Lusieta

 

続・この場所から 三月の別れ・五月の花嫁 2

 

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「アヤノ・・・



そのままでいいから聞いて。」





テヤンの声・・・・



毎日会ってるのに、久しぶりな気がする。



こんなにすぐそばで確かな息づかいを感じると



それだけで胸がいっぱいになる。







「パーティーのことで、いろんな人に会ったよ。



あなたの友だちにもたくさん会った。



会って話をして、



あなたがどんなにこのパーティーを楽しみにしていたのか、



大切に思っていたのか、



あらためてわかったよ。



ほんとに・・・・



ほんとに、ごめん、アヤノ」





「・・・・・・・」





「僕は、ひどいことをした。



ほんとに、ひどいよ・・・・」





「・・・・・・・」











「クニエダさんに、泣かれたよ。」





「・・・・・!!」





「ごめん・・・・・」





  



         クニエダちゃん



         ごめん・・・・・



         私から、何も言わないで。



         クニエダちゃんに話そうとすると、



         私、どうなってしまうかわからない。







         ブーケを作ってもらう打ち合わせで、



         サンプルの写真をたくさん並べて見ていたら、



         急に胸がいっぱいになった。



         彼女の前で泣いてしまった。







         初めて、今日までのことを打ち明けた。



         そして、彼女のご主人が亡くなったとき、



         その辛さが痛いほどわかりながら



         寄り添うことができなかったことを詫びた。

  

         あの時の私は、“まだ”だったから、



         自分の心のフタを開けてしまいそうで、



         あなたに言葉をかけることができなかったと。





         クニエダちゃんは、私よりもっとオイオイ泣いて、



         「よかったね、よかったね・・・」と言ってくれたんだ。















「アヤノ・・・・



お願い。顔を見せて。



僕を見て。」





「・・・・・・・」





「こんなことしてしまって、



僕のこと、許せないよね。」







       テヤン、そんなことじゃない・・・







「アヤノがこんなに大切にして、待っていたこと



僕がめちゃめちゃにしてしまった。」







       違うよ。



       そんなことじゃないよ・・・・

       





「でも、許さないまま、僕を見て。



あなたの顔を見せて。



お願いだ。



このままじゃあ僕は・・・」





「違うよ・・・・」





「・・・・?・・・」





「そんなんじゃないよ。



違うよ、テヤン・・・・





パーティーなんて・・・・



パーティーなんて、どうでもいい・・・」





「え?・・・・」







君が、ためらいながらブランケットを持ち上げて、



私のグシャグシャな顔をのぞき込んだ。



そして私は、君の切羽詰まった苦しそうな顔を見あげた。





「パーティーなんてどうでもいい。



テヤンが・・・・



テヤンが行っちゃうのが怖いんだよ。





テヤンがいなくなっちゃうのが、怖くて・・・



テヤンが死んじゃったらどうしよう。



怖くて・・・怖くて・・・・



どうしたらいいかわからない!!」





「あ・・・・・・」







この言葉を発してしまった途端に体が震えだした。



泣きじゃくってしまう。







         怖い・・・



         怖い・・・・



         怖いんだ、テヤン。



         わかって・・・







いきなりブランケットを剥いで私の上半身を抱き起こしたと思うと



テヤンはベッドに上がって、痛いほど私を抱きしめた。



 

「ごめん・・・・アヤノ・・・・ごめん・・・・



あぁ・・・・」





テヤンのにおいに包まれる。



私の中で、固く張りつめていたものが、一瞬にして溶けていく。



ひどく脱力して気を失いそうなほどの安堵と



すぐに追いかけてくる別れの恐怖と悲しみ・・・・







しがみつく私を抱えながら、



テヤンはベッドに倒れ込んだ。



そして、ただぎゅっと抱きしめていた。



抱きしめて、抱きしめて、



私の震えと嗚咽を、自分の胸に吸い取ろうとでもするように・・・









    ・・・・








あと何時間あるのだろう。



日付が変わってしまった。



もうすぐ行くんだ、テヤン。



なんではじめからこんなふうに素直になれないんだろう。









        テヤン・・・・



        私はまだこんなにダメなのかな・・・



        これじゃ、去年の秋と何も変わらない。



        イヤだイヤだって、行かないでって



        泣いて怒ったあの日と同じ。



        情けないね。



        テヤン・・・



        





君の胸に鼻をこすりつけるようにしてしがみついたまま、



どのくらいたっただろう。



私はようやく浮上した。







君の顔を見たくてたまらなくなったから。







顔を上げると、すぐに大きな手で頬を包まれ涙を拭かれた。



君は私の前髪を掻き上げ、そっと額に唇をつけた。



のぞき込むまなざしが優しくて、また泣きたくなる。









残されたわずかな時間・・・・



もう一瞬も離れたくない。









         そして、二人とも眠らなかった。









たった数日間なのに、



心も体も離れてしまった記憶が、二人をこんなに不安にさせる。



でもそれを埋めるには、もう時間が足りない・・・



焦燥のなか、私たちは何度も抱き合った。







私の体に君を刻みつけながら、



テヤン、何度でも約束してほしい。



元気に、私のもとに帰ってくると・・・









「アヤノ・・・あぁ・・・アヤノ・・・・



愛してる・・・・・



僕はいなくなったりしない。



あなたをひとりになんかしない。



必ず帰ってくる・・・・・アヤノ・・・」











忘れない・・・・



今私の肌をそっとなぞる、長い指の感触



「アヤノ・・・」と何度も呼ぶ唇



抱きしめられたときの、胸の広さ 温かさ



そして・・・



君の匂い。



・・・・・忘れない















「テヤン・・・・・」





「ん?」





「テヤン・・・・」





「ん?」





    朝が・・・



         来るね・・・


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