Lusieta

 

この場所から ~ふたたびの陽射し 最終章 5~

 

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――――――――― side アヤノ


サトウの帰りが遅いので、心配になって外に出てみると
商店街の入り口あたりに、大きな男二人のシルエット。

なんで?

サトウはテヤンに背を向けてる。
二人・・・どうなったの?!


やがてサトウは向き直って、
今度は二人して、ごしごし目をこすってる。

それが涙をぬぐっているのだと気づくまでに、数秒かかった。

見てはいけなかった・・・

とっさに振り返って店に入ろうとしたら、


「おぉ~アヤノ! お出迎えか?
 ほれっ、ちゃんとテヤンを連れてきたぞ~!」
 って・・・・

気づかれてしまった。

       
走り寄ると、二人ともニコニコ顔だ。



       サトちゃん、
       もう"テヤン"なの?
       ここまでのちょっとの道のりのあいだに?
       
       そしてこのちょこっとの道のりの間に
       二人して目が真っ赤になってるよ。

       あぁ・・・そんなの見ちゃうと
       また勝手に涙があふれてくる・・・

 
サトウが、私の涙を見ないふりして言う。     

「おぅ、アヤノ。
 いいやつ丸出しで、笑うツボがずれてて、
 ・・えぇ~~なんだっけ・・・・
 まぁいいや、アホなテヤンを連れてきたぞ!!」


「アハハハーーー! アホはなかったです!」


「あ・・・そうか? すまん。
 なんだっけ? 
 そんなことどうでもいいやな。ぐははは~~!」


        目が真っ赤な二人が
        必死に漫才してる?

        なんなんだ、この二人は・・・・



「じゃあテヤン、行くぞ。」


「はい。」

        なんなんだ、なんなんだ~~~?
        


目を丸くして、しかもぽろぽろ涙を落としながら
つっ立っている私のところまで来て

テヤンが一瞬そっと肩を抱いて、すぐに離した。

サトウは違う方向を見ていた。
わざと目をそらしたのかもしれないけど。




    ― ― - - - - 



みんなの、テヤンへの歓迎ぶりは凄まじかった。

もう、みんなすっかり出来上がってるから、
ハイテンションが店全体を包んでいて、

何でもすべてOKでウェルカムっていう雰囲気なんだけど、
とにかくさっきのサトウの反応につられて、


ソン・テヤン = アヤノの命の恩人


そんな公式が生まれちゃってるから。

最初に
「ソン・テヤンです。はじめまして。どうぞよろしくお願いします。」
ってあいさつしたときも、

ひとことひとことに「うお~~!」なんて掛け声かけて

「ありがと~~!!命の恩人!」とか
「アヤノをよろしくな~~~」とか

こんなのもある・・・

「カイとおんなじぐらい男前やないかぁ~」

「あんたのチームのフォワードに○○っていただろ。
 あれ、俺の高校んときの後輩だぞーー!」
なんて。


マチコなんか、テヤンの手をとって、ぶりんぶりん振りながら

「アヤノを助けてくれてありがとう。
 命を救ってくれて・・・・」

なんて言って、オイオイ泣いていた。



テヤンはもみくちゃにされながら、すごく嬉しそうだった。

それを見ながら、サトウもうれしそうだった。

私も・・・
うれしかった。

うれしくて、うれしくて・・・
気が遠くなりそうなくらいだった。





   - - - - - - - - - 




一人一人とハグして別れた。
テヤンもそうだった。


あのキャラだし、あっという間に打ち解けて、
いじられまくってた。
彼の笑顔は、もうずっと前からここにいるみたいに自然だった。

きっと心遣いもあると思うけど、
本心からの歓迎が、
みんなの気持ちの多くの部分をしめていたと思う。

ここにいるみんなが楽しそうで、うれしそうだったから。



テヤンはアハハーーって大笑いしたり、
時に神妙な顔で、誰かが話すカイの思い出に耳を傾けたり・・・


私はなるべく彼の近くにいないようにした。
だから話の内容はわからない。

だって、ラブラブな感じが漂ってしまうといやだから
やっぱり、みんなはカイの仲間で、
サトちゃんは・・・・

ちゃんと配慮していたいと思った。



別れ際に、マチコと抱き合うと離れがたく、
私はまた盛大に泣いて、

サトちゃんが、
「こいつ、どうしようもねぇよな。
 テヤン、あとはよろしくな。」
って言って、

「はい、わかりました。」
なんて答えてた。

マチコはもう言葉にならない言葉で
泣きながらふにゃふにゃ言っていた。

彼女との長い別れの儀式を終えて送り出された二人を、
サトウが、最後に店の外で見送ってくれた。



「じゃあね、サトちゃん、またあさってね。」

「おぅ! でも俺もう当分8階に行かねぇから。
 今日でお前の顔見飽きたから。7階にも来んなよな。」

「あっそ!」

「だから元気でな!」

「うん!」


     サトちゃん
     ありがと。
     ほんとに・・・・ありがとね。




ホテルまでの短い道のり、
途中から、私の左手は、そっと大きな手に包まれた。


何も話さずに、ただ黙って歩いた。
なんて形容すればいいんだろう。
とても厳粛な気持ち。

そう・・・大切なセレモニーを終えたあとだから。


満ち足りて、
そしてなんだか、ひどく脱力している。
きっとテヤンもだ。


緊張と興奮と感動と・・・


気づけばそんな中に5時間もいたんだ。
テヤンは2時間ちょっとくらい?

