Lusieta

 

この場所から ~ふたたびの陽射し 最終章 最終話~

 

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2006.1.17


―――――――― side テヤン



今、この腕の中にいるのは・・・・・

アヤノ・・・・

ほんとにそうなのか?

あまりにも大切で、

なくせないあなただから・・・


わかっているのに何度も確かめたくなってしまう。

僕の腕の中でまどろむあなたの顔を、

また覗き込んでしまう。




あぁ、やっぱりあなただ。 

よかった・・・・

何度見てもあなたで、

そのたびにホッとしている自分に苦笑する。



こうして、ここでもう一度アヤノを胸に抱けるなんて

夢のようだ。

だから、ほんとに夢じゃないかと

何度も確かめたくなる。



アヤノ・・・

こんなに小さなベッドで、こんなに安心して眠ってる。

あの時とは大違いだ。


あの時・・・

眠るあなたを見届けて、そっとベッドから出ようとすると、

僕があなたを抱く腕を、どんなに注意深く引いても、

とたんに目を覚ました。


『カイ・・・どこにも行かないで!

 ここにいて!』

そう言ってしがみついた。


『ここにいるよ。どこにも行かないよ』

僕はあなたを抱きしめた。



狭いベッドで・・・

我慢できずに僕は、

眠るあなたに何度もキスをした。

今と同じように、

こんなふうに・・・・

同じだけど、違うキス・・・・




       アヤノ・・・

       もう起きて・・

       見せたいものがあるんだ。

       この場所で、あなたに見せるために、

       ハードケースにいれて
       バックパックの奥にいれてきた。

       あなたの驚く顔が見たくて・・・・

       ねえ、アヤノ・・・

       起きてくれないかな。


       
あなたを抱く腕を、そっと解いて体を離してみる。


       あ・・・・

       アヤノ、起きた。

       やっぱり・・・・ふふ・・・



「あ・・・私・・・寝てた?」

「うん、寝てた。大きな口開けて。」

「うそ!」

「うそ。 ふふ・・・かわいかったよ。」

「んふふ・・・ふぅ・・・」


ため息つきながら、

ぎゅーっと僕の胸に顔を押し付ける。


「アヤノ、ごめん、優しくできなかった。」


「ううん・・・・うれしかったよ。」


「・・・・・」

「・・・・・」


しがみつくアヤノの腕の強さに

しみじみ、いとしさがこみ上げる。


額に、頬に、鼻の先に・・・・

小さなキスを落としながら言った。


「プレゼントがあるんだ。」

「えっ?・・・そうなの?」










――――――― side アヤノ




「これ?!・・・・」

「うん。」


シルバーのハードケースをあけてみる。

中から出てきたのは、一冊の・・・・


それを見て、私は息を飲んだ。



表紙は何もなく

開いてみると・・・

これは・・なに?・・・・

・・・・写真集?・・・・


いきなり私だった・・・・


木洩れ日に揺れる谷川の水のきらめき

川面に反射した光が、控えめに笑う私にあでやかさを添えてくれた。

好きな1枚だった。



ページをめくってもめくっても・・・私・・・・

あぁ・・・・びっくり・・・

あの日のすべてが詰まっていた。



必死の崖くだり。

川の向こう岸に語りかける横顔。

棚田の夕日を背にしたシルエット。

唯ちゃん・・・・

他にもたくさんの、あの日の私。

今あらためて見ると、

愛情を込めて撮られていたことを実感する。



これは?・・・

最後のページは、初めて見る写真。



そうだった・・・・

二人でのんびり過ごした休日、

テヤンの部屋に、冬の午後の陽が射して・・・

陽だまりの中で頬杖をついて笑う私。

変な冗談ばっかり言って、私を笑わせようとしたね、テヤン。



愛しげなまなざしを、

目の前の、カメラを構える人に向けているのがわかる。

なんて幸せそうな笑顔なんだろう・・・



        テヤン、君を愛してる・・・



たぶん私の体全部から立ち昇るテヤンへの思いを

いっしょに撮ってくれたよね。



私は、あまりの感動で何も言葉がみつからない。



「テヤン・・・・ありがと・・・

 ・・すごい・・・びっくりだよ・・・・」



