほどたずねた彼の部屋だったけど、
夜を明かすのは初めて。

うれしかった。
朝までいっしょにいられる・・・それだけで。




『メグー! 早くシャワーして! 風邪引くぞー。』

ドキドキだった。

『これ着替えだからね。』

彼のシャツとパンツはダボダボだ。



いつもならばたばたと"勝手知ったるオッパの部屋"を動き回って
片付け物をしたりするのに、

その日はなんだか動けなかった。

彼の服を着て、かすかな彼の香りに包まれてる。

彼もシャワーから上がってコーヒーを入れている。



『とにかく温まろう。ほんと、今日は参ったね・・・・・』

コーヒーの雫が落ちていく


ポコポコポコ・・・・・


              彼の背中を見つめてた



『こんなに早く来ちゃうとはなぁー。』

ポコポコポコ・・・・・



              あの日から、ずっとずっと見つめてきた背中

              追いかけても、届かなかった背中

              大きくて温かい、でも触れてはいけない背中



『関東地方への上陸は明日だって天気予報が・・・』



ポコポコポコ・・・・・

      ポコポコポコ・・・・・




そっと後ろから抱きついた。

彼の腰に手を回して、背中に顔を押し付けた。



『メグ・・・』


『オッパ、私、ずっと妹はいやだよ・・・・』


『・・・・・・・・』


『・・・・・・・・』


彼が、動かない。固まってしまったのがわかる。

早く何か言ってほしい。
私の心臓の音が彼の背中に伝わってるだろうか・・・・



  ポコポコの音が止んだ。



彼の腰に回していた手を、彼の手がそっと包んだ。

彼の背中を通して、その静かな声が響いてきた。


『ごめん、メグ。

 僕は・・・バカだ。

 そうだよね。メグはもう大人なのに・・・

 ごめん・・・・

 僕は、ずっとメグを苦しめてた?』



オッパ、それって気づかなかったってこと?

それとも、気づかなかったふりしてる?



『うん、ずっとずっと苦しかった。

 苦しかったよ、オッパ・・・・

 私じゃダメ? 私はオッパに女として見てほしい。

 私に触れてほしい。キスしてほしい。

 ・・・・・抱いてほしい。

 ずっとずっとそう思ってた。』


『メグ・・・』



また重苦しい沈黙が流れて、私は押しつぶされそうだった。

ますます心臓の音は高鳴って、彼の背中に伝わってしまうだろうか。




彼が、私の腕を解いて、こちらへ向き直った。

苦しそうだ。


『メグ・・・僕は・・・・』


『わかってる! わかってるよ。 前からわかってたよ。

 オッパの気持ちは・・・・わかってた。

 でも、止められなかった。

 好きな気持ち、とめられなかった。

 いいの、今日だけで。

 オッパ、今日、最初で最後に・・・・

 私を、抱いてほしい。

 一晩でいいから、私を女として見てほしい。

 今日だけでいいの。一度だけでいい。

 それで、もうあきらめるから・・・・

 もうオッパを困らせたりしないから・・・

 もうオッパの前に現れないから・・・・』


そう言って、私は震える指先で、シャツのボタンをはずし始めた。



その手を、彼がそっと包んだ。

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