Lusieta

 

続・この場所から 1月の風 2007 Ⅲ-2(終)

 

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高層ビルで遮られていた視界が徐々に広がって

車窓の景色が変わっていく。


巨大な都会を抜けたと思うとすぐに県境だ。



そして、その境を超えるてしばらくすると、

いきなりドーンと田園風景が広がり、

遠くの山まで見渡せる。



そこでいつも、初めてのように意識する。



今日の天気と、

空がこんなに大きかったことを。



澄んだ冬の青に、綿のような雲が浮いている。

肉眼でもはっきりと見えるほど、

風に吹かれてどんどん移動していく。



ふと、あの歌が浮かんだ。

年末にテレビで聞いた歌。

英語の詩を前から知っていたけれど、

無意識のうちに避けていた。

深く意味を知ることを。

それがその日、日本語の訳詞がメロディーに乗って

いきなり耳に入り込んできたんだ。





              千の風になって



          私のお墓の前で 泣かないでください

        そこに私はいません 眠ってなんかいません

             千の風に 千の風になって

          あの大きな空を 吹きわたっています



         秋には光になって 畑にふりそそぐ

        冬はダイヤのように きらめく雪になる

          朝は鳥になって あなたを目覚めさせる

          夜は星になって あなたを見守る

          私のお墓の前で 泣かないでください

        そこに私はいません 死んでなんかいません

             千の風に 千の風になって

          あの大きな空を 吹きわたっています

             千の風に 千の風になって

         あの 大きな空を 吹きわたっています

         あの 大きな空を 吹きわたっています






その歌が流れたとき、私は食器を片づけていた。

テヤンはカメラの手入れをしていた。

お互いに、手を休めることはなかった。

でも、二人とも、全身で聴いていた。



テヤンも私も

それぞれの大切な人を想い、

そして、そばにいる人の気配を受け止めていた。


そのあとも二人、何も話さなかった。

それでも、通じあっていたと今も思う。




   
     明日の法事も晴れるといいな。

     風が吹くといいな。





  ーーーーーーー





1時間後にテヤンが乗って来る駅についた。


背が高くて顔が小さく姿勢が良い君をみつけるには、

なんの苦もいらない。


サングラスをかけて飄々として佇んでいると、

あんなにクールでかっこいいんだね。


乗り込む行列の後ろのほうから、電車の中を見て私を捜してる。

もう少しの間、そのクールな顔を見ていたかったのに、

ついにみつかると、君の表情がいっぺんに崩れた。


その上サングラスをとっちゃうから、

いつもの「いい人丸出し顔」になっちゃった。



     ふふ・・・どっちも好きだよ。




私のリクエストどおりの品が入った袋を下げて。

ドッカと隣に座った君。


「やあ、久しぶり!」

    「!!!」


まだ立って席を探している人がいっぱいいるのに、

ほんっとにやめてよね!

こういうところでキスするのは。



「怒ったの?」

   「当たり前でしょ。」


「じゃあ僕も怒る。」

   「何を?」



急に小声になって耳元にささやく。



「鰻のヒツマヅシ?」

   「違うよ。ひつまぶし。」



「ヒツマブシ。それに鰻パイ。

ウナギ・ウナギ・・・

もう三晩もあなたに会えなくて、

やっと会えても、たぶん今夜僕は酔っぱらって

またお父さんといっしょに寝るんだよ。

なのにこんなの食べさせて、どうしろって言うの?

あなたは意地悪だ。」



そう言いながら、唇をとがらせている。

かわいいな、テヤン。

大好きだよ。




「夜中に、あなたの部屋に行ってもいい?」

     「ふふ・・・」


「ねぇ、いいでしょ。音を立てずに、そっと行くから。」

     「大丈夫だよ、夫婦なんだから。

      そのまま朝までいたっていいんじゃない?」


「え?! ほんと? いいの?」

    
テヤン、喜びすぎ・・・・


     「うん、いいよ。

      だから、ここではもうキスとかしないでね。」


「はい、わかりました。もうしない。

じゃあ、家族を作ろうね。アヤノ。」

     「あ・・・・そう・・・だね。」



「あ~、考えただけでもドキドキするよね。

階段、ミシミシっていう?」



だから・・・・喜びすぎだって



あのね、声だけは低くてクールにささやいてるのに、

こんな内容だなんて・・・





テヤン、私はてっきり去年みたいに、

「大事なセレモニーですから・・・」とかなんとか言って

禁欲を守るテヤン君なのかと思ったよ。

ふふ・・・ずいぶん変わったね。

このほうがいいよ。





テヤン、1年前に君が神戸に連れてきてくれてから、

二人の世界はどんどん動いて行ったね。

そして今、こんなに穏やかで幸せな気持ちで

また1月を迎えることができた。

テヤン、君のおかげです。

私はほんとに幸せだよ。





「僕たちは出会う運命だったじゃないか!!」

君は叫んだね。

逃げようとする私の腕をつかんで離さなかった。



ありがとう。

あのとき、離さないでいてくれて。

だからほんとに運命だったって信じられる。




テヤン・・・・


家族を作ろうね。




   君はきっと、世界一のパパになるよ。




  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



  阪神淡路大震災で失われた尊い命に

       心より哀悼の思いを捧げます。


            2007年1月17日 13回忌の日に

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