また泣きそうになる・・・

ベッドに座る私を、テヤンが後ろからそっと抱きしめて、

いつものように、テヤンの足の間に収まって安心する。




「気に入ってくれた? うれしいよ。」



満ち足りたときが流れて・・・

私は飽きずにいつまでもページをめくる。



「アヤノ、タイトルつけて。」


「え?・・・あ・・・

 そうだ・・・表紙、なんにもない。」


「アヤノがつけたタイトルを書くの。

 そして、僕たちふたりの署名をする。

 どう? いいでしょ。」


「うん・・・ステキ・・・」


「じゃあ、なにがいい?」


「う~~ん・・・・・・

   う~~ん・・・う~~ん・・・・」



また、ゆっくり見返しながら考えた。

何度見ても、ついつい見入ってしまう。

ついつい・・・思い出して、胸がいっぱいになる。


「アヤノ・・・まだ考え中?」


「・・・・・・・」


「アヤノ?・・・」


「・・・・・・・」


「アヤノ・・・アヤノ・・・」


「テヤン、ほら見て。 

 この1ページめは、川面のきらめき・・・
 この最後の写真は、優しい陽だまり・・・

 そして、どのページをめくっても、
 温かな光が私を照らしてくれる。

 あの日、テヤンが私をみつけてくれてから

 私はずっとこの温かな光に包まれてきたんだね。」


「あぁ・・・そうなの?・・・」


「そうだよ。」


「その光は、アヤノを元気にしてる?」


「うん、とっても。」


「その光は、アヤノを幸せにしてる?」


「うん、とってもとっても。」


「それはよかった。」


「テヤン」


「ん?・・・」


「・・・・ふたたびの・・・・陽射し・・・

            ふたたびの陽射し。」


「ん?・・・ふたたびの・・・」


「そう・・・・
 テヤン、君が私の人生に、
 もう一度光を届けてくれたんだよ。

 だから・・・・・」


「だから・・・"ふたたびの陽射し"・・・・」



「うん。どう?」


「いいね・・・・」


「ほんと?」


「ほんと。」


「じゃあ、決まり!」



     テヤン・・・・

     君は私を照らす光そのものだよ。

     夜の闇の中にいても、

     テヤンがいるから信じることができる。

     私にも朝が来ると。



     「太陽」を名に持つ君が、もう一度私を見つけてくれた朝、

     止まっていた時計は動き出して、

     君は、明日を待つ幸せを思い出させてくれた。

  

     あしたも、あさっても、

     そのずっと先も・・・

     きっとそこは温かくて明るい光に満ちていると・・・



     そんなふうに信じられる幸せを。

     テヤン、君が教えてくれた。



     テヤン・・・・

         私の太陽・・・・
  
              テヤン・・・・





「"ふたたびの陽射し" 世界に1冊しかない写真集だね。」


「あ・・・世界に10冊だよ。」


「10冊? そんなにあるの? あと9冊も、どうするの?」


「うん、子どもたちにプレゼントするの。」


「こ・・・子ども?・・・・キュ・・9人も?・・・」


耳に、首に、キスしながら、テヤン・・・


「ちょっと多すぎたかな。」


「ちょっとって・・・
        
       テヤン・・・・」


「ちょっと・・・・多すぎる?」


「うん・・・ちょっと・・ね・・・んふ・・・」


「アヤノ・・・」


「ん?・・・」


「あなただって同じだよ。」


「ん?・・・」


「あなたは僕の人生を、再び照らしてくれたんだ。

 あなたも僕の"ふたたびの陽射し"なんだよ。」


「テヤン・・・・」


「わかってる?

 あなたに会えて、僕がどんなに幸せか。

 ねぇ、わかる? アヤノ・・・

 アヤノのそばじゃないと、僕は太陽になれないんだ。

 アヤノがいるから、僕は光を放つことができるんだ。

 アヤノ・・・ずっとそばにいて。

 ずっとこうして、温かい光で照らしあって生きていこう。

 ね・・・・・・ずっと・・・・」


「・・・・テヤン・・・」








      小さな部屋の小さな窓から、

      一筋の光が射し込んで

      そっと唇を合わせた二人を

      包み込むように照らしていた

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