長かったのか短かったのか・・・
怒涛のような激しい時間だった。

とにかく脱力している。

そしてもうすぐ、日付が変わる。



部屋に帰ってそれぞれシャワーを浴びても

二人、まだ胸がいっぱいで、話す言葉が見つからない。

    

      

「テヤン。」

「ん?」

「今日は来てくれてありがとう。
 疲れたでしょ。
 でも、すっごくうれしかった。」


ベッドに一人分くらい離れて並んで座ったまま、そう言った。
あんまりくっつくと、テヤン、つらくなるかもしれないし。


「アヤノ。」

「ん?」

「僕も、すごくすごくうれしかったよ。

 サトウさん、すごい人だね。

 すごい人だ。

 僕に出会う前のアヤノは、
 ほんとに、彼に大切に見守られてきたんだね。
 それが、今日よくわかった。

 そして、みんなステキな人たちだ。
 カイさんとアヤノはあんなステキな仲間に囲まれていたんだね。

 カイさんがどんなに魅力的な人だったかってことも、
 今日みなさんと話してよくわかったよ。

 でも・・・・
 僕も、みなさんに受け入れてもらえたかな。」


「うん。もちろんだよ!

 みんながテヤンのこと、
 いっぺんに好きになったのがわかったもん。

 テヤンって、誰にも愛される、いじられキャラだしね」


「いじられ?」


「ふふ・・・いいの。
 要するに、テヤンに会えたこと、
 みんながほんとにほんとに喜んでくれたってことだよ。

 ありがと、テヤン。」


照れたように笑うテヤンのたくましい腕が、
ためらいがちに伸びてきた。

そして、離れて座る私の
まだ少し湿った髪にふれた。

「テヤン、やっぱりもうちょっとくっついてもいいですか?」

「えっ? あ・・・はい。
 ふふ・・・いいです。ぜひどうぞ。」

空いていたスペースをきゅっと移動して、
そっとテヤンの肩にもたれた。


いつものように、・・・
「はぁっ・・・」てテヤンが小さく息を吐いて、
私をぎゅっと抱きしめた。

いつものように、テヤンの胸は
分厚くて、堅くて、温かかった。



「アヤノ。」

「うん。」

「僕たち、幸せになろう。」

「うん。」

「・・・・・・・」

「・・・・・・・」


あとは言葉にならなかった。

二人とも、涙腺はゆるんだままだ。



ただ、寄り添っていた。

そっと髪をなでられて・・・・

そっと頬をぬぐわれて・・・・

いい気持ち。




「明日の朝は5時出発だ。東遊園地に行こう。
 そこにも、カイとミオちゃんがいる。
 僕の母もいる。」

「えっ?」

「知ってるでしょ?
 ほんとの遊園地じゃないよ。慰霊のモニュメントがある・・・

 もしかして・・・・それも知らないの?」


「・・・うん。」


       だって・・・・
       そんなテレビも活字の記事もなにも見なかったし、
       誰からも聞かされなかった。



「そっか。とにかく明日行ってからだ。

 だから今日はもう寝よう。

 ちゃんと寝て、元気に3人に会いに行こう。」


「うん・・・・」


「ちゃんと、二つのベッドでね。」


「うっ・・・・」




二つのベッドに入って、手を伸ばしたけど、届かなかった。

「届かないよ。」

「今日はおとなしく寝なさいってことだよ。」

「テヤン、意地悪だ。」

「そうだ! 意地悪だ! 早く寝ろ!」

「ダメだよ、今日は涙腺が完全に弛緩してるんだから、
 そんなふうに言われるだけで、泣くんだから・・・」

「えぇ~~これで泣いちゃうの?
 あれぇ~ほんとだ。はぁ~~ごめん、ごめん。」


テヤンがあわてて出てきて、私のベッドにひざまづいた。


「ごめん、ごめん・・・・」

「ふふ・・・・ほんと、情けないね、私。
 笑えるくらい、情けないね。

 勝手に出てきちゃうんだよ。
 さっき、『赤ん坊みてぇ・・・』ってサトちゃんに言われた。」

「ほんと、赤ん坊みてぇ。」

テヤンがそういいながら、髪をなでて、

そっと、おでこにキス・・・

「おでこならいいの?」

「いいの。」

「ふふ・・・・」

それから、ずっと髪をなでられていた。



      テヤン・・・・

      眼鏡をはずして、
      少年のようになるこの顔も好き。
      
      洗いっぱなしの髪がほわほわと額にかかって

      目が、これ以上ないくらい優しくて・・・

      触りたいけど・・・
      今日は我慢だね。
      
      テヤン・・・・

      ずっと君のそばにいたい・・・
      絶対に君のそばから離れたくない・・・

      そんな思いが、
      今、ぎゅーーっと胸に押し寄せて・・・・
      
      苦しい。

      苦しくて・・・

      息ができないくらいに

      君を愛してる。

      テヤン

      ずっと君の顔を見ていたいのに・・・・

      こんなに優しくなでられてると

      あぁ・・・意識が遠のいちゃうよ・・・

      テヤン・・・

      まだ寝たくないのに・・・・